EUのCE(Circular Economy)政策 その2
〜行動計画の構成と内容−1〜
公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能な消費と生産領域
主任研究員
粟生木 千佳(あおき ちか)様
今回は2015年に欧州で発表され、海外で注目されている資源効率(Resource Efficiency)や循環経済(Circular economy:CE)に関する研究をされているIGES(Institute for Global Environmental Strategies)の主任研究員 粟生木 千佳(あおき ちか)様に「EUのCE(Circular Economy)政策」について、お伺いしました。
【その2】行動計画の構成と内容−1
前回は、CEの概要について教えていただきました。
今回からいよいよ具体的な内容について、ご紹介いただきます。よろしくお願いします。
■CEの概要
循環経済に向けた行動計画(Closing the loop-An EU action plan for the Circular Economy)は8つの大項目で構成され、バリューチェーンのそれぞれのステップでやるべきことを明確にしています。
- 導入
- -Introduction
- 【1】生産
- -Production
- 【2】消費
- -Consumption
- 【3】廃棄物管理
- -Waste Management
- 【4】再資源化
- -From waste to resource: boosting the market for secondary raw materials and water reuse
- 【5】重点分野
- -Priority areas
- 【6】研究開発と投資
- -Innovation, Investment and other horizontal measures
- 【7】進捗評価
- -Monitoring progress towards a circular economy
- 【8】結論
- -Conclusion
対象を限定したり、ある段階に着目するのではなくて、モノが製造されて使われ・消費され、廃棄されるまでの各段階が網羅され、さらには、研究開発や監視について含まれているんですね。
そうです。その1でもご説明しましたが、CEは目指す社会像を新たに構築する経済・産業施策に近いものと考えると理解しやすいと思います。
今回は、CEの項目のうち、【1】生産 と【2】消費について説明します。
【1】生産(Production)
生産は製品デザインと生産プロセスに分かれています。
1)製品デザイン
EUで2005年に発効(2009年より施行開始)したエコデザイン指令(EuP指令(2005/32/EC))の改正を中心に進めるとされています。
ポイントは、3点です。
1.製品デザインへの要求事項
製品の修理可能性、アップグレード可能性、耐久性・リサイクル可能性、また、特定の材料や有害物質の識別なども含めた課題を具体的に検証し、循環経済に関連する製品デザインへの要求事項の開発を検討します。このような観点が将来のエコデザイン指令に反映される見込みで、まずは、電子ディスプレイから取り組みを開始するとあります。
2.廃棄物に関する法令改正提案と拡大生産者責任
廃棄物に関する法令改正提案で、拡大生産者責任を規定することにより、よりよい製品デザインのための経済インセンティブを創出する。
現在、製造メーカーは、拡大生産者責任制度によるコスト負担しています。
このコスト負担を、製品が寿命を全うした後に必要となるコスト(end-of-life cost)に応じて変動させることにより経済的インセンティブを生み出し、よりよい製品デザインへ促進します。
製品が寿命を全うした後に必要となるコスト(end-of-life cost):分別・収集・選別などリサイクル・リユースにかかるコスト
3.取組の整合性
循環経済へ貢献するため、製品政策における様々な取組をより整合させるための行動やオプションを検証する。
規制を作る・規制の方向性を示すというよりは、検証して、今後どうしたらよいのかを検討する、という内容なのですね。
欧州委員会は、生産者・使用者(消費者)・リサイクル業者の関心が一致していない事を背景として指摘しています。行動計画に挙げられている例でいえば、消費者にとっては修理可能性が重要であったり、リサイクル業者にとっては貴重な物質(レアメタル・レアアースなど)がリサイクル容易であることが重要であったりします。
しかし、製品構造がそのようになっていないため、修理やリサイクルが容易ではなかったり、コスト高であったりする場合があります。
そこで、より長く製品を使用したり、リサイクルをさらに促進したりするために製品デザインの段階から何か対策をうてないかと考えているようです。
2)生産プロセス
生産プロセスについては、「非効率な資源使用はビジネスの機会を失い、廃棄物発生を増大させる」という認識がありますので、産業プロセスを資源効率的なものに変えて、より低コストな生産プロセスにしていきたいという考え方で組み立てられています。
大きな柱は2本です。
- 「利用可能な最善技術参照集(Best Available Techniques reference documents(BREFs))」に、廃棄物管理や資源効率に関する優良事例を追加する。また、別に、採掘廃棄物に関するガイダンス発行し、優良事例促進を進める。
- また、EU全体で2次資源市場に関する公平な競争環境を作り出すことを促進するため、EU全体で調和した副産物に関するルール(廃棄物かそうでないか)を明確にする。そういった取り組みを通じて、廃棄物に関する法令改正提案において、産業共生等を促進する。(産業共生:工場間等で連携して、資源やエネルギーの無駄をなくす取り組み。ここでは特に、ある工場で発生した廃棄物や副産物が別の工場の投入物となること。)つまり、生産工程で発生する副産物に関して、その定義に関するルールについて各国の共通理解を進め、EU域内での産業プロセスにおける副産物の活用促進を目指しています。
具体的な対策としては、
- 政策対話、パートナーシップ、貿易・開発政策を通じて、世界での原材料の持続可能な調達(Sustainable sourcing)を促進する。
- 産業設備への許可要件や、鉱業廃棄物の優良事例促進のために加盟国が考慮するべき利用可能な最善技術参照集(BREFs)」などを通じて、欧州委員会は優良事例の促進をはかる。
