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EU新循環経済行動計画のポイント その5
~持続可能な製品政策枠組み1~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その5】持続可能な製品政策枠組み1

今回から、「チャプター2. 持続可能な製品政策枠組み」についてお伺いします。

「チャプター2. 持続可能な製品政策枠組み」は、以下の構成で、
 2.1 持続可能な製品デザイン
 2.2 消費者と公共調達のエンパワーメント
 2.3 生産プロセスの循環性
デザイン、消費、生産とそれぞれについて記述されています。廃棄物処理やリサイクルは2.3 生産プロセスの循環性に含まれています。

2.3 生産プロセスの循環性を楽しみにしつつ、2.1から順に教えてください。

2.1 持続可能な製品デザイン

まず、背景からご説明します。
本計画では、製品の環境影響の8割は設計段階で決まるとされています。
また、EUでは、製品の持続可能性に関する法制度は一定程度存在しますが、EU市場の全製品が持続可能かつ循環性のあるものとする包括的な制度は存在していないことが課題としてあげられています。

製品の持続可能性に関する法律とは、例えばどんな法制度ですか?

この後にお話しするエコデザイン指令や、EUエコラベル、そのほかEUのグリーン公共調達基準などが、CE行動計画内にも示されていますね。

「持続可能な製品政策法制度イニシアティブ」の実施とありますが、「持続可能な製品政策法制度イニシアティブ」とは、何ですか?

行動計画には、「製品を気候中立的・資源効率的かつ循環経済に適したものにし、廃棄物を削減する。そして、持続可能性のフロントランナーのパフォーマンスが標準化していくことを目的として展開されるイニシアティブ」とあります。
その核となるものとして、エネルギー関連以外の製品にもエコデザイン指令の対象を拡張し、循環性を実現するということが挙げられています。今後、新エコデザイン・エネルギーラベル作業計画2020-2024(2020年秋以降発表予定)を実行していきます。

エコデザインを促進し、それが消費者に分かるように、エコデザインを環境ラベル化するという事でしょうか?

行動計画では、このイニシアティブの一部として、「持続可能性原則」を構築することを検討しています。この持続可能性原則やその他の適切な方法を通じて以下のような点を管理・規制(regulate)していくとしています。この点がエコデザインの促進に関わると思います。

  • 耐久性・再使用可能性・アップグレード可能性・修理可能性の向上と、有害化学物質対策、エネルギー資源効率性向上
  • 製品の性能と安全性を確保しつつ製品中の再生材活用増加
  • 再製造と高質リサイクルの実現
  • 炭素・環境フットプリントの削減
  • 使い捨て制限と早期陳腐化対策
  • 未販売の耐久消費財の破壊禁止
  • 製品サービス化の促進と製造者への所有権・性能責任帰属
  • 製品情報のデジタル化の促進(デジタルパスポート、タグ、ウォーターマーク)
  • 持続可能性パフォーマンスに応じた報奨(高パフォーマンスへのインセンティブ)

ここに挙げられている観点がエコデザイン指令の枠組み等の下で各種製品にも反映されていくと思います。

なおすでに、前回のエコデザイン作業計画2016-2019を踏まえて、2019年10月に修理可能性、リサイクル可能性や製品寿命の基準を定めた改正エコデザイン指令実施規則が採択されています。冷蔵庫、洗濯機、食洗機等のエコデザインの要件が改定されました。

いくつかの製品に循環経済や資源効率性に関わる要件が設定されたのですが、たとえば、冷蔵庫や食洗機などでは「資源効率性要件resource efficiency requirements」として、スペアパーツを確保する期間、修理業者からスペアパーツ提供の依頼があった場合の提供に要する期間、修理に寄与する製品情報(製品の分解図、配線図、接続図等)の登録修理業者への提供などが定められています。

なお、エコデザインを環境ラベル化するとまでは書いていない、と理解していますが、エコデザイン指令の見直しや特定の製品グループに関する更なる作業は、必要に応じて、EUエコラベル規則、製品環境フットプリントアプローチ、EU GPP基準の下で確立された基準と規則を基にして実施されるとあるので、先に挙げたような製品の持続可能性に関する法律に、エコデザインの要素を組み込んでいくということと理解しています。

エコデザイン作業計画が既に実施されているとの事ですが、日本には「エコデザイン」に関する指針や行動計画はあるのでしょうか。

3RなどCEに関する分野で言えば、資源有効利用促進法だと思います。指定省資源化製品は、省資源化・長寿命化の設計等を行うべき製品、指定再利用促進製品は、リサイクル(リユース)し易い設計等を行うべき製品として位置づけられているので。各業界でガイドライン等が設定されていますね。ただ、上市の要件とまではなっていないですね。

製品を修理したりアップグレードしながら長く使うという方針はイントロダクションにも出てきました。「製品中の再生材活用増加」は、例えば再生プラスチックを使う、という事だと思います。
その2でお伺いした時には、再生材を使うルールが整備されていくのではないかと教えて頂きましたが、後々再生材の使用は義務化されていく方向ではあるのでしょうか?

はい、こちらのセクションの後段に製品やサービスの持続可能性を増強するための義務的な要件・必須要件の導入を検討するとありますし、この後のセクション3では、バッテリー・車両、プラスチックや建築物といった分野で、再生材含有に関する要件を整備していくとあります。
バッテリー・車両、プラスチックの分野では、再生材に関して”mandatory(必須、義務的な)”といった強制力のある用語が使われています。また、使い捨てプラスチック規制のところで、PETボトル・プラスチックボトルへの再生材の使用目標があるので、再生材使用の義務化は、分野によってはですが、想定されます。

持続可能性原則の構築やその他手段を通じての規制を検討に「高質リサイクル」とありますが、これはどういうものでしょうか?

確かに、定義が明確ではないですね。再製造と並列で高質リサイクルhigh-quality recyclingと示されています。再製造は中古部品を使用しても新品と同様の機能をもつことが想定されていますが、これをもとに推察すると、新製品に再生資源を適用してもバージン資源と遜色ないレベルのリサイクルの実現ということかなと想像はできます。また、再生材の安全性も強調されることが多いので、そういった懸念される化学物質の含有といった観点も考慮に入れられると思います。

「未販売の耐久消費財の破壊禁止」というのは、売れ残り製品の処分を禁止するという事ですか?破壊を禁止という事は、破砕してリサイクルします、というのも禁止に含まれるんですか?

英語で、introducing a ban on the destruction of unsold durable goodsとあるのですが、それ以上具体的な内容は書かれていません。この後が製品のサービス化、生産者の所有権帰属というポイントに続くので、これまでの線形経済的な経済システムでの大量生産大量消費を否定するという観点から、おそらくですが過剰な生産を抑制したいという意図ではないかと考えています。

デジタル化の促進にある「デジタルパスポート」というのは、国が発行するパスポートをデジタル化するという事ですか?

デジタルパスポート、タグ付け、ウォーターマーク(透かし)などのソリューションを含む、製品情報のデジタル化の可能性の動員とあるのですが、デジタルパスポートについては、製品情報を記載したデジタル情報ということかと思います。関連で、製品や建設物にどういった物質が使われているかをまとめたマテリアルパスポートという用語も見聞きしますので、それと同等のものかと考えています。

旅行の時に使うパスポートとは全然違いました(笑)

「ウォーターマーク」とは何ですか?

私もわからず、辞書で調べたのですが「透かし」とあります。もう少し調べると、電子透かしという音楽や映像がオリジナルかどうかを判別できるようにする技術があるとあり、その事を指していると思われます。要はこれに製品情報を載せて、持続可能性が高い製品かどうかを判別できるようにしたいということなのかもしれません。

「持続可能性パフォーマンスに応じた報奨」という事は、持続可能性パフォーマンスを定量評価するという事ですよね?という事は、その指標も今後示されていくのでしょうか?

そうですね、そういった指標が検討されるかもしれません。
少なくともエコデザイン指令の要件のリサイクル可能性なども検討されているので、そういった循環に関わる指標の設定などは今後もあるかと思います。加えて、すでに、次のセクションでもありますが、製品フットプリントの検討が長く進められていますので、そういった指標も使われうると思います。

また、「循環性circularity」に関わる指標の開発はWBCSD(World Business Council for Sustainable Development)がCircular Transition Indicators(CTI)といった指標を開発しているように民間レベルでも進んできています。

このように「循環性」を含めた持続可能性を測定するということの重要性は高まっていると思いますが、どういった定義で何を計算するのかということが整理されるには多少時間がかかるのではないかとも思っています。

少し話はそれますが、先の議論にも関連していて、そのパフォーマンスを電子的に把握できるようにするということにもつながってくると思います。

「デジタルパスポート」や「ウォーターマーク」など、IoT技術を活用して今までできなかったことができるようになって、資源の循環性も高まっていくのですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


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