DOWAエコジャーナル

本サイトは、DOWAエコシステム株式会社が運営・管理する、環境対策に関する情報提供サイトです。毎月1回、メールマガジンの発行と情報を更新しています。

文字サイズ

DOWAエコジャーナル > その道の人に聞く 記事一覧 > ライフサイクル設計 その1

その道の人に聞く記事一覧 ▶︎

ライフサイクル設計 その1

大阪大学 大学院工学研究科
機械工学専攻
ライフサイクル工学研究室
梅田 靖 教授

大阪大学ホームページ
大阪大学ホームページ 研究者総覧
梅田・福重研究室ホームページ

持続可能社会の実現に向けて世界中で様々な研究や取り組みが行われています。
今回のインタビューは、「環境に配慮したものづくり」の研究を設計学、モデリング、メンテナンス工学、知識工学などを基礎技術とした広い視点から研究をされている大阪大学の梅田靖教授にお話を伺っています。

【その1】 インバース・マニュファクチャリングとの出会い

私はDOWAで小型家電のリサイクルを担当しており、以前、「RtoS研究会」のワークショップでの先生のご講演内容に興味を持ちまして、エコジャーナルを購読いただいている方にもエコデザインの視点で先生の研究内容などをご紹介いただきたいと思い、今回お邪魔しました。

早速ですが、梅田先生はどんな研究をされていらしたのでしょうか?

そうですね、大学の頃からでよろしいですか?
私はもともと計算機が好きだったものですから、大学は東京大学の精密機械工学科というところで材料力学のFEM(有限要素法)で解析する3次元メッシュモデラーの研究をしていました。専らプログラミングを楽しんでましたね(笑)。

その後、修士〜博士課程では研究室が変わって、機械の設計方法を考える「設計学」の研究室で過ごしました。この「設計学」の研究室は、東大の総長をされていた吉川弘之先生の研究室で、私は「新しい知的機械の設計方法」というコンテキストで「概念設計」と「自己修復機械」の研究をしていました。
「概念設計」とは、設計の最初の段階で、どういう機械が欲しいか、どういうメカニズムでどういう構造にするかということの研究です。

「自己修復機械」とは何ですか?

一言で言ってしまうと「壊れても直る機械」ということなんですが、あまり聞き慣れないですか・・・、当時非常に流行っていたAI(人工知能)の技術を使って、自己修復プログラムという、計算機が自分の状態を把握し、問題がある箇所を修復したり調整したりするものです。その当時研究していた複写機が実際に商用化されたりもしました。

目詰まりなどで画像が汚くなったときに自動調整するというようなことですか?

画質調整や紙詰まりのようなこともそうなのですが。
我々は「機能冗長」と呼んでいて、例えば、自動車教習所で教わったことに、「マニュアル車で踏切の途中でエンストしてエンジンがかからない場合はセルモーターを使って脱出しましょう」というのがありますが、そのようにエンジンがかからなくなったような状態をコンピュータが自己診断して、エンジン以外の駆動力をつなぎあわせて危機や故障から回避させる・・という方法です。

そういうことができるプログラムを組み込んだ複写機の場合では、画像が汚くなったときに調整するということもしますが、例えばワイヤーが切れてしまった場合に、他の部品で代替させて、通常と同じアウトプットをする為の判断を機械が自動的に行います。

すごい機能ですね。先生が学生の頃にやられていたんですよね。今聞いても未来的です。
まだその頃は、環境問題は話題になっていなかった時代だったと思いますが、環境に関わるようなことはされていたのですか。

博士課程を修了したのが92年なのですが、92年といえばリオサミットが開催されて環境問題が注目された時期でした。当時、吉川先生がモノづくりも環境を考えなくてはならないということで「インバース・マニュファクチャリング」を提言していたんですね。私もこの「インバース・マニュファクチャリング」のラボで研究を続けていました。

「インバース・マニュファクチャリング」とはどういうことですか?

ちょっと古い言葉になってしまいましたね。
単純に言うと「逆生産」ということなんですが、現在研究している「ライフサイクル設計」の基礎になる持続可能な製造業のあり方の考え方で、製品がリサイクルされることを前提に作ることで、廃棄に回る資源を減らし、人工物が循環し続ければ恒常的に自然資源を使わなくてもモノを作り続けられるという考え方です。
これらの本が参考になるかと思います。

先生が環境の方に関わられるようになったのは、環境問題に対する社会的流れなどもあってこの頃から始まったのですね。

そう言うことになりますね、ちょうど家電リサイクル法が2001年に施行されて、98年に成立。その前に「家製協((財)家電製品協会)」がリサイクルプラントなどを始めていて、埋め立て処分場問題や資源枯渇問題が騒がれた・・ちょうどバブルがはじけた頃ですね。

大量生産というのは、大量廃棄を伴います。「設計学」というのは設計・生産というモノづくりを研究する学問で、生産に携わる身としてそれではよろしくないので、「適量生産で資源循環をエンベッドしたライフサイクル産業」と呼ばれるものに変わっていかなくてはならないのではないかという考えが「インバース・マニュファクチャリング」という提言になっていったんです。
今でこそ、大量生産、大量廃棄はやめましょうというのは普通に言われていますが、当時はまだ新しかったように思います。

そのような流れで研究を続けて来られて、今の研究室でもそれを引き継いでおられるのですね

そうですね、こちら(大阪大学)には2005年からライフサイクル工学の研究室を待たせてもらっています。
今の研究は、大きく分けると「ライフサイクル設計」と「持続可能社会シナリオ(3S)シミュレータ」になります。
「ライフサイクル設計」というのは製品の一生をうまく循環させるように設計することで「インバース・マニュファクチャリング」を実現化するための研究です。

もうひとつは「持続可能社会シナリオ(3S)シミュレータ」ですが、例えば「IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change」の持続可能社会シナリオなど、将来社会のシナリオは非常に複雑で解りにくいモノになってしまいますが、将来シナリオをもう少し合理的に理解して、世の中の人も将来シナリオを作れるようなものを作ったらよいのではないか・・という考え方で、「シナリオ制作支援システム」というようなものを研究・開発しています。

ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「持続可能社会シナリオ(3S)シミュレータ」についてお聞きしています。

※ご意見・ご感想・ご質問はこちらのリンク先からお送りください。
ご氏名やメールアドレスを公表する事はありません。

▲このページの先頭へ

ページの先頭に戻る