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対談企画 サーキュラーエコノミーは誰のため? その2

細田 衛士(ほそだ えいじ)様
東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

喜多川 和典(きたがわ かずのり)様
公益財団法人 日本生産性本部 エコ・マネジメント・センター長
上智大非常勤講師

長年にわたり、行政・企業の環境に関わるリサーチ及びコンサルティングにあたる。 経済産業省循環経済ビジョン研究会委員(2018年度~2019年度)、ISO TC323エキスパート(2019年~2023年)、NEDO技術委員などを歴任
おもな著書に、「サーキュラーエコノミー 循環経済がビジネスを変える」勁草書房、「環境・福祉政策が生み出す新しい経済 “惑星の限界”への処方箋」岩波書店 等がある。

■カーシェアは何のため

喜多川

ヨーロッパに出張した時に、ベルリンでシェアカーが増えているとテレビニュースで放送されていたんです。ベルリン市の職員がインタビューで「シェアカーが増えると、どういう良いことがあるのですか」と聞かれて「緑地が増える、グリーンスクリーンスペースが増える」と答えていました。

その後、ヨーロッパで車を作っているメーカーの方とディスカッションした時にも、車のシェアは、環境のためではなくて公共の駐車場を減らすことに主眼が置かれてると言っていまして、あぁなるほどなと思ったんです。

上田

公共の駐車場を減らして、緑地にするのですか?商業施設を建てるとか、複合施設を建てるとかではなく?

喜多川

SDGsの観点で、都市の緑地率を高めようとしているんです。地域の緑地率と住民の心身の健康、つまりウェルビーンとの関係が学術的にも明らかにされてきており、緑地率が低いと犯罪も多くなるため治安が悪化すると言われています。また市民も緑地を増やすことを支持しているので、自治体の政策として緑地率を増やす努力をしている、と言っていました。

細田

いや、面白いね。本当に面白い。
日本だったら、公共の駐車スペースを減らして、そこに商業施設を建てましょうとなりますね。今、東京で都心の木を切って再開発しようとしているのは、ヨーロッパの人から見ると信じられないんじゃないかな。明治の時代の先人が考えて植林をした貴重な緑を伐採しちゃうというのはね。

上田

便利だしCO2削減にもつながるから、という目的ではなくて、緑地を増やすために、駐車場を減らす。そのために、カーシェアを導入するという発想の違いは、SDGsに関する指標があるかないか、によるものなのでしょうか。

喜多川

指標が普及しているかどうかは、1つの理由だと思います。
ただ、単に指標の有無ではなくて、ヨーロッパでは市民や市議会の議案としてそういう提案が積極的に出てくる、というところが違いとなっているのではないでしょうか。

■サーキュラーエコノミーは地域環境政策

喜多川

日本では国の政策として容器包装リサイクル法や家電リサイクル法、建設リサイクル法といった政策がありますが、ヨーロッパの場合、サーキュラーエコノミーの政策というと、例えば建築廃材をいかに地域の中で循環させられるか、ベルリンならベルリンの都市の中で解体される建築物がいかに次の新しいその建築物の材料にできるか、というような地域での資源循環も重要な視点になります。

上田

リサイクル率だけでなく、地域内での循環に主眼が置かれているんですか?

喜多川

ヨーロッパは、木造建築が少なくて建物も長期間使用されるので、めったに解体されませんが、それでも解体によって発生する廃棄物はものすごい量で、廃棄物に占める割合は建廃が一番多いので、それをいかに建築物に戻せるか、にチャレンジしている。
ドイツ環境庁の方も新しい建築物の10%以上、建築物由来のリサイクル材を用いる政策を実施したいと言っていました。オランダも同じで、アムステルダムのスマートシティの1番の重点ポイントは、建設廃棄物のリサイクルだそうです。

細田

地域の環境政策ですね。

喜多川

そうです。ヨーロッパのサーキュラーエコノミーは、基本的に地域の環境政策として、その地域のサステナビリティ、つまり持続可能性というところが基礎となります。

ヨーロッパの都市は、昔は都市国家的な位置付けだったので、いまだに都市ごとの自治意識がとても強いのだと思います。地域市民というのでしょうか、 環境整備にコミットして、しかも都市や域内のことを考える、というところが根っこにあるのでしょうか。

