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その道の人に聞く記事一覧 ▶︎

土壌汚染と不動産価格評価について−その2

財団法人日本不動産研究所
環境プロジェクト室長
平 倫明 様


日本不動産研究所ホームページ
http://www.reinet.or.jp/

「その道の人に聞く」は、前回より、「土壌汚染と不動産価格評価について」と題し、日本不動産研究所の平倫明様にお話しをお聞きしています。
前回は、「日本不動産研究所」の概要を中心に「環境プロジェクト室」の業務内容などをお話しいただきました。

今回は、「土壌汚染と不動産価格評価について−その2」として、「不動産鑑定評価とは?」「土壌汚染がある場合どのように鑑定評価を行うのか?」についてお話しをいただいています。

不動産鑑定評価において、土壌汚染はどのように評価されるのか教えていただきたいのですが、そのまえに、そもそも、不動産の鑑定評価について教えていただけませんか? 例えば、私が土地を買う時には、不動産鑑定評価書がついてくるものなのですか?

ん~、いきなり具体的なお話ですね、土地を買われるんですか?うちで評価をしましょうか!?(笑)
答えは、ついてこない・・・、つまり、そのような場合、不動産鑑定評価は「必須」ではない、ということです。

例えば宅地分譲地を購入するような場合は、販売業者が決める販売価格をベースに取引を行う訳ですが、この販売価格決定にあたって、不動産鑑定評価が必須ということではありません。
当然、こうした開発の素地を仕入れる(買収する)際や、宅地造成後の販売価格を決める際などにご相談を頂き、不動産鑑定評価を行って「適正な価格」をご提示する場面は多くありますが、こういった場合も、これを参考として、あくまで販売する側が経費と利益率との関係など、販売戦略によって価格を決めて販売する訳です。

今のお話しのような「売買」で、「不動産鑑定評価書」をつけることが「必須」となれば、うちのような会社にとっては大変喜ばしいことですが・・・(笑)。
そういうことにはなっていませんので、エンドユーザーとして購入される一般の方には「不動産鑑定評価書」はあまり馴染みがないものかもしれませんね。

では、どのような時に不動産鑑定評価が必要となるのですか?

先ほどのお話のような「売買」に際しては、極めて簡単に言えば、売り値又は買い値を決める、あるいは当事者間で売買価格を決定するにあたって、第三者の見解又は価格の証明がほしいときにご依頼を頂いている、ということになりますかね。

売却であれば、なるべく高く売りたい、買収であれば、なるべく安く買いたい、となる訳ですが、そうすると、そもそもの「適正な価格」はいくらなのかが必要となって、これを第三者の不動産鑑定評価により把握しようといった場合や、当事者間双方の言い値に開きがあり、第三者のジャッジメントで決定しようとする場合などに「第三者の見解」として不動産鑑定評価のニーズがあります。また、親子間など関係会社間の売買に際しては、高くもなく安くもない「適正な価格」で売買していますよ、という「価格の証明」として不動産鑑定評価を行う場合などがあります。

そのほか、みなさんご存じの地価公示や地価調査は不動産鑑定評価を基礎とするもので、固定資産税又は相続税評価を含めた公的土地評価と言われているものは不動産鑑定評価制度と密接な関係をもっています。
また、不動産の証券化にあたっては、デューデリジェンスの手続きの一環として不動産鑑定評価が行われるのが通常ですし、新たな企業会計基準の適用にあたって、適正な時価を認識するための対応など、「適正な価格」を求めるための不動産鑑定評価の必要性は多様化し、さらにその重要性は一層増してきています。その一方で、当然のことながら、こうした経済社会状況の変化に伴うニーズに的確に応えるべく、不動産鑑定評価の高度化・精緻化を進めてきている、というのが現状です。

不動産の鑑定評価は、具体的にはどうやって行うのですか?

不動産の鑑定評価を行うにあたっては、常に準拠すべき規範として「不動産鑑定評価基準」があります。

この基準は、不動産鑑定評価全般にわたる実務指針である「総論」と、評価手法などの具体的な指針である「各論」で構成されていて、さらに全般にわたる評価のガイドラインとして「不動産鑑定評価基準運用上の留意事項」が示されています。
具体的にどのように鑑定評価を行うのか・・・。
不動産の鑑定評価の方式には、原価方式、比較方式、そして収益方式の3方式があります。これは、一般に、人が物の価値を判定する場合には、
 a.それにどれほどの費用が投じられたものであるか
 b.それがどれほどの値段で市場で取引されているものであるか
 c.それを利用することによってどれだけの収益(便益)が得られるものであるか
という3つの点を考慮している、という「価格の3面性」に立脚したもので、不動産の場合も同様に、この費用性、市場性、収益性の3面性が鑑定評価の方式の考え方の基本となっています。

aの考え方に基づいて、不動産の再調達に要する費用に着目して求めようとするものが「原価方式」、bの考え方に基づいて、不動産の取引事例に着目して求めようとするものが「比較方式」、cの考え方に基づいて、不動産から生み出される収益に着目して求めようとするのが「収益方式」で、これら3つの別の側面からアプローチをして評価額を決定する、というのが鑑定評価の基本となる軸になります。
どのような不動産の何を評価するのか、価格か賃料か、土地のみか、土地及び建物か、さらに貸家なのか、自用なのか、区分所有建物なのかなどによって、その評価手法の細かいところはまったく同一、ということではありません。3方式のすべてを適用することが困難な場合などもある訳ですが、根底にある、3つの別の側面からアプローチをする、という軸は変わりません。

