拡大生産者責任制度について その1 〜基本思想〜
国立研究開発法人 国立環境研究所
資源循環・廃棄物研究センター
循環型社会システム研究室 室長
田崎 智宏(たさき ともひろ)様
「EPR」という言葉をご存知ですか。
EPRは、Extended Producer Responsibilityの略で、日本語では、「拡大生産者責任」と呼ばれています。
2014年は家電リサイクル法、容器包装リサイクル法、自動車リサイクル法等の見直しの年でもあり、その中で、「拡大生産者責任」という言葉を聞く機会もあったと思います。
今回は、家電リサイクル見直しに関する議論が行われていた中央環境審議会 循環型社会部会 家電リサイクル制度評価検討小委員会の委員でもある、国立環境研究所 資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室 田崎さまに、「拡大生産者責任」についてインタビューをさせていただきました。
【その1】「拡大生産者責任」の基本思想
最初に、拡大生産者責任とは、どの様な考え方なのかを教えてください。
OECD(経済協力開発機構:Organisation for Economic Co-operation and Development)が2001年に発行した、ガイダンスマニュアルでは、
拡大生産者責任とは、製品に対する「物理的」および「経済的※」な生産者の責任を、製品のライフサイクルの使用済段階まで拡大する環境政策のアプローチ
とされています。
(※)「金銭的」「財政的」「財務的」と訳されることもあります。
考え方のポイントは、以下の2点です。
- 生産者の知識や能力を活用する
- 生産者を巻き込むことで、環境負荷が小さく、社会的費用の小さいよりよいシステムを目指す
そもそも拡大生産者責任という考え方の源流のようなものはどこになるのでしょうか?
拡大生産者責任の基本的な発想は、廃棄物処理の責任について、どういう考え方で役割分担をするかというところに遡ります。
歴史的に言えば、まず「排出者責任」という考え方があります。
これは英語で言うPPP:Polluter-Pays Principle(汚染者負担原則)で、1972年にOECDが勧告を出しています。
汚染者負担原則とは、廃棄物を出す人や排ガスを出す人、環境汚染をした人に責任があるとして、環境汚染を防除する費用を支払ってもらうというものです。
日本では廃棄物については「排出者責任」という表現が使われていますが、このような用語は英語圏にはなくPPPという表現が用いられます。生産段階からの廃棄物であれば生産者、消費段階からの廃棄物であれば消費者がそれぞれ汚染者(排出者)となり、廃棄物処理に責任を負うことになります。
しかし、産業廃棄物はいいのですが、一般家庭から出る廃棄物となると、国民一人ひとりに責任を負わされても処理できませんので、そこで、「一般家庭に代わって自治体が処理しましょう。その代わり自治体の分別ルールに沿って、我々が仕事をしやすいようなかたちで排出してください。その分、責任は自治体で取りますよ」という考え方で廃棄物行政が行われてきました。
早稲田大学の大塚直先生はこれを「公共負担原則」と呼んでいます。
「公共負担原則」と「汚染者負担原則」の2つの考えに基づいた日本の廃棄物制度が確立し、廃棄物処理法が制定された1970年のことです。
80年代までの廃棄物処理はこれでいけたのですが、だんだん処理しにくい廃棄物が出てくるし、処分場が逼迫してきた事もあり、処理やリサイクルのコストがどんどん上がってきて、処理やリサイクルのノウハウのない自治体では対応しきれなくなってきます。そのような中で80年代後半から90年代前半にかけて、生産者に廃棄物処理やリサイクルの役割を担ってもらったほうがいいのではないのかという考え方が出てきます。
これが「拡大生産者責任」という考え方で、90年にスウェーデンのルンド大学のリングヴィスト先生が命名しています。
「拡大生産者責任」の基本的な考え方は、メーカーに役割を担ってもらったほうが、処理はうまくいくだろうという発想です。
例えば、家電製品や自動車を見ても、作った人でないとどこにどういう部品が入っているのかわからないし、これを分解しやすいようにする事や、リサイクルしやすくする事はメーカーにしかできないことです。リサイクルや処理するのに難しい部品や材料を最初から使わないという判断もメーカーにしかできません。
まさしくメーカーにしかできない役割をメーカーに責任を持ってもらって廃棄物処理にも活躍してもらいましょう。と言うことです。
OECDのマニュアルができたのが2001年という事は、リングヴィスト先生が90年に提唱してからの10年の間にEUに広まったのですか?
リングヴィスト先生が提唱して名前を付けて広まったというイメージで捉えられたかもしれませんが、すでに欧州では90年以前から生産者を巻き込んだタイプの廃棄物政策が増えてきていて、この政策は今までの考え方と概念が違うのだから、新たな名前を付けないといけないということで「拡大生産者責任、EPR」と名前を付けたそうです。
ここで、もう1つお話しておいたほうがいいかなというのが、何故「拡大生産者責任:Extended Producer Responsibility」という名前になったのかという話です。
提唱者であるリングヴィスト先生が「拡大」と「生産者」という言葉にどのような意味を込めたかという話をされていました。
「メーカーも間接的に廃棄物を発生させている」という立場で、このような考えは汚染者負担原則の拡大版だと整理する可能性もあったのです。ただし、その表現では「汚染者」とか「間接汚染者」って誰だ?ということが問題になってしまい、議論が収束しなくなる懸念がありました。
「生産者が何らかの責任をとる」ということを明確にした方が良いだろうということで「生産者」というフレーズが選ばれています。
生産者はそれまで、製造・販売した製品を消費者が使っているところで不具合があった場合に責任をとるという、いわゆる製造者責任がありました。消費段階までの製品への責任はすでに生産者にあったのです。これに追加して廃棄段階の廃棄物処理リサイクルについても役割を担ってもらうということで、「拡大」という言葉を使うこととなりました。
このようにOECDがガイダンスマニュアルをつくる2001年以前から「拡大生産者責任」という考え方は広まっていて、マニュアルの策定によりその普及がさらに広まったといえます。これは「EPRの普及・展開」の図をみても分かると思います。
日本は先導的な役割を果たした国の一つでした。OECDのガイダンスマニュアルの策定にあたって、日本の容器リサイクル法における「拡大生産者責任」の議論はいろいろと参考にされていました。
【参考資料】
一般社団法人産業環境管理協会 資源・リサイクル促進センターホームページ
拡大生産者責任 政府向けガイダンスマニュアル
OECD Extended Producer Responsibility
A GUIDANCE MANUAL FOR GOVERNMENTS(仮訳)
OECDホームページ
Extended Producer Responsibility
A Guidance Manual for Governments
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、拡大生産者責任を議論する上で重要な「責任」の2つの考え方「能力論と原因論」についてお話しをお伺いしています。