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土壌汚染と不動産価格評価について−その4

財団法人日本不動産研究所
環境プロジェクト室長
平 倫明 様


日本不動産研究所ホームページ
http://www.reinet.or.jp/

「その道の人に聞く」は、「土壌汚染と不動産価格評価について」と題し、日本不動産研究所の平倫明様にお話しをお聞きしています。

前回は、「土壌汚染と不動産鑑定評価(その2)」として、「これまでの不動産市場における土壌汚染の対応と評価の実態」についてお話しいただきました。

今回は、「土壌汚染対策法の改正が不動産市場に与える影響を考える(その1)」として、「掘削除去偏重は抑制されるのか?」についてお話しをいただいています。

土壌汚染対策法の改正の論点の中に掘削除去偏重の抑制がありました。ただ、改正前の土壌汚染対策法でも掘削除去以外の対策方法を認めていたのに、多くのケースで掘削除去されたのは、現実的なニーズが掘削除去にあったのだと思うのですが、不動産鑑定のお立場から、どのように考えておられますか?

土壌汚染対策法の改正法案が通った第171回通常国会の会議録を眺めていたら、これまでの掘削除去偏重について、「不動産鑑定評価が掘削除去偏重を助長した」といった意見が出されていたので、大変びっくりしました・・・。

先ほど(前回記事)お話ししたように、これまでの不動産市場では、土壌汚染対策法の施行、さらに不動産鑑定評価基準の改正よりも前に、土壌汚染への対応は顕在化していましたし、既に「掘削除去」を選好するマーケットであった、という認識を持っています。

また、不動産鑑定評価とは、というそもそものお話しをしましたが(第2回記事)、その中でご紹介した不動産鑑定評価基準の逐条解説でもある「新要説 不動産鑑定評価基準」にも、「不動産鑑定評価で求めるべき正常価格は、現実の社会経済情勢を所与とした上での市場及び市場参加者の合理性を前提とした市場で成立する価格であり、「あるべき価格」ではなく「ある価格」である」とあります。
つまり、市場参加者の行動、価値判断が前提ということですから、そういった選好のもと価値が計られているならば、そのようなアプローチで鑑定評価を行うことになるわけです。

これまで掘削除去のニーズが高いのは、どうしてだと思われますか?

これまで掘削除去のニーズが高いのは、どうしてだと思われますか?

先ほど(前回記事)も触れましたが、そのひとつには、日本の不動産市場では、リスクが小さく、利用用途が広い不動産が望まれるからであり、だからこそ、対策に高い費用をかけても、より短期で確実に汚染を除去する方法が選択されてきたのだろうと思います。

この点は、当コラム「その道の人に聞く」のお二人め、ドイツの実態調査でご一緒させて頂いた竹ケ原さんが、ドイツの土壌汚染対策との比較において、日本では都市計画の中での土地利用の自由度が広いことなどから、「日本では、土地は個人資産として非常に大きなウエイトを占めており、かつ新しい土地所有者(又は、さらに転売した場合の新しい土地所有者)がその土地をどう使うのか解らない状況で売買することになりますから、最もリスクの小さい掘削除去など完全浄化が選択されてしまうのは、ある意味仕方がない事だとも思います」とコメントされていますが、まさに同じ観点です。

(「その道の人に聞く」アーカイブ:【環境格付融資と環境リスクについて―その6】)

なぜ「掘削除去」か、という点については・・・

以前、当環境プロジェクト室の前進のプロジェクトチームでは、「浄化」することを前提に、いくつかのサイトにおいて、短期、中期、長期の浄化手法毎に不動産の価値を査定するシミュレーションを行っていました。その結果は、費用の安い方法の方が価値が高くなるか、というと必ずしもそうではない。
これは浄化期間の違いによるもので、浄化工事中には不動産として収益が得られない未収入期間と浄化費用との関係よって、費用はかかるが短期の方が収益性がよいという結果になる場合がある・・・。

その他、「掘削除去」は平面及び深度方向の汚染範囲を特定した後に、この全量をきれいな土に入れ替えるわけですから、「浄化」したことを説明しやすいといった要因もあると思います。

