EU新循環経済行動計画のポイント その13
バリューチェーン ~建設と建物(建造物)~
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
【その13】主要製品バリューチェーン
3.6 建設と建物(建造物)
建設と建物というのは、日本の「建設リサイクル法」がありますし、そんな内容なのかなと予想しつつ、お伺いしたいと思います(笑)。
今回も、よろしくお願いします。
CEはライフサイクル全体を網羅するコンセプトですので、そうとも言えない所です。今回も、背景からご説明します。
背景
- 全採掘材の50%が建設に使用されている
- EUにおける全廃棄物発生量の約35%が建設業界に起因
- 資源効率の向上は、GHG排出量の80%を削減できると試算
素朴な質問ですが、建設に全採掘材の50%が使用されていて、建設業界の廃棄物が全廃棄物の35%を占めているとあります。大きな割合を占めるんですね。
そうですね。本文を読んだだけでは、ヨーロッパの数字か、全世界レベルの数字か不明確なところがありますし、どの数値を引用したのかも書いていないのですが、国際資源パネルの報告書(例えば、世界資源アウトルック2019)に、全世界の国内資源採掘総量を示すグラフがあるので、それを見てみたいと思います。
ここにある非金属鉱物(non metallic minerals)というのはいわゆる土砂や砕石、ガラスなどの建設材料に用いる資源が含まれる分類です(セラミックスなどもこちらですが)。
なお、鉄鋼は鉄なので金属(metal)に分類されます。このグラフをみると、最新のデータで4割強非金属鉱物が占めているので、金属資源の消費も考慮すると、建設部門で5割を占めるというのは、それなりに確からしい数字だと思います。
Global Resources Outlook
同報告書の政策担当者サマリーはIGESで仮和訳を作っています。
世界資源アウトルック2019(GRO2019):我々が求める未来のための天然資源 政策決定者向け要約(SPM)(日本語翻訳版)
資源効率の向上でGHG排出量の80%を削減できるというのは、建設業界で資源効率を向上する事で、GHGの全排出量の80%も削減できるんですか?
行動計画を確認すると国際資源パネルの評価報告書「資源効率性と気候変動」の結果を引用しているようです。
この80%という数字は、2016年のライフサイクル全体での排出量と比較して、2050年のライフサイクル全体での排出量が約8割削減できるというものです。いわゆる使用段階の従来の省エネルギー策でも5割弱削減できるのですが、そこに資源効率向上、特に物質効率性を向上(例えば、省物質設計、物質代替、製造歩留り改善、集約的使用、回収・リサイクル、再使用、長寿命化など)させることによって3割削減量を積み増しできるというモデル分析結果となります。
Resource Efficiency and Climate Change
こちらも政策担当者サマリーはIGESで仮和訳しています。
資源効率性と気候変動: 低炭素未来に向けた物質効率性戦略―政策決定者向け要約(日本語翻訳版)
建設系の資材・廃棄物は、コンクリート、土砂、鉄筋、木材が主で、それ程GHGのインパクトがあるように思えないのですが?
たとえば、建設にもちいられる鉄鋼やセメントは、高エネルギー集約的分野として、グリーンディールにおいてもとりあげられています。エネルギー集約度が高いものは高炉から製造している鋼材ということかと思いますが、建設には、高炉由来の部材もあれば、電炉由来の部材もあるため、各国で何がどれだけ使われているかにもよりますが、GHG排出インパクトが高い可能性があるといえると思います。
他方、土砂や砕石なの非金属鉱物それ自体の環境影響は小さいですが、建設と一口にいっても、高速道路などのインフラから我々の住宅まで網羅されますので、先のグラフの規模からも想像できるかと思いますが、その規模が大きいため素材の単位当たりの環境影響が小さくても量があるため、全体としてみるとそれなりの規模になりうるということはご理解いただけると思います。
また、ライフサイクル全体で考えることも重要だと思います。例えばその採掘のためのエネルギーが当然必要になります。さらには、採掘場所を開発する際に森林を伐採してCO2吸収源を減少させている可能性も否定できません。
あと、「欧州だと、建物はリノベーションしながら長く使うことが一般的では?」とよく質問を受けます。確かにそういう面もありますが、他方で、いわゆる鉄筋コンクリートのビルや工場もありますので、建設・解体廃棄物に環境課題があるというのは当然の事かなと思います。
方針と施策
〇持続可能な建築に関する新しい戦略を提案
- 特定製品におけるリサイクル材の要件導入を含む、建設製品に関する規制(2011年)の改訂
- 循環経済原則に沿った建築材の耐久性と適応性の改善対策及び建物に関する電子版ログブックの開発
- 「公共調達におけるライフサイクルアセスメントの統合と欧州持続可能なファイナンス枠組みのためにLevel(s)※を活用」(※Level(s)は建築物の持続可能性性能に関する評価・報告の枠組み)
- 建設・解体廃棄物に関するEU法で設定された素材リカバリー目標の改訂検討
- 土壌被覆の軽減等に向けた施策の促進
- 欧州グリーンディールで発表されたリノベーションウェーブイニシアチブの実施
製品におけるリサイクル材の要件導入とは、リサイクル材を一定割合以上使うようにという事でしょうか?規制改正にあたり、そういう内容が盛り込まれるという事でしょうか?
