そうだったのか!地球温暖化とその対策(7)
~IPCC総会(横浜、ベルリン)報告~
今回は、IPCCの総会(横浜、ベルリン)について報告いたします。
IPCCについては、過去の記事においても説明いたしましたが、2014年3月に横浜において日本で初めてのIPCCの総会が開催されましたので、その報告をいたします。
■IPCCについて
IPCCについては、以前説明いたしましたが、1988年に、国連環境計画(UNEP:the united nations environment programme)と世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)によって設立された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)」です。
本部はジュネーヴ(スイス)にあり、内部には3つの作業部会(WG:Working Group)と1つのタスクフォース(プロジェクトチームのようなもの)が存在します。構成員は各国政府から推薦された研究者が参加しています。
設立目的は、これらの研究者によって得られた研究成果・知見を定期的にまとめ、公表することで、国際的な気候変動政策の決定に利用するためです。
2007年に公表された第四次評価報告書には、130ヵ国を超える国から450名を超える代表執筆者と800名を超える執筆協力者に、2,500名を超える専門家が査読者として参加しています。
組織 | 役割 |
---|---|
第1作業部会 WGI | 気候システムと気候変動に関する科学的局面からの評価 |
第2作業部会 WGII | 気候変動が与える影響やそれに対する脆弱性の評価 |
第3作業部会 WGIII | 気候変動抑制のための知見や緩和策の評価 |
国別温室効果ガスインベントリ・タスクフォース | インベントリ作成(≒各国のデータを統計)の監督 |
このようにIPCC内には3つのWGがあり、WG毎の会合と全体の会合があります。
これらの会合での検討内容は2014年度に完成予定である第5次評価報告書(AR5)の最終決定に焦点が当てられ、以下のスケジュールで実施されました。
- IPCC 作業部会(WGI)の第12回会合 及び IPCC36回総会
2013年9月23日~26日 スウェーデン/ストックホルムにて開催 - IPCC 作業部会(WGII)の第10回会合 及び IPCC38回総会
2014年3月25日~29日 日本/横浜にて開催 - IPCC 作業部会(WGIII)の第12回会 及び IPCC39回総会
2014年4月7日~11日 ドイツ/ベルリンにて開催
■IPCC作業部会(WGI)の第12回会合及びIPCC36回総会の概要
これは2013年の9月に発表されたWGIの報告です。発表後に多くの報道がされ、大きな波紋を呼びましたが、再度確認の意味で掲載したします。
(1)観測事実
気候システムが温暖化していることは疑いのない事実である。
- 1880年~2012年において世界の地上平均気温は0.85[0.65~1.06]℃上昇
- 最近30年の各10年間の世界平均気温は、1850年以降のどの10年より高温
- 1971年~2010年において、海洋上部(海面~700m)の水温は上昇
- 3,000m以深の海洋深層の水温も上昇
- 海洋の温暖化は、気候システムに蓄えられたエネルギーの変化の大部分を占め、1971年~2010年の期間では、その90%以上を占める。
- 氷河は縮小を続け、グリーランド、南極の氷床、北極の海氷は減少し続けている
(2)温暖化の要因
人間の活動が気候システムに影響を与えている。
- 1750年以降(産業革命)の二酸化炭素の大気中濃度の増加は、地球のエネルギー収支の不均衡に大きく寄与
- 太陽放射は、20世紀に渡るエネルギー収支の不均衡に寄与していない
- エーロゾルの排出やエーロゾルと雲による放射性強制力への影響は最も大きな不確実性である
(3)将来予測
ほとんどの陸上において極端な高温が増加することはほぼ確実である。
- 二酸化炭素の累積排出量と世界平均気温地上気温の上昇量は、ほぼ比例している
- 海洋は、人為起源の二酸化炭素の約30%を吸収して酸性化が進行している
