そうだったのか!地球温暖化とその対策(11)
~長期低炭素ビジョン:2℃目標とは~
平成29年度3月に環境省の中央環境審議会地球環境部会より長期低炭素ビジョンが発表されました。
環境省ホームページ 長期低炭素ビジョンの取りまとめについて
2015年11月に採択されたパリ協定(そうだったのか温暖化(8)参照)の発効に伴い、世界各国で具体的な温暖化対策への取り組みが進み始めました。日本もパリ協定を批准しており、気候変動リスク対策のため今世紀全体を見据えた長期的な方針の作成が必要となりました。日本がなすべき役割を明らかにし、目指すべき姿を示すことを目的として、この長期低炭素ビジョンが策定されました。
この低炭素ビジョンの中でキーワードとなる部分を解説していきます。
今回は、「2℃目標」です。
【1】2℃目標
現在の温暖化対策における具体的な数値として、「2℃目標」が最も有名です。
これは、「人類の経済活動から排出される温室効果ガスによって引き起こされる地球全体の平均気温の上昇を、産業革命前(つまり人為的な温暖化が起きる前)と比べて2℃未満に抑えるという目標」のことです。
【参考ホームページ】地球環境戦略研究機関ホームページ
2℃目標:アジアの挑戦
この「2℃」とはなんでしょうか?これはどう決まったのでしょうか?これらについて詳しく見ていきます。
以下のグラフはIPCCの第5次評価報告書(AR5(Fifth Assessment Report)と略されます)に掲載されたグラフです(そうだったのか温暖化(1)参照)。
1960~1991年の平均気温を基準として、その平均気温よりも何℃上下したかを表しています。
このグラフから、以下のことが分かります。
- 産業革命前後の1800年台後半は、基準年より約0.4℃低い
- 現在(2010年以降)は基準年より約0.5℃高い
よって、現在は、産業革命前後と比較して、約1℃、気温が上昇していると認識することができます。実際にIPCCの第5次評価報告書では1880年~2012年の温度上昇は平均で0.85℃[0.65~1.06]℃とされています(そうだったのか温暖化(7)参照)。
続いて、以下の表をご覧ください。
これはIPCC第4次報告書に示された気温上昇に伴うリスクに関する表です。
1980年~1999年の平均気温から1℃の気温上昇が生じることで、生態系においては、「最大30%の種において絶滅リスクが増加」、「サンゴの白化の増加」など、具体的なリスクが生じるとされています。
表 世界の平均気温の変化に伴う影響の事例
(影響は、適応の程度、気温変化の速度、社会経済の経路によって異なる)
【出典】環境省ホームページ IPCC第4次報告書 環境省訳版
(基準年が異なるので注意が必要ですが)これら二つの表より、以下のことが分かります。
- 産業革命以降に1℃に近い気温が上昇している
- さらに1℃の上昇することによって、(主に生態系に)具体的なリスクが顕在化する
IPCC第4次報告書(2007年)が公表された後に行われた、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)締約国会議COP15(2009年:@コペンハーゲン)にて、国際社会が温暖化に取り組むための長期目標として
「長期的な排出削減の指針として、温度上昇を2℃以内に抑えるべく削減行動をとること」が提案されました。
ここに2℃という数字が明言されました。
このCOP15で、「2℃目標」が提案され、それ以降「2℃目標」という言葉が頻繁に使われるようになりました。
2009年のCOP15では、「2℃を目標にすべきだ」という提案レベルでしたが、
2015年のCOP21でパリ協定が採択され、国際社会が果たすべき目標とされました。
そして、パリ協定を批准した国は、2℃目標に向けて対応する義務が生じました。
■コラム:IPCCとUNFCCCの関係について
■IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change
(気候変動に関する政府間パネル)国際的な温暖化問題の高まりに合わせて、UNEP、WMOによって1988年に設立されました。
【位置づけ】
各国政府から推薦された研究者によって得られた研究成果・知見を定期的にまとめ、国際的な気候変動政策の決定に科学的な観点からアドバイスするためのネットワーク。
その科学的知見をまとめたものが評価報告書。■UNFCCC:United Nations Framework Convention on Climate Change(国連気候変動枠組条約:1992年設立)
【位置づけ】
気候変動の脅威に各国が協力して
取り組むための国際条約で、
190か国以上の国とEUが締約している
この締約国会議(COP)において、
国際的な政策が決まります。●COPとは?
条約の規定の下によって行われる締約国会議がCOP(Conference of the Parties)と呼ばれます。
例)・COP3 京都会議では、京都議定書が採択されました。
・COP21 パリ会議では、パリ協定が採択されました。※「COP」は締約国会議のことであり、様々な条約において行われる締約国会議はすべてCOPと呼ばれます。UNFCCの会議だけをCOPというわけではありません。
こうして、「人類の経済活動から排出される温室効果ガスによって引き起こされる地球全体の平均気温の上昇を、産業革命前(つまり人為的な温暖化が起きる前)と比べて2°C未満に抑えるという目標」が生まれました。
次回は「温暖化対策についてのシミュレーション」について説明いたします。
【参考資料】
環境省ホームページ
COP15(於コペンハーゲン)における主な成果と概要
国連気候変動枠組条約(UNFCC)ホームページ
Report of the Conference of the Parties on its fifteenth session,held in Copenhagen from7 to 19 December 2009
外務省ホームページ
パリ協定
この記事は
バイオディーゼル岡山株式会社
三戸 が担当しました