地球温暖化をどう理解するか その9
〜地球環境戦略研究機関(IGES)について〜
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
理事長
浜中 裕徳(はまなか ひろのり)様
【その11】IGESについて
IGESとはどういった組織でしょうか?設立経緯、目的などを教えてください。
公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)は、アジア太平洋地域における持続可能な開発の実現に向けた革新的かつ実践的な政策研究を行う研究機関として、1998年に日本政府のイニシアティブと神奈川県の支援により設立されました。
チェンジ・エージェントとして、戦略研究の実施、およびその成果を政策決定プロセスに反映させることにより、持続可能でレジリエントな社会への移行を促進することを使命とし、現在、気候変動とエネルギー、持続可能な消費と生産(SCP)、自然資源・生態系サービス、グリーン経済、持続可能な開発目標(SDGs)、都市間協力、低炭素技術移転等のテーマに焦点を当てた研究活動を行っています。
神奈川県葉山町に所在する本部のほか、関西研究センター(神戸市)、北九州アーバンセンター(北九州市)、東京事務所、北京事務所、バンコク地域センターの各研究拠点を有し、約100名の研究員(約3分の1は外国籍)を擁しています。また、IGES内に気候変動対策、生物多様性と生態系サービスや環境技術に関する4つの国連機関との協働センターや技術支援ユニットを設置しているほか、持続可能な開発に係わる国内外の機関やネットワークとの協力を強化するなど、多様なステークホルダー(関係者)との連携を積極的に進めています。
IGESでは、最近どういった研究活動を行っていますか?
主に国際的な気候変動対策及び持続可能な開発目標(SDGs)に関する2つの分野横断的な研究活動、また、これらに関するテーマ別の研究活動を実施しています。
2015年12月にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)において、全ての条約締約国が参加する2020年以降の新たな気候変動枠組み「パリ協定」が採択されました。IGESでは、「気候変動総合サイト(IGES Climate)」を開設し、COP21に至る様々な政策形成プロセスや議論に対して、研究成果や提言を一連の討議ペーパーやコメンタリー、及び研究報告書「The Paris Climate Agreement and Beyond: Linking Short-term Climate Actions to Long-term Goals(パリ合意とその先を目指して:気候変動対策における短期行動と長期目標を結びつける)」等を通じてタイムリーに発信しました。
COP21終了後には、一般向けにいち早く速報セミナーを東京と横浜で開催し、COP21での議論のポイントや展望等をタイムリーに報告しました。また、11月7日からモロッコ・マラケシュで開催されるCOP22に向けて政策提言ペーパーを作成するとともにメディア向けの勉強会等も開催しています。
IGESでは、こうしたCOPをはじめとする国際交渉、気候・エネルギー政策、各国の政策動向等、気候変動政策に関する研究活動を幅広く実施しており、各種報告書、研究員によるコメンタリー、公開セミナー等を通じて最新の情報提供を積極的に行っています。
次に、SDGs研究プロジェクト「Aspiration to Action」を展開しています。
2015年9月の国連サミットにおいて「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択され、新たに17の目標と169のターゲットから構成されるSDGsが定められました。
今後、これらの目標達成に向け実施の手段が大きな課題となる中、IGESではSDGsに関する分野横断的な研究プロジェクトを実施しています。広範囲にわたる開発目標にガバナンス(※1)と資金が及ぼす影響を分析した研究報告書「Achieving the Sustainable Development Goals: From Agenda to Action(SDGsの実現のために:課題から実施へ)」のほか、具体的な政策提言を盛り込んだポリシー・ブリーフやSDGsの最新動向を紹介するブリーフィング・ノート等を通じて、政府、自治体、企業、市民団体などの様々なステークホルダーに向けた情報発信を活発に行っています。
※1:個人や集団の意思決定と行動を統治している何らかの仕組みや手順を通じて、社会が権力を配分すること。政府、民間セクター、非政府組織(NGO)、学術機関あらゆるステークホルダーが担い手となる。
アジア地域を対象とした最近の研究活動はありますか?
