EU新循環経済行動計画のポイント その10
バリューチェーン ~容器包装~
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
【その10】主要製品バリューチェーン
3.3 容器包装
製品のバリューチェーンについてお話し頂く3回目、今回は「容器包装」。
日本でも容器包装リサイクル法がありますので、理解しやすいテーマかなと、楽しみにしています。
スライドで背景として示している内容は正確には、今回の行動計画の背景とEUの意図を示しています。
これから、スライドよりも詳しく説明していきます。
よろしくお願いします!
背景
- 容器包装に使用される材料量の急激な増加
- 欧州における2017年容器包装廃棄物は173kg/人
- 2030年までに欧州市場におけるすべての容器包装を再利用・リサイクル可能にする必要
欧州における2017年容器包装廃棄物は、173kg/人とありますが、これは具体的にはどんなものを指すのでしょうか?
このセクションはPackaging(容器包装)が対象であり、Packagingの範囲としては、改正指令時の分類を見ると、プラスチック、木材、鉄、アルミ、ガラス、紙・板紙が入っています。
EUR-Lex - 32018L0852 - EN - EUR-Lex
これらがすべて反映された数値での173kg/人かと思います。
全ての容器包装を再利用・リサイクル可能にする必要性があるとの事ですが、このリサイクルは、「マテリアルリサイクル」ですか?それとも、「ケミカルリサイクル」や「熱源としての利用」も含まれているのでしょうか?
2018年の改正指令も加味した廃棄物指令での定義を確認しますと、、、
EUR-Lex - 02008L0098-20180705 - EN - EUR-Lex
「‘recycling’ means any recovery operation by which waste materials are reprocessed into products, materials or substances whether for the original or other purposes. It includes the reprocessing of organic material but does not include energy recovery and the reprocessing into materials that are to be used as fuels or for backfilling operations;(リサイクルとは、従来の目的ないしは他の目的かに関わらず、廃棄物を製品、材料、物質に再加工するあらゆる回収作業を意味する。これには有機物の再処理も含まれるが、エネルギー回収や燃料として使用される材料や埋め戻し作業のための材料への再処理は含まれない。)」とあります。
また、この回収作業には、以下の13種類がありますが、このうち、R1はエネルギー回収として分類されます。
- R 1 主にエネルギーを生成するための燃料またはその他の手段としての使用
- R 2 溶剤の再生利用・再生成
- R 3 溶剤として使用されない有機物のリサイクル・再生利用(堆肥化等の生物変換工程を含む)
- R 4 金属および金属化合物のリサイクル・再生利用
- R 5 その他の無機物のリサイクル・再生利用
- R 6 酸または塩基の再生
- R 7 公害防止のために使用した成分の回収
- R 8 触媒からの成分回収
- R 9 油の再精製、その他の油の再利用
- R 6 酸または塩基の再生
- R 7 公害防止のために使用した成分の回収
- R 8 触媒からの成分回収
- R 9 油の再精製、その他の油の再利用
- R 10 農業や生態系の改善に寄与する土地処理
- R 11 R1~R10のいずれかの業務から得られた廃棄物の使用
- R 12 R 1~R 11 のいずれかの業務に提出するための廃棄物の交換
- R 13 R 1 から R 12 のいずれかの作業を保留した廃棄物の保管(廃棄物が発生した場所での一時保管、回収待ちを除く)
ここから判断すると少なくとも「熱源としての利用」は含まれないことになりますね。なお、下記のガイダンスによれば、ケミカルリサイクルは、先に話したリサイクルの定義に基づき、リサイクル後に燃料として再使用されるか、物質で再使用されるかで、判断が分かれるようです。
欧州統計局:都市廃棄物に関するデータの集計と報告のためのガイダンス
方針と施策
- 容器包装・容器包装廃棄物に関する指令(1994年)の見直し:欧州市場で許可される容器包装に関する必須要件の強化
- 目標設定と廃棄物抑制施策を通じた過剰包装と包装廃棄物の削減
- 包装の再利用・リサイクルを促すデザインの推進
- 包装素材の複雑性の改善検討(製品に使われる素材・ポリマーの数も含む)
- EU全域でのラベルつけに関する実現性評価の実施
- PET以外のプラスチック素材から食品接触材へのリサイクルに関する安全規則設定
- ボトル使用削減のため、飲料水指令に関する要件設定のモニタリングと支援
これにあたり、2020年~2021年にかけて指令の見直しに関連するパブリックコンサルテーションが行われていました。
Reducing packaging waste – review of rules
目標設定と廃棄物抑制施策を通じた過剰包装と包装廃棄物の削減
目標設定と廃棄物抑制施策の「目標」というのは使用量(軽量化など)の目標ですか?リサイクルに関する目標ですか?
