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廃棄物処理と資源循環の現状と今後 その4

独立行政法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター
国際資源循環研究室
寺園 淳 博士

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DOWAでは国内はもとより中国、シンガポール、タイ、インドネシアにおいても、廃家電リサイクル、金属リサイクル、廃棄物処理事業を展開し、適正な処理、リサイクルを推進しています。
今回のインタビューは、廃棄物処理と資源循環の現状と今後について、独立行政法人 国立環境研究所で国際資源循環について研究をされている寺園淳博士にお聞きしています。

製品の資源性・有害性物質の適正な管理をめざす
不用品回収と金属スクラップ(雑品)輸出に関する3つの問題


今回は、国際資源循環について金属スクラップ問題を中心にお話いただいています。

【その4】 国際資源循環について ~金属スクラップを中心に~

E-WASTEとともに金属スクラップの海外輸出も問題になっていますが。

金属スクラップの問題については、非常に悩ましい問題を抱えています。
国内では、家電リサイクル法、資源有効利用促進法(パソコン、携帯電話の自主回収)の施行に加えて、昨年には小型家電リサイクル法が成立しました。E-WASTE問題は海外の問題のように思われているかもしれません。しかし、国内で発生した多くのE-WASTEが金属スクラップとして中国に渡っていって処理されているという実情が隠れています。

金属スクラップは中国側バイヤーが買って輸出されるので、もちろん廃棄物輸出というように簡単に言うことはできません。中国が輸入禁止している中古品でもないのですが、有害物質や事故の観点からは問題も多いです。

最近の動きで、金属スクラップを積んだ船舶や、集積場の火災が連続して起こったのですが、「金属」のスクラップが何故火災になるのでしょうか?

金属スクラップの積載船舶や港湾内陸上施設での火災は年に数回(2005年~2009年の間に船上で19件、施設で8件)発生しています。

2012年9月にも兵庫県の尼崎と大阪府の泉南沖で発生しました。尼崎では阪神高速道路が一時通行停止になる事態が発生しました。高速道路が通行止めになった件は、金属スクラップ火災で経済的被害が出た初のケースかもしれません。また、泉南沖のケースも、火災が起きてからエンジン故障によりバラスト水を抜くこともできず、船が傾いたままになったまま長期間繫留され、港湾に影響を与えました。

金属スクラップ火災は、実はやっかいな問題と認識しています。これまでの金属スクラップ火災では、死亡事例はありませんし、けが人が出たこともほとんどありません。もし火災が発生した場合、通報すれば消防や海上保安庁が消火するわけですが、スクラップは多少燃えたり、焦げていても中国側バイヤーはほぼ同価格で買ってくれるらしいので、経済的な損失もほとんど発生しないまま輸出できてしまい、結果、輸出業者などは何も困らないのです。
おまけに、消火活動は税金で賄われていますし、消火隊員たちは国民の財産と生命を守るために命がけで消火活動を行います。彼らの空しさも測りしれませんね。

確かに難しい問題ですね、少々腹が立ちます・・・。
火災の原因はどのようなことでしょうか。

発火原因については、たいていの場合は解明できないまま終わり、という状況が多いですね。大規模火災の場合は燃えたスクラップが多すぎて発火源が特定できず、小規模の場合は十分な報告や調査がなされないことが多いです。

火災のメカニズムについては、発火と延焼の二段階に分けて考える必要があります。
発火要因はいろいろ考えられますが、特定されたことがある数少ない要因の一つとしては、鉛バッテリーが混入されているケースがあります。鉛バッテリーは正極と負極の間が金属でつながればショートしますし、破損して希硫酸が漏れたら発熱もして、いずれも発火原因となります。

鉛バッテリーはほとんどが車載用あるいは業務用なので、有価での回収経路ができているのですが、最近はUPS(Uninterruptible Power Supply;無停電電源装置)などが混入しているケースがありました。
東日本大震災以降は停電対策のためにも、UPSが家庭やオフィスでも導入されるようになりました。今後は適切な引渡し先がわからずに金属スクラップに混入するものが増えてくることを心配しています。

また、UPSに限らず、リチウム電池やリチウムイオン電池なども、実験では発火要因となることがわかっています。このほか、作業中の金属どうしの衝撃発火なども要因としては考えられます。
延焼については、金属スクラップ内には燃料油が残ったまま回収されたファンヒーターやストーブなどからの油や、プラスチックなどの有機物が多数あります。一度発火すれば、延焼して火災につながります。