IGESでは、2年に1度、アジア太平洋地域の重要な政策課題に焦点を当てたIGES白書を発表しています。アセアン共同体の設立や環太平洋経済連携協定(TPP)交渉など、アジア太平洋地域における地域協力・統合の動きが加速する中、それらの動きをどのようにグリーン経済と持続可能な開発に向けた牽引力としていくかについて、木材貿易、大気汚染、使用済み家電製品の貿易、水管理、低炭素技術移転等、地域統合と持続可能な開発が交差する幅広いテーマを取り上げ分析したIGES白書「Greening Integration in Asia: How Regional Integration Can Benefit People and the Environment(グリーンなアジア地域統合を目指して~いかにアジアの地域統合を人々と環境への便益につなげるか~)」を2015年7月に発表しました。
また、アジア太平洋地域の喫緊の課題について、第一線で活躍する専門家や企業、政府、国際機関、NGO関係者が一堂に会して意見交換を行う「持続可能なアジア太平洋に関する国際フォーラム(ISAP)」を年1回開催しています。
8回目の開催となった2016年7月のISAP2016では、歴史的な国際合意であるパリ協定と持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGsを含む)を国際・国家・地方レベルで効果的に実施していくための方策について、ロランス・トゥビアナCOP21特別代表、カーべー・ザーヘディ国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)持続可能な開発担当事務局次長等を交えて議論を深めました。
特に企業を対象に実施している研究活動についても教えてください。
気候変動分野では、持続可能な脱炭素社会への移行をビジネスチャンスとして捉え、率先して積極的な行動を進める先進的な企業のネットワーク「日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)」の事務局をIGESが務め、その活動を支援しています(加盟企業34社。DOWAエコシステム株式会社もメンバー企業)。
Japan-CLPでは、気候変動に関する世界のダイナミックな動きを捉えながら、社会の変化を加速させるための政策提言や意見書をビジネスの視点から積極的に発信しています。また、国際的な専門家や政策立案者、産業界、市民との対話を進めるとともに、グリーン経済への移行に向け加速を目指す国際イニシアティブ(世界銀行グループが主導するカーボン・プライシング・リーダーシップ連合や企業連合体であるWe Mean Business)に参加するなど、国際的な意思決定プロセスに一層リンクした活動を進めています。COP22では、ビジネス関連会合に参加するほか、最大のビジネスフォーラムSustainable Innovation Forum 2016の機関パートナーとなっています。
一方、SDGsに関しても、企業による実施を推進している国連グローバル・コンパクト(UNGC)及びグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)にIGESが加盟し正式なメンバーとなりました。2016年3月には、SDGsの企業行動指針として発表された「SDGコンパス: SDGsの企業行動指針 − SDGsを企業はどう活用するか −」をGCNJと共同翻訳及び発表を行い、現在その活用に向けて、日本企業向けの講演や、その取り組み状況についての国内外の企業動向調査を実施しています。
こうした活動について今後はどのような展開があるのでしょうか?
SDGsの採択を受け、またパリ協定の早期発効により、その実施を加速していくことがますます重要となる中、IGESでもこれまで以上に多様なステークホルダーとの連携、また、協働を通じ、実施上の課題に対するソリューションを明らかにし、実行に移していく「社会実装」のアプローチが必要になってきています。そういった意味で、今後は政府や研究者だけでなく、上記に挙げた企業を対象とした取り組みをはじめ、自治体、市民社会、メディアのあらゆるステークホルダーとの協働を強化していくことにしています。
その一環で、今後さらに展開が期待される活動の例として、「持続可能な消費と生産(SCP)に関する10年枠組み(10YFP)」が挙げられます。
10YFPは、2012年に開催された国連持続可能な開発会議(Rio+20)にて採択された取り組みで、先進国、途上国を問わず、社会の消費・生産パターンを資源効率性の高い、低炭素で持続可能なものに変革することを目指すものです。
日本からは、「持続可能なライフスタイル及び教育」プログラムを環境省がリードしており、IGESもこのプログラムの調整デスクを担っています。これまで、低炭素型・資源効率型のライフスタイルを普及させるためのプロジェクトを世界各国で実施する準備を進めてきました。例えば、ITを活用して都市消費者と農家をつなぎ、持続可能な農業と安全な食品の普及を図るプロジェクトなどが計画されています。
今後は、世界各国で低炭素・持続可能なライフスタイルを実現するために、日本の企業や自治体が有する技術、ノウハウや経験を積極的に活かすことを念頭に、より多くのパートナーとの協力を進めたいと考えています。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、浜中さまのインタビューは終了です。
異常気象による災害や、気温や降雨の記録更新は温暖化の影響があるという事を受け入れ、都合の悪いことに蓋をせず、次世代・次々世代も楽しく・豊かに暮らせる地球を残すためには、何をしなければならないのかについて、考えて行動しなければいけないと痛感しました。日本国としてどうするのか、国際的にバッシングされない程度でお茶を濁すのか、技術開発・市場開発の契機と見るのかが、今後の方針が将来を大きく左右するのかもしれません。