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EU新循環経済行動計画のポイント その26
まとめ

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その26】まとめ

2020年4月から連載がスタートした、EU新循環経済行動計画(新CE行動計画)の解説シリーズも、いよいよ最終回です。2年以上にわたりご解説頂きまして、ありがとうございました。

循環経済行動計画は、平成12年(2000年)に公布された循環型社会形成推進基本法に近いと言われることもあります。新CE行動計画について2年以上にわたりご解説頂く中で、循環型社会形成推進基本法よりも新CE行動計画の方が対象範囲が広いという印象を持ちました。

EUと日本は国家・組織の在り方が異なる事もあると思いますが、リニアな経済をサーキュラーにする事で経済を活性化させようという意思の元、複合的な施策を組み立てていく手法は、仕事の進め方においても勉強になりました。

はい、ありがとうございます。また、長い間、私のつたない説明を聞いていただき、また、様々な角度からご質問をいただき、ありがとうございました。こうして、やりとりをさせていただくことで大変私自身も勉強になります。

今回は、旧CE行動計画(2015年)と新CE行動計画(2020年)とを比較したスライドについてお伺いしていきたいと思います。

新CE行動計画にて強化されたポイントについて教えて下さい。

1番の変更点は、設計のところに位置付けています持続可能な製品政策にかかわる対策といえます。

具体的な持続可能な製品政策の内容については、2020年の新循環行動計画の策定以降検討が進められてきましたが、この2022年3月末に具体的な政策の方向性が固められたEU政策文書が公表されました。『コミュニケーション持続可能な製品を標準に(Communication on making sustainable products the norm)』を中心に、以下の政策・規則案を合わせて政策パッケージとして提示されています。

  • 「持続可能な製品のためのエコデザイン規則案」
  • 「エコデザイン・エネルギーラベル作業計画2022‐2024」
  • 「持続可能な循環型テキスタイル戦略」「建築資材規則の改定案」
  • 「グリーン移⾏における消費者のエンパワーメントに関する指令案」
  • 「持続可能な循環型テキスタイル戦略」

出典:On making sustainable products the norm に提示された図にIGESにて仮和訳加筆

EU政策文書「コミュニケーション持続可能な製品を標準に」概説として抄訳をまとめました。そちらにも書いたのですが、このパッケージの主なポイントとしては、以下のようなものがあげられます。

  • エコデザイン指令からエコデザイン規則とすることで、EU全体のルールとしていく方向
  • エコデザイン要件の設定:2030年までにEU内製品の⼤部分が循環側⾯を反映した(耐久性、エネルギー・資源効率性、修理・リサイクル可能性、リサイクル材使⽤)設計
  • 対象製品も拡⼤
  • 製品の環境情報等を記録する「デジタル製品パスポート」を導⼊
  • 「新EUエネルギーラベル」に、修理可能性スコア等の循環性側⾯追加
  • 消費者への製品の耐久性・修理、環境パフォーマンス等情報提供、計画的陳腐化対策
  • 売れ残り製品廃棄抑制・禁⽌:年間廃棄製品量、廃棄理由、再利⽤・再製造・リサイクル・エネルギー回収された廃棄製品量の情報開⽰の義務づけ予定、製品よっては全⾯禁⽌
  • 循環型ビジネス推進⽀援ガイダンス作成

このように、上流側から循環を想定した取組の実施をより強化していく流れになっています。

よく話題に上がるのは、リサイクル材の採用義務化です。電池に使われる再生資源率の規定が注目されていますが、電池以外にもリサイクル材の採用義務化が導入される流れなのでしょうか?

