EU新循環経済行動計画のポイント その12
バリューチェーン ~繊維(テキスタイル)~
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
【その12】主要製品バリューチェーン
3.5 繊維(テキスタイル)
製品のバリューチェーンについてお話しいただく5回目の今回は「テキスタイル」。
日本では耳慣れない言葉ですが、海外ではよく聞きく単語でもある「テキスタイル」。「テキスタイルって何ですか?」から質問を始めたいと思います。
そうですね。まずは、今回のCE行動計画をうけてテキスタイル戦略の策定が進められており、関連のパブリックコンサルテーションも進んでいます。現在EUのサイトで、そのテキスタイル戦略の方針が示されている文書(Roadmap)があります。
EU strategy for sustainable textiles(European Commissionホームぺージ)
そこには、
“The textile sector is a resource-intensive sector with important climate and environmental impacts. Textile consumption is the fourth highest pressure category in the EU in terms of use of primary raw materials and water (after food, housing and transport), and fifth for GHG emissions (EEA). Most of the pressure and impact linked to clothing, footwear and household textiles in Europe occur in other regions of the world, where the majority of production takes place.”
という記述があります。
したがって、「テキスタイル」には洋服、靴などのアパレル類のみならず、カーテンなどの家庭繊維製品も含まれると思います。ただ、同文書内で、年間一人当たり11kgのテキスタイルが廃棄されているという点を問題視しており、その状況を「ファストファッション現象」という言葉でも説明する等、関連の文書などを読んでいても、アパレルが議論の中心になっていることが多いです。
また国内の政策レベルでは、確かに、“テキスタイル(繊維)”という用語を循環型社会政策の観点から見ることはあまりありません。すでに、市町村レベルで布類・衣類などとして回収しており、産業廃棄物の「繊維くず」という分類も存在するため、静脈側での一定程度の取組があるということで、強調されていないのかもしれません。
他方、EUでは2018年の廃棄物指令改正において、テキスタイルの分別回収義務が定められたところです。
ただ、国際的な循環経済の議論や会合では“テキスタイル”という用語を見かけることが増えました。これからお話する内容とも関連しますが、アパレルメーカーの取組や消費者選択へのアプローチが主眼になっているという印象です。そこは、日本の現在の取組と比較して、アプローチが異なる点かもしれません。また、アパレル企業による環境関連への対応を議論するパートナーシップ(例えば、Make Fashion Circular)や、各アパレルメーカーでも回収リサイクルを含めた様々な取組が観られるようになってきました。
背景
背景としては、
- 繊維(テキスタイル)は1次原料と水の使用に関して4番目に負荷が高いカテゴリー
- 世界でリサイクルされている繊維は1%にも満たないと推定される
- 欧州の衣料品の60%(価値ベース)がEU域外で生産されている
という事が挙げられています。
1次原料と水をたくさん使っているとありますが、水を使用するというのは、綿花栽培に水をたくさん使う、という事でしょうか?
まず、水ですが、綿花や毛などの繊維原料の生産という段階のみならず、例えば、染色などの段階でも水は多く使用するため、生産プロセス全体で大量に消費するということかと思います。
1次原料(資源)については、あまり明示的に書いてありませんが、綿花や毛などの天然繊維の原材料生産、化学製品の原材料生産、また染色などのプロセスにおける化学物質なども含めて議論するものと考えます。
衣料品は、衣料として販売されるか、ほぐして詰め物になったり、軍手になったりすると聞きますが、あまりリサイクルは一般的ではないのでしょうか。
そうですね。以前に比べて、アパレルメーカーによる引き取りリサイクルなどが進んでいる印象もありますが、量的には一部かもしれません。他、国内での自治体回収のものは、古着として再販売されるか、ウエスなどでの再利用と聞きます。
国内では、家庭から排出された布類の資源化量のデータはありますが、その再生資源/再商品化の内訳データがあると議論しやすいかもしれません。
【参考】環境省環境再生・資源循環局 日本の廃棄物処理 平成30年度版
衣料品の60%がEU域外で生産されている、というのは何か危機感につながっているのですか?EU域外で生産されているからこそ、環境デザインが大事だ、という事になるのでしょうか?
