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EUのCE(Circular Economy)政策 その9
〜EU加盟国の具体的取組①〜

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様

公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)

今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。

【その9】EU加盟国の具体的取組

CEが公表されたのは2015年。EUで大きな方向性が示された後、実際に政策に落とし込むのは、各国に任されているとの事でしたので、今回はEU各国の実際の取り組みについて教えて頂きます。

CEに関する取り組みについて、欧州各国でいろいろな動きが出てきていますのでご紹介します。

欧州において、資源効率や循環経済をテーマとして戦略などを持っている国を中心に、各国のホームページなどを参考にして調査をしました。ドイツ、オランダ、フランス、スウェーデン、フィンランドにおけるCE・REにかかわる各国の戦略と政策等や、EC(ヨーロッパ委員会)、オランダ、スウェーデン、ドイツにおけるCE・REにかかる最近実施された具体的な取り組み事例をご紹介します。

その中で非常に野心的な目標を掲げているというか、大胆な書きぶりだと思うのは、フィンランドです。

1)フィンランド

2016年に “Leading the cycle -Finish road map to a circular economy 2016-2025“ という文書が、SITRA(フィンランド国立研究開発基金)によって公表されました。
省庁から発表された文書というわけではありませんが、作成には、環境省・農業森林省・経済雇用省をはじめとした政府各省に加えて、専門家・企業・NGOが参画・協力しています。

2025年までにフィンランドを循環経済における世界のリーダーにすることを目標に、経済・環境・社会それぞれの側面において資源効率・循環経済を促進するための取組指針が示されています。

【参考資料】
Leading the cycle -Finish road map to a circular economy 2016-2025

その目標を達成するために

  • 企業発展と輸出促進を目的として、包括的な循環経済の解決策を生み出す。
  • 物質効率的・低炭素的解決策によって、循環経済の実施を促進するような国内市場環境とする。
  • 素早い行動と具体的な試みの実施、循環経済を主流化を進める。
    まず、フィンランドが強みを持つ分野で、循環経済の促進を始め実践的なパイロット事業を始める。同時により広範な分野で長期的な変革に向けた政策のための基礎と意志を構築する。

という事を掲げています。

まずは、①食糧ループ、②森林関連産業、③技術(一次資源資料最小化や物質・製品寿命最大化、④交通・物流(化石燃料フリーのシステム)、⑤共通の行動(各主体のシステム的変革))の分野で循環経済に取り組むとされています。

フィンランドは、環境の分野でそれ程先進的な印象はありませんでしたが、「CEにおける世界のリーダーになる」という目標を掲げるのは、すごいですね。

フィンランドは、製紙・パルプ・木材、金属・機械および電気・電子機器、情報通信等が主要産業といわれており、第2次産業の割合が約2.5割(日本と同程度の割合)と比較的高い国です。他方、ネット(純量)でみると金属などは資源輸入国でもあり、また、製品輸出型の経済でもあります。

日本もそうですが、以前、こういった経済構造(資源輸入・製品加工輸出)を持つ国が資源効率的社会の構築のための意欲を持ちやすい(政策開発/評価が活発)という研究を進めたことがありますが、経済安定化に向けた今後の産業多様化・新規産業創出などの観点もあわせて、CEで先手を取って、市場をリードしたいと考えたのではないでしょうか。

なお、本戦略をとりまとめたSITRAは政府と連携して、2017年6月に世界循環経済フォーラム(WCEF)を開催しました。欧州内外からビジネスパーソンも含め約1,500人の参加を集めたことからも、その熱意や盛り上がりがうかがえます。

【参考資料】
World Circular Economy Forum(WCEF)
Journal of Industrial Ecology:工業化諸国における能力開発のための国際比較と提言

2)スウェーデン

スウェーデンは、2012年に “From waste management to resource efficiency -Sweden’s Waste Plan 2012-2017“ が公表しています。これは、環境庁採択の計画で、建設廃棄物、家庭廃棄物、食品廃棄物、廃棄物処理、不法輸出防止に関する取組が示されています。

