G7富山環境大臣会合の概要
〜富山物質循環フレームワークが採択されました〜
現在、気候変動・環境汚染といった地球規模での問題に対して、各国の環境担当大臣が果たすべき役割は増しつつあります。
2016年5月15日から16日に富山において行われたG7環境大臣会合は、伊勢志摩サミットに先立ち、G7とEUの環境担当大臣が会し、地球環境などの環境分野に関して議論し、一定の合意を得るための会合です。
昨年はドイツのエルマウで開催され、2017年はイタリア(シチリア島)で開催されます。
【1】参加者
G7富山環境大臣会合の参加者は、以下の国、国際機関や地方自治体でした。
■G7(日、伊、加、仏、米、英、独、EU)の環境担当大臣
日本 | 丸川環境大臣 | |
イタリア | ルーカ・ガレティ環境大臣 | |
カナダ | マッケナ環境・気候変動大臣 | |
アメリカ | マッカーシー環境保護庁長官 | |
ドイツ | ヘンドリクス環境大臣 | |
フランス | スティッカー環境大使 | |
イギリス | フィパード環境・食糧・農村地域省環境・地方局長 | |
欧州委員会(EU) | ヴェッラ環境・海事・漁業担当欧州委員 |
■招聘機関
- 地球環境ファシリティー(GEF)
- 持続可能性をめざす自治体協議会(ICLEI)
- 経済協力開発機構(OECD)
- 国連環境計画(UNEP)
- 国連グローバル・コンパクト
- 100レジリエント・シティ
- ブリストル市(英)
- フィレンツェ市(伊)
- フランクフルト・アム・マイン市(独)
- 東松山市
- 北九州市
- 富山市
- バンクーバー市(加)
- ヴィトリー・ル・フランソワ市(仏)
- 富山県
【2】議題
環境大臣会合では、以下の7つの議題について議論が行われました。
- 持続可能な開発のための2030アジェンダ
- 資源効率性・3R(リデュース・リユース・リサイクル)
- 生物多様性
- 気候変動と関連施策
- 化学物質管理
- 都市の役割
- 海洋ゴミ
各議題について、具体的にどのような議論が行われたのか、紹介します。
1)持続可能な開発のための2030アジェンダ
持続可能な開発のための2030アジェンダは、環境、社会、経済の3側面において、すべての国において果たすべき目標として「持続可能な開発目標(SDGs)」を掲げ、その中で主要先進国が協調して行動していくとされています。
2)資源効率性・3R(リデュース・リユース・リサイクル)
各国は、2008年の神戸3R行動計画、G8北海道洞爺湖サミットの首脳宣言、2015年のG7エルマウサミット首脳宣言等を踏まえて、資源効率性・3RのためにG7がアライアンスを組み、協調して取り組んでいくことを約束しました。この資源生産性・3Rに関するG7アライアンスでは、年1回以上の定期的な会合を開催し、各国の優良事例を共有していくとしています。
そして経済成長と天然資源利用との分断(デカップリング)を促進することが、温暖化対策(パリ協定)やSDGsの実施に重要であると認識を共有しました。
デカップリングとは、経済発展(GDPの成長)と資源消費や環境影響の拡大を切り離すことです。つまりは、資源消費を減らし、環境影響を減らしながら、経済を発展させるという事を意味します。経済成長と環境影響を切り離す事で、非持続可能な天然資源消費とそれに伴う環境劣化が将来世代に及ぶことを回避することが可能になります。また、資源効率性の向上と3Rの推進は、競争力強化、経済成長、供給の安定化、雇用創出に寄与するとされています。
これらに関して、G7が強力なリーダーシップを示す必要があることから、「富山物質循環フレームワーク」が採択されました。
■富山物質循環フレームワーク
G7として「共通のビジョン」を掲げ、国際的に協調して資源効率性向上や3Rに関する「野心的な行動」に取り組むことを約束しました。
「共通のビジョン」
- 我々の共通の目標は、関連する概念やアプローチを尊重しつつ、地球の環境容量内に収まるように天然資源の消費を抑制し、再生材や再生可能資源の利用を進めることにより、ライフサイクル全体にわたりストック資源を含む資源が効率的かつ持続的に使われる社会を実現する。
- このような社会は、廃棄物や資源の問題への解決策をもたらすのみならず、雇用を生み、競争力を高め、グリーン成長を実現し得る、自然と調和した持続可能な低炭素社会も実現するものである。
「野心的な行動」
目標(1)資源効率性・3Rのための主導的な国内政策
- 資源効率性・3Rと気候変動、異常気象、有害物質、災害廃棄物、自然環境保全等の政策を包括的に統合し、促進
- 規制的手法に加えて、事業者による自主的取組等を推進
- 災害廃棄物の適正処理と再生利用、災害に対して強靭な廃棄物処理施設等の整備等
- 地域の多様な主体間の連携(産業と地域の共生)、消費者対策
その具体的な事例として、「食品ロス・食品廃棄物対策」が挙げられており、日本国内では、以下のような取組を加速するとしています。
- 食品ロス、廃棄物の削減、効果的な再生利用、エネルギー源としての有効利用、廃棄物系バイオマスの利活用の促進
- SDGsを踏まえた国内や地域での政策や計画の策定
- これらの対策がもたらす便益に関する知見の共有
目標(2)グローバルな資源効率性・3Rの促進
- G7アライアンスを通じて、ベストプラクティクスや適用な可能な最良技術(BAT)、有用な教訓を他の国々共有
- 途上国における資源効率性・資源循環政策の能力構築支援
- 巨大資源災害を経験する国・地域への支援
- 上流産業における、再生可能資源の利用を含むリユース、リサイクルのための積極的取組を奨励
その具体的な事例として、「電気電子廃棄物(E-waste)の管理」が挙げられており、日本では、以下のような取組を加速するとしています。
