廃棄物処理と資源循環の現状と今後 その1
独立行政法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター
国際資源循環研究室
寺園 淳 博士
DOWAでは国内はもとより中国、シンガポール、タイ、インドネシアにおいても、廃家電リサイクル、金属リサイクル、廃棄物処理事業を展開し、適正な処理、リサイクルを推進しています。
今回のインタビューは、廃棄物処理と資源循環の現状と今後について、独立行政法人 国立環境研究所で国際資源循環について研究をされている寺園淳博士にお聞きしています。
製品の資源性・有害性物質の適正な管理をめざす
不用品回収と金属スクラップ(雑品)輸出に関する3つの問題
【その1】 国立環境研究所の概要と廃棄物処理に携わる契機
まず最初に国立環境研究所についてお伺いしたいのですが・・。
国立環境研究所は、1971年に環境庁ができて3年後の1974年に国立公害研究所として発足しています。
発足当時の1970年代は光化学スモッグや水質汚濁の問題が深刻化していましたから、公害対策を中心とした研究所でした。
その後、社会の関心が公害だけでなく、地球温暖化のような地球規模の環境問題を含め、地域の環境汚染・生態系破壊など、長期的かつ広範囲な環境問題へと変化して、90年に「公害」が「環境」に変わって、国立環境研究所と改称されました。
環境という問題は、様々な分野が連続しながら関係しあっています。
現在は、私が所属する「資源循環・廃棄物研究センター」を含め、「地球環境」「環境リスク」「地域環境」「生物・生態系環境」「環境健康」「社会環境システム」「環境計測」の8つの研究センターで構成されていて、理学、工学、医学、農・獣医学、法学、経済学、などなど・・各分野の専門所員が約250名、客員研究員なども含めると約750名で構成されています。
■外観 / 資源循環・廃棄物センター組織図(国立環境研究所ホームページより)
スタートが公害対策でしたから理学や医学の専門の人が多かったですが、資源循環・廃棄物研究センターをはじめ、工学系の人も増えてきています。
前述の環境問題の多様性の一方で、現実には研究者が自分の専門の分野に専念していくと、どうしても分野間で風通しが悪くなり、他の方達が何を研究しているか把握できない状況にも陥ってしまいます。
せっかく多岐に渡った人材がいるので、環境関連の分野間の連携は可能ですし、そうやってまとまった時にはその力が発揮できる組織です。これは大学ではなかなか難しい、本研究所の魅力ともいえます。
90年代には第2期のセンター長をされていた森口祐一先生(現 東京大学教授)が中心となってまとめられた自動車のライフサイクル評価や廃棄物の処理法別の評価など、広い視野で成果を発揮してきた研究プロジェクトも多いです。
「公害」から「環境」に変わって、研究分野も広がってきたんですね。先生の所属されている「資源循環・廃棄物研究センター」も当初からの組織なのですか?
資源循環・廃棄物研究センターは、元々厚生省の国立公衆衛生院の廃棄物工学部が母体でした。
2001年1月に環境庁が環境省に格上げになる際に廃棄物行政が厚生省から環境省に一元化されて、環境省国立環境研究所 廃棄物研究部として移管統合されました。
現センター長の大迫政浩も国立公衆衛生院の出身になります。
その後、同年4月に研究所が独立行政法人化されて、廃棄物研究部も資源循環・廃棄物研究センター(の前身)ができました。
先生は長年環境問題に取り組んでおられますが、どのような経緯で環境に携わることになられたのでしょうか?
私は元々、工学部の「衛生工学科」でアスベストの処理の研究をしていました。
アスベストについては今でも若干携わっています。
学生時代から廃棄物を専攻されていたのですね。
その当時は、まだ環境を扱う学科は少なかったのでないですか?
そうですね。90年代に入ってからは「環境」が各方面で注目されましたが、私が大学に入学したのが1985年で、当時はまだ工学部で環境を学科として取り上げていたのは京大と北大の「衛生工学科」、それと大阪大学の「環境工学科」で、その3つだけでした。
そこで、一浪した後、京都大学の「衛生工学科」へ入学し、4回生から高月紘先生(京大名誉教授、現 京エコロジーセンター館長、ペンネーム:ハイムーン)の研究室でアスベストの処理について研究を始めました。
アスベストの有害性とかの基礎研究のようなものですか?
80年代後半は、建築物中の吹付けアスベストなどの大気への飛散が社会問題になっており、その測定分析、除去対策や、最後に発生するアスベスト廃棄物の処理技術を研究しました。
工学部で学ぶ廃棄物処理というのは、基本的には社会から安全に廃棄物や有害物質を取り除いたり、人から遠ざけようとする技術の研究ですね。
実は、勉強を始める前は、何となく有害物質の処理というのは、なんらかの処理をすると有害物質が消えて無くなるというようなイメージを持っていたんですが、高月先生ほか先生方の講義などで、実際は完全に無くなるものはあまりないことを学びました。アスベストは多大なエネルギーをかけ溶融処理すれば無くなる珍しい例ですが、無機の有害物質は一般に形を変えながら存在していて、それらの連続したプロセスをどの様に取り扱うのかということが重要であると理解するようになりました。
何かをその場所から片付けたら終わりというものでは無く、廃棄物を出す側の理解や協力が必要だし、出した後処理工程においては大気や水へ移行させながらも一般環境への拡散を防ぐ適切なプロセスを準備せねばなりません。最後は汚泥の処理も必要だし、焼却処理などをした後は路盤材に用いたりすることで、社会の中にどのように存在させていくかという一連の流れをとらえなくてはならないですね。
http://www.miyako-eco.jp/highmoon/ (京エコロジーセンター)
実際に、工学部という性質上、その場所から取り除く技術だけを行うエンドオブパイプの話しかしていない学問と見られて、衛生工学科も批判を浴びたりしていました。
その後、出身学科も改組を繰り返して、「衛生」から「環境」と名のつく学科・専攻に変わりました。「環境」が多様で連続しながら、私たちを包んでいるものであるという認識は、大学や研究の世界でも深まっているのではと思います。
そうですね、DOWAも廃棄物処理を行っているのですが、本当に適正な処理を行うことの大変さはなかなか理解されていないんだな~と感じることがよくあります。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「阪神・淡路大震災と東日本大震災におけるアスベスト対策・廃棄物対策」についてお聞きしています。