EU新循環経済行動計画のポイント その25
進捗状況のモニタリング
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。
【その25】進捗状況のモニタリング
背景
- 循環経済の移行加速化のための国家計画や施策のモニタリングを強化
- 欧州グリーンディールと2020持続可能な成長戦略に基づく
- 欧州セメスターのリフォーカスの一環として
■循環経済の移行加速化のための国家計画や施策のモニタリングを強化
EUとして、加盟国がどのような計画を立てて、実行しているのかの把握を強化するという事ですか? それとも、各国の施策を把握する事が課題、という事でしょうか?
そうですね、施策を把握するというよりは、EU全体としても、各国の加盟国としても、循環経済の国家レベルの計画づくりを促進し、かつ、循環経済の移行に向け、現在のEU社会・経済の状態を把握するということと、実施する取組の進捗を評価するという意味合いが強いと思います。
• 欧州グリーンディールと2020持続可能な成長戦略に基づく
• 欧州セメスターのリフォーカスの一環として
欧州グリーンディールは、CE行動計画も含めて、EUの環境と経済に係わる様々な分野の方針がまとめられています。具体的には、気候変動、クリーンエネルギー、よりクリーンかつ循環型の経済、建築と改修、ゼロ汚染(毒性無しの環境)、エコシステム・生物多様性、農場から食卓まで(食料システム)、スマート・持続可能なモビリティーといった分野です。
循環経済行動計画は、よりクリーンかつ循環型の経済の分野で方針が示されたものですが、循環経済以外の分野でも、循環経済に係わる取組の方針が示されています。
例えば、建築と改修は、住宅の市のベーション、毒性無しの環境では、以前も少し言及したかと思いますが、持続可能性に向けた化学物質戦略においても循環経済の観点が反映されています。農場から食卓まで(食料システム)においても、循環経済の観点も当然ながら言及されています。
本文中には、あまり詳細に書かれていませんが、循環経済以外の分野も含めて、グリーンディールに示された方針に基づくということかと思います。
EU新循環経済行動計画のポイント その3 ~イントロダクション(前半)~
EU新循環経済行動計画のポイント その13 バリューチェーン ~建設と建物(建造物)~
EU新循環経済行動計画のポイント その21 経済を正しく その2
欧州グリーンディール全体の概要については、こちらが分かりやすいかと思いますので、ご参照ください。
(参考)EU MAGホームページ:脱炭素と経済成長の両立を図る「欧州グリーンディール」
2020持続可能な成長戦略は、どういうものですか?
はい、持続可能な成長年次戦略(Annual Sustainable Growth Strategy=ASGS)の2020年版という意味です。
(参考)EUホームページ:EUR-Lex - 52019DC0650 - EN - EUR-Lex
EUで、毎年、今後12〜18ヶ月間のEUの経済・雇用政策の優先順位を示しているもののようです。2020年版では、ASGSは環境の持続可能性、生産性、公平性、マクロ経済の安定性という4分野で構成され、各分野の方針が示されています。2020年版も、最新の2021年版も、さらなる循環経済へ移行する方針が示されています。
欧州セメスターのリフォーカスの一環は、全く意味が分かりませんでした(汗)。
まず、欧州セメスターについては、駐日EU代表部のサイトに解説が記載されているので、そちらの情報を参考にまとめますと、以下の様になります。
(参考)EU MAGホームページ:「ヨーロピアン・セメスター」とは何ですか?
- 欧州セメスター、すなわち「ヨーロピアン・セメスター(European Semester)」とは、欧州連合(EU)において、各国の財政政策と経済政策の協調を行う半年(1月から6月)のこと
- この期間にEU加盟国は、自国の財政政策と経済政策が、EUレベルで合意された目的に合致していることをお互いに確認し、もしある国の政策がEUの目的から外れていれば、修正する
- 合意された目的とは、大きく分けると3つ。第1に、各国が健全な財政状態を確かなものにする。第2に、構造改革を進め、長期的な経済成長を達成する。第3にEU各国間で財政赤字や経済成長などマクロ経済について過度な不均衡が生まれることを防ぐ。
循環経済行動計画に関連する点としては、この第2の目的については、『加盟各国が雇用や産業について構造改革を進め、成長戦略を実現するための行動計画を設定し、それをお互いに監視しあうことになります。実行が不十分な国については早期の警告や改善勧告がなされます。』とあります。ここで示されている、構造改革や成長戦略に、グリーンディールや循環経済行動計画が含まれていると読むことができると思います。
したがって、欧州セメスターの見直し作業の一環として、循環経済への取組が適切に実施されているかどうかを再確認し、必要があれば見直しをはかるということを意味するものと考えます。
方針と施策
- 循環経済のためのモニタリング枠組みのアップデート
- 新指標
- 新行動計画の主要分野
- 循環性と気候中立性とゼロ汚染の関連性
- 新指標
- 様々なレベルでの循環性評価手法の改善
- Horizon EuropeとCopernicus data下のプロジェクト
- 消費と物質フットプリントを含む資源使用に関する指標のさらなる開発
- 我々の生産と消費パターンにともなう物質消費と環境影響
- 経済成長と資源使用・環境影響のデカップリング
循環経済のためのモニタリング枠組みのアップデートということは、既にモニタリングの枠組みがあるのだと思います。EUのモニタリングの枠組みは、例えば、第四次循環基本計画で、2年に1回程度、第四次循環基本計画に基づく施策の進捗状況の評価・点検を行っているのに近いですか?
