DOWAエコジャーナル

本サイトは、DOWAエコシステム株式会社が運営・管理する、環境対策に関する情報提供サイトです。毎月1回、メールマガジンの発行と情報を更新しています。

文字サイズ

その道の人に聞く記事一覧 ▶︎

EU新循環経済行動計画のポイント その23
グローバルレベルでの取組主導(前半)

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

2016年から2017年にかけて、「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしたIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳 様に、2020年3月11日に発表されたEU新循環経済行動計画(Circular economy action plan(europa.eu))についてお伺いします。

【その23】グローバルレベルでの取組主導(前半)

今回は、「7. グローバルレベルでの取組主導」についてお伺いします。
グローバルレベルでの取組については、その3その4のイントロダクションでもご紹介頂きました。

③EUは、地球に搾取した以上に戻す再生産的な成長モデルに向けた移行を加速する必要がある。プラネタリーバウンダリー内の資源消費・今後10年間で消費フットプリントの削減と物質の循環使用を倍増

将来的にはグローバルな取り決めを行いたいという意図は見て取れます。

EU新循環経済行動計画のポイント その3 ~イントロダクション(前半)

⑨EU単独ではなく、循環経済へのグローバルレベルでの道筋を主導、SDGs実施にも貢献

グローバル化した経済を想定するとEU単独でのCEの実施は非現実的なところもあります。域内の循環を想定してはいるものの、適正な国際資源循環を検討することも必要だと思います。加えて、欧州のCE関連企業の国際的な活躍も念頭に入っていると思います。そして、そのような地球改革での改革のリーダーシップをとりたいという意思の表れかと思います。

EU新循環経済行動計画のポイント その4 ~イントロダクション(後半)

今回は、EUのグローバルレベルの取り組みについてより掘り下げた内容を2回に分けてご説明頂けるとの事で楽しみにしています。
よろしくお願いします。

背景

  • 欧州の努力は、グローバルなレベルでの移行も実現することで達成
  • “Safe Operating Space”(安全活動領域)を定義するための議論を進める必要性の高まり
  • EU加盟を目指す国々、南と東の最隣国、新興国、そして世界中の主要パートナーにとって、新しい持続可能なモデルはビジネスと雇用の機会を開くと同時に、欧州の経済主体との結びつきを強化

■欧州の努力は、グローバルなレベルでの移行も実現することで達成

ここでいう「努力」とは、CE行動計画に書かれているような行動をする事を指すのでしょうか?

そうですね、Effortsと英語では書いています。本文を直訳すると、『EUは、その努力によって、公正で、気候中立で、資源効率性の高い、循環経済への移行を世界的に推進する場合にのみ、成功することができる』とありますので、CE行動計画に書かれているような取組を指していると理解してよいかと思います。

グローバリゼーションにより、資源も含めモノの流れは、世界各国とのつながりによって成立していますので、EU域内のみの取組ではEUのCE移行は成立しないということだと思います。

他方で、循環経済により、グローバル化していたモノやそれにまつわるお金の流れを域内にとどめるということもあるのですが、製品・素材・資源等日本からの輸出も含め域外からEU域内に入るモノもあり、それが、EUがCEに求める基準などに満たしてもらう必要があるということです。

また、EUで発生した循環資源(廃棄物含め)がEU域外にでることも、現在もありますし、今後もありうると思います。その際に、域外に出た循環資源が適切に取り扱われるよう行先の処理技術などのレベルが向上していなければなりません。

■“Safe Operating Space”(安全活動領域)を定義するための議論を進める必要性の高まり

すみません、わかるような、わからないような、、、
環境影響がプラネタリ―バウンダリー内にとどまるというのは、地球の資源を枯渇させない、とか、回復できないほどに自然を破壊しないとか汚染させすぎないという事ですか?

