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EU新循環経済行動計画のポイント その20
経済を正しく その1

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その20】経済を正しく その1

今回は、「6.2 経済を正しく」についてお伺いします。
よろしくお願いします。

背景

  • より持続可能な生産と消費パターンに向けたファイナンスを操作する慎重かつ決定的な手法が必要

“ファイナンスを操作する”とあるのは、融資を受けやすくすることで、持続可能な生産と消費パターンを実現させていこう、という事でしょうか?

そうですね。ということだと思います。もう少し細かくお話しますと、英語のSteerを操作すると訳したのですが、「かじを取る」「ハンドルを操作する」という意味の英語です。すなわち、循環経済を含む持続可能な生産と消費の取組に、この後お話するような手段をもって、金融からの資金がより集まるよう促すということかと思います。

方針と施策

  • EUタクソノミー規則に循環経済観点を統合
  • 金融製品向けEUエコラベル基準の検討
  • 循環経済ファイナンスサポートプラットフォームの継続
  • 非財務報告指令の見直しにおいて、企業環境データ開示の拡張
  • 産業界主導の環境会計原則の開発支援
    • 循環経済パフォーマンスデータによる金融データの補完
  • ビジネス戦略における持続可能性基準の統合促進
  • 欧州セメスター(※)、環境とエネルギー分野における国家援助ガイドラインの見直しにおける循環経済との関連付け
  • 環境税(埋立・焼却税含む)、VAT率調整(最終消費者向け、修理などの循環経済活動促進)など経済手法の促進

(※)欧州連合(EU)において、各国の財政政策と経済政策の協調を行う半年

■EUタクソノミー規則に循環経済観点を統合

タクソノミー規則というのは、どういう規制ですか?

はい、EUタクソノミー規則というのは、正式の名称が『「持続可能な投資促進のための枠組み」の構築に関する規則』なのですが、経済活動が環境面でサステナブルであるかどうかの基準を確立することを目的としたものです。

ここで、その基準となる6つの環境目的が示されていますが、金融商品やその金融市場参加者、非財務情報開示指令の対象となる大企業の経済活動がサステブルであると証明するためには、その環境6目的の1つ以上に実質的に貢献しなければならないというものです。これによって、持続可能な経済活動の6つ類型がこの規則によって示されたことになります。その目的の1つに『循環経済への移行』が含まれています。

規則に示されている『循環経済への移行』の類型としては、主に以下のようなものが挙げられています。持続可能性原則でいわれていることとほぼ同じかと思います。

  • 一次原材料の使用量の削減、または副産物や二次原材料の使用量増加
  • 資源効率及びエネルギー効率の対策。
  • 特に設計・製造活動における製品の耐久性、修理可能性、アップグレード性または再利用可能性の向上
  • 特に設計・製造活動におけるリサイクル不可能な製品・材料の代替及び使用量削減により、製品のリサイクル性(個々の材料のリサイクル性を含む)の向上
  • 有害物質の含有量を大幅削減、材料や製品のライフサイクル全体を通じた有害物質や高懸念物質の代替
  • 再利用、長寿命設計、再利用、分解、再製造、アップグレード及び修理、製品シェアリングを含め、製品使用の長期化
  • 廃棄物の質の高いリサイクルを含め、二次原材料の使用とその品質向
  • 鉱物の採取からの廃棄物や建築物の建設・解体からの廃棄物の発生を含め、廃棄物の発生抑制または削減

なお、環境目的への貢献に加えて、サステナブルであるかどうかの判断基準として、「6つの環境目的のいずれにも著しく阻害しない(Do No Significant Harm(DNSH)の適用)」「最低限の安全策(人権等)に準拠する」「技術的審査基準(technical screening criteria)を満たすこと」が示されています。

各環境目的のための技術的審査基準を定義する環境的に持続可能な活動のリストを欧州委員会が作成するのですが、気候変動の緩和と、気候変動への適応の2つを対象としたものはすでに公表されています。

(参考)
EUホームページ:Sustainable Finance and EU Taxonomy: Commission takes further steps to channel money towards sustainable activities
EUホームページ:Regulation on the establishment of a framework to facilitate sustainable investment

『循環経済への移行』についての技術的審査基準リストはまだですが、施行スケジュールを考慮すると2022年中に明らかになろうかと思います。

■金融製品向けEUエコラベル基準の検討

金融製品というのは、金融商品の事(不動産投資や投資信託など)の事かと思いますが、例えば「ESGやSDGsを投資テーマにした投資信託」と表明するための基準を検討する、というイメージですか?

はい、そのような理解でよいと思いますが、エコラベルなので「ESGやSDGsを投資テーマにした」という解釈よりは、「優れた環境性能、すなわち欧州市場に流通している同じ製品グループの製品と比較して、ライフサイクル全体で環境負荷が低減された製品やサービス」であることを示すということと思います。

なお、CE観点をEco label基準に統合するというCE行動計画やサステナブルファイナンス行動計画の方針の下、Strategic EU Ecolabel Work Plan 2020 – 2024が2020年12月に策定されています。

(参考)EUホームページ:Strategic EU Ecolabel Work Plan 2020 - 2024

金融商品については、現在は、EUのJoint Research Centre(JRC)でリテール金融商品の基準の検討が進められているようです。

(参考)
EUホームページ:Product Groups and Criteria
EUホームページ:Retail financial products

(参考)一般社団法人環境金融研究機構ホームページ:欧州委員会、個人用サステナブル金融商品「エコラベル」第二次案、株投資の対象ポートフォリオ、大幅緩和。グリーン度は実質20%以下でもラベル付与。グリーン性より市場性を考慮(RIEF)

(参考)ブルームバーグ・ジャパンホームページ:サステナブル金融のEUタクソノミー:金融市場参加者のためのよくある質問

■循環経済ファイナンスサポートプラットフォームの継続

循環経済ファイナンスサポートプラットフォームというのは、情報共有を目的としたプラットフォームなのですか?

はい、2017年に循環経済ファイナンスサポートプラットフォームが設立し、欧州委員会、EIB、各国振興銀行、機関投資家、その他のステークホルダーが参加しており、専門家グループが助言を行っていっているとあります。

ただ、すこし調べてみると、「循環経済ファイナンスサポートプラットフォーム」に完全に一致する取組がみあたらず、現在は、いくつかの活動に分かれているようです。といっても、これらが「循環経済ファイナンスサポートプラットフォーム」の位置づけだという確証はないのですが、いずれにせよ、興味深いCEに関するEUの取組かと思うので、共有します。

1つは、欧州循環経済ステイクホルダープラットフォームという、CEに関する情報共有プラットフォーム下にある、”Financing CE in the EU”において、欧州委員会、EIB、各国振興銀行の資金調達関連情報の提供や各種投資事例が紹介されています。

(参考)EUホームページ:Financing the circular economy

もう1つ、Business Europeと各国メンバーが運営するプラットフォームがあり、産業界、中小企業、その他のビジネスによる欧州の循環経済への貢献する革新的取り組みについて、継続的に新しい事例を提供するウェブツールがあるようです。

(参考)BusinessEuropeホームページ:Circulary

また、専門家グループは定期的に会合を開催し、加盟国における循環経済の構築と資金調達を支援するため、ECに助言と専門知識を提供しているとあります。

(参考)EUホームページ:Support to Circular Economy Financing Expert Group (E03517)


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は引き続き、「経済を正しく その2」についてお伺いします。


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