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EU新循環経済行動計画のポイント その9
バリューチェーン ~バッテリー・車両~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その9】主要製品バリューチェーン

3.2 バッテリー・車両

前回から製品のバリューチェーンについてお話し頂いておりまして、今回は、「バッテリーと車両」と最近話題になっているテーマなので、楽しみにしています。

図の背景に示している内容は正確には、今回の行動計画の背景とEUの意図を示しています。
これから、スライドよりも詳しく説明していきます。

よろしくお願いします!

  • 持続可能なバッテリーと車両は、将来のモビリティを支えるもの
  • 電気モビリティ(electro-mobility)のための新たなバッテリーバリューチェーンの持続可能性の強化を迅速に進め、すべてのバッテリーの循環可能性を高めるために、欧州委員会は今年、バッテリーに関する新たな規制枠組みを提案
  • 設計上の問題を使用済み自動車の使用後処理に結びつけ、部品の特定材料に対するリサイクル含有量の義務化に関する規則の検討やリサイクル効率向上を通じて、より循環型のビジネスモデルを促進することを目的とし、使用済み自動車に関する規則の改正を提案する予定
  • 今後発表される「持続可能でスマートなモビリティに関する欧州の包括的戦略」では、循環型経済への移行との相乗効果を高めることを検討。特に、バージン材の消費削減、持続可能な代替輸送燃料使用、インフラと車両の使用最適化、乗員率と積載率向上、廃棄物と汚染の排除、製品をサービスとして提供するソリューションの適用を念頭に置いている。

「持続可能なバッテリーと車両は、将来のモビリティを支えるもの」とありますが、今回のタイトルでもある「バッテリー」は車載バッテリーという認識でよろしいでしょうか?
「新たなバッテリー規制枠組みの提案」ということなので、バッテリー規制が変わる、ということなのでしょうか?

本行動計画を読むと車載バッテリーを指しているように読めるのですが、ちょうど先月の2020年12月10日に、新たなバッテリー規則の案が公表されました。

Green Deal: Sustainable batteries for a circular and climate neutral economy(EU委員会ホームページ)

これはつまり、規制の内容が変わるということです。この規則案をみると、車載バッテリー(自動車用、電気自動車用)のみならず、産業用、携帯用などのバッテリーも含まれるとされています。

規則案自体は、130ページあり、私自身も読み進めている最中ですが、EUの同案を発表するプレスリリースに添付されているQ&Aを見るとおおよその概要が分かります。
規則案によって示されたバッテリーに対する義務的な要件を定めた分野として、主に以下の分野が挙げられています。

  • 持続可能性と安全性
    カーボンフットプリントのルール、最低限リサイクル材含有水準、性能と耐久性の基準、安全性のパラメーターなど
  • ラベリングと情報
    持続可能性に関する情報、バッテリーの健康状態や予想寿命に関するデータの保存など
  • 使用後製品の管理
    拡大生産者責任、回収目標と義務、リサイクル効率の目標、再生物質のレベルなど
  • 製品要求事項とデューデリジェンスキームにリンクした事業者の義務
  • 情報の電子的な交換

さらに、規則案には、強制的なグリーン公共調達に関する規定、製品規則の施行を容易にするための規定(適合性評価に関する規則、適合性評価機関の通知、市場監視、経済的手段)が含まれています。

沢山の分野が挙げられていますが、これらの分野について、義務的な要件が定められるという事ですか?色々ありすぎて、結構大変そうな気がするのですが、既に取り組んでいる施策の目標を確認している、という面もあるのでしょうか。

まず、これまでは、電池「指令(directive)」でしたが、今回は「規則(regulation)」となっています。国内法の整備を経ずに、加盟国ひいては欧州内事業者に直接適用されることになります。昨今の各種電池生産量の急増や今後の電気自動車へのモビリティ転換なども踏まえて、循環経済・脱炭素への流れを欧州全体で統一的にさらに加速化するということと理解しています。

内容面ですが、これまでの指令でも、有害物質の使用規制や回収目標、回収した電池のリサイクル義務などがあったのですが、それらの踏襲と目標など強化がなされているようです。加えて、循環経済や脱炭素に資する要件を追加したということが言えるかと思います。

最低限リサイクル材含有水準について、詳しく教えて下さい。バッテリーにリサイクル材を使うという事ですか?