そもそも不動産開発というのは、建物が竣工して収益を生み出すまでの期間に様々なリスクを背負いますから、なるべくその期間を短くしようとします。当然、一方で低コスト化を図るわけですが、開発スケジュールに影響を与えることはあまり考えません。また、昨今、土壌汚染について売主の瑕疵担保責任を問う裁判例も出てきていますが、売り手としてはこうした「責任」を回避するための確実な方法を選択することを考えます。その結果、これまでの不動産市場では、買い手市場であることもあって、掘削除去という費用はかかるものの短期でかつ確実に汚染を除去する方法を選択した、と認識しています。

この点は、法改正の流れの中で、各浄化会社さんが、新たな原位置浄化手法を開発、といった新聞記事などをよく目にしましたが、今後、掘削除去よりも費用がかからない、より短期でかつ確実に汚染を除去する原位置浄化手法が確立されることが期待されることは言うまでもありませんが・・・。

今回の土壌汚染対策法の改正では、掘削除去偏重の回避として完全浄化以外の対策方法を推進したい、との意図で、形質変更時要届出区域というお墨付きを出すことにしたといわれる場合もあります。

行政から健康被害に対するリスクについて、現状では問題ないとお墨付きが付けば、汚染のない土地と同じように評価されるようになるのでしょうか?

その点については、健康被害を生ずるおそれがなければ減価はないか? という観点で考えてみましょう。

今回の法改正で、これまでの「指定区域」が健康被害を生ずるおそれの有無により「要措置区域」か「形質変更時要届出区域」の2つの区域指定に分かれ、要措置区域においては「指示措置」を実施した後は形質変更時要届出区域となりますね。そして、この形質変更時要届出区域とは、健康被害が生ずるおそれの基準に該当しない、つまり形質変更をしない限りは何らの対策を要しない土地、ということですが、では、法で対策を要しないとされた土地は減価がないのか。

法改正によって、汚染土壌の搬出を伴わない対策、つまり汚染土壌を残した対策が多くなると言われています。
しかし、本当にそのような状況へと向かうかどうか・・・。
例えば、封じ込めで対応する場合は、対策費用は減りますが、土壌汚染は残存することとなる・・・、この場合に封じ込めの対策費用以外は減価はない(特段の費用はかからない)という取引が市場で受け入れられるのか・・・。

法改正の影響を考えるうえで、大きなポイントがここにあると思います。

土地は、建物の建設など、利用されることが前提であり、この建物の建設にあたっては、建設残土として処理が必要となる搬出土壌が発生することが多いわけです。当然、この土壌が汚染されているならば、適正な処理を求められ、その処理費用は通常の残土処理よりも高額となることが現状であり、その分の費用増は開発コストに跳ね返り、転じて不動産価値の減価となってきます。また、既に建物利用されている土地であっても、将来の建て替え時などにおける搬出土壌の有無と費用増の有無を考えることになります。

このように、法で対策を要しないとされた土地であっても、先ほど(前回記事)お話しした「安全性」については一定の評価がされているとみる一方で、土地利用にあたっては「費用性」リスク、すなわち経済的リスクは潜在しているのです。したがって、今後、汚染土壌を残置した土地利用が図られ、さらにブラウンフィールド問題が解消されていくことは期待されますが、そのような状況の中でも、汚染土壌の処理費用と通常の建設残土の処理費用が同等とならない限り、土地利用に伴う経済的リスクは顕在化することになるわけです。

どうでしょう? DOWAさんは汚染土壌浄化施設を持たれていますが、通常の建設残土の処理費用と同等の費用で委託ができれば、不動産市場への影響は変わってくると思いますが・・・(「えっ・・・(苦笑)」)。

ここで、今ご質問の中でも言われていた「お墨付き」について考えてみたいのですが・・・。

そうですね。・・・「行政のお墨付き」と言う表現を我々はしていますが、実際は、どういう意味なんでしょうね・・・。

これまでの不動産市場で、自主調査及び対策に係る報告書を管轄行政に受理してもらい、その時の受領印をもって、「行政のお墨付き」を得た、といったコメントを耳にしてきました。
また、今回の法改正に伴う新聞記事の中に「形質変更時要届出区域は汚染があっても健康リスクが少ないという「行政のお墨付き」区域である」という表現を目にしました。

