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地質学の立場から見た土壌と土壌汚染―その2

独立行政法人 産業総合研究所
地圏資源環境研究部門 副研究部門長
東北大学大学院環境科学研究科 連携講座教授
工学博士 駒井 武 様

工学博士 駒井 武先生にお話しをお聞きしました。
【産総研】独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門TOPページへ

駒井先生は、地質の専門であり、その中でも地下水、土壌の汚染リスクの研究に携わっていらっしゃる、地質と土壌研究のプロフェッショナルです。
現在、日本全国の土壌のデータベースの製作をされています。また、「GERAS」というリスク評価システムの開発をすすめておられます。
今回は、その2 として、
・「表層土壌の基本図」メイキング物語と活用事例
・ 「土壌汚染」と「リスク管理」の考え方
についてお話しをお聞きしています。

前回、全国の「表層土壌の基本図」を製作されているとのことでしたが、それはどのようなものですか。

調査からデータ化のプロセスを説明しますと、土壌図というのが国土交通省から出ていますが、それを元に現地に出向きサンプリング調査をしていきます。土壌の粒径、色、有機物量、それから主に重金属(鉛、ヒ素、カドミウム、水銀、セレンなど)の含有量、溶出量、X線分析による全含有量を分析して載せています。宮城県だけで500点ほど調査し、2年位かかりましたね。現代版の伊能忠敬みたいです(笑)。

宮城県地図画像

その後、鳥取県のサンプリングは終了しました。鳥取県は面積も小さいですが土質が比較的単純なので、こちらは3ヶ月ほどで済みました。そういう意味で言うと香川県などは非常に土質が単純なのでサンプリングも1週間で終わってしまうのではないかと考えています(笑)。
大変なのは北海道ですね、北海道は道立地質研究所と連携して採取の多くはお願いして、私たちは、土壌の分析と分析結果のマッピングを進めています。これまで5分の1ほど進んでいます。北海道は広いこともありますが、山奥まで入っていくのに、雪があるので冬は入れないとか熊が出るとかで、なかなか進まないのです(笑)。
もう一つ大変と思っているのは沖縄です。県内に米軍の土地がたくさんあって立ち入りができないので、米軍に協力してもらわないと無理ですね。
また、東京は違う意味で一番難しいかも知れません、東京はほとんど表層の土地が改変されてしまっていて、表層土壌のイメージがないのです。その場合、ボーリングをして表層よりも深い土壌を採取しないといけないのですが、東京は江戸時代から開発が進んでいるので、どのレベルをその土地のバックグラウンドとするか等、東京都の方とも相談している状況です。

私たちの研究室のメンバーは10名ほどしかいませんから、各自治体の地質・水質研究所と連携して進めさせてもらっていますが、あと10年後くらいには完成すると思います。
それからできあがったデータですが、このようなデータが風評被害にもつながってしまうといけませんので、どう公開していくかが問題ではあります。自治体の了解の元に公開していくというカタチになりますね。

このデータはどういったシーンで使われるのでしょうか?

今のところ、国土交通省関係の公共事業では利用されています。例えば、大規模な道路やトンネルを通すのに溶出値の高い土地は避ける、というような検討に用いられています。
実際、「表層土壌基本図」では自然由来の土壌が溶出基準を上回る濃度の土地は面積比で5~10%くらいあります。大規模な公共事業の場合は搬出による拡散リスクを避けたいですから、こうした検討が役に立ちます。

このようなデータは環境省や国土交通省関連の事業とは連携しやすいですね。

環境省も長い歴史の中で地域環境のマップや水、大気、土壌を管理していますので密接な関係にありますね。環境省では今、私たちの製作している表層土壌の基本図とは別に、全国の土壌のモニタリングを行っていますので、このデータと重ね合わせて利用することも考えられます。
地質に関係するデータとしては今回製作している表層土壌のデータと私たちの作ったデータとして地下水のデータというのもあります。さらに土質、農水省が出している植生のデータなどを階層化して重ねて検討することで最終的には有意義な土地利用の計画ができると思いますね。

<図-地圏環境のマップ>

様々なデータがあるのですね、これらうまく使って、土地利用を計画するということですね。

そうですね、日本の場合、この様なデータを利用した土地の利用がうまく進められていないと思います。例えば掘削量の多い工事を計画する際に「あそこはヒ素が高い」とわかっていれば、掘削を避けるなど拡散を防止する手だてがりますが、それを知らずに開発をするとその土壌が拡散したり、必要以上の対策費がかかることになってしまいます。

一方で、表層土壌のデータを含め様々な情報が公開されると一番ナーバスになるのは農業ですね。「あそこの土壌はカドミウムが高い」とか言うことが拡がるとかなりな影響が出てしまいますので、先ほどの申し上げた風評被害につながってしまいます。

そこから出てくるのがリスク管理という考え方ですね。重金属成分が存在すること溶出する事と、人への影響は1対1の関係ではないのですね。ある場所が汚染されていてもさわらなければいい、そこから溶け出す水は飲まなければいい、そこの植物を食べなければいい、ということでリスク管理していけばいいわけです。ここが水質汚染、大気汚染とおおきく違うところです。

他の汚染と違って、土壌汚染はリスク管理をすることができるということですね。

土壌の場合は「曝露」という言い方をするのですが、2000年頃に環境省でリスク評価の検討会が行われ、その場で初めて「曝露」という概念が出てきて、地下水からの曝露、土壌からの曝露量を評価しましょうということになりました。つまり、汚染があっても被覆する、舗装する、立ち入りしないということで曝露量を下げられるというリスク管理が、土壌対策法の基本的な考え方となったのです。基本的に土地は動きませんから動かさなければ被害も出ない、そこからの地下水を飲まない、そこの農作物やその場所で育った植物や畜産品を食べないならば、全く問題がないわけです。

ここまでお読み頂きありがとうございます。
この続きは次号のジャーナルで公開致します。

次回の主な内容は
・「土壌」に関わる環境的側面と経済的側面
・「土壌汚染」と「リスク管理」の考え方
を予定しています。

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