そうですね、先にお話した文書には、海外での生産において環境配慮状況に加えて、労働環境にも懸念があることが示されています。
方針と施策
方針と施策をまとめますと、以下の様になります。行動計画に基づいて、スライドよりもう少し詳細に書かせていただきますと、
- 包括的な欧州テキスタイル戦略を提案
- この戦略は、テキスタイル分野における産業競争力とイノベーションの強化、テキスタイルの再利用市場を含む持続可能で循環型テキスタイルのためのEU市場の促進、ファストファッションへ対応、新しいビジネスモデルの推進を目的する
- 新しい持続可能な製品の枠組みをテキスタイル製品に適用。繊維製品が循環性に適合していることを保証するためのエコデザイン措置の開発、2次原料の含有の保証、有害化学物質の存在への取り組み、企業や個人の消費者が持続可能な繊維製品を選択し、リユースや修理サービスを容易に利用できるようにすることが含まれる。
- EUにおける持続可能な循環型テキスタイルのためのビジネスおよび規制環境の改善、特に製品サービス化モデル、循環型素材および生産プロセスに対するインセンティブとサポートの提供、および国際協力を通じた透明性の向上。
- 加盟国が2025年までに確保しなければならない、繊維廃棄物の高レベルの分別収集を達成するためのガイダンスの提供。
- 技術革新、産業的応用、拡大生産者責任などの規制措置を含む、繊維製品の選別、再利用、リサイクルの促進。
また、ほぼ同様の内容ですが、先に示したRoadmapにも今後の方針が示されています。目標設定など行動計画よりもやや具体的な点もあるため、ご報告します。
- テキスタイルの持続可能な消費と生産パターンに向けて
- デジタル化を通じた革新的な繊維製品、マイクロプラスチック放出対策、製造・リサイクルプロセス関連技術への支援
- リユースやリサイクルを大幅に強化する目標設定
- 持続可能性デザインを改善するアプローチ(2次原材料の取り込みを確保し、有害化学物質の存在に取り組むなど)
- 「サービスとしての製品」やその他の持続可能なビジネスモデルへのインセンティブ
- テキスタイル廃棄物処理促進のための拡大生産者責任の役割検討、2025年までに繊維廃棄物の分別収集導入の実施を支援
- トレーサビリティと透明性の向上を含め、バリューチェーン全体での人権保護、環境配慮義務、デューデリジェンスを強化する方法を模索
EU市場の促進を目指すというのは、EU市場は循環型の繊維製品しか上市できないように促進して、それによって実現させる、というようなことなのでしょうか?
そうですね、「持続可能かつ循環型テキスタイルのためのEU市場」の促進なので、循環型の繊維製品しか上市できないというまでの厳格さはないとおもいますが、持続可能かつ循環型のビジネスモデルへの転換を促進したいということかと思います。
たとえば、リサイクルやリユース、洋服のサブスクリプションサービスなどが日本でも出ていますが、そのような製品のサービス化等が進められる。また、環境に配慮した技術の導入や環境に加えて人権などの観点の透明性も高めていくということのようです。
繊維のリユースとありますが、例えば糸に戻してリユースするイメージですか?
テキスタイルを訳して繊維としていますので、中古衣料の活用なども含まれていると思います。
ファストファッション対策というのは、例えばどんなことを指すのか教えてください。
大量生産大量消費、そしてその後に続く廃棄という点も問題視されていますので、行動計画に示されている通り、「リユースや修理サービスを容易に利用できるようにすること」などではないでしょうか。
なお、すでに現状各種メーカーがリサイクルや回収などにも取り組んでいるので、そういったことの促進も含まれるかと思います。
新たな持続可能な製品枠組みの実践(エコデザイン施策も含む)
企業と一般消費者へのエンパワーとありますが、エンパワーというのはどういう意味でしょうか?
直訳すると力をつける・与えるということなので、望ましい行動が実施できるよう支援して、その実行を助けるということかと思います。
製品サービス化モデル、循環型素材・生産プロセスに関するインセンティブ提供
循環型素材というと、アパレルメーカーが店頭で衣類を回収したり、リサイクル原料を使った糸を使って洋服を作ったり、ダウンジャケットを回収してダウンを再利用したり、という取り組みにインセンティブを提供する、という事なのでしょうか。
はい、特に循環という点ではそういったサービスが想定されているかと思います。他には、生産プロセスに投入されるエネルギーや資源が循環由来のものや再生可能資源であるといったこと、そして低炭素を含む低環境負荷型のプロセスであることが想定されていると思います。
国際協力を通じた透明性の向上
というのは、児童労働がいまだ多い、というような話なのでしょうか?
児童労働のみならず、悪質な労働環境など人権的な配慮が必要なケースや環境に配慮していない生産方法などについて明らかにしていくということかと思います。
繊維製品の分別回収について、最近、海外の方に海外でのごみ分別について伺っていると、欧州ではペットボトル回収ボックスの様に、衣類回収ボックスが街に設置されていて、そこに衣類を入れると、NPOの方などが分別して寄付に回す、という取り組みがなされている都市が多くて、日本との違いを感じました。
そうですね。循環経済における持続可能な製品の現状やその課題について整理したEUのレポートがあります。
そのレポートのテキスタイルのセクションでは、「衣類に含まれる複雑な素材の組み合わせや、カーペットに含まれる難燃剤のように、生産時には認可されていたがリサイクル時には再規制の対象となる(と考えられる)危険な「レガシー」物質の存在が課題として挙げられており、また、産業界からは、効果を最大化するための調和のとれたアプローチや要求事項の整合性が求められている」という点が示されていました。
ですので、行動計画やロードマップに明確な方針が記載されているわけではありませんが、域内でのリサイクルの効果を向上させるためにもEU全体の方向性が示されていく可能性が高いのかなと思います。
テキスタイルの分別・再利用・リサイクル促進というのは、イノベーションと産業的応用・EPR等の規制措置を通じたとありますので、大規模な繊維の分別・再利用・リサイクルを推進するという感じなのでしょうか。
そうですね、機械的な分別が進む可能性は否定しませんし、複合的な製品であるテキスタイルを機械的に分別するために技術のイノベーションが必要かと思います。同時に、デザイン・生産側でも分別・再利用・リサイクルが促進されるような技術や政策も含めた社会システムのイノベーションや応用(application)が進むことも想定されるかと思います。
ここまでお読みいただきありがとうございます。私も服は大好きなので、衣類についてもサステナブルな仕組みになっていくといいなと思いました。