上記に提示されている文書をみると、目標設定を検討しており、
- 全体的な包装材廃棄物削減目標や廃棄物発生量の上限
- 特定の材料や包装形態での目標設定
- 輸送用包装の分野では、一部の包装形態に対してリユースを義務化
などを目標の方向性として考えているようです。
包装の再利用・リサイクルを促すデザインの推進
包装の再利用を促すというのは、リターナブルみたいなイメージでしょうか?
そうですね。リターナブルもそうですし、買い物袋等の包装にしても何度も再使用できるものということもありますし、詰め替え容器やコンテナー等の再使用もカバーされるかと思います。
2018年の改正では、「“reusable packaging” shall mean packaging which has been conceived, designed and placed on the market to accomplish within its lifecycle multiple trips or rotations by being refilled or reused for the same purpose for which it was conceived;(「再利用可能な包装」とは、考案・設計され、市場に出回っている包装で、考案された目的と同じ目的のために詰め替えたり、再利用したりすることで、ライフサイクルの中で何度も使用・循環することができるもの)」とあります。
EUR-Lex - 32018L0852 - EN - EUR-Lex
さらにご参考のため、再度廃棄物指令の定義も確認しますと、
「‘re-use’ means any operation by which products or components that are not waste are used again for the same purpose for which they were conceived(「再利用」とは、廃棄物ではない製品や部品を、それらが考案されたのと同じ目的のために再び使用する作業)」
あと、もう一つ、Re-useに関連する定義がありますが
「‘preparing for re-use’ means checking, cleaning or repairing recovery operations, by which products or components of products that have become waste are prepared so that they can be re-used without any other pre-processing(「再使用の準備」とは、廃棄物となった製品または製品の構成要素を、他の前処理を行わずに再使用できるように準備するための、チェック、洗浄または修理の回収作業)」
となります。
なお、余談ですが、2018年の改正指令で野心的なリサイクル率目標が設定された、とよく耳にすることがあろうかと思います。容器包装廃棄物については、リサイクル率なのですが、都市廃棄物に対して設定されている目標は、厳密には「the preparing for re-use and the recycling(再使用の準備+リサイクル)」に関する目標です。詳しくは、それぞれの改定に関するサイトを確認ください。
包装素材の複雑性の改善検討(製品に使われる素材・ポリマーの数も含む)
についてですが、
日本の容器包装リサイクル法の見直しの審議の際にも、容器包装には様々機能があり、例えば、複層化により、食品の消費期限を延ばすことができ、それによって食品ロス削減に役立っているというような事については、EUでも議論されているのでしょうか?
