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EUのCE(Circular Economy)政策 その5
〜行動計画の構成と内容−4〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その5】行動計画の構成と内容−4

今回は、循環経済に向けた行動プラン(Closing the loop-An EU action plan for the Circular Economy)の8つの大項目のうち、「5. 重点個別分野(Priority areas)」についてお伺いします。

【5】重点個別分野(Priority areas)その1

重点個別分野としては、

  1. 5−1. プラスチック
  2. 5−2. 食品廃棄物
  3. 5−3. クリティカルローマテリアル(重要原材料)
  4. 5−4. 建設廃棄物
  5. 5−5. バイオマス

があります。
順番に説明していきます。

今回は 1. プラスチック、2. 食品廃棄物、3. クリティカルローマテリアル について説明します。

【5】−1. プラスチック

欧州委員会がプラスチックに着目してるのは、一般廃棄物に占めるプラスチック廃棄物の割合が多いことと、海洋ごみの問題も絡んでいるためです。リサイクルされないことにより焼却や単純埋め立てという循環経済とは逆の方向の処理となってしまっていることに加え、プラスチックに含まれている有害物質の影響に懸念を持っているためだと思います。

海洋ごみは、2016年5月に富山において開催されたG7環境大臣会合の議題のひとつでした。

参考記事:G7富山環境大臣会合の概要 〜富山物質循環フレームワークが採択されました〜

日本では、海洋ごみというと「海岸漂着ごみ」というイメージですが、EUでも漂着ごみを問題視しているのですか?

そうですね。漂着ごみに加えて、海洋中の漁業用具も着目しているようです。これは、とくに海洋に排出されるマイクロプラスチックを含むプラスチックごみによる生態系や(魚などがそれらを食すことによる食物連鎖を通じた)人間への健康影響の可能性について懸念をもっているようです。

EUにおけるプラスチック使用は増加していますが使用済み廃プラスチックのうち、リサイクルされているものは30%程度で、埋立も約3割、焼却が約4割とのことです。

参考資料:欧州委員会ホームページ(plan_2016_39_plastic_strategy)

プラスチックのリサイクルに関しては、プラスチックに含まれる有害化学物質が問題視されています。
プラスチックのイノベーションは、食品保存、リサイクル性向上、車両・輸送機器の重量削減などを通じて循環経済に貢献しますが、一方で、新たな課題をもたらすとしています。

つまり、プラスチックの性能を上げるために投入されている物質には有害性の確認されている化学物質もあり、有害物質が含まれていることによって、プラスチックをリサイクルすることが困難になってしまうことや、また、リサイクルされたプラスチックに有害物質が含まれている懸念がある、という事です。

日本の容器包装リサイクル法改正の際にも話題になった、リサイクルしやすいプラスチックにすべきか、高機能プラスチックによる環境負荷削減を重視すべきか、という議論と同じ視点ですね。

類似の議論だと思いますね。そのため、高機能プラスチックの環境影響を全ライフサイクルで検証しなければならないとしています。

CEの行動計画では、プラスチックのリサイクル可能性、生物分解性、特定のプラスチック中の有害物質の存在、海洋ごみ防止等に対処するため、プラスチックに関する戦略を採択するとされてます。
バリューチェーン全体・ライフサイクル全体の観点からプラスチックの課題に取り組む戦略を準備するとされており、この戦略には海洋ごみの大幅削減も含まれます。
前回でもお話したようにそのプラスチック戦略の検討が開始されています。

参考資料:欧州委員会ホームページ(Plastic Waste - Strategy and background)

加えて、2016年の港湾引き受け施設に関する指令(port reception facilities)の改正に合わせて、船舶からの海洋ごみ対策、港湾引き受け施設への海洋ごみの輸送や港湾引き受け施設での処理の検討をすすめるとされています。

参考資料:EMSA:European Maritime Safety Agencyホームページ(Port Reception Facilities)
欧州委員会ホームページ(Revision of the Port Reception Facilities Directive)

その他、注目すべきポイントはありますか?

そうですね。
廃棄物法制の改正指令案において、「容器包装リサイクル目標を強化する」としています。2015年12月のCEの行動計画発表時には目標値が明確ではありませんでしたが、現在、2030年までにリサイクル率を75%とするという目標の採択に向けて動いているようですね。

参考資料:欧州委員会ホームページ / 循環経済行動計画の進捗に関するプレスリリース(2017年1月26日)

また、CEの行動計画では、スマートな分別収集手法、収集と分別業者の認証スキームがプラスチックリサイクル促進(埋立・焼却回避のために)重要であるとされていますので、分別収集、認証に関しては、動きがあるかもしれません。

【5】−2. 食品廃棄物

次の重点分野は、食品廃棄物。主に食品ロスへの対策です。

食品廃棄物は、環境影響だけでなく、金銭的損失、社会的側面からも重要な課題です。
食品廃棄物は、バリューチェーンの各段階で発生しますが、食品廃棄物の発生量を把握するための信頼性の高い方法はないため、食品廃棄物統計の管理が困難であることが現状です。そして、食品ロス・廃棄物を削減するためには、加盟国・地域・都市・ビジネス(バリューチェーン全体)での行動が不可欠です。