金属スクラップは基本的に金属とは理解できますが、いろいろなものが雑多に入っているということですね。

金属スクラップは、スクラップ業者の間では「雑品」「ミックスメタル」などと呼ばれ、鉄をメインとしつつも銅やアルミなどの非鉄金属を含む「未解体」のスクラップのことです。これらは中国へ多量に輸出され、基本的には手選別で資源として回収・リサイクルされています。

しかし、バーゼル法違反の疑いもある有害物質管理、火災のような災害防止、そして金属資源の流出など資源回収、という3つの観点から、この雑多な構成の金属スクラップの問題を指摘することができます。

また、回収業者によって引き取られたエアコンから、取り外し時から輸出後に中国で利用されるまでのどこかの段階でフロンが放出されることもあり、有害物質以外にも環境保全上の懸念は多くあります。

環境省の循環型社会形成推進科学研究費補助金で実施された「有害物質管理・災害防止・資源回収の観点からの金属スクラップの発生・輸出状況の把握と適正管理方策」(H20~22年度)についてお話いただけますか?

「有害物質管理・災害防止・資源回収の観点からの金属スクラップの発生・輸出状況の把握と適正管理方策」は、船舶や港湾での金属スクラップ火災増加を懸念した海上保安庁からの要請がきっかけで始まった、国環研と海上保安試験研究センター、消防研究センター、産総研などの共同研究でした。省庁としてはかなり横断的な共同研究プロジェクトで、金属スクラップの複雑な問題に対して、3つの観点には多省庁で総合的に取り組まねばならないということを強く意識したものでした。

私を含むメンバーは、アンケート調査や貿易統計を用いた物質フロー分析、実際の金属スクラップを対象とした組成調査、火災が発生した場合の現地調査、火災実験と消火実験、バーゼル法などの改善を含めた適正管理方策の検討などを行いました。
これらの結果、産業系と家電・OA機器系はそれぞれ別の形態で流通しており、産業系は比較的大手で経歴のある取扱業者を経て輸出されるのに対し、家電・OA機器系の流通は流動的であることがわかりました。

また、中国の輸入規制強化に対応し、原形をわからないように破壊する作業が関西地区などで行われていることもわかりました。
これらの金属スクラップは、バラ積み船を用いて中国へ輸出されていることを現場で何度も確認し、その課題を議論しました。

金属スクラップの輸出総量は増える傾向にあるんですか?
金属スクラップというのは具体的にはどのようなものが扱われているのでしょうか?

実は、「雑品」「ミックスメタル」を意味する金属スクラップの輸出統計はありません。
私たちの調査で、ほとんどは「(ヘビーくずや切削くずなど以外の)その他の鉄スクラップ」として輸出されていることがわかりました。「その他の鉄スクラップ」の輸出量は2000年頃から増加して、近年は400~500万トン程度で推移していました。このうち100数十万トンがいわゆる金属スクラップではないかと考えています。

日本から中国へ輸出が予定されていた金属スクラップについて、実際に10トン程度のサンプルを2008年から2010年にかけて3回ほど調達し、重機や手作業によって品目別に選別してみました。

極力全容を把握できるようなサンプル収集に努めましたが、やはり百数十万トンという総量に対して10トンのサンプルではどの業者のどの山のどの部分から持ってくるかによって大きなバラツキが出ました。そんな中でも、一応の傾向が分かりました。

調査の結果、全体的に産業系の割合が多く、第3回目を除いて74.8%~96.6%を占めていました。一方、第3回目については産業系は28.2%にとどまり、家庭系が半数以上の58.4%でした。後者については回収業者の集積所から多くサンプリングしたため、家庭から多く回収されたものと思われます。

図: 目調査の結果(大分類、重量比)
出典:寺園淳・林誠一・吉田綾・村上進亮:有害物質管理と資源回収の観点からの金属スクラップ(雑品)発生・輸出の実態解明,廃棄物資源循環学会論文誌, Vol.22, No.2, pp.127-140, 2011

回収業者の集め方や流通、集積場所により様々なケースがあるということですね。
産業系・家庭系と分けられていますが、家庭系の金属スクラップというのはどのようなものがあるのでしょうか?