(参考)容器包装の機能と役割(プラスチック容器包装リサイクル協会)
はい、そこは、非常にポイントだと考えています。私が、この行動計画関連の文書を見ている限りでは、そこの関連性に関する記述が確認できていません。今後、「循環性」を評価するにあたって、留意すべきポイントかもしれません。
また、2018年廃棄物改正指令で、拡大生産者責任スキームにおける環境調節・エコモデュレーションを検討とあります。前の行動計画では、使用後(寿命後)に必要となる処理コストに応じて生産者の負担を検討するとありました。したがって、複層化を含む包装設計の違いにより、生産者などが負う責任の程度が変わってくる可能性ということも、念頭に置いた方がよいかもしれません。
他方、一消費者として自分の行動を振り返ってみると、食べる分だけ購入し、さっさと食べればよいのかなと反省もします。
パブリックコンサルテーションでの提示文書では、考えられうる経済・社会・環境インパクトが示されているのですが、そこには、例えば、「より効果的な包装廃棄物対策を行うことで、廃棄物の収集処理関連コストを削減することができる。特定の再利用可能な包装タイプへのシフトは、再利用システムを確立するための初期投資が必要になるかもしれないが、これらのコストは運用上の節約によって相殺されうる。再利用可能なクローズドループ包装ソリューションに基づく新しいビジネスモデルが生まれる。」「包装廃棄物削減対策には、生産者、小売業者、消費者が新しいビジネスモデルや消費モデルに適応することが必要になるだろう。」とあります。
複層包装自体は、良いソリューションの一つだと思います。複層包装の製品がもたらす付加価値と消費者の需要・処理コストなどを加味した製品/ビジネスモデルの開発等が必要なのかなと想像します。
日本でも「今後のプラスチック資源循環施策のあり方について」が先日発表され、様々な施策が提示されました。その中で、『製造・販売事業者が消費者からプラスチック製容器包装・製品を円滑に自主回収・リサイクルできる環境を整備する』など事業者による回収を促す記載がありました。海外の動向のみならず、国内でも、製品開発や使用、回収も包括した新しいシステムも今後構築されていく流れかと思います。
今後のプラスチック資源循環施策のあり方について(令和3年1月28日)
包装設計、消費期限、製品の付加価値、消費者の利便性やライフスタイル、社会システム、様々な観点からどういった変化・移行が起こるのかを見極めて対応していく必要があるのかと思います。
EU全域でのラベルつけに関する実現性評価の実施
このラベル、というのは素材表示ですか?それとも、環境マークみたいなものですか?
(出典)矢印のついた三角形の中に、数字2~7が記されているマークは何?
(PETボトルリサイクル推進協議会)
(出典)エコマークパネルの貸出と配布資料について(公益財団法人 日本環境協会)
これについては、どのようなラベルにするのか明確には行動計画には記載されていませんが、行動計画の本文では、包装廃棄物の適切な分別の促進、分別収集システムの調和ということが前置きとして書かれています。ですので、環境マークというよりは、分別を促すためのラベルということかと思います。ですので、リサイクルを促すような素材別のラベルかつそれらをEU全土で共通化していくということかと思われます。
これで、少し思い出しましたが、国内の包装物でも、使われている素材の一つについてのみラベリングされていることがあり、一消費者として分別に迷うことがあります。こういったところからも、各国改善の余地があるのかもしれません。
ボトル使用削減のため、飲料水指令に関する要件設定のモニタリングと支援
飲料水指令というのがあるのですね。
日本だと、食品衛生法、食品表示法、農林物資の規格化等に関する法律、不当景品類及び不当表示防止法、計量法など、様々な法規で規定されているようです。(法規(一般社団法人全国清涼飲料連合会HP)、関係法規(一般社団法人日本ミネラルウォーター協会HP))
品目ごとに包括的に規定をまとめてある方が分かりやすい様な気もします。が、EUの飲料水指令はそういう事ではないのでしょうか?
飲料水指令については、正直申しまして詳しくないのですが、行動計画には、公共地域(public space)における飲料可能な水道水へのアクセスについて言及されています。プラスチックが国際的に大きな話題になって以降、例えば、(すでにEUではありませんが・・)ロンドンのように、プラスチックボトルの削減に向けて、水筒に水を汲めるよう飲料水へのアクセスを増やした都市があるので、そういった動きを促すためのものではないかと理解しています。
Single-use plastic bottles | London City Hall
ここまでお読みいただきありがとうございます。