はい、そうですね。「2030年1月1日からの電池におけるリサイクル含有量の最低レベルを、コバルト12%、鉛85%、リチウム4%、ニッケル4%と設定し、2035年1月1日からは、これらレベル引き上げる(コバルト20%、リチウム10%、ニッケル12%)」と提案されています。

具体的な目標値が示されているんですね。

さらにそのQ&Aに示されている詳細をいくつかあげますと、

持続可能性と安全性

  • すべての種類の電池における有害物質の使用に関する既存の制限、特に水銀とカドミウムに関する制限を維持
  • 2024年7月1日からは、EU市場で販売される内部貯蔵(internal storage)付きの産業用・電気自動車用2次電池は、カーボンフットプリント宣言を義務付け;2026年1月1日からは、これらの電池にはカーボンインテンシティ(二酸化炭素排出原単位)性能クラスのラベルを貼付;2027年7月1日からは、カーボンフットプリントの最大値(maximum carbon footprint thresholds)を遵守
  • 2027年1月1日より、内部貯蔵(internal storage)付きの産業用・電気自動車用電池は、再生コバルト、鉛、リチウム、ニッケルの含有量を申告
  • 2030年1月1日からの電池におけるリサイクル含有量(コバルト12%、鉛85%、リチウム4%、ニッケル4%)の最低レベルを設定(2035年1月1日からは、これらレベル引き上げ(コバルト20%、リチウム10%、ニッケル12%))
  • 性能と耐久性に関しては、2026年1月1日までに一般用の携帯用電池(充電式と非充電式)と産業用充電式電池の両方の最低要求事項を策定
  • 電池の取り外し可能性(removability)に関する現行の要件をさらに発展、製造業者は廃電池を容易に取り外せるように機器を設計することを義務づけ
  • 電池が交換された場合でも、機器がその機能を最大限に発揮し続けることを要求する交換可能性(replaceability)に関する新たな規定
  • 定置型蓄電システムの安全対策:EU市場では、通常の操作や使用時に試験に合格し、安全と判断されたモデルのみが市場に投入
    • EU市場に参入するすべての電池に適用される。EU域外で製造された電池については、EU域内への電池の輸入者または販売者が、規則に定められた関連要件に電池が準拠していることを確認する必要がある。

ラベリングと情報・情報の電子的な交換

  • 主にラベリング、電池情報のオンライン利用可能性、大型電池のライフサイクル全体のトレーサビリティに関連したIT技術の利用
  • 電池を識別するために必要な情報と電池の主な特性を示したラベルを添付の義務付け
    • 電池の寿命、充電容量、分別回収の必要性、有害物質の有無、安全性のリスクなどの情報は、QRコードなどの適切なラベルによって提供
    • 電池の所有者やその代理を務める独立した事業者が利用できるような電池機能の状態や予想寿命を判断するために必要な情報やデータを保存する電池管理システム
    • 電池の再利用、再利用、再製造が容易になり、2次電池市場の発展を促進
  • 共通の電子交換システム(バッテリーデータスペース)を確立し、EU市場内の全バッテリーモデルに関する情報を登録・一般に公開
    • このシステムは、大型電池のトレーサビリティとその管理のためのメカニズムであるデジタル「電池パスポート」にリンクされる(上記QRコードを活用)
    • このシステムにより、消費者の情報に基づいた意思決定、メーカーによる革新的な製品やサービスを開発、各国当局や欧州委員会に市場情報ツール提供を促進する

使用後製品の管理

  • 携帯型(Portable)電池の分別回収目標を現在の45%から、2025年に65%、2030年に70%に強化
  • すべての自動車用、産業用、電気自動車用バッテリーの回収実施に向け、特定の報告義務を導入(回収されたすべての廃電池が適切にリサイクルされることを保証する義務は維持)
  • リサイクルプロセスの効率性に関する目標を引き上げ、リチウム系電池に関する具体的な目標を設定
    • リチウムベース電池のリサイクルプロセス効率目標、コバルト、銅、ニッケル、鉛、リチウムの回収(material recovery)プロセスに関する義務的な定量目標の設定
  • 産業用・電気自動車用バッテリーの再活用(repurpose)のための枠組みを確立(例:使用済み電気自動車用バッテリーの定置用エネルギー貯蔵使用の容易化)