細田

ヨーロッパの自治意識は地域の中にあって、市民が地域内のことを考えるので環境政策にもそれが反映されますね。

上田

地域の政策というと、日本でも都道府県や市町村など、自治体単位で資源循環や低炭素な社会を目指す活動も増えてきていますが、そういう活動が積み重なっていくようなイメージでしょうか。

細田

例えば、プラスチックの例だと、仙台市や横須賀市や三河安城市などの自治体で取り組みが始まっていて、確かに地域が中心となって実施されているので、市民が協力して動いていくのだけれども、ヨーロッパの自分たちで作り上げるという感覚の自治意識とはちょっと違うような気がします。
アメリカもヨーロッパとまた少し違うけど、コミュニティの意識がありますね。

(参考サイト)
製品プラスチックの分別収集が始まりました!(仙台市ホームページ)
プラスチックの一括収集・リサイクルについて大臣認定を受けました(横須賀市ホームページ)
プラスチック資源一括回収について(三河安城市ホームページ)

上田

自治意識、、、自分たちで作り上げるというというイメージだと、戦後の学生運動のようなイメージでしょうか。反戦運動や反差別運動など、政権に立ち向かっていたのかなと思います。

細田

1969年の10.21国際反戦デーなど、その他にも色々ありました。でも同一陣営内での暴力闘争(ウチゲバ)もあって、 一般の学生が離れていってしまった。

その当時、自治意識のようなものはあったのかもしれないけれど、ヨーロッパで長い時間かけて培われてきた、自分たちで市民として政治的にコミットして自由を勝ち取ってきた経験がないので、続かなかったのかもしれない。積み上げて積み上げて、自分たちでコミュニティの地域政策につなげていくという発想が希薄だったというか。

それが今のヨーロッパと日本のサーキュラーエコノミー政策の違いにもなっているんじゃないかな。

あと、企業が危機意識を持ち始めていて、例えば資源問題が大変だという意識があっても、それが地域政策みたいなこととしてボトムアップで出てくる雰囲気があんまりない。

喜多川

ヨーロッパは、政治に対して機能する民意っていうのが日本よりはしっかりしていると感じます。

細田

でも、一方でね、日本人は真面目だから、レジ袋を有料化すると6割ぐらいは辞退するし、ゴミの分別など行政には協力する。20以上の分別回収をしている自治体もあるけど、ヨーロッパでは難しい。日本の折り紙の文化だと思うのだけど、細かいことはやれるし、3Rを推進しようと言えば真面目にやるのだけど、地域の政策に繋がるような、市民の行動とはちょっと違う。

自分たちの地域の政策概念を自分が体現しているという意識はあんまりないんじゃないかな。

上田

市民として自分の意思がない、ということですか?

細田

政策的に影響を与えるパワーを我々市民が持っているんだという意識があんまりないように感じる。お上が偉い、という意識がまだまだどこかにあるんじゃないかな。

上田

政策的に私は選挙に行かなきゃ!と思って選挙には行きますが、単に投票するだけであって、自分が市民としてパワーを持っている実感はありません。

喜多川

例えば、ヨーロッパだと、サーキュラーエコノミーやサステナビリティなどに関して、地域の中で資源循環をどうするか、とか、モビリティをどうするか、とかテーマごとにいくつかのシナリオを政府側が提示して、そのシナリオに対して投票するケースがあります。例えば5つシナリオのあるうちの上位2つが明確に支持されたとしたら、どちらかを選択するのではなく、その2つのいいところ取りをできないか、市民も集まる会議を開いて議論をして、どうしていくのかを決めていきます。

こうして市民の人たちが明確に支持した政策シナリオであれば、実行するにあたって市の担当者側も自信を持って実施することができます。実施する上で法律上のバリアを乗り越えないと政策シナリオを実行できない場合でも、市民がそのシナリオを支持しているということであれば、その法制度に対する色々な障害を取り払っていくことにもつながるんです。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回の記事もお楽しみに!


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