研究発表−5:濁水回収ノズルを用いた水による土壌撹拌・除去技術の除染効果
第19回 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2013年)
国難とも言える福島第一原子力発電所事故による放射性物質による大規模な土壌汚染に対して、できるだけ簡素なプロセスで安価な浄化方法を提供できるようになることを目指して研究しております。
引続き、技術の開発を進めるともに工法のマニュアル化・普及にも取り組み現場にて広く採択される技術をなることを目指しております。
「濁水回収ノズルを用いた水による土壌撹拌・除去技術の除染効果」
ジオテック事業部 奈良部 善之
1. はじめに
平成23年の東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い生じた放射性物質汚染土壌の浄化(除染)に関する技術開発は依然として急務である。現在、土壌中の放射能濃度が高い農地では除染手法として主に「表土の削り取り」等の工法が検討されている1)が、施工に際しバックホウ等の重機を用いる工法では一部の圃場において耕盤が破壊される可能性があることが懸念されている。
また、同様の農地除染手法として、「水による土壌撹拌・除去」による表土の分離回収も検討されているが、現在の標準的手法では撹拌後の泥水を人力やトラクターで排水溝に押し出す方法が取られており2)効率の点で改善の余地がある。
そこで、筆者らは「水による土壌撹拌・除去」工法を改良して湛水した圃場においてトラクターで撹拌(代かき)を行いながら発生した泥水を吸引回収する方法で工法の効率化・省力化を目指した研究開発を行った。
なお、本研究は新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業・緊急対応研究課題「既耕転農地の放射線量低減のための低コスト客土及び土壌攪拌技術の高度化」(平成23年度)及び農水省委託プロジェクト研究「農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発」(平成24~26年度)に採択されたものであり、農林水産省からの助成を受けて実施された。本報では平成23年度から平成24年度までの成果を報告する。
2. 除染実証試験(平成23年)
2.1 試験概要
平成23年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業・緊急対応研究課題「既耕転農地の放射線量低減のための低コスト客土及び土壌攪拌技術の高度化」実証試験として福島県農業総合センター内の試験圃場等(福島県郡山市)において上記目的で開発した簡易濁水回収ノズル及び吸引・分級・脱水システムの試験を行った。
2.2 試験詳細
2.2.1 全体フロー
(試験システム全体のフロー図を図1に示す)
次節以下に示すように、簡易型の濁水回収ノズルを一般的なトラクターに取付けた状態で代かきを行い、発生した濁水を真空バキューマーで吸引回収する方式とした。回収した濁水は既存のモバイル型土壌洗浄プラントを応用して構築した水処理プロセスで分級及び脱水を行った。
ここで、土壌中の放射性セシウムは粘土等の細粒分に選択的に吸着しており、相対的に汚染の少ない砂などの粗粒分を分離することで浄化土壌を回収(汚染土壌を減容化)できるという前提は一般的な重金属汚染土壌の洗浄処理の場合と同様である。
図1:試験システムフロー図(平成23年度)
2.2.2 簡易濁水回収ノズル
簡易濁水回収ノズルの作成に際しては、汎用資材により簡易に作成可能であることを目標として市販されている塩化ビニールパイプ等を加工して試験機を作成した。
(簡易濁水回収ノズル(平成23年度型)の写真を図2に示す)
ノズルは試験で使用するトラクターのドライブハローの後部に直接取付けられており、代かき時に発生する濁水を真空吸引する。
図2:濁水回収ノズル(平成23年度)
図3:濁水回収状況(平成23年度)
2.2.3 分級・脱水システム