はい、そういう可能性があるということかと思います。行動計画本文の英語では、『possible introduction of recycled content requirements』とありますし、建設・解体廃棄物に関する規制の見直しに関連する文書に『minimum recycled content quota(最低限のリサイクル材使用義務)を含む環境製品政策の方向性に沿って建設セクターのグリーン化を進める必要がある』という指摘もみられます。
Construction products – review of EU rules
ただ、それ以上の具体的内容がなかったため、必ずとは断言できない状況ではありますが。
電子版ログブックというのは、何ですか?
この場合のログは記録なので、以下の報告も確認しましたが、建築関連データ(建築物の物理的特性データ、環境性能情報、不動産取引データなど)を電子的に保存するもののようですね。
Publications Office of the EU “Definition of the digital building logbook”
「建設・解体廃棄物に関するEU法で設定された物質リカバリー目標」というのは、回収率ですか?リサイクル率ですか?
はい、回収率なのですが、熱回収や燃料・エネルギーとしてのリカバリーは認められていません。2018年の廃棄物指令改正で、その定義が明確になっているのですが、その定義をみると、
『“material recovery” means any recovery operation, other than energy recovery and the reprocessing into materials that are to be used as fuels or other means to generate energy. It includes, inter alia, preparing for re-use, recycling and backfilling.(物質回収とは、エネルギーの回収と、エネルギーを生成するための燃料またはその他の手段として使用される物質への再処理を除く、あらゆる回収作業を意味する。特に、再使用のための準備、リサイクル、埋め戻しなどが含まれる。)』とあります。
また、その目標については、『2020年までに、非有害な建設・解体廃棄物の再使用の準備、リサイクル、その他の物質回収を、重量比で最低70%まで増加』とあり、これを改定するということと理解しています。
Construction and demolition waste
「土壌被覆の軽減等に向けた施策の促進」というのは、何を指すのですか?
むき出しの土壌に覆土する事を減らすとかですか?
被覆は英語ではsealingとありました。密封とも訳すことができます。土壌や植栽などにより、汚染土壌などの汚染物を密封することと考えられます。
本文自体を全て記載した方がわかりやすいかもしれません。
『promoting initiatives to reduce soil sealing, rehabilitate abandoned or contaminated brownfields and increase the safe, sustainable and circular use of excavated soils(土壌被覆を減らし、放棄あるいは汚染されたブラウンフィールド(利用されなくなった場所)を修復し、掘削された土壌の安全で持続可能な循環的利用を促進するための取り組みを推進する)』
欧州グリーンディールで発表された「リノベーションウェーブイニシアチブ」とは、どういうものですか?
EUでは、建物は建て替えないけども、住人が内装をガラッと変える(壁にペンキを塗ったり、洗面台やキッチンを入れ替えたり)と聞いたことがありますので、古い建物をリノベーションしながら使っているイメージがあるのですが、そうでもないという事なのでしょうか?
はい、たしかにリノベーションをするということなのですが、それが、必ずしもエネルギー効率が高くなるリノベーションではないというところに問題意識があったようです。
EUのページを確認すると、『毎年エネルギー効率の高い改修を行っている建物は全体の1%に過ぎないこと』『現在、建築物の約75%がエネルギー効率の悪い状態にあり、2050年には現在の建築物の約85〜95%がまだ使用されていると考えられること』があったとあります。これを踏まえて、グリーンディールにも盛り込まれています。
それに加えて、『地元企業が大半を占める建築部門の労働集約的な性質を考慮すると、建物の改修はCOVID-19パンデミックからの欧州の復興においても重要な役割を果たす』『欧州委員会は、復興に弾みをつけるため、復興計画の中で改築率を2倍にすることを掲げたている』とあります。
これを背景に、リノベーションを強化するための取組がリノベーションウェーブイニシアチブといえます。
その戦略指針として出された政策文書(コミュニケーション)が『A Renovation Wave for Europe - greening our buildings, creating jobs, improving lives』となります。リノベーションのような労働集約的産業をグリーン化することによって、雇用や生活の質の向上も狙っているところがEU的な印象です。Renovation Waveに添付された主な活動とスケジュールをみると、以下のような取り組みがなされる予定になっています。
- 情報・法的確実性・リノベーションのインセンティブの強化
- 技術支援による資金調達の強化、アクセスのしやすさ、ターゲットの絞り込み
- グリーン雇用の創出、労働者のスキルアップ、新しい人材の獲得
- 持続可能な建築環境
- リノベーションの中心に、参加型で地域に根ざした統合的なアプローチを据える
- エネルギー貧困と最も性能の劣る建物への取り組み
- 公共建築物と社会インフラへの取り組み
- 暖房・冷房の脱炭素化
CEにかかわるのは、「持続可能な建築環境」の中の『物質回収目標の見直しと2次資源の域内市場支援(2024年目途)』という点かと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございます。