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EU新循環経済行動計画のポイント その8
バリューチェーン ~エレクトロニクスとICT~

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その8】主要製品バリューチェーン

3.1 エレクトロニクスとICT

今回からは、製品のバリューチェーンについてお話し頂きます。
バリューチェーン、という事でCEが静脈産業のみならず動脈産業として捉えられているのが表れているのかなと思い、楽しみにしています。

今回も、背景からご説明します。

1. 背景

まず、背景からご説明します。

  • 廃電気電子製品(WEEE)は、2%/年で増加しており、増加のスピードが速い
  • リサイクル率は4割
  • 修理・バッテーリー交換、ソフトウエアのサポート期限などにより価値が失われる
  • 3人に2人の欧州人は、現在の機器を使い続けたいと希望

今回の背景は、共感できます(笑)。パソコンやタブレットを使い続けたくても、OSがアップデートできなくなって、そうするとアプリをインストールできなくなったり、アプリのアップデートができなくなって、でも子供用には使えるかも?と思って捨てられず「退蔵」している電子機器が家に眠っています。
リサイクル率が4割と書かれていますが、何に関するデータか教えて頂けますでしょうか?

データは、欧州統計局(Eurostat)のデータです。WEEE指令に基づき、算出されています。

Eurostat - Tables, Graphs and Maps Interface (TGM) table

日本でも、WEEEの増加量に関するデータというのはありますか?と言っても、WEEEの定義は、日本の家電+小型家電+中型家電+太陽光パネルという感じに、対象が違うので、一概には比較できないと思いますが、EUではWEEEとして包括的に捉えている所が、特徴的だなと思います。

そうですね。日本では、家電リサイクル法、小型家電リサイクル法の施行状況に関するデータはまとめられています。

おっしゃる通り、日本とEUで、法律の対象品目が一概に同じとは言えません。小型家電リサイクル法の対象は広いですが、小型家電リサイクル法の実施状況をみると、携帯やゲームなどの小型の電子製品に限っている自治体も多いように思うので、EUと簡単に比較もできません。また、資源有効利用促進法にもとづいて、PCなどは自治体以外の団体が回収リサイクルを進めているケースもあると思います。

加えて、気を付けるべきところは、詳細は省略しますが、EUで言っているところのリサイクル率と、日本の家電リサイクル法でいうところの再商品化率の計算方法の違いがあるということかと思います。

それはともかく、「WEEEとして包括的に捉えている」との指摘がありましたが、国内の法の枠組みから漏れがちな廃電気電子製品への対応は課題ではないかとは以前から思っています。ただ、他の専門家の方とそれについて議論したこともあるのですが、費用対効果など課題も多く一筋縄ではいかないところもあるとのこと。難しい問題なので、様々な問題を整理してからでないと迂闊なことは申し上げられない状況です。

ただ、生産からの設計やビジネスモデルなどを改めて考慮すると解決できることもあるのではとも思っています。ですので、今後バリューチェーン全体での包括的な経済システムの検証を期待します。

2. 方法と施策

  • 長寿命化を推進し、下記の取り組みを行うための“Circular Electronics Initiative”の立ち上げ
  • エコデザイン指令に基づく電気製品とICT機器の規制的手法
    • デザイン:エネルギー効率・耐久性・修理可能性・アップグレード可能性・メンテナンス・再使用・リサイクル
    • 今後のエコデザイン作業計画で、プリンターと消費財(カートリッジなど)に関する詳細
  • 修理する権利の実施に関する優先セクターとして電気製品とICTに着目
  • 携帯電話の充電器や類似製品に対する規制的手法(共通化、ケーブル耐久性、ケーブル購入とデバイス購入の切り分け)
  • 全EUレベルのテイクバックスキームやセルバックスキーム(携帯、タブレット、充電器)
  • 電気製品中の有害物質規制の見直し、関連法規の調和(REACHとエコデザインなど)

●長寿命化を推進し、下記の取り組みを行うための“Circular Electronics Initiative”の立ち上げ

“Circular Electronics Initiative”を立ち上げる、とありますが、基本的な質問ですみません。イニシアチブというのは具体的には何ですか?

EUのCE行動計画をみると、スライドにあるように具体的な取組が列挙されています。したがって、電気・電子製品に対するCE施策の実施するための取組を包括的にとらえたものと理解しています。同イニシアチブは、製品の長寿命化促進に向けて、スライドからもう少しまとめますと、以下のような取り組みを行うとあります。

  • エコデザイン指令に基づく、携帯電話、タブレット、ラップトップを含む電子機器やICTの規制措置
  • 時代遅れのソフトウェアを更新する権利を含む「修理する権利」の実施
  • 携帯電話などの充電器に関する規制措置(共通充電器の導入を含む)
  • 廃棄電気・電子機器の収集・処理の改善
  • 電気・電子機器に含まれる有害物質の規制に関するEU規則の見直し

●エコデザイン指令に基づく電気製品とICT機器の規制的手法

規制的手法、という言葉がありますが、これは禁止も含めたような規制をするという事ですか?

エコデザイン指令に基づくと書いてあるので、エコデザイン指令の枠組みの中の話になる理解しています。何をもって「禁止」というかは難しいですが、指令が求める要件を満たさないと上市できないということには変わりません。

●デザイン:エネルギー効率・耐久性・修理可能性・アップグレード可能性・メンテナンス・再使用・リサイクル

デザイン:エネルギー効率・耐久性・修理可能性・アップグレード可能性・メンテナンス・再使用・リサイクルができるようなデザインにしなさい、と強制力を持たせる、というような事でしょうか?

強制力がどういったものか、何に対する「強制」「規制」になるのかは、まだ私として情報は持ち合わせていませんが、詳細は、Ecodesign and Energy Labelling Working Plan 2020-2024で明確になる予定です。そのWorking Plan(作業計画)の詳細の検討・準備のための作業が現在実施されており、その最終報告が、今月発表される予定になっているとあります。

Preparatory study for the Ecodesign and Energy Labelling Working Plan 2020-2024

では、この準備作業で何が進められているのかというと、以前(持続可能な製品政策枠組み1 2020年9月号)にも少し触れましたが「エネルギー関連以外の製品にもエコデザイン指令の対象を拡張し」ということで、基本的には対象とする製品の検討かと思います。具体的には次にまとめましたが、今回は、ElectornicsやICTに関わるセクションの話ですが、それらの製品が対象となっていくであろうことが理解できます。

  • 製品の耐久性、補修性、リサイクル性、リサイクル率などの循環経済観点をよりよく考慮した上で、作業計画のための製品の特定と優先順位付けのためのアプローチを開発する。評価対象となる製品グループは以下の通りである。
    • 以前のエコデザイン作業計画や関連する調査では、エコデザインやエネルギー表示対策の対象となる可能性があると指摘されていたが、現在までに対策が実施されていない製品
    • 循環経済関連の要求事項が増加する可能性のある規制対象製品
    • 複雑な製品(例:1つの製品に複合化された製品)
    • インタラクティブで相互運用可能なITソリューション製品(環境改善につながるインタラクションや自動化などの相互接続製品など)
    • 既存製品の潜在能力を引き出す市場調査改善のための水平的革新的ソリューション
    • エネルギー関連製品(エネルギーを消費しないが、関連するシステムのエネルギー消費に影響を与える製品)
    • ICT製品やシステムを含む、未調査の新製品群
  • 製品グループとイニシアチブの分析
    • 販売、在庫、資源消費、改善の可能性、環境影響、規制の適用範囲と実現可能性、市場分析影響、産業競争力について
  • 関連する利害関係者の徹底した協議プロセスとともに、規制の精査や利用可能な研究から得られた強力で透明性のあるエビデンスベースを用いて、エコデザインとエネルギーラベリング作業計画2020-2024を取りまとめるための欧州委員会の意思決定プロセスに情報を提供し、支援

加えて、「エネルギー効率と耐久性、修理性、アップグレード性、メンテナンス性、再利用、リサイクル性」の特にCEに関わる物質効率性をどのようにして評価して、公表するのかについては、欧州標準化機関であるCEN、CENELEC、ETSIに、欧州委員会が将来のエコデザインの要求事項を確立する物質効率性に関する規格の開発を要請したことをうけて、8つ欧州規格が2019年から2020年にかけて発行されています。

ですので、現時点で明言はできませんが、これら標準規格に基づいた取組や情報提供などの対応を含む、規制的な枠組みが整備されていくのではないかと考えられます。

  • EN 45552:2020エネルギー関連製品の耐久性評価のための一般的方法
  • EN 45553:2020エネルギー関連製品の再製造能力の評価のための一般的方法
  • EN 45554:2020エネルギー関連製品の修理、再利用及びアップグレードの能力の評価のための一般的方法
  • EN 45555:2019エネルギー関連製品のリサイクル性及び回収可能性を評価するための一般的方法
  • EN 45556:2019エネルギー関連製品における再利用部品の割合を評価するための一般的方法
  • EN 45557:2020エネルギー関連製品に含まれるリサイクル材料の割合を評価するための一般的方法
  • EN 45558:2019エネルギー関連製品における重要原材料の使用を宣言するための一般的方法
  • EN 45559:2019エネルギー関連製品の物質効率性の側面に関連する情報を提供するための方法

A new series of European standards addresses the material efficiency of energy-related products - CEN-CENELEC

●今後のエコデザイン作業計画で、プリンターと消費財(カートリッジなど)に関する詳細

これはどういう事ですか?カートリッジを販売停止にしないように、という事ですか?

すみませんわかりにくかったです。修正します。。。
行動計画では、「プリンターやカートリッジなどの消耗品も対象となるが、今後6ヶ月以内にこのセクターが野心的な自主的合意に達しない限りは対象となるだろう。」とあります。先の説明と少し重複しますが、エコデザイン指令は、元々エネルギー消費に関わる製品が対象だったのですが、CE観点(Material Efficiency:物質効率性)の反映にあたり、対象品目を拡大しようとしており、その一環の検討がなされているということです。

●修理する権利の実施に関する優先セクターとして電気製品とICTに着目

修理する権利というのは、規制をする根拠というイメージですか?
「私の修理する権利が侵害されている!守って欲しい!」というような?

先日、弁護士の方にCEのお話をする機会があったのですが、同じ質問を受けて、逆にご教示願いたいとお返しました。。。というのも、権利の侵害ということまでは、行動計画では書いていません。

なお、行動計画では、修理する権利の前置きとして、「時代遅れのソフトウェアを更新する権利を含む」とあります。つまりは、修理したいと消費者側が思っていても、部品がない、または、大変部品入手までのハードルが高い、ということに加え、早期陳腐化のように、アップグレードできず、使い続けられないといった状況も少なくしていきたいということかと思います。

「修理する権利」ということの法的観点からの議論は、私からお話することは難しいのですが、そういった生産者側と消費者側の事情の違いと製品の価値を可能な限り長くしていくというCEの目的と現状のギャップをうまく表現した言葉であるとは思います。

●携帯電話の充電器や類似製品に対する規制的手法(共通化、ケーブル耐久性、ケーブル購入とデバイス購入の切り分け)

携帯の充電器は、以前は本当に機種によってばらばらだったので、携帯の数だけ携帯の充電器を置かないといけないし、忘れても会社の誰かのを使うという事もできなくて不便だったのが、携帯電話会社ごとに共通化された時、本当にうれしかったです(笑)最近はさらに、マイクロUSB、タイプCなど共通化されて、便利になったなーと思っていました。省資源と利便性の両立ですね!
というような、こういう話ですか?

ではないかと思います。CE的観点からは、共通化・耐久性向上と充電器の購入と新しいデバイスの購入を切り分けを通じて、耐久性の向上と充電器とデバイスの切り分けによって、資源の過剰な消費が抑制できる(所有している充電器が無駄にならない)ということかと思います。加えて、充電器やケーブルの再生資源化がどの程度進んでいるか、はかりかねていますが、共通化によって多少なりとも再生資源化の可能性が高まればとも思います。

これ自体の工夫による影響は小さいかもしれないのですが、様々な製品において、このような便益を損なわない資源消費抑制に向けた小さな工夫の積み重ねが今後重要になると考えますし、設計から経済システムを変えていくということの事例の一つといえるのかもしれません。

●全EUレベルのテイクバックスキームやセルバックスキーム(携帯、タブレット、充電器)

テイクバックスキームとセルバックスキームについて、教えてください。

行動計画では、EU全体でテイクバックスキームやセルバックスキームなどの回収スキームのオプションを検討することも含めて、WEEEの回収処理の改善を図るとも示されています。加えて、具体的なスケジュールを示した行動計画の別添をみると、古いデバイスを返却するための報奨(Reward)制度を2020/2021年に実施とあります。ですので、使用後の機器を、中古品や資源としてとらえ、返却や売却を促すインセンティブ制度を検討しているのではと考えます。

ちなみに、アップルは自社で消費者から回収や下取りをして、リサイクルや認定整備済み商品として販売し、かつまたアップル製品の購入につなげるビジネスモデルを展開するわけですが、
Apple Trade In - Apple(日本)
認定整備済製品 - Apple(日本)
こういった民間の動きを促進するのか、何らかの制度を整備するのか、EUの議論状況を注視していきたいと思います。

●電気製品中の有害物質規制の見直し、関連法規の調和(REACHとエコデザインなど)

有害物質規制についても触れられているというのは、リサイクルしやすいように、含有有害成分についても規制するというような事なのでしょうか?

行動計画には、「2021年に電気・電子機器における特定有害物質の使用制限に関する指令の見直しと、REACHやエコデザインの要求事項との関連性を明確にするためのガイダンス」を提供する程度しか書いていないのですが、これについては、10月の半ばに採択された「持続可能性のための化学物質戦略」に書かれている方針が参考になるかもしれません。

COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL, THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE AND THE COMMITTEE OF THE REGIONS

この戦略の特にCEに関するセクション(Non-toxic material cycle:非毒性物質サイクル)を抜粋すると、

  • 持続可能な製品政策イニシアティブの一環として、繊維製品、食品包装を含む包装材、家具、電子機器、ICT、建築物などの循環型社会の可能性が最も高い製品カテゴリーと同様に、脆弱な人々に影響を与える製品カテゴリーを優先して、要求事項を導入することで、製品中の懸念物質の存在を最小限に抑える。
  • 持続可能な製品政策イニシアティブの文脈で情報要件を導入し、材料や製品のライフサイクルを通じて懸念物質の存在を追跡することで、化学物質の含有量と安全使用に関する情報の入手可能性を確保する。
  • REACHの下でのリサイクル材料の認可と制限の免除が例外的かつ正当なものであることを保証する。
  • 廃棄物の流れを浄化し、安全なリサイクルを増やし、廃棄物、特にプラスチックや繊維製品の輸出を減らすことができる持続可能な技術革新への投資を支援する。
  • 物質、材料、製品のライフサイクル全体を考慮した化学物質リスク評価の方法論を開発する。

とあります。

「リサイクルしやすいように、含有有害成分についても規制する」という点については、1点目の「製品中の懸念物質の存在を最小限に抑える」という点が最も関連があるかと思います。この戦略全体を通して、「消費者製品に含まれる最も有害な化学物質を禁止し、必要な場合にのみ使用を認める」という方針になっているので、一定の使用規制は発生しうるかもしれません。


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