EU新循環経済行動計画のポイント その3
~イントロダクション(前半)~
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
前回は、気がはやって廃棄物分野についてお伺いしましたが、今回から、順を追ってイントロダクションからお伺いしたいと思います。
以下、公開された資料に沿ってお伺いしていきます。
IGESホームぺージ
新循環経済行動計画 -よりクリーンかつ競争力の高い欧州へ 概説
【その3】イントロダクション(前半)
①気候中立的で資源効率的または競争力の高い経済に向けた協調戦略として欧州グリーンディールを策定
気候中立的とは、ゼロカーボンという事ですか?
2019年3月のEU議会決議によると、ネットのGHG排出量をゼロにするという意味のようです。
排出量ネットゼロというのは、GHG(温室効果ガス)を排出した分、森林によって吸収させたりするということです。
「欧州グリーンディール」は、気候変動と資源効率と経済成長をつなぐ政策なのですか?
難しいご質問ですね。行動計画の文章だとそうとも読めるかもしれません。グリーンディールという経済政策において、各種気候変動対策や循環経済対策と産業振興政策を関連付けて、気候中立と循環経済への移行と経済成長を統合的に達成するというように言えばいいでしょうか。
②循環経済を経済の主流プレーヤーにすることが、2050年までの気候中立性の達成と、経済成長と資源使用のデカップリングを達成する事に不可欠
循環経済を経済の主流プレーヤーにするというのは、廃棄物処理業界からしたら涙が出る表現です(泣)。でも、循環経済に廃棄物処理も含まれるとはいえ、資源を循環するための収集とか選別とかが対象なのでしょうか。
適正処理は、当然必要なことと認識されていると思います。ただ、本行動計画の議論の中心は、資源を循環させる、もしくは、資源の消費を回避する、製品の価値を延長するなどを通じて便益を落とさずに、資源使用量(この場合、枯渇性の1次資源・バージン資源が中心かと思いますが)を削減するということが議論の中心かと思います。
「欧州では熱回収はリサイクルとして認められていない」とも聞きますが、一方で、スウェーデンやデンマーク等では低炭素政策の一つとして、ごみを焼却して発電をし、熱は地域熱供給で使用されています。欧州が焼却を否定しているわけではないと思うのですが、どう思われますか?
確かに、廃棄物ヒエラルキーにおいては、焼却の優先順位は低いといえます。また、エネルギー回収は、リカバリーの範疇には入りますが、リサイクルとしてはみとめられません。ただし、完全否定・完全廃止というわけではないと思います。実際の焼却の実施割合をみると、決して低いわけでもないと思います。
ただ、以前のこのシリーズでも言及したと思いますが、焼却炉があることで、発生抑制や循環が阻害されるようなことがあってはならないとは考えていると思います。
依然として埋立中心の国がEU内にもありますが、それらの国が今後廃棄物管理のためのインフラを整えていく場合、もしくは、古くなった焼却設備の入れ替えが必要な場合に、注意が必要だということかと思います。
以前のシリーズでご紹介した政策文書「循環経済における廃棄物のエネルギー回収の役割(The role of waste-to-energy in the circular economy)」では、要するに「高効率のエネルギー回収技術を選択するということ、また、焼却によるエネルギー回収という選択は循環経済への取り組み(発生抑制、再使用やリサイクル)を阻害しないよう慎重にすべきで、かつ循環経済への取り組み(再使用やリサイクル等)が進むことによって、焼却炉などの施設が(不要な)座礁資産になる可能性がある。選択する場合も高効率のエネルギー回収技術の選択が重要である。」というメッセージだったかと思います。
EUのCE(Circular Economy)政策 その4 〜行動計画の構成と内容−3〜
あらためて、同文書を読み返しましたが、まずは、リサイクルなどの循環を追求し、不可避的に残ってしまった廃棄物に対してエネルギー回収を導入したい場合は、例えば高効率が確実に達成できる技術を採用という方向でした。また、電気と熱を同時に供給できる技術(CHP)の導入なども推奨されていました。
なお、ごみの焼却を通じた地域熱供給は、高効率のエネルギー回収の事例として挙げられていて、否定されていないですね。あと、焼却から離れるかもしれませんが、有機性廃棄物のバイオガス化などに対しても肯定的でした。前回も、有機性廃棄物の分別を進める話をさせていただいたかと思います。
③EUは、地球に搾取した以上に戻す再生産的な成長モデルに向けた移行を加速する必要がある。・プラネタリーバウンダリー内の資源消費・今後10年間で消費フットプリントの削減と物質の循環使用を倍増
主体はEUとなっていますが、EUだけが地球から搾取した以上に戻しても、地球全体としての搾取は止まらないので、将来的にはEU以外に対しても影響を与えたいという意図も含んでの事なのでしょうか?
そうですね。チャプター7に、「“Safe Operating Space”の定義づけ実現可能性の検討と、天然資源管理に関する国際合意に向けた議論開始の検討」とあるので、将来的にはグローバルな取り決めを行いたいという意図は見て取れます。
なお、“Safe Operating Space”ですが、様々な天然資源の使用による環境影響が、各地域や国・地球の限界を超えず、世界的にも地球の容量内にとどまる範囲と理解いただければよいかと思います。
④持続可能な製品枠組みの創出に向けた協働が、EU・EU外のビジネスにも新たな機会をもたらす
持続可能な製品枠組みというのは、リファービッシュ(初期不良品や中古品を製造元が修理・整備して販売)や、製品のサービス化(PaaS)、カーシェアリングなどのモビリティーのサービス化(MaaS)などでしょうか?
それとも、ICT機器など電子機器の耐久性、メンテナンス、再使用、リサイクル、修理する権利、早期陳腐化の回避などでしょうか?
両方その枠組みの範囲内という理解ですが、現状、後者の方に力点が置かれている印象を受けています。
次号は「イントロダクション(後半)」をお伝えします。
»次の記事その4 〜イントロダクション(後半)〜