食品廃棄物に関する持続可能な開発目標の達成支援と、バリューチェーンにおける様々な関係者による関与を最大化するため、CEの行動計画では以下の3点が挙げられています。

1)食品廃棄物発生量を調査するためのEU共通の方法を開発し、指標を定義する。
食品廃棄物に関してSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を達成するために、優良事例共有と進捗評価を行う加盟国全体・バリューチェーン全体でのプラットフォームを設立する。
(2016年8月には実際に、食品ロス・廃棄物に関するEUプラットフォームが設立されました。)

2)廃棄物・食料・飼料に関するEU法令を明確化する。
食料チェーンからの副産物や旧食品(former foodstuff:売れ残り食品や規格外で販売されなかった食品)について、安全性を確保しつつ行えるような食料寄付や飼料としての使用を促進する手段を講じる。
参考資料:欧州委員会ホームページ(EU-Guidelines for the use of former foodstuff as feed)

3)特に”best before(消費期限)”ラベルなどの日付表示への対策
消費者の消費期限に関する?理解改善方法を検討し、普及啓発を実施する。

2)にEU法令の明確化とありますが、具体的にどのような事ですか?

食品廃棄物の発生を促すような法制・規制の見直しです。食料品寄付、フードバンク、未販売の安全な食品の飼料化などについても、明確化されると考えられます。
現在、食品寄付・食品の資料活用に関するEUガイドライン”EU guidelines on food donation and the use of foodstuff as feed”の作成準備が進められています。

【5】−3. クリティカルローマテリアル

以前、産業技術総合研究所の畑山様に、クリティカルマテリアルは「供給リスクが高く、産業における重要性が高い金属」を指すと、教えていただきました。

参考記事:資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ

CEで出てくる「クリティカルローマテリアル(重要原材料)」も「クリティカルメタル」同じと考えていいのですか?

EUには、クリティカルローマテリアル(重要原材料)と指定した物質のリストがあります。EUの経済にとって重要かつ供給混乱に対して脆弱なものが、重要原材料です。その物質のほとんどは金属なので、クリティカルメタルとほぼ同じと考えてよいと思いますが、リスト中には、ホウ酸塩や石炭、リン鉱石、レアアースも含まれるので、もう少し広い概念かもしれません。

参考資料:欧州委員会ホームページ / クリティカルローマテリアルリスト

一定のケースにおいて、採掘が重大な環境影響の原因ともなります。
重要原材料の多くは電子機器に含まれますが、重要原材料のリサイクル率(回収率)は極めて低く、回収・再生ができていません。そして回収できない事によって、経済機会が失われています。

“経済機会が失われている”というのは、回収・再生できれば、資源を生み出すことができて、売り上げが立つ、という事ですか?それとも、回収・再生事業に関しての雇用を創出できる、という事なのでしょうか?

そうですね、重要原材料を今のシステムではみすみす失っているという論調かと思いますが、資源の輸入依存の低減・供給安定性の確保もCEの背景の一つですので、その対応と思います。
また、回収・再生などにかかわる事業が確立されることによって経済や雇用が創出されることも期待していると思いますが、そこまで明確には書かれていませんね。

EUは、電子機器のリサイクルに関するWEEE指令が2003年に発効しています。CEでは単なる「電子機器のリサイクル」からステップアップして、重要原材料をターゲットとしたリサイクルシステムを構築しようとするのでしょうか?

義務的目標を含む現在のEU規制は、E-wasteのリサイクル促進を目指していますが、重要原材料の回収・再生をするためには、より質の高いリサイクルシステムが必要です。
具体的には、重要原材料を含む製品の収集・分解・リサイクルに関する技術的向上が求められると同時に、製品デザインによる電子機器のリサイクル可能性の改善が不可欠とEUとしては考えているようです。

また、重要原材料を回収・再生するためには、製造業者とリサイクル業者の情報交換や、リサイクルに関する各種基準や、再生された重要原材料の経済的価値に関する情報も必要ですが、現状、こうしたことが不足していると指摘しています。

そのため、廃棄物に関する法令改正案を通じて加盟国の取り組みを促すために、R&I(リサーチ&イノベーション)プログラムの実施(Horizon2020(2014-2020)では€6億ユーロ(うち、2017年は€7600万ユーロ)を拠出)を原材料に関する研究などに提供)や、優良事例の促進、重要原材料の再生を促す様々な取り組みを実施する等、重要原材料の再生を促す様々な取り組みを実施するだけでなく、さらなる取り組みのためのオプションや優良事例を含む報告書を準備するとされています。

様々な取り組みを実施した上に、さらなる取り組みの準備をする、というのは、かなり力を入れようとしているのでしょうか?

そうですね、経済全体を循環経済へ移行するということだけではなく、EUとして重要視している分野には、さらに個別の取り組みを実施して、EUとしての影響力や経済競争力を強化していきたいということかと思います。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「重点個別分野(Priority areas)その2」として、4. 建設廃棄物、5. バイオマスについてお伺いします。


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