製品要求事項とデューデリジェンスキームにリンクした事業者の義務

  • カーボンフットプリント、リサイクル含有量のレベル、責任ある原材料の調達(デューデリジェンス)に関する要件については、公認機関を通じた強制的な第三者検証が求められる

非充電式バッテリーへの対応で、代替え品があれば段階的な廃止も検討と書かれていますが、これは、単3電池などは充電式の電池がありますので、段階的な廃止も検討される、という事なのでしょうか?

そうですね、ただ、すぐに廃止に動くというわけでもなさそうです。この提案の中では、非充電式バッテリーについては、「2030年末までに欧州委員会は、ライフサイクルアセスメントの方法論に基づいて、環境への影響を最小化する観点から、一般的に使用されている非充電式の携帯型(Portable)電池の使用を段階的に廃止するための措置の実現可能性を評価する。」とあります。

自動車にリサイクル材を使うというのは、後にも出てくる、使用済車両に関する規制見直しですよね?

はい、行動計画にも、「デザインの問題と使用済み自動車の処理を結びつけたより循環型のビジネスモデルを促進する観点から、一部の構成部品の材料にリサイクル含有量の義務化に関する規則の検討、リサイクル効率の向上などを考慮して、使用済み自動車に関する規則の改正を提案する」と書かれています。

廃油の回収・処理は、日本ではほとんど話題にならないのですが、環境配慮型の回収や処理が挙げられるというのは、不適正処理があるという事なのでしょうか?

私の方では、データとして把握していませんが、今だ、あまり管理されていない埋め立て処理を行っている国も一部あるようなので、なんらかの形での廃油の漏出といったことがあるのかもしれません。

「持続可能かつスマートなモビリティに関する欧州戦略は、循環経済への移行との相乗関係強化に着目」というのは、分かるようで分からないので、教えて頂けますか?

すみません、本文をそのまま訳して引用しますと、『次の「持続可能でスマートなモビリティに関する欧州の包括的戦略」では、循環型経済への移行との相乗効果を高めることを検討する。特に、バージン材の消費削減、持続可能な代替輸送燃料使用、インフラと車両の使用最適化、乗員率と積載率向上、廃棄物と汚染の排除のために、製品をサービスとして提供するソリューションを適用すること』とあります。

「特に製品のサービス化を通じて」というのは、製品を売るのではなく、シェアやリースなどの形で「サービス」を提供する事により、メンテナンスや回収、リサイクルもしやすくするという事ですか?

持続可能かつスマートなモビリティかつ製品のサービス化ですので、シェアリングやリースなどのビジネスを念頭に置いていると思います。これはつまり、こういったビジネスを通じて、過剰な車両生産をなるべく回避しようという意図ではないかと考えられます。つまり、未使用状態にある車両の配分をうまく行うことで、結果、移動という目的は達しつつも、必要な車両の数を減らすということになります。

また、おっしゃる通り、こういったサービスは、所有者である企業に使用済みの車両が戻ってくる、つまり、循環しますので、メンテナンスによる寿命延長、寿命後の部品回収、リサイクルもよりまとまった形で実施できる可能性が高まると考えられます。

「サブスク」という言葉をたまに耳にするようになりました。
「サブスク」とは「subscription」予約購読や、定額制で受けられるサービス、寄付金、出資金などという意味がある言葉で、最近の用途は、「毎月の定額料金でサービスを受けられること」。企業が製品を所有して、消費者はサービスとして製品利用するという点では、シェアリングやリースに近いビジネススキームです。
全部ひっくるめてお願いしたい、という消費者の丸投げニーズに応える形で伸びているのが、興味深いと思いました。会社で仕事を丸投げすると同僚から嫌われますが、消費者にもあった丸投げニーズを、うまく形にしたんですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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