- 2016年~2035年の世界の地上平均気温は1986年~2005年比で+0.3~0.7℃である可能性が高い
- 2081年~2100年の世界平均地上気温の変化と世界平均海面水位の上昇におけるRCP(※)のシナリオ別変化は以下の通りであり、気温上昇と海面上昇が予測されています。
表2 気温上昇と海面上昇の予測 変化 シナリオ 2046~2065年 2081~2100年 平均 可能性が高い予測幅 平均 可能性が高い予測幅 世界平均地上気温の変化
(℃)RCP2.6 1 0.4〜1.6 1 0.3〜1.7 RCP4.5 1.4 0.9〜2.0 1.8 1.1〜2.6 RCP6.0 1.3 0.8〜1.8 2.2 1.4〜3.1 RCP8.5 2 1.4〜2.6 3.7 2.6〜4.8 世界平均海面水位の変化
(m)RCP2.6 0.24 0.17〜0.32 0.4 0.26〜0.55 RCP2.6 0.26 0.19〜0.33 0.47 0.32〜0.63 RCP2.6 0.25 0.18〜0.32 0.48 0.33〜0.63 RCP2.6 0.3 0.22〜0.38 0.63 0.45〜0.82 出典:環境省 報道発表資
【RCPとは?】
「Representative Concentration Pathways」の略で、日本語には「代表濃度経路」と訳します。
気候変動の予測には、第3回で示した放射強制力が重要です。これは二酸化炭素の濃度が増えると上昇し、地球温暖化が進みます。この値を各国の政策的な排出削減によって、どの程度にすることができるか?をシュミレーションしたものが表3です。
西暦2300年まで予測することが可能です。
RCPの後ろの数字は2100年において、産業革命前との放射強制力の差を表しています。
RCP8.5 | 高位参照シナリオ 2100年の放射強制力の差は8.5W/m2。それ以降も上昇が続き、2300年には、12W/m2。何も対策をせずに悪化していくシナリオ |
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RCP6.0 | 高位安定化シナリオ 2100年の放射強制力の差は、6.0W/m2。それ以降は、徐々に減少し、2250年には4.5W/m2に低下し、安定化 |
RCP4.5 | 中位安定化シナリオ 2100年の放射強制力の差は4.5W/m2で安定化 |
RCP2.5 | 低位安定化シナリオ 2100年までピークである3.0W/m2迎えるがその後は低下し、2.6W/m2で安定化する。これが達成できれば、現在のIPCCの目標である産業革命以降の温暖化2℃以下が実現できる。(2℃に抑えることを目標に逆算した数値) |
こういったシナリオを作成することで緩和策の効果や結果をシュミレーションすることができるようになりましたが、逆に2℃目標を達成するためには、RCP2.6シナリオよりも速い速度での排出削減と、マイナスの排出量を実現しなければならないという、達成できないことと、一旦上昇した気温を下げることは非常に困難であることという厳しい現実も明らかになりました。
出典:環境省
図1 放射強制力と各シナリオ
また図2は、この強制力と大気中の二酸化炭素濃度の関係が示されています。いずれもの場合も現在より高い値を示し、RPC8.5においては、1,000ppmに迫る値です。
Jones, Robertson, Arore, Friendlingstein, Shevliakova, Bopp, Brovkin, Hajima, Kato, Kawamiya, Lindsay, Reick, Roelamdt.Segschneider, and Tjiputra, 2013:21st Century compatible CO2 emissions and airborne fraction simulated by CMIP5 Earth System models under 4 Representative Concentration Pathways.J.Climate. doi:10,1175/JCLI –D-12-0054.1in press. 2013空1900年以降を抜粋、和約