- 中小企業が資源効率向上の便益を受けられるようにするために、「European Resource Efficiency Excellence Center」を設置。
そこで、懸念化学物質の代替促進や革新的技術に関する情報の入手や革新的技術の利用を促進するなどといった取組が期待されています。 - 環境管理・環境監査スキーム(Eco-Management and Audit Scheme(EMAS))の効率改善や活用促進、環境技術実証事業(Environmental technology verification(ETV))のパイロットプログラムを通じた中小企業の支援を検討。
- Horizon2020と結束政策基金(Cohesion Policy fund)などを通じて、革新的産業プロセス(たとえば、産業共生、ガス状排出物の再使用、リマニュファクチャリング(再製造))を促進する。
- Horizon2020:
- EU史上最大の研究・イノベーション資金助成プログラム
駐日欧州連合代表部ホームページ
【2】消費(Consumption)
ここでは、消費者に“どのような製品が良いか”という情報の提供に焦点が当てられています。例えば、耐久性や修理、スペア部品の情報を消費者にどう伝えるかという検討や、保証期間が短いことにより、修理したいけれども諦めざるをえない状況に対して、保証をどのようにするのが望ましいかを検討する、とされています。
また、ちょっと興味深い内容として、計画的陳腐化への対応があります。例えば携帯のように2年経ったら新しいものに買い替えを促進する仕組みや、パソコンなどのOSが変わって使えなくなってしまうというような現状に対してより長期的に製品を使用していくために何か出来ないかという事を考えています。
あとはグリーン調達です。EUでは、政府調達が国の消費のEU-GDP比で約20%を占めていますので、グリーン調達を通じて、まず政府の消費の仕方を変えて行くということです。
まとめると、以下のようになります。
- エコデザインに関する取組において、耐久性と修理・スペア部品情報の入手可能性に関する検討をすすめる。また、将来のエネルギーラベル手法における耐久性情報の提供について検討する。
- 廃棄物に関する法令改正提案において、再使用行動を促進するための新しいルールを提案する。
- 製品保証のより良い実施に取り組み、可能な改善オプションを検討することにより、偽のグリーン宣言に対抗する。
- Horizon2020の下、独立した試験プログラムの準備を進め、製品の有効寿命を制限するような活動やその対策の検討を進め、計画的陳腐化に関連して発生する課題の特定を支援する。
- 新規又は改正調達基準において耐久性や修理可能性などの循環経済的側面を強調させ、欧州委員会がグリーン調達促進の実例を示すことによって、グリーン公共調達(GPP)の実施率拡大を進める。
なお、再使用や修理という労働集約的な分野を強化することによる雇用への好影響も期待しているようです。
“消費”というタイトルなので、消費者の“もったいない”国民運動を盛り上げよう、みたいな話かと思いましたが、市民の消費行動を変革させるために、政府・メーカーとしてどうすべきかを検討するという内容なんですね。
そうですね。その辺の行動を促すための枠を固めるような政策誘導の仕方は特徴的だと思います。
行動計画では、消費者が購入するモノを選択する際には、製品の品ぞろえや価格、規制枠組み、消費者が知りえる情報によって意思決定されます。しかし、様々な環境ラベルや環境にやさしいという製品PRなど、環境面について消費者が知りえる情報が乱立してしまい、消費者が製品の違いを判断したり、製品に関する情報の信頼性を判断するのは難しいのが現状と指摘されています。
また、“環境にやさしい製品である”と“グリーン“を主張している製品でも、(グリーンであることを証明するための)信頼性・正確性・明確性に関する法的要求事項に合致しない場合もあると指摘されています。
この他に、対策や今後の方向性として挙げられたものをまとめると、以下のようになります。
【商品情報】
- グリーン主張をより信頼性の高いものとする取り組み、不公平な商業習慣に対するガイダンスの更新、製品の環境フットプリントの試み、エコラベルの循環経済への貢献の検証
【経済的インセンティブ】
- 税などの経済的手法を通じたインセンティブ喚起を加盟国に推奨(環境コストを製品価格へ反映)
【長く使う(廃棄物の発生抑制)】
- 保証期間(2年)や立証責任の破棄など、製品耐久性・修理性に関わる課題について、特にインターネットショッピング等のオンラインセールスの議論において、検討
- 今後のエコデザインに関する取組を通じて、より耐久性を高め、より修理しやすく(特にスペア部品や修理情報(オンライン修理マニュアル等)の提供)するために必要な要求事項について検討
- 計画的陳腐化への対応
- 家庭廃棄物削減について、発生抑制とリユースに関する情報・優良事例の普及や、地方・地域レベルのプロジェクトに結束基金を提供
【新規ビジネス・消費モデル開発】
- Horizon2020・結束政策基金を通じた革新的新規ビジネス・消費モデルを開発
- 製品やインフラの共有・シェアリングを通じた共同経済(collaborative economy(sharing economy))
- 製品ではなくサービスの消費
- IT/デジタルプラットフォームの活用
- 共同経済のための欧州アジェンダ(行動計画)を開発
いろいろあってびっくりしました。長く使う事や修理などの再使用を通じて廃棄物の発生を抑制し、消費される資源の量を減らすんですね。
また、消費量を減らす一方で、いわゆる便利さを損なわないために、製品シェアなどの新規ビジネス・消費モデルを開発することも対策の中に挙げられていますね。
今回お話をお伺いして、日本と消費者に対する考え方が大きく異なると感じました。
日本にも、エコマークやグリーンマークなどたくさんの環境ラベルがあったり、環境にやさしいとPRする製品も多く、どれを選ぶのが環境行動に結びつくのか、よくわからないと思う事も多いです。ドイツやフランスには伝統あるオーガニックブランドが多数あるので、つい、ヨーロッパの製品=環境にやさしい、と思っていましたが、環境ラベルや環境にやさしいというPRに関して、EUでも同じような問題認識がされているというのも、驚きでした。
次回は、いよいよ廃棄物管理についてお伺いします。