なるほど・・・

また、3つの別の側面からアプローチをして評価額を決定する、という課程で大事なことは、各方式から試算した結果は、不動産取引の市況に応じて、その説得力に軽重があるということです。

いわゆるバブル経済の崩壊によって、不動産をめぐる状況が大きく変化して、不動産の取引における価値観は、資産性の重視から収益性・利便性を重視した実需中心へと移行してきました。つまり、それは比較方式による市場性という観点から、収益方式による収益性という観点へと価値判断が移行してきたということです。
したがって、評価額を決定するにあたっては、このような変化を的確に捉えていかなければいけません。そのためには、当然、その時、その時の不動産取引の市況をどのように分析するのか、評価する側の情報収集能力や情報分析能力が問われることになります。

「不動産鑑定評価は具体的にはどうやって行うのですか?」ということで、基本的なところをお話しさせて頂きました。より細かい鑑定評価のしかたについては、是非、不動産鑑定評価基準を眺めて頂ければと思います。国土交通省のホームページでも見られますので。

(国土交通省ホームページ:http://tochi.mlit.go.jp/kantei/kantei.html

まず、眠れない夜にでも読んでいただければ、もしかすると、あっという間に寝られるかもしれません・・・(笑)。
その時は、「新要説 不動産鑑定評価基準」という本を紹介します。法律の逐条解説のようなのもので、基準の解説書ですので、もう少し興味深く読んで頂けると思います。

土地の鑑定評価において、土壌汚染があった場合、どのように評価されるのですか?

土壌汚染が不動産の価値に与える影響には二つの要素があります。
その一つは、「対策費用」、すなわち汚染土壌の処理に係る費用。もう一つは、「スティグマ」と呼ばれるもので、不動産鑑定評価基準では「心理的嫌悪感等」という言い方をしています。


土壌汚染地の価値概念

極々簡単に言えば、土壌汚染がない場合の土地の価値から、この二つを差し引いたものが土壌汚染地の価値となります(上図)。
「対策費用」とは、まさに汚染土壌の処理に係る経済的なリスクであり、「費用性」の観点で定量化され、「スティグマ」とは、健康リスクを生じるおそれなどの不安感等により市場性が減退するリスクであり、「安全性」の観点から測られるもの、という理解をして頂ければと思います。

「スティグマ」とは、どういうことですか?

不動産鑑定評価基準では、運用上の留意事項に「汚染の除去等の措置が行われた後でも、心理的嫌悪感等による価格形成への影響を考慮しなければならない場合があることに留意する」と書かれています。

「スティグマ(Stigma)」という言い方は、米国における土壌汚染地評価で言われているそのままの表現で、今まで不動産には使われていなかった言葉ですから、土壌汚染地特有の要因と思われている方もいるかもしれませんね。
定義をすれば「土壌汚染が存在する又は存在したことに起因する心理的な嫌悪感等から生ずる減価要因」ということになりますが、忌み地や事件・事故のあった不動産のように物理的な利用上の阻害はないのに、心理的な不安感等から忌避され、市場性が劣る場合などと同様の概念です。
したがって、不動産鑑定評価基準に書かれている「心理的嫌悪感等による価格形成への影響」とは、新たな特別な要因ということでなく、忌み地や事件・事故のあった不動産と同様の心理的な側面による影響である、とご理解頂ければと思います。

どうでしょう? 例えば、冒頭のお話しのように買おうとした土地で、過去に殺人事件があったと知ったら・・・

そうですね、人によるかもしれませんが、私は、できれば避けたいですね。

そうやって「買おう」又は「借りよう」とする需要者の数が減れば、価格や賃料は下げざるを得ない、これがまさに市場性が減退するということです。

この要因について、もう一点お伝えしたいことは、「風評被害」とは区別して考えなくてはいけない、ということですね。
よく勘違いをされるのですが、今お話ししたことは「事実」に基づく需要者の心理的な影響であって、「風評被害」つまり事実か事実でないかわからない「うわさ」による影響とは違います。ダイオキシンによる「カイワレ問題」であったり、狂牛病による「牛肉問題」などがそうですが、汚染されているかいないかにかかわらず、カイワレも牛肉も売れなくなってしまった。
不動産も同様で「風評被害」による影響は受けます。例えば、少し前になりますが、放射能汚染の危険性から臨界地区に指定された区域内の土地で、安全性が確認され指定が解除された後も、あそこは汚染されているかのような「うわさ」が消えず、まったく土地が売れない状況が続きました。実はこうなると評価のしようがない、というのが正直なところです。
このコラム「その道の人に聞く」のお一人め、駒井先生がデータの公開に際しては「風評被害」に繋がらないよう、どう公開していくかが問題といったことを話されていますが、まさにそのとおりだと思います。

(「その道の人に聞く」アーカイブ:【地質学の立場から見た土壌と土壌汚染―その2】
http://www.dowa-ecoj.jp/sonomichi/chishitsugaku/02.html

土壌汚染におけるスティグマ(心理的嫌悪感等による減価)とは、あくまで土壌汚染がある、又はあったものを浄化して汚染を除去した、という事実に基づく心理的な影響を前提としたもので、不動産鑑定評価基準では、こうした減価が生じる可能性に留意せよ、と言っているのです。

では、土壌汚染が不動産の価値に影響を与える、この2つの要素について、これまでの不動産市場における土壌汚染の対応と評価の実態を解説しながら、お話しを進めていきましょう。(次回へつづく)

ここまでお読みいただきありがとうございます。 次回は、「土壌汚染と不動産鑑定評価(その2)」として、「これまでの不動産市場における土壌汚染の対応と評価の実態」についてお話しいただいた内容をお届けします。

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