義務化対象製品が最終的にどの範囲になるのかまでは、見通せていませんが、リサイクル材の採用が積極的にすすむような流れにはなっていくと思います。

エコデザイン規則案に提示された、エコデザイン要件には、リサイクル可能性や修理可能性などの他、リサイクル材に関する要件が設定されるとあります。また、製品の持続可能性に関する情報を共有する仕組み・ツールとなる製品デジタルパスポートの導入も提示され、その中でも、上記同様リサイクル材に関する情報を記載するとあります。

また、プラスチックボトルについては、すでにリサイクル材採用の目標が設定されています。加えて、もはやEUではありませんが、英国では、プラスチック容器包装に、リサイクル材が一定割合以上でない場合に課税されるという制度があります。

ただ、資源効率性向上に向けて、そもそも資源消費が少ない製品やビジネスモデル、耐久性の強化、修理、再製造など循環経済、重要な取り組みはあるのですが、循環物質利用率がEUの指標としても採用されるなど、リサイクル材の採用とその域内調達に焦点が集まっている印象を持っています。

BMWが資源循環をキーワードとしたコンセプトカーを発表したという報道がありましたが、「気候変動」に加えて「資源循環」も重視されていくのでしょうか。

BMW、完全リサイクル材車両 競争軸はCO2から資源循環へ[2021.09.06]

そうですね、上記のような製品政策が強化されていくにしたがって、資源循環への対応が追加的な環境対応というよりは、EU政策下では一つの要件となり、企業活動の中に組み込まれていきつつあると思います。

記事のタイトルにある、CO2から資源循環に軸がずれるというよりは、CO2単独から、CO2×資源循環(資源消費)に軸が移るように個人的には思っています。

今は一部の先進的な企業の取り組みの様に見えますが、EUでのCE行動計画等により、こうした動きが一般化していくと思われますか?

旧行動計画は廃棄物枠組み指令の改正とプラスチックが大きな柱で、比較的静脈側の内容が多かったといえます。静脈側の強化に加えて、新行動計画と今回の持続可能な製品政策で上流側の強化を本格化したと考えています。

先に少し触れましたが、昨今の国際情勢を踏まえてサプライチェーンの脆弱性があわらになったなかで、国際社会でも循環経済の重要性がさらに見直されています。

2015年にEUの循環経済行動計画が策定されてから、日本国内でも大きく循環経済の議論が進みました。

現在の循環型社会形成推進基本計画にもライフサイクル全体での徹底的な資源循環とありますし、循環経済ビジョン2020も策定され、動静脈連携が強く日本でも強調されているところです。

環境省では、循環経済工程表の作成の検討が進み、経済産業省では、「成長志向型の資源自律経済の確立」を掲げて資源循環経済政策が打ち出され、ますます、日本国内でも、その取り組みに向けた気運は高まってくるのかと思っています。

日本には、優れた技術や製品、企業や自治体を含む各主体の取り組みがありますが、それらを横展開し、日本社会全体で面的にもっとも効率的な形に実施できるような社会システムが重要だと考えています。

私自身、国内の生物資源の活用含め国内に持てるモノを最大限に活用し、お金・価値を国内で最大限に還流させつつ日本経済を維持発展していくうえで循環経済が使えないかと日ごろ考えている者の一人です。循環経済の実現に向けて、様々な方とお話しをする機会がありますが、現状の上流・動脈側の製品やビジネスの仕組み、現状の下流・静脈側の処理の技術や仕組みのままでは、解決できないことも多いなと実感します。

ただ、今回、私がご説明したEUの政策をきっかけに、欧州のみならず世界的に、静脈側の転換と動脈側の転換、が進んでいくと想定されます。国内でも、動静脈両方の改善や転換を同時並行・相互作用的に進展させ、制度面もその変化に合わせることによって、中長期的に望ましい社会システムの移行・転換を実現することができるのではないかと感じています。その移行の道筋をどう描くかについて、私自身、今後も検討を深めていかなければと、改めて気を引き締めているところです。

これで、インタビューは終わりです。2年半にわたり様々なお話をお聞かせいただきまして、ありがとうございました。


今回の連載を終えて

新CE行動計画には、廃棄物や容器包装、プラスチック、2次原材料の活用というような分野のみならず、建造物、食品・水・栄養素、職業創出、進捗状況のモニタリングなどさまざまな分野が含まれてることに、本当に驚きました。
海外の政策に触れる機会は少ないので、とても貴重な経験になりました。ありがとうございました。


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