説明が不十分で申し訳ないです。そのような理解で近いと思います。ただ、ここでは、資源枯渇そのものよりも、採掘や消費、その間にある生産活動によってもたらされる環境影響に焦点が当たっていると思います。

プラネタリーバウンダリー、Safe Operating Spaceは、こちらの論文が基礎となっています。

  • Rockström, J., W. Steffen, K. Noone, Å. Persson, F. S. Chapin, III, E. Lambin, T. M. Lenton, M. Scheffer, C. Folke, H. Schellnhuber, B. Nykvist, C. A. De Wit, T. Hughes, S. van der Leeuw, H. Rodhe, S. Sörlin, P. K. Snyder, R. Costanza, U. Svedin, M. Falkenmark, L. Karlberg, R. W. Corell, V. J. Fabry, J. Hansen, B. Walker, D. Liverman, K. Richardson, P. Crutzen, and J. Foley.
    Planetary boundaries: exploring the safe operating space for humanity.
    Ecology and Society 14(2): 32. (2009).
  • Rockström, J., Steffen, W., Noone, K., Persson, Å., Chapin, F. S., Lambin, E. F., … Foley, J. A.. “A safe operating space for humanity.” Nature. (2009)

プラネタリーバウンダリーは日本でもよく使われる用語ですが、様々な説明がありますが、ここでは、上記の論文に基づいて整理されたEICネットのご説明を引用させていただきます。

プラネタリーバウンダリー
『地球の環境容量を科学的に表示し、地球の環境容量を代表する9つのプラネタリーシステム(気候変動、海洋酸性化、成層圏オゾンの破壊、窒素とリンの循環、グローバルな淡水利用、土地利用変化、生物多様性の損失、大気エアロゾルの負荷、化学物質による汚染)を対象として取り上げ、そのバウンダリー(臨界点、ティッピング・ポイント)の具体的な評価を行ったもの。ストックホルム・レジリエンス・センター所長ロックストロームらにより開発された概念。現在人類が地球システムに与えている圧力は飽和状態に達しており、気候、水環境、生態系などが本来持つレジリエンス(回復力)の限界を超えると、不可逆的変化が起こりうる。人類が生存できる限界(プラネタリーバウンダリー)を把握することにより、壊滅的変化を回避できるのではないか、限界(臨界点)がどこにあるかを知ることが重要であるという考え方を示したもの。』

このご説明の通り、上記の論文は9つの地球システムに限定した議論でした。ただ、国際社会での議論やスピーチ等では、プラネタリーバウンダリーという用語は、もう少し幅広に、環境容量に近い意味で使われているような印象です。

先に提示した論文の記述も踏まえてもう少し要約すると、プラネタリーバウンダリーは『有害あるいは破滅的な環境変化のリスクを回避するために、人類が尊重すべき、譲れない地球の前提条件』で、Safe operating spaceは、その前提条件(臨界点/閾値)を超えずに我々が活動できる範囲の事を言います。

資源採掘による自然環境の破壊(土地変化)やGHG排出も含めて、私たち人間による(生産消費)活動によって発生する環境影響がもたらす地球のシステムの変化、例えば、生物種の絶滅、気候変化が許容できないものとならないようにするということです。

地域・地方・地球規模で一定の閾値を超えず、と言うのは、「地球全体」としてはもちろん、地域ごとに考えても、環境影響がプラネタリーバウンダリー内に収まる必要がある、という事ですか?

環境影響は、その影響が地球的なもの、一部地域に影響が限定されるもの(局所的なもの)があります。GHGの排出などは、例えば、日本で排出したGHGも大気に放出され、結果地球全体の気候の変動という地球/世界的な影響を与えます。一方、工場や自動車などによる大気汚染や水質汚染、金属採掘などによる自然環境破壊(土地変化)は、局所的です。大気汚染や水質汚染は、地域レベル(自治体とか、流域や近海レベル)、金属の採掘による影響であれば、鉱山周辺ということになります。

ですので、気候変動のように、地球の気候という大きなシステムが破滅しないようそれぞれの国が努力するということも含まれますし、例えば、ある国の鉱山周辺のバウンダリーも超えないように各レベルで活動するということも考え方の中に入ってくると思います。

問題は、いずれかの国で発生している局所的な環境影響が、別の国の生産消費活動に起因するものである場合もあるということです。我々が普段消費する製品は、各国から集めた資源を組み合わせてできたもので、当然ながら、どこかの国でなんらかの環境影響を発生させたうえで、その製品による便益を我々が享受しているということになります。

最近、フットプリント指標で評価する動きが増えてきていますが、フットプリント指標は貿易に内包される環境影響を鑑みた指標なので、これは、国内で発生する環境影響のみならず、私たちの消費に起因するサプライチェーン上での影響全体が重要視されつつあることの表れと認識しています。

■EU加盟を目指す国々、南と東の最隣国、新興国、そして世界中の主要パートナーにとって、新しい持続可能なモデルはビジネスと雇用の機会を開くと同時に、欧州の経済主体との結びつきを強化

EUの加盟を目指す国々、南と東の隣国、新興国、世界中の主要パートナーにとって、というととても対象が広いですが、様々な国にとって、CEはビジネスを生み出し、そして、EUの経済との結びつきが強化されていい事がある(win-win)、という事ですか?

