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拡大生産者責任制度について その7
〜環境政策の今後について〜

国立研究開発法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター
循環型社会システム研究室 室長
田崎 智宏(たさき ともひろ)様

国立研究開発法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター

「EPR」という言葉をご存知ですか。
EPRは、Extended Producer Responsibilityの略で、日本語では、「拡大生産者責任」と呼ばれています。
2014年は家電リサイクル法、容器包装リサイクル法、自動車リサイクル法等の見直しの年でもあり、その中で、「拡大生産者責任」という言葉を聞く機会もあったと思います。

今回は、家電リサイクル見直しに関する議論が行われていた中央環境審議会 循環型社会部会 家電リサイクル制度評価検討小委員会の委員でもある、国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室 田崎さまに、「拡大生産者責任」についてインタビューをさせていただきました。

【その7】環境政策の今後について

田崎さんは、どのような経緯で、拡大生産者責任の研究や議論に携わられるようになられたのでしょうか?

もともと私は、廃棄物・有害物の工学系研究者としてスタートしました。
例えば、パソコンに入っている基板から有害な鉛や重金属がどれくらい溶出するかというような分析を行う研究をしていました。

時代の流れもあり、有害物の研究だけでは終わらず、廃棄物の適正処理から資源・リサイクルを評価するという研究に少しずつシフトしてきました。その中で家電製品や自動車などの耐久消費財を対象として、日本ではどれくらいの量が使用済みとなって、誰にどう処理されて・・・という、モノのフローを明らかにする仕事をしていました。しかし、フローや資源性を定量化したり評価したりしていても、それだけじゃ世の中は変わらないと考えるようになり、政策的な研究もするようになりました。

廃棄物政策では、廃棄物処理法という本丸もありますが、当時はまさしく個別リサイクル法が作られていく時代でした。私も興味があったのでリサイクル制度をどう評価しようかという研究から始めました。研究成果としては、例えば、国立環境研究所から研究報告書を出しました。これまでの政策評価といえば、コスト・ベネフィット分析やアウトカム評価のように、政策で何をどれだけ達成したというようなものが多く、リサイクル率などの数値ばかりを評価していました。それはそれで大切なのですが、達成状況よりも達成手段についての科学的知見を積み上げていき、今後の政策に活かす方がよいと考えて、政策の中身を見るような政策評価をしてきました。今も続けていますが2003年ぐらいから2008年ぐらいまではこのような研究を中心にやっていました。

このような政策の中身を研究した理由の一つには、リサイクル法で達成すべきゴールがよくわからない、というか難しいということもありました。
リサイクル率を向上させた方がよいと短絡的に考えがちですが、たくさんのリサイクルをするために、いろんなモノが混じった廃棄物を集めてしまっては適切とはいえません。お金もかかりますし、製造されるリサイクル品の品質も低下します。結局、リサイクル品が使われなくなってしまいます。どこかに最適点を見つけなくちゃいけません。評価指標としても、リサイクルされた「量」(あるいは埋立される廃棄物を減らした「量」)で見るのか、どれくらい有価な物を集めているかという「金額」で見るのか、それとも希少な資源としての「質」で見るのか、今言っただけでも3つあります。複数の評価軸が絡み合ったリサイクル制度については、客観的に最適といえる状態を判断するのも課題山積です。これについては、いずれ腰を据えて研究を行いたいと考えています。

では、具体的にどういう制度がよいのか?制度設計の基本的な考え方とはなんだろう?ということを考えるようになり、拡大生産者責任の研究や海外制度との比較研究などへとシフトして今に至っています。

必要に応じて自分の研究の分野が広がってきたという感じですね。

自分の分野を広げるということは、勉強するものが雪だるま式に増えるので大変です。工学部出身の私が法律の文章をここまで読み込むことになるとは思いませんでした(笑)。

工学部出身なのですか。ちょっと意外です。何を専攻されていたのですか?

もともと化学に近いところでしたね。物質工学科というところだったのです。化学の視点で有害物質をどう測るか。私、環境計量士の資格を持っていますよ。今では全然その資格は活かされていませんが(笑)。
廃棄物の世界は単純明解な答えがないので、私の研究もどちらかと言えばそのような答えを出すよりは、物事を多面的に見るような研究スタイルが多いです。

理系の命題では真実は1つでしょうけど、文系的な政策議論だと、どれを重視するかなど、立ち位置で見方が違ってきますから、そこには注意をしています。表面的な言葉だけでなく、その人はなぜそう言っているのか?ということも理解しないと、かみ合った政策議論にすることはできないので鍛えられますね(笑)。
さらに、環境問題はいろいろな要素や物事が複雑に絡んでくるので、頭がよっぽど整理されてないとゴチャゴチャになってしまいます。問題をきちんと「ときほぐす」ことが大切です。

ちなみに、研究論文を書くときは、そこまでの多面性を持たせずに、1つのトピックを1つの焦点から書くという方がやりやすいです。それでも、そうではない研究スタイルも継続させてきたのが、政策の議論でいろいろな人と話し合うことがあるためだと思います。多面的なことを意識してやってきた研究が役立っていると感じています。

国環研ではこういう拡大生産者責任に関わる研究は他の部署でもされているのですか?

