EU新循環経済行動計画のポイント その11
バリューチェーン ~プラスチック~
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
【その11】主要製品バリューチェーン
3.4 プラスチック
製品のバリューチェーンについてお話しいただく4回目、今回は「プラスチック」。
日本では2021年1月に「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」が公表され、ホットな分野だと思います。
スライドで背景として示している内容は正確には、今回の行動計画の背景とEUの意図を示しています。
これから、スライドよりも詳しく説明していきます。
よろしくお願いします!
背景
- 循環経済におけるEUプラスチック戦略(2018年)はいくつかの包括的な施策を提示
- さらなる施策を実施・検討していくことが必要
もう4年前になりますが、2017年7月末に中国政府は「輸入廃棄物管理目録」を改正し、2018年1月から廃プラスチックを含む資源ごみを中国へ輸出できなくなった、まさに2018年1月に「EUプラスチック戦略」が発表され、非常にタイムリーだったので驚きました。
はい、そうですね。中国での輸入規制については、EUプラスチック戦略を策定する中でも影響を与えたと思いますし、実際に戦略の中に中国輸入規制について言及されていますね。また、今回の行動計画の後半に廃棄物輸出に言及されたセクションがあるのですが、そこでは、中国以外にも、その後、複数の国で輸入規制が導入されたことが、EU内のリサイクル産業の能力を高め、廃棄物に付加価値を与える方向に促したといっています。また、加えて、廃棄物の違法輸出の問題も考慮して、EUが廃棄物問題を第三国に輸出しないことを目的とするとあります。
ですので、プラスチックも含めて、EU内でのリサイクル量が増加する方向になると考えられます。また、バーゼル条約でも議論されていましたが、海外に輸出する際の再生資源の状態などがカギといえ、それに貢献するリサイクル産業の動きが活発化するのではとみています。
EUプラスチック戦略に話を戻しますと、
- 「2030年までに全プラスチック容器包装材の再使用/リサイクルを可能に」
- 「2030年までに欧州で発生する廃プラスチックの半分以上をリサイクル」
- 「2015年比分別・リサイクル規模4倍、20万人雇用創出」
- 「リサイクル材需要を4倍、リサイクル産業安定化」
- 「環境中へのプラスチック漏出の大幅削減」
- 「国際的な関連プロセスにおけるEUのリーダーシップ」
等が目標に掲げられました。また、同戦略の中で、
この後EUでは、2019年5月に「特定プラスチック製品による環境への影響削減のための指令」が採択されています。使い捨てプラスチック製品に関する指令とも呼ばれ、使用禁止が目立ちますが、プラスチックの3R全般にわたる内容となっています。
- プラスチックボトル分別収集目標(2029年までに90%)
- プラスチックカップやプラスチックボトル等に対するデザイン要件の導入
- ペットボトル(2025年以降25%)・プラスチックボトル(2030年以降30%)に対する再生プラスチック使用目標
が設定されました。
EUのプラスチック戦略については、廃棄物資源循環学会が発行している市民向け冊子でも触れていますので、よければご笑覧ください。
粟生木 千佳 「欧州連合(EU)プラスチック戦略 日本のプラスチック資源循環戦略との比較も含めて」『循環とくらし』第9号(2020年3月)
方針と施策
- 再生プラスチック含有量と廃棄物削減施策に関する必須条件の提案(包装、建設資材、車両等の主要製品に対して)
- 環境中のマイクロプラスチックへの対策
- 故意に使用されるマイクロプラスチックの制限とペレットへの対策
- 非意図的に放出されたマイクロプラスチックに対するラベル・標準化・認証・規制措置の検討 -マイクロプラスチックの補足方法を含む
- 非意図的に放出されたマイクロプラスチックに対する測手手法の調和と開発
- マイクロプラスチックのリスクと発生に関する科学的知見のギャップを減らす
- その他
- バイオプラスチックの分類・ラベル・使用、生分解性・たい肥化可能なプラスチックの使用に関する政策枠組みの策定
- 使い捨てプラスチック製品に関する指令(2019年)の実施
再生プラスチック含有量と廃棄物削減施策に関する必須条件の提案
再生プラスチック含有量と削減施策に関する必須条件の提案について、包装・建設資材・車両等が主要製品として挙げられています。家電に使われるプラスチックは対象になっていないのでしょうか?