ここは改めて読むと、確かに分かりにくい表現ですね。ただ、先もお話したように、CEは一つの国や地域のみでは、今のグローバリゼーションの状況を考えると成り立たないということが一つと、EUに関係する国にとって、CEで掲げているような持続可能性に配慮した新しいタイプのビジネスモデルを展開していくことが、新たな産業を生み出す機会となる(だろう)ということを主張したいのだと思います。

加えて、「欧州の経済主体との結びつきを強化」という点については、個人的な見解ですが、EUでCEビジネスモデルを展開するのでEUの企業との取引を強化してほしいということではないかと想像します。何か根拠があって説明しているというよりも、ここは意思を示したような文章ですね。

日本としても、CEの議論が盛り上がるにつれ、これまでの3Rで培った技術などを欧州をはじめ世界市場に売り込みたいと考えますよね。そのような感じではないかと思います。

ただ、脱炭素もそうですが、CEもすすめることによって、新たな機会が生み出されると同時に、衰退する産業・ビジネスもありうります。今後、CEによって生み出される機会をとらえることと並行して、産業・ビジネス構造や人材の移行も念頭に置いてCEに取り組むことも必要ではないかと思います。

<参考>

新興国:
BRICS:ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国
MENA:サウジアラビア、アラブ首長国連邦、クウェート等中東・北アフリカの国々
ネクスト11:ベトナム、韓国、インドネシア、フィリピン、バングラデシュ、パキスタン、イラン、エジプト、トルコ、ナイジェリア、メキシコ

EU加盟国(現加盟国27か国):アイルランド、イタリア、エストニア、オーストリア、オランダ、キプロス、ギリシャ、クロアチア、スウェーデン、スペイン、スロバキア、スロベニア、チェコ、デンマーク、ドイツ(加盟時西ドイツ)、ハンガリー、フィンランド、フランス、ブルガリア、ベルギー、ポーランド、ポルトガル、マルタ、ラトビア、リトアニア、ルーマニア、ルクセンブルク

出典:EU加盟国(外務省ホームページ)

隣国(南と東側):
東側:ベラルーシ、ウクライナ、モルドバ、ジョージア、アルメニア、アゼルバイジャン
南側:モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア、エジプト、パレスチナ、イスラエル、ヨルダン、シリア

出典:EU NEIGHBOURS(The EU Neighbours portal)

欧州の経済主体というのは、EU経済を回している会社や行政機関などですか?

主体はアクター(actor)を訳したものですが、EU経済に係わる様々な組織のことを指すものと思われます。したがって、企業や市民団体など組織、各国政府など様々なものが含まれていると思います。

EU加盟国・隣国・新興国・主要パートナー国と連携してCE行動計画を実現していくと、それは経済にプラスに寄与する可能性がある、という事を述べているのでしょうか?

このセクションのタイトルがLeading efforts at global level(グローバルレベルの取組を主導する)ですので、もう少し大きい議論かと思います。

「EU加盟国・隣国・新興国・主要パートナー国と連携してCE行動計画を実現し」EU経済を強くしていくということは、想定にあると思いますが、さらに国際連携や国際協力を通じて、CE推進のための国際的な議論を主導していきたいという意志が表れた内容だと思っています。

関連して、現在行われている第5回国連環境総会(UNEA5.2)で議論されている「プラスチック汚染に関する国際的な法的拘束力のある制度に関する決議」は、このセクションで提示されているプラスチックに関する国際合意が具現化したものといえます。

また、改めてお話しますが、この決議については、EUが支援したルワンダ/ペルー案と日本案の折衷案が、ドラフトの決議案として提示され、採択に向けた議論がなされています。今後の脱プラ・減プラへの動きにも大きく関係してくる決議になると思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


※ご意見・ご感想・ご質問はこちらのリンク先からお送りください。
ご氏名やメールアドレスを公表する事はありません。

▲このページの先頭へ

ページの先頭に戻ります