こういう研究はあまり行われていないですね。
そもそも日本全体で見ても議論できる人は多くないのが残念なところです。
例えば、環境経済・政策学会という環境政策に関する学会がありますけれども、そこで廃棄物の分野を引っ張っている先生方は経済学者の方が多いです。政策にまつわる多種多様な議論は必ずしもできていないですね。いい人がいれば雇って一緒に研究したいのですけれど(笑)。

海外ではそういう分野も人材がいる国が多いのですか?例えばEUとか。

リサイクル法や拡大生産者責任に絞った場合、詳しい議論ができる人は、学識者よりも実務者の方が多い印象があります。リサイクラーや自治体、環境NPOやPRO(Producer Responsibility Organization:「生産者責任団体」と呼ばれる、拡大生産者責任を果たすための団体)などの方々です。日本であれば、容器包装リサイクル協会や家電リサイクル協会などの方ですね。これらの方々とは詳しい議論ができます。

最後に、拡大生産者責任、今後の日本のリサイクルはどうなっていったらいいと思いますか?

責任論の観点からいえば、これまでも申し上げてきたように役割分担をして局所最適化みたいなことは起こらないように、まず全体的にうまくいく方向性を関係者で共有した上で何をするかという役割分担の見直しをする必要があると考えます。これはどのリサイクル法も同じだと思います。

そのためには、まずは目標をつくることです。目標は達成義務がなくてもつくられるべきと思います。また、長期的なビジョンも大切です。地球上に100億人以上の人が住む時代にふさわしいリサイクル、あるいは資源やモノの使い方を考えていかなければなりません。国外で起きている資源採掘時の環境負荷など、日本人は海外の環境問題に十分にアンテナを張って、真剣に取り組んでいるといえるでしょうか。リサイクルと資源利用の問題は表裏一体であり、両方の対策をとっていくべきなのです。

それから、日本人にありがちな「頑張ればよい」「頑張らなければならない」というメンタリティもある程度問題視しておきたいです。容器包装リサイクル法では負担が大きいとの指摘が多いですが、頑張らざるを得ない仕組みではなく、頑張りたくなる仕組みですね。いろいろな複雑・高機能な製品が登場するなか、適正な廃棄物処理やリサイクルをするためには、拡大生産者責任が適用される製品数は増えていかざるを得ません。負担が大きいリサイクル制度ばかりが増えてしまうと、反対意見が増えて、拡大生産者責任でカバーされる製品数は結果的に少なくとどまってしまいます。これはリサイクルを推進したい人にとってもデメリットなはずです。

環境全体に関して、これが大切だな、と思う事があれば教えてください。

そうですね・・・。今後の環境や日本を考える上で、環境に限らず、もっと周りを見ることができる人、もう少し他の人を思いやるというか、目配りができる人が増えてほしいなと思っています。

最近感じていることなのですが、少子化も含めいろいろな生活者層が出てきて、一家4人の「標準世帯」という考え方が日本では成り立たなくなってきて、いろいろな生活のリスクを考えなくちゃいけない時代になってきています。我々の普通の生活の基盤すら怪しくなっている中で、もう少し他の人を思いやるというか目配りができないと、そもそも人間社会としてもうまくいかないし、それは環境に関しても目配りもできなくなる社会になってしまいます。

環境政策や環境活動も、エコ、エコと言っているだけじゃ限界がある。環境問題はみんな知っている時代ですから。環境問題が私達の生活や仕事と間接的にかつ複雑に関係していることをきちんと紐解いて、どう調整していくかを考えることが必要になります。
環境だけでなく、健康や日常生活、経済、技術開発、セキュリティなどについて立場による考え方の違いや弱い立場に置かれている方への横方向の目配りや、10年20年後の縦方向の目配りが重要でしょう。これらがないと日本はどんどん二極化が進んで、つらい社会になってしまうと思います。自分だけを見ている社会では、人も環境も救えません。

ところで、このような問題意識に至ったのは、生活者の将来を考えるシナリオ研究をしたからです。この成果は2014年に「ぼくらの未来シナリオ」というパンフレットにまとめましたので、こちらもご覧ください。

国立環境研究所ホームページ:ぼくらの未来シナリオ パンフレット画像

国立環境研究所ホームページ
ぼくらの未来シナリオ

「ぼくらの未来シナリオ」は、イラストがかわいく、分かりやすいですね。 15年後の未来こんな論点がみえてきた。など、持続可能なライフスタイルの実現のためには、何が必要なのか、思わず考えさせられました。

 インタビューありがとうございました。

【参考リンク】

国立環境研究所ホームページ
持続可能なライフスタイルと消費への転換プロジェクト(SusLife)


ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、インタビューは終了です。

拡大生産者責任(EPR)について、背景、状況、海外との比較等を通じて、理解を深める事ができたのではないでしょうか。

廃棄物処理やリサイクルに関しては、「法に規定されているから」やらなければいけない事が沢山あり、実務を経験すればするほど、「法に規定されている事」で頭がいっぱいになってしまいますが、「どうして」法で規定されているのかへの理解も大事です。拡大生産者責任(EPR)を理解する事は、制度設計の基本的な考え方を理解する1歩になりえると思います。


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