そうですね。新CE行動計画には、あまり、それ以上の事は書いていません。ですので、EUのプラスチック戦略の具体的な行動を示したAnnexを再度確認しました。
A European Strategy for Plastics in a Circular Economy
そこでは、『以下の文脈において、特にリサイクルコンテンツを取り入れるための規制上または経済上のインセンティブの評価を行う(2018年に実施予定)。- 包装・梱包材廃棄物指令の改定 - 建材規制の評価・見直し - 使用済み自動車指令の評価・見直し』とあり、それが今回の行動計画の内容につながっていると考えられます。
したがって、今のところ、やはり家電は見直しの対象ではないようです。エコデザイン指令改正の中で何かあるかもしれませんが、先のElectronicsの項目においても、修理関連の内容が中心で再生プラスチックへの言及はあまりありませんでした。
他方で、包装・梱包については、前回にもご紹介した容器包装・容器包装廃棄物に関する指令の見直しに関するパブリックコンサルテーションでの政策オプションの内容をもう少し深堀したところ、その他検討すべき政策オプションの一つに「特定の包装形態においてリサイクル含有量の目標導入」とありました。これだけだとプラスチックとは限りませんが、いわゆる使い捨てプラスチック規制では、ペットボトルやプラスチックボトルにおいての、リサイクル材の目標が設定されていますので、こういったことかと思います。
Reducing packaging waste – review of rules
また、使用済み自動車ELV指令の改正においてですが、パブリックコンサルテーションでいくつかの政策パターンが示されていました。最も厳しいオプションでは、“新車にリサイクルプラスチックを義務的に使用する要件設定”が含まれています。
End-of-life vehicles – revision of EU rules
- パターン①:ELV指令の規定を変更することなく、ELV指令の実施と執行を改善
- 欧州委員会は、ガイダンス文書や委任・実施法を活用して、指令の実施において明らかになった問題(特に「行方不明車両」の問題)に対処するとともに、再利用、リサイクル、回収の目標達成に関する報告書のより良い調和を通じたEU全体でのリサイクル率の向上を促進する。
- パターン②:ELV指令をEU全体の廃棄物法制と整合し、自動車部門の循環モデルに向けた野心を高め、指令施行を改善するため規定を更新、また目標設定などの修正を行う。
- これらの規定には、特に再利用に関する具体的な目標を導入し、より野心的なリサイクル目標(材料ごとの)、再利用、再製造、解体、リサイクルを容易にするために、自動車に使用されている部品や材料に関する情報を解体業者が容易に入手できるようにする措置、有害物質禁止指令の適応、特にEU域外への輸出を通じた「行方不明車両」の問題に取り組むための自動車の登録解除に関する新たな要件、ATF検査に関する最低要件などが含まれる。
- パターン③:自動車セクターを変革し、完全に循環型のセクターにするために設計された広範な変更を通じたELV指令の全面改正。
- 前の選択肢で説明した変更に加え、新しい規定には、ELV指令の範囲をトラックと二輪車にも拡大、自動車の設計と生産をより循環的なものにするための要件(部品の容易な解体と再利用を可能にし、再製造と最適なリサイクルを促進)を含む可能性がある。新車にリサイクルプラスチックを義務的に使用するための要件を設定。自動車の使用済み段階に対処する自動車メーカーの責任を高める。他の商品に適用される拡大生産者責任に基づくアプローチに沿ったもの をEU市場に投入する。
環境中のマイクロプラスチックへの対策
マイクロプラスチックに対する、ラベルとはどういう事を指すのですか?