家庭系スクラップについてお話しますと、家電リサイクル法で回収の対象となっているテレビ・エアコン・冷蔵庫・冷凍庫・洗濯機・衣類乾燥機も、一定量が混入していることがわかりました。これらに家電リサイクル券は貼られていません。このうち、エアコンと洗濯機が比較的多くありました。

これらの家電類は、家電リサイクル法に則して国内でリサイクルされるか中古利用されるべきなのですが、リサイクル費用の負担をさけるために無償または有償で市中の回収業者へ引き渡され、一部は輸出される金属スクラップに混入されているようです。

そのほかには、ビデオデッキ、炊飯器、電気ストーブ、電話機など多様な家電類が多く、破砕された部材も含めると重量比では一定程度を占めているようです。
量は少ないですが、携帯電話やリモコンなど小型のものも含まれていました。

これらは処理費がかかることの多い自治体の粗大ごみとしての排出を敬遠され、回収業者を通じて集められていると考えられます。
このような安易な輸出に頼らず、国内での資源回収を検討すべきと思っています。

テレビなどの家電には有価金属も多く含まれる基板なども使われてますが、それらもまとめてスクラップとして取引されているということですか。

そうなんです。基板類については、製品のなかに含まれているものも考えると、全体の0.2~3%程度に至る可能性があると思われます。
仮にこの数値だと、基板の輸出量としては2,600トン~6万トンにもなり、それに含まれる金属分は、銅486~11,200トン、金で364~8,400kgという計算になります。実際、2009年に家電リサイクル法で再商品化された銅は19,272トンなので、輸出量はこの半分程度に相当する可能性があるということです。
基板は輸出先で銅や貴金属の回収が行われていると考えられ、国外への資源流出として考えるべきものです。

これらの調査でみつかった品目に対して、ポータブルX線分析装置をつかって鉛などの重金属濃度の高い部材をさがしたところ、基板以外にはほとんど見つからなかったのですが、ガス湯沸かし器の熱交換器の表面から高濃度の鉛が検出され、旧式のガス湯沸かし器には鉛メッキがつかわれていることがわかりました。これらの鉛は、バーゼル法規制の判断基準を超える場合があることもわかりました。

結構な量の資源流出なのですね。
廃棄物の輸出管理についての法規制はどのようなものがあるのでしょうか?

廃棄物などの輸出管理について、国内では「特定有害廃棄物等の輸出入等の規制に関する法律」(バーゼル法)と、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(廃棄物処理法)などが整備されています。

バーゼル法は、金属に限らず有害廃棄物の不適正な輸出を規制しているもので、有害物質の濃度が基準を超えていれば特定有害廃棄物等となり、バーゼル法に則した手続きが必要となります。

鉛バッテリーや使用済みのブラウン管テレビのように、バーゼル法の規制対象リストに入っているものであれば、厳しい輸出手続きが必要になりますが、それ以外の使用済み家電等の多くについて一つ一つリストには挙げられていませんし、実際に金属スクラップに混在する家電品等の多くは使用材料の性状が不均一で多様な品目の混合物でもありますから、バーゼル法上の判断が難しくなっています。

廃棄物処理法についていえば、金属スクラップは通常、有価物として国内外で取引されるため、廃棄物処理法の規制対象ではありません。
しかし金属スクラップとして輸出されるものの中に廃棄物処理法の対象となる家電品などの混在による、無価物や廃棄物の含有が疑われることがあります。

法規制も適正な処理をするためには限界があるということでしょうか?

これまでお話ししてきましたように、排出者、回収運搬業者、輸出業者、さらには買い手である海外の事業者や法規まで様々なプロセスで問題を抱えていて、金属スクラップの問題は、非常に悩ましい問題であるといえます。

適正化のためには、国内の発生段階から関係省庁が連携して、廃棄物処理法、バーゼル法、フロン回収・破壊法、関税法を含む各種規制を総合的に適用・執行することが重要と考えます。
私たちの調査研究も、最終消費者から引き渡された後も基本的な流れが確認でき、その中で有害物質は適切に管理される一方、貴重な資源は有効利用され、安全性も確保される、このような仕組みづくりを目指しています。

また、根底に「使用済み家電など(廃棄物と見なされるもの)が目の前から無くなったら終わり」という考え方が、多くの消費者にもあるように思います。
このような意識の問題に対しては、例えば、消費者としては自分の出した不用品が、どこかで環境問題を起こしてしまっている可能性があるという身近な話題として受け止められるよう、不用品回収に関するルールについて、より明確に整備・周知される必要がありますね。

近年、環境問題への意識が高まっていますが、まずは、自分の出した廃家電などがどのように処理されているのか理解することが最初の一歩なのかもしれませんね。

【参考資料】

経産省ホームページ
バーゼル条約・バーゼル法

DOWAエコジャーナル 法規と条例
バーゼル条約
DOWAエコジャーナル エコペディア
廃棄物処理法

ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、インタビューは終了です。E-WASTEや金属スクラップの問題など、国際資源循環への取組にはまだまだ課題が多いことがわかりました。
今後の寺園博士のますますのご活躍をお祈りします。

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