この「お墨付き」、広辞苑で調べるとその意味は「保証」とあります。とすると、この場合の「お墨付き」とは何を保証しているのか、(行政側はこの「お墨付き」という言葉は使っていないわけですが)市場関係者は土壌汚染に対してどのような保証を求めているのか。

法改正によって、土地の形質変更時の届出により、調査が増加し、区域指定される土地も増えることが予想されています。この区域指定については、今回の法改正で2つに色分けされたわけですが、ある企業の方とお話しをしている中で、その方はこんなことをおっしゃっていました。

旧法と比較してみると、指定区域に指定され、措置命令が発出されるものが「要措置区域」、措置命令を発出する基準に該当しない場合が「形質変更時要届出区域」となる。つまり、区域指定の名称によりこれが明確となったが、その指定のあり方、措置の必要性に係る基準には特段の変化はない・・・。

そのとおりなんですね。名称を分けたけれども、確かにその基準等に大きな変化はないですよね。

そうすると、これまで区域の指定が解除されるレベルの掘削除去が多く選択されてきたことを考えると、区域指定はできれば避けたいという意識は変わらないのではないか・・・。
取引する土地について、汚染を残した場合、将来の土地利用においても「安全な土地だ」という行政のお墨付きが得られ、それが市場関係者のリスクをヘッジする機能となるならばよい。そうでないならば、また、区域指定により様々な規制がこれまで以上にかかるのならば、区域指定を回避(又は解除)するためにも、掘削除去という費用はかかるものの短期でかつ確実に汚染を除去する方法は改正後も抑制されないのではないだろうか・・・。

その企業の方も、これまでの土壌汚染への対応の方向性と変わりはない、とおっしゃっていました。他の企業の方とのお話しでも多くの方が、当面は対応の方向性を変えるつもりはない、とおっしゃいます。

売買時には形質変更時要届出区域だったけれど、何らかの状況が変わって、例えば、周辺で飲用井戸が新設されたり、地下水の汚染レベルが上昇してきたりした場合に、追加で措置が必要になったり、要措置区域に変更になる可能性も考えられるのでしょうか?

今のところ区域指定の名称が変わることはないようですが、まさにおっしゃられる「状況の変化」が確認された場合、特に区域指定後の形質変更時にどのような対応が求められるかは大変気になるところですよね。

状況の変化によって、負担を強いられることは誰でも回避したいわけで、こうしたリスクをヘッジするためには、その原因となるものを始めから無くしておく、ということは当然のことのように思います。

求めている「お墨付き」とは、究極的にはこうしたリスクは無いんだという「保証」であり、リスクはあっても、認識できて、定量化が可能であり、それがブレない「保証」なんだと思います。

不動産は、安い売買ではないですし、会社の資産、つまり経営にも関わるものですよね。しかも、資産除去債務のように将来の債務を予め計上する流れもありますし、一層、将来リスクが無い土地が求められるような気がします。

資産除去債務について、土壌汚染はそもそも法で除去が義務とはなっていませんから、限定的な対応になると思いますが、今、企業が強いられている様々な流れからすると、当然、将来リスクの無い不動産が求められていくでしょう。一方で、既に保有している不動産については、土壌汚染リスクをはじめとして、潜在するリスクを顕在化させることが必須となってくると思います。

そのような中で、法改正後の不動産市場において、掘削除去は抑制されていくのか・・・。

先ほどご紹介した竹ケ原さんも、同じ回のインタビューで「浄化・対策の内容が「売り手」と「買い手」の相対の中で決まってしまうという構造が大きく変わらない限り、法律が変わったから急に原位置浄化や拡散防止措置が増える、と言うのは考えにくいようには思います」とコメントされていますね・・・。

「売り手」及び「買い手」の双方が将来のリスクを認識かつ定量化する拠り所として、土壌汚染を適正に管理していくための、状況の変化にも対応できる、行政側からの「指針」といったものが示されることを期待します。

その他の改正点についてはどのようにお考えか、教えてください。

いくつか旧法と比べてコスト増に繋がる点などがあると思います。そのポイントを整理しながらお話しを進めましょう。(次回(最終回)へつづく)

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回(最終回)は、3月号にて「土壌汚染対策法の改正が不動産市場に与える影響を考える(その2)」として、「これまでの不動産市場からみた法改正のポイント」についてお話しいただいた内容をお届けします。

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