異常気象について考えませんか その2
~猛暑の発生~
今回は2019年5月に発表された、「平成30年7月の記録的な猛暑に対する地球温暖化の影響と猛暑の発生回数の将来見通し」を紹介します。
出所:プレスリリース:平成30年7月の記録的な猛暑に対する地球温暖化の影響と猛暑の発生回数の将来見通し(気象研究所、東京大学海洋研究所、国立環境研究所、気象業務支援センター)
■はじめに ~平成30年7月の猛暑とは~
「1年は、ホントあっという間だわ~」とか、「もう、年賀状を作らないといけない季節になっちゃったね」などと1年は短い、短いとぼやいている割に、1年前に何があったのかはすぐに忘れてしまう私です。今回ご紹介する研究発表のタイトルに「平成30年7月の猛暑」とありますが、どんな7月だったのか、まず最初に振り返りたいと思います。
平成30年(2018年)7月、日本列島は記録的な猛暑に見舞われ、熱中症による死亡者数は1000人を超えました。これは、猛暑であった2010年8月の熱中症による死者765人を上回り、熱中症による月別の死亡者数は過去最多でした。
6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 6~9月合計 | 年間 | |
---|---|---|---|---|---|---|
2007年 | 14 | 52 | 718 | 72 | 856 | 904 |
2008年 | 7 | 300 | 206 | 24 | 537 | 569 |
2009年 | 32 | 81 | 89 | 17 | 219 | 236 |
2010年 | 20 | 657 | 765 | 242 | 1,684 | 1,731 |
2011年 | 147 | 320 | 380 | 63 | 910 | 948 |
2012年 | 11 | 295 | 336 | 50 | 692 | 727 |
2013年 | 44 | 382 | 564 | 46 | 1,036 | 1,077 |
2014年 | 41 | 216 | 199 | 33 | 489 | 529 |
2015年 | 16 | 329 | 557 | 28 | 930 | 968 |
2016年 | 19 | 201 | 314 | 52 | 586 | 621 |
2017年 | 17 | 317 | 212 | 37 | 583 | 635 |
2018年 | 35 | 1,032 | 402 | 49 | 1,518 | … |
注:2007年~2017年は確定数、平成30年は概数
出所:人口動態統計月報(概数)(平成30年9月分)(厚生労働省)
(人口動態統計月報より、筆者作成)
さらに平成30年は、全国のアメダス地点における猛暑日(日最高気温が35度以上の日)の年間の延べ地点数が6,000地点を超え、過去最多を記録しました。
出所:大雨や猛暑日など(極端現象)のこれまでの変化(気象庁ホームページ)
このような猛暑の事例は、地球温暖化の進行に伴って今後も増え続けると予想されます。
■この研究発表の背景
上で紹介した過去の統計データを見てもわかりますが、気象には揺らぎがあります。
長期変化傾向(日最高気温35度以上の年間日数を示すグラフの)赤線では上昇傾向にありますが、異常気象は大気の「揺らぎ」が偶然重なった結果として発生するので、1つ1つの事例について温暖化の影響のみを分離することは難しく、異常気象について、温暖化による影響を分離して科学的に証明することは困難でした。
■この研究でわかったこと
- 1850年以降の人為起源による温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化を考慮しなければ、平成30年のような猛暑は起こりえなかった。
- 1850年以降の世界の気温上昇が2度に抑えられたとしても(パリ協定の2度目標が達成できたとしても)、国内での猛暑日の発生回数は現在の1.8倍となると推定される。
■どうやって調べたの?
「イベント・アトリビューション」という手法が用いられました。
「イベント・アトリビューション」とは、スーパーコンピューターの中で、
・温暖化のない地球と、
・温暖化が進行している今の地球
を再現して、猛暑や台風といったことが起こる確率を計算して比較する方法です。
異常気象はそもそも観測記録が少なく、また大気の「揺らぎ」が偶然重なった結果発生するので、1つ1つの事例について温暖化の影響のみを分離して評価することは難しいため、1つ1つの異常気象について、温暖化の影響がどれくらいあるのかを科学的に証明することは困難でした。
しかし、近年の計算機能力の発展により、発生する可能性のある偶然の揺らぎを、大量の気候シミュレーションによって網羅することで、温暖化のない地球と、温暖化が進行している今の地球の状況を比べることが可能になりました。
そうして比較した結果、地球温暖化を考慮しなければ、2018年のような猛暑は起こりえなかったこと、また、パリ協定の2度目標が達成できたとしても、国内での猛暑日の発生回数は現在の1.8倍となると推定されました。
■さいごに
気候は毎年違います。
「地球温暖化」や「気候変動」というと、遠い先の話のように感じてしまいますが、「今」私たちが暮らしている地球は既に「温暖化」によって温まっていて、温まることにより「異常気象が増えている」ことが研究によって示された、という事になります。
なお、この研究では「地球の温暖化が2度以内の場合(パリ協定の2度目標)」という前提でシミュレーションされていますが、この「2度目標」を達成するためには、日本は2050年までに温室効果ガスの総排出量を、今と比べて81~91%削減する必要があります。
出所:そうだったのか!地球温暖化とその対策(10) ~長期低炭素ビジョンの概要~
近年の夏の暑さは、「暑い日が増えて大変」というレベルを超えて、熱中症で1000人前後の方々が毎年亡くなっているという現状も、改めてデータで見て驚きました。パリ協定の2度目標は、達成したらクリア!という訳ではなく、2度目標を達成したとしても今の地球よりは、温暖化が進んでいますので、猛暑の発生確率が1.8倍になってしまう、という事でもあります。
最近、パリ協定の2度目標では不十分で、1.5度目標を目指さないといけない、という議論がなされているのは、2度目標を達成したとしても、気温が2度上昇したことによる影響が甚大だからです。
【関連記事】
そうだったのか!地球温暖化とその対策(10)~長期低炭素ビジョンの概要~
そうだったのか!地球温暖化とその対策(13)~長期低炭素ビジョン:日本の削減目標~
この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室
上田 が担当しました