はい、スライドにある通り、非意図的に放出されるマイクロプラスチックがここでは対象になっています。先と同様にプラスチック戦略戻ると
『タイヤ、繊維製品及び塗料からのマイクロプラスチックの意図しない放出を低減するための政策オプションの検討(例えば、タイヤの設計に対する最低限の要件(適切な場合はタイヤの摩耗性及び耐久性)及び/又は情報要件(適切な場合はラベリングを含む)、情報(場合によっては表示を含む)/最低限の要件と組み合わせた繊維製品及びタイヤからのマイクロプラスチックの喪失評価方法、対象を絞った研究開発資金の提供など)。』
とありました。ラベルの中身がこれ以上どういったものかは、戦略・行動計画のどちらにも書いていませんでした。
ただし、エネルギーラベリングの要件で、タイヤのラベル表示の要件が、こちらを見ると記載されていて、設計に摩耗性や耐久性の要件を定めることも検討しているようですが、例えば、このようなラベルに。摩耗性や耐久性のように、意図しない放出の程度に関連する情報を記載するということを検討しているのかと想像しています。
マイクロプラスチックのリスクと発生に関する科学的知見のギャップを減らすというのは、海で漂流プラスチックの調査をすると、推定量の1%しか検出されず、残りの「99%」はどこへ行ってしまったのか、という「ミッシングプラスチック(missing plastics)」に関することでしょうか?
【参考サイト】“The Missing Plastics”―プラスチック行方不明問題(国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC))
そうですね、それも含まれると思いますし、上記の非意図的に放出されたマイクロプラスチックの測定についても重要視されています。なお、プラスチック戦略では、『環境及び健康への影響を含むマイクロプラスチックの発生源及び影響の理解を深め、それらの拡散を防止するための革新的な解決策を開発するためには、より多くの研究が必要』とあるので、そういった拡散しているマイクロプラスチックの量に加えて、それによる各種影響に関する科学的知見の充実が必要であるということかと思います。
バイオプラスチックの分類・ラベル・使用、生分解性・たい肥化可能なプラスチックの使用に関する政策枠組みの策定
日本で2020年7月にレジ袋が有料化されました。その際に、環境性能が認められ、その旨の表示がある以下の3点は対象外とされました。
- 繰り返し使用が可能な厚手のもの
- 海洋生分解性プラスチックの配合率が100%のもの
- バイオマス素材の配合率が25%以上のもの
(出典)「レジ袋有料化Q&Aガイド」(経済産業省)
CE行動計画で挙げられているのは、レジ袋に限定した話ではないのだと思いますが。。。
はい、レジ袋については、すでに各国で様々な規定がありますので、それ以外もということかと思います。現在、気候中立性の実現やバイオ経済の発展向けて、バイオプラスチックの用途が広がっていると思います。
行動計画で、言われているのは、バイオベースの原料使用による環境負荷への配慮と、生分解性・たい肥化プラスチックの、生分解ないしは、たい肥化する条件が容易には規定できないことへの注意が促されているといえます。この点については、プラスチック戦略でも触れられていました。
行動計画においても、『バイオベースの原料を使用は、化石資源の使用量の削減を超えた真の環境利益が得られるかどうかの評価に基づく。』『「生分解性または堆肥化可能なプラスチックの使用が環境に有益であると考えられる用途と、そのような用途の基準の評価に基づいて、「生分解性」または「堆肥化可能」と表示する」『「生分解性」または「堆肥化可能」と表示することで、消費者に誤解を与え、プラスチックごみのポイ捨てが増えたり不適切な環境条件や不十分な分解時間のためにプラスチックごみによる汚染を引き起こすような方法で製品を廃棄されないようにする』という方針が示されていて、バイオベース原料の使用により、別の環境負荷が高まらないようにするということと思います。
使い捨てプラスチック製品に関する指令の実施については、背景でもご説明頂きましたが、着実に実施していく、という事でしょうか。
はい、また、実施が効果的になるような施策を検討するということかと思います。行動計画では、具体的には、
- 指令の対象となる製品の解釈の統一
- タバコ、飲料カップ、ウェットティッシュなどの製品のラベリング、ポイ捨て防止のためのボトルの紐付きキャップの導入
- 製品中のリサイクル含有量の測定ルール開発
などが挙げられています。
ここまでお読みいただきありがとうございます。