はい、循環行動計画については、すでに、2018年に設定されたモニタリング枠組みがあります。以下のような循環経済行動計画の進捗を評価する指標が設定されています。
- 生産と消費(資源自給率、グリーン公共調達、廃棄物発生、食品廃棄物)
- 廃棄物管理(各種リサイクル率)
- 二次原材料(物質消費に占める再生材料割合、リサイクル可能原材料貿易)
- 競争力・イノベーション・経済(循環産業セクター民間投資・雇用・付加価値、リサイクル/二次原材料関連特許)
資源自給率や、再生材料(リサイクル材)の割合、投資、雇用、特許の数などが指標として設定されており、循環経済において、リサイクル材の使用や経済効果が重視されている方針が指標設定にもよく表れていると思います。
-
- 新指標
- 新行動計画の主要分野
- 循環性と気候中立性とゼロ汚染の関連性
- 新指標
新行動計画の主要分野と、循環性と気候中立性とゼロ汚染の関連性に関する新指標として、モニタリングの指標を追加する(変える)という事でしょうか?
そうですね、具体的な指標は、まだ決定していないようですが、欧州環境庁や加盟国との協議の結果、一定の方針は出ています。
(参考)EPA Networkホームページ:Monitoring progress in Europe's circular economy
- 資源効率性の側面を含む、物質ライフサイクル全体の変化をモニターするための物質と廃棄物のフロー指標
- プラネタリーバウンダリーを尊重し、製品や材料のライフサイクル全体における影響を把握し波及効果を評価しうる環境フットプリント指標
- 循環経済移行に伴う構造的変化の中で生じる可能性のある正負の影響をとらえる経済・社会的影響指標
- 特に主要セクターにおける、特定の循環経済政策措置やイニシアチブの実施状況を把握する政策・プロセス・行動指標
特に1、2点目ですが、これが後段示されている
- 消費と物質フットプリントを含む資源使用に関する指標のさらなる開発
- 我々の生産と消費パターンにともなう物質消費と環境影響
- 経済成長と資源使用・環境影響のデカップリング
の指標開発につながるところです
新行動計画の大きな柱の一つである持続可能な製品政策枠組みの具体的な方針を示した持続可能な製品に関する政策(3月30日発表)にも、そういった観点に着目することも示されていました。
(参考)EUホームページ:New proposals to make sustainable products the norm and boost Europe's resource independence
- 様々なレベルでの循環性評価手法の改善
- Horizon EuropeとCopernicus data下のプロジェクト
Horizon EuropeとCopernicus data下のプロジェクトで、様々なレベルでの循環性評価手法の改善を検討している、という事なのでしょうか?
はい、これらの取組に限らないとは思いますが、Horizon Europe等の研究資金を使った開発や既存のプログラムも通じて、開発を進めているという理解です。
“様々なレベル”で、と書いているというのは、何を強調したいのでしょうか?
はい、評価には、まさにいろいろなレベルがありまして、つまり、EUレベル、加盟国レベル、自治体レベル、企業レベル、製品レベル、材料レベルと様々あります。例えば、どの程度リサイクル材が製品に活用されているかということを正確に把握したい場合は、材料レベルから適切に評価することが必要となってくるでしょう。
持続可能な製品政策では、製品の循環性(例えば、どの程度リサイクル材を使用しているか等)をはじめとした製品環境情報を開示することを強化する方針も示されています。
また、タクソノミーやESGなどファイナンス分野においても、こういった循環経済の取組の実績や見込み等を企業レベルでも把握する必要性も増しています。
こういった製品レベル企業レベルでのデータの積み重ねが、より正確な国家レベル評価にもつながるものと思います。
Copernicus dataというのは初めてお伺いすると思うのですが、どういうものですか?
私も実は初めて知りました。
(参考)Copernicusホームページ:About Copernicus
EUの地球観測プログラムのことで、欧州市民の利益となるよう地球とその環境について、衛星による地球観測と原位置(非宇宙空間)データを利用した情報サービスを提供しているとあります。土地、海洋、大気、気候変動、緊急事態管理、安全保障の6つのテーマ別のデータがあり、例えば、land土地ですと、land cover土地被覆、つまり、森林、農地、人工的な土地など、土地利用情報を得ることができ、これが資源使用の状況を把握することにも活用できると考えます。
- 消費と物質フットプリントを含む資源使用に関する指標のさらなる開発
- 我々の生産と消費パターンにともなう物質消費と環境影響
- 経済成長と資源使用・環境影響のデカップリング
先ほど主要分野と循環性・気候中立性・ゼロ汚染の関連性に関する「新指標」を検討(開発?)するとありましたが、これとは別に、さらに、生産と消費パターンや、フットプリントに関連した指標を開発する、という事ですか?
そうですね、先にも少し触れました。マテリアルフットプリントや製品環境フットプリントなどは、すでに、方法論が整理されつつありますが、これらも含めて、指標開発および実際の測定を強化していくということと考えます。
ここまでお読みいただきありがとうございます。