【参考資料】
From waste management to resource efficiency -Sweden’s Waste Plan 2012-2017

様々な目標が本計画には掲げられているのですが、数値目標があるようなものとして、

  • 2020年までに、非有害建設・解体廃棄物の再利用、リサイクル、その他回収のための前処理を、重量で最低でも70%実施する
  • 家庭廃棄物のリサイクルを増加させ、最低でも90%の家庭が収集に満足
  • 2018年までに、一般食品廃棄物のうち最低でも50%は、分別・生物学的に処理を実施する

というものがあります。

この他、繊維製品(テキスタイル)の再使用やリサイクルを進めるという目標もあります。確かにスウェーデンに本社があるH&Mは衣類リサイクルの取り組みを進めているという印象がありますね。
これは、2012年から2017年までの行動計画なので、今後これに続く計画が作成されるのではないかと期待しています。

家庭が収集に満足することを目標としているというのは、行政サービスの顧客満足度を高める様なイメージですか?

面白い観点ですよね。これは、そもそも、リサイクルを強化するためには、まず分別・収集体制を整えることが大切だという認識の下、市民が分別をしやすい環境をつくりだすこと・また分別収集所が都市環境と調和するようにすること、かつ、家庭からでる有害廃棄物や粗大ごみなどが安全に分別収集されることを狙いとしているようです。

さらに、スウェーデンでは、「修理に対する付加価値税減税」を実施しています。これは、付加価値税法(Value Added Tax Act(1994:200))の改正で、2017年1月1日に発効したものです。

  • 自転車・靴・革製品・衣服・家庭リネンの修理(定期メンテナンスや防水加工などの予防手段も含む)に関する付加価値税率を25%から12%に減税
  • (白物家電の)修理・保全・延長・維持等を行う個人への修理関連人件費に対する減税

本税制の提案文書によれば、2017年歳入は270百万クローナ(35億円)減少の見込みと書かれています。

税率が高いので、13%減税されてもまだ12%課税されているのにも驚きです(笑)

このような修理活動は高等教育を必要としない、教育が不十分な市民への雇用提供の意味もある。とも、税制提案の際の文書にも記載されています。
経済的なインセンティブと共に、産業構造や社会課題にも配慮していて、CEが単なる環境政策ではない事が、伝わってきますね。

もう1つ、スウェーデンでは、「主に白物家電などの家屋内での修理・メンテナンスに関する税額控除」を実施しました。
所得税法(The Income Tax Act(1999:1229))の改正で、2017年1月1日に発効しています。

所得税法に従来あった既存のROT(Repairs(修理)、Conversion(改良)、Extension(拡張))やRUT(Cleaning(清掃)、Maintenance(メンテナンス)、Laundry(洗濯))業務に関する税制控除の対象が拡張され、家屋内の白物家電などの修理・メンテナンスにかかる人件費に対する税額も控除される事になりました。

RUTについては、消費者が65歳以下の場合上限2.5万クローナ、65歳以上の場合上限5万クローナ、ROTとRUTを合わせて上限5万クローナ(63万円程度)等と、上限の規定もあります。この減税には550の企業が関連し、190百万クローナ(約25億円)/年歳入減見込みとされています。

【対象機器】
洗濯機、乾燥機、オーブン、冷蔵庫、冷凍庫、食洗機、ストーブ、暖炉、電子レンジ、換気扇、換気フードなど
※材料費や交通費は対象外
※賃貸家屋内の家電は対象外(消費者所有の家屋内修理に限る)

【参考資料】
スウェーデン政府広報
修理に関する付加価値税減税および白物家電の修理・メンテナンスなどの税額控除(財務省提案)

スウェーデン財務省提案を機械翻訳して読みましたが、「資源の使用量を減らし、廃棄物の排出量を減らす」ため、だけでなく、「気候変動の目標を達成する」ため、「雇用を後押しする」ため、とも書かれていて、広い視野で提案されている政策なんだなと改めて驚きました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「ドイツ、フランス、オランダの取組」についてお伺いします。


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