出典:『日本の気候変動とその影響(2012版)』文部科学省、気象庁、環境省(2013年3月)
図2 二酸化炭素濃度シナリオ
■横浜で行われたIPCC作業部会(WGII)の第10回会合及びIPCC38回総会の概要
WGIで報告されたような温暖化による気温の上昇、海水温の上昇、海水面の上昇、氷床の減少などの地球上の変化が世界の生態系や社会経済にどのような影響をどの程度与えるかを評価するのがWGIIです。現在、温暖化の影響として我々がよく耳にする、太平洋の島々の水没、台風の巨大化、ゲリラ豪雨の増加、猛暑日の増加、ホキョクグマの生活圏の縮小等は、WGIIから発表されたものです。今回の会合においては、報告書のこういった現象そのものの確認だけではなく、最終稿向けて本文の語句やグラフの修正、説明の追加等が重点的に話し合われました。(WGIIIも同じ)
作業部会及び総会の概要
世界で観測されている影響、生態系の脆弱性、動植物が適用できない事による影響など、将来のリスク(影響)の例を以下に挙げます。
- 海面上昇、高潮、沿岸洪水により、低地や小島嶼国への影響
- 沿岸部の浸食、小島嶼国の水没
- 大都市部における洪水
- 氷河減少に伴い、河川流水、土砂流出
- 異常気象による電気、水、医療、緊急サービスなどのインフラ機能に関する影響
- 熱波における健康影響
- 気温上昇や干ばつ、洪水などによる食糧生産への影響
- 干ばつと高温による樹木の枯死も起きている
- 飲料水や灌漑用水の不足
- 漁業等の海洋資源
- サンゴの白化
- 陸域の内水、生態系
- 永久凍土の融解
- 気象変動は著しい生態家の変化や種の絶滅を招いている
温暖化による各地のリスク
各地域で起こるとされるリスクは以下の図表に示されています。
- 水色の部分は、氷河や永久凍土の融解、洪水の発生、海岸の浸食等の物理的作用によるリスク
- 緑色の部分は、陸上、海洋の生態系の変化や、山火事に関するリスク
- 赤色の部分は、健康や生活などのリスク
- 横に付随しているグラフはその確度です。また四角で囲まれているのは、地域全体のリスクを表しています。
世界全体において、多くのリスクが推測されていますが、アジアの高緯度地域(シベリヤや北極圏)や高所(ヒマラヤ)においては、氷河や永久凍土の融解が起こり、平野部においては洪水等のリスクが高く、陸上の生態系の変化が起こるとされています。
日本の付近では、多くの影響が考えられますが、特に海洋資源の生態系への影響が懸念されています。
出典:IPCC WGIIAR5 Summary for Policymarkers
図3 温暖化による世界各地のリスク
■ベルリンで行われたIPCC作業部会(WGIII)の第12回会合及びIPCC39回総会の概要
WGIIIは、温暖化を緩和する対応策やその効果についての検討を行っており、その会合の概要は以下の通りです。
- 世界の温室効果ガスの排出量は、より多くの政策が導入されているにも関わらず、過去最大の水準に達している。
- 2000年からの10年間の増加量も過去最大である。
- 温暖化ガスの排出量の約80%は化石燃料と産業化プロセスであり、排出量は加速している。
- 幅広い技術的な措置と行動変革を行えば、IPCCの目標である産業革命以前比2℃以内は可能
- そのためには二酸化炭素濃度は450ppmに抑える必要がある。
- 今までのやり方を決別した制度的、技術的な大変換が必要
大気中の二酸化炭素を除去や恒久的な地下貯留
森林破壊を抑え、植林の拡大
バイオマス発電と二酸化炭素の回収貯留技術(CCS)の組み合わせなど - 450ppmに抑えるには2050年までに、対2010年比で40~70%の削減が必要
排出量と経済成長、人口増加の相関関係を絶つこと
エネルギー効率の改善のみならず、再生エネルギーや原子力、CCS火力、CCSバイオマスなど二酸化炭素を直接排出しない
エネルギー供給を増やす - 今世紀末には、排出量をほぼ0にすることが必要
WGIIIの報告では、温暖化ガス排出が加速していることに対する警鐘と、目標達成のためには、大きな転換が必要であることを訴えています。
このように各WGは、第5次評価報告書の10月発表に向けて、最終調整に入っています。
この記事は
バイオディーゼル岡山株式会社
三戸 が担当しました