そうだったのか!地球温暖化とその対策(13)
~長期低炭素ビジョン:日本の削減目標~
平成29年度3月に環境省の中央環境審議会地球環境部会より長期低炭素ビジョンが発表されました。
環境省ホームページ 長期低炭素ビジョンの取りまとめについて
2015年11月に採択されたパリ協定(そうだったのか温暖化(8)参照)の発効に伴い、世界各国で具体的な温暖化対策への取り組みが進み始めました。日本もパリ協定を批准しており、気候変動リスク対策のため今世紀全体を見据えた長期的な方針の作成が必要となりました。日本がなすべき役割を明らかにし、目指すべき姿を示すことを目的として、この長期低炭素ビジョンが策定されました。
この長期低炭素ビジョンの中でキーワードとなる部分をシリーズで解説しています。
今回は、「日本の削減目標」について説明します。
【1】日本の温室効果ガスの排出の推移
最初に、日本の削減目標の前に日本の温室効果ガスの排出量の推移を確認します。
日本の1990年における温室効果ガス排出量は、12.7億トンでしたが、その後はリーマンショックや東日本大震災の影響もあり、12億トン~14億トンの間で推移しています。
表 日本の温室効果ガス排出の推移(単位百万トン)
【出典】国立環境研究所 温室効果ガスインベントリオフィスより筆者が作成
※2016年は速報値
【2】日本の削減目標
上のグラフでは、1990年、2005年、2013年のグラフの色を変えています。
これらの年は、日本の削減目標の基準年とされている年です。
表 日本の削減目標と基準年
取り決め根拠 | 対象時期 (年度) |
基準年度 | 削減目標 | 備考 |
---|---|---|---|---|
京都議定書(1997年) | 2008~2012 | 1990年度 | 6% | 達成を表明 |
地球温暖化対策計画における中期目標(2013年) | 2013~2020 | 2005年度 | 3.8% | 現在はこの 目標値 |
パリ協定(2015年) | 2016~2050 (発効) |
2013年度 | 26%(2030年) 80%(2050年) |
1990年は京都議定書で定められた基準年であり、「2008~2012年の5年間に1990年度に比べて平均で6%削減する」という目標が定められました。ここで注意が必要なのは、5年目単年で6%削減を達成するのではなく、5年間を平均しても6%以上削減されている必要がありました。
これに関しては、日本は達成しております。
(そうだったのか地球温暖化(6)を参照ください)
その後、京都議定書第一約束期間後である2013年に、日本は地球温暖化対策計画における中期目標として「2005年度比3.8%削減」という目標を定めました。(日本はこの時は京都議定書の第二約束期間を離脱しており、それに代わる目標として設定されました。)
そして2015年のパリ協定後に、「2013年度比で2030年までに26%削減、さらに2050年までに80%削減」という目標があらためて定められました。
表 長期目標に関する経緯
世界全体の目標値 | 日本の目標値 | ||
---|---|---|---|
2007年5月 | 「美しい星へのいざない~Invitation to Cool Earth 50~」 | 50%削減 | |
2007年6月 | G8ハイリゲンダム・サミット | 少なくとも50%削減 | |
2008年6月 | 「『低炭素社会・日本』を目指して」 | 現状から60~80%削減 | |
2008年7月 | 「低炭素社会づくり行動計画」閣議決定 | 現状から60~80%削減 | |
2008年7月 | G8洞爺湖サミット | 50%削減 | |
2009年7月 | G8ラクイラ・サミット | 少なくとも50%削減 先進国全体:80%またはそれ以上削減 |
|
2009年11月 | 気候変動交渉に関する日米共同メッセージ | 50%削減 | 80%削減 |
2012年4月 | 「第4次環境基本計画」閣議決定 | 50%削減 | 50%削減 |
2013年11月 | 「ACE:Action for Cool Earth(美しい星への行動)」(攻めの地球温暖化外交戦略) | 50%削減 先進国全体:80%削減 |
|
2015年6月 | G7エルマウ・サミット | 40%から70%削減 | |
2016年5月 | 「地球温暖化対策計画」閣議決定 | 80%削減 |
このような経緯も踏まえて、日本は2050年に80%削減を目指すこととされました。
【3】一人あたり排出量を均等化した場合の必要削減量
それでは、世界の2050年の総排出量目標を一人当たりの排出量に換算した場合に必要となる量はどの程度なのでしょうか?
表 一人あたりの排出量を均等化した場合の必要削減量
出所 長期低炭素ビジョン 平成29年度3月 環境省中央環境審議会地球環境部会に筆者加筆
丸数字は下の説明文に対応しています。
■世界全体での削減目標
- 2010年の世界の温室効果ガス総排出量は❶447億トンです。
これを一人当たりに換算すると6.4t-CO2/人・年となります。 - 2050年の世界の温室効果ガス総排出量目標は❸134億~268億トンです。これを2050年の世界の推計人口❹97億人で一人当たりに換算すると、❺1.4t~2.8t/人・年になります。
総排出量では❷40〜70%削減ですが、一人当たり温室効果ガスの排出量で換算すると60%~80%削減する必要があります。
■日本の削減目標
世界の削減目標では、2050年に一人当たりの温室効果ガス排出量は❺1.4t~2.8t/人・年です。2050年の日本の推計人口は❻9,700万人ですので、日本全体の温室効果ガス総排出量は、❼1.3億~2.7億トンと算出されます。
この2050年の日本全体の温室効果ガス総排出量❼1.3億~2.7億トンを現在の日本の総排出量(❾14.1億トン)と比較すると、❽81%~91%の削減が必要ということになります。
【4】今後の動向
国の目標や政策を科学的に評価する独立機関である「Climate Action Tracker」は、現在までの各国の取り組みと2030年までの取り組みを勘案しても2100年での気温上昇はパリ協定で合意した2℃以内に抑えられず、3℃以上になると警告しています。
パリ協定では5年毎の目標の見直しが定められていますが、今後、目標値の上方修正が必要とされる可能性もあります。
この記事は
バイオディーゼル岡山株式会社
三戸 が担当しました