- 各国、地域内における適正処理・管理を優先
- E-wasteの適正なルートで行われる回収、リユース及びリサイクルの割合の向上と違法取引の防止のための国際協調
- 適正な管理能力を有しない国から有する国への有害廃棄物の輸出は、環境と資源効率・資源循環に寄与するものと認識
目標(3)着実かつ透明性のあるフォローアップ
- G7メンバーでの国内指標の検討
- 環境影響の低減効果や資源ストックの有効性を図る指標つくり
- ワークショップやフォーラムを通じた進捗、課題、教訓の共有
- 次期議長国イタリアのもと、資源効率、3Rを推進するためのステップについてのフォローアップ
- サプライチェーンを含むライフサイクルに基づく物質管理や資源効率、3Rを推進するための行動を優先順位づけするロードマップの作成
3)生物多様性
会合では、生物多様性及び、生態系全体は、食料や資源、薬、住居、水等を供給し、自然災害を緩和または防止し、気候を調整し、レクリエーションの機会を提供する等といった、様々な生態系サービスを提供する自然資本であり、これを劣化させることは、環境問題であり、社会経済問題でもあるとの認識で一致しました。
具体的な行動としては、
- 遺伝資源(≒動植物)の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分の促進
- 野生生物の持続可能な利用(取引)のための違法取引に対する行動
- 違法伐採に対する取り組み
などです。これらについても優良事例の共有を通じて、経済的アプローチを活用した生物多様性の保全についてG7が主体となって進めていくとしています。
4)気候変動と関連施策
昨年の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)第21回締約国会議(COP21)における気候変動に関するパリ協定では、先進国のみではなく、すべての締約国に温暖化対策が義務付けられた歴史的転換点である事が確認されました。パリ協定は、世界気温の上昇を産業革命以前よりも2℃より十分下回るように抑えること、及び1.5℃まで制限するための努力を追及することを含む長期的な世界全体の目標を明確に示しています。2016年4月に開催されたパリ協定の署名式において170ヵ国以上が署名し、批准する意思があることを表明しました。
各国が批准に向けて動き出している中、G7は自国内の措置を強化し、早期かつ着実な実施により、リーダーシップを発揮していくことを約束しました。
具体的には、
- 温室効果ガスの排出量と吸収量間の均衡の達成などの「長期温室効果ガス低排出戦略」の策定
- 経済セクターや家庭レベルを含むすべてのレベルにおいて環境劣化を最小限に食い止めるためのより大きなイノベーション
- 環境・社会・企業統治(ESG)投資の促進による経済、金融システムのグリーン化(低炭素技術、サービスへの投資の集中)
- 炭素価格付けなどの政策手段
- 革新的技術の開発と社会への実装は不可欠であり、二国間クレジット制度(JCM)などを通じて優良事例や知見の共有
- ブラックカーボン、メタン、地表オゾン、ハイドロフルオロカーボン(HFCs)などの排出量の緩和。(HFCsの段階的な削減や使用済み機器中のフロン対策など)
- 国際航空と海上交通からの排出削減
- 資金、人員による開発途上国への支援と協力
などが挙げられています。
5)化学物質管理
バーゼル条約、ロッテルダム条約、ストックホルム条約、水俣条約などを通じて化学物質リスクに関する情報や取組を促進するとしています。
具体的には、
- 化学物資のリスクから子供を保護する政策立案を支援するための環境研究やリスク評価、基準設定などの科学的知見の共有
- 水銀に関する水俣条約の早期発効と効果的な実施
などが挙げられています。
6)都市の役割
人口集中の続く都市部では、温室効果ガスの排出によって、環境被害や環境リスクが生じています。そのような状況において、都市や準国家主体は既に様々な環境保護プログラムに取り組んでおり、これらの共有が重要であること、また、持続可能な開発及び環境保護促進において都市や地方自治体による貢献は重要であると確認されました。
7)海洋ゴミ
海洋ゴミとは、海に浮遊するプラスッチクごみ及び、マイクロプラスチック等を指します。
プラスチックゴミは生物によって分解されにくいため、海洋を長く漂流します。また主にプラスチックごみから派生したマイクロプラスチックは、海洋生物等に取り込まれ、海洋生態系に脅威を与えています。これらの問題に対し、エルマウサミットでは、「海洋ゴミ問題に対処するためのG7行動計画」を策定し、効率的な実施を検討するとしており、今回の大臣会合では、以下のような具体的な施策の実施を約束しました。
- 陸域を発生源とする海洋ゴミの発生抑制と削減
- 海洋ゴミの回収と処理
- 海洋中に存在する、及び、海域を発生源とする海洋ゴミの削減
- マイクロプラスチックの生態系への影響評価
などであり、定期的な優良事例共有などのフォローアップをするとされています。
これらの議題について継続的に議論するために、G7環境大臣会合を定期的に開催することを検討するとされました。
これら環境大臣会合で議論された内容のうち、気候変動への取り組みや資源効率・3Rにおいて採択された「富山物質循環フレームワーク」に関しては、伊勢志摩サミットの首脳宣言に盛り込まれました。
出所:首相官邸ホームページ 伊勢志摩サミット 第5セッション「気候変動、エネルギー」
【参考資料】
外務省ホームページ
富山物質循環フレームワーク(仮訳)
環境省ホームページ
G7富山環境大臣会合コミュニケ(仮訳)
首相官邸ホームページ
伊勢志摩サミット
この記事は
バイオディーゼル岡山株式会社
三戸 が担当しました