真空バキューマーから排出された濁水はサイクロン及びハイメッシュセパレーターにより砂等の粗粒分と粘土等の細粒分に分級される。また、今回は事前に対象となる試験圃場の土壌の分級試験を行い、各粒度区分ごとの放射能濃度を分析した。その結果に基づき、サイクロンでの分級点は0.075mmに設定した。
ハイメッシュセパレーター等で粗粒分を分離した後の濁水は凝集剤による前処理後にフィルタープレスにおいて脱水した。なお、今回は対象地が農地ということでアルミニウム系の無機系凝集剤が使用できないという制約条件があり、有機系高分子凝集剤のみで前処理を行うこととした。最終的に土壌中の放射性セシウムは0.075mm以下の細粒分に濃縮される。
2.3 試験結果
予備試験として農村工学研究所内(茨城県つくば市)において、本試験として福島県農業総合センター内の試験圃場において試験圃場を対象に実証試験を行なった。
本試験では約50m2のエリアを対象にトラクターで代かきを行いながら濁水を掃引した。トラクターの走行速度は2.6m/分と出来る限り低速に設定し、N字を描くように1.5往復掃引することを1セットとして11セット分の掃引試験を行った。
濁水の回収状況を図3に示す。掃引1セット分の平均回収量は約1.5m3であり、積算回収量は16.7m3(土壌に換算すると4.1tに相当)であった。
また、対象圃場表層土壌における残留放射能濃度は試験前の時点で2,795Bq/kgであったが試験後は609Bq/kg(後述の粗粒分埋め戻し前)となり、約78%の濃度低減が確認された。
また、回収後の土壌に占める砂等の粗粒分の割合は約45%であり、粗粒分の平均放射能濃度は238Bq/kgであった。最終的に粗粒分は元の圃場に埋め戻したため、約45%の減容化が達成された。
上記の通り、既存のトラクター及び塩ビパイプなどの汎用資材で作成した簡易ノズルを使用した今回のプロセスで農地土壌の除染と減容化を効率よく行えることを確認した。一方で、今回のプロセスでは分級・脱水といった水処理系統はモバイル型土壌洗浄プラントを応用してハイメッシュセパレーターなど大型の機材を使用したため、簡易化・小型化の点で課題が残った。また、農地土壌には大量の稲わらが混雑しており、工程内での閉塞に注意する必要があった。
3. 除染実証試験(平成24年度~)
3.1 試験概要
後述の平成23年度の試験結果を踏まえ、更なるシステムの効率化と簡易化を目指して研究開発を行った。平成24年度からは農水省委託プロジェクト研究「農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発」①高濃度汚染地域における農地土壌除染技術体系の構築・実証(ホットスポット水田の除染技術)の内の「大規模水田における土壌攪拌による放射性物質低減技術体系の構築」として行われている。
全体のシステムフローとしては平成23年度のものを踏襲しているが、下記の通りに改良を目指した。試験は福島県相馬郡飯舘村の耕起された水田で行った。
3.2 試験詳細
図4:改良型濁水回収ノズル(平成24年度)
3.2.1 改良型濁水回収ノズル
平成23年度のシステムでは対象土壌を全量吸引回収し、その後サイクロンやハイメッシュセパレーターで分級するフローとしていたが、平成24年度のシステムでは更なるシステムの小型化を目指して濁水回収ノズルで吸引する時点で砂等の粗粒分を吸引せずに粘土等の細粒分のみを選択的に吸引することで水処理システムを簡素化することを目指した。
具体的には、ノズル開口部面積を調整することで砂等の粗粒分を吸引できないレベルまで流速を低下させた。また、昨年度のノズルではノズル間が比較的離れていたために、吸引回収時にノズル間で取り残しが発生していた。
そこで、平成24年度は樋型のノズルを開発して表層土壌を漏れ無く回収できるように改良した。但し、開口部面積及びノズル設置角度などは試験中に回収濁水の状態を見ながら調整を行った。(初期時点での改良型濁水回収ノズルを図4に示す)
3.2.2 水処理システム
上記の濁水回収ノズルの改良と合わせ、サイクロン及びハイメッシュセパレーターを省略した簡易型の水処理システムを構築した。また、濁水の処理に際して鉄製のタンクではなく濁水回収ノズル同様に合板や単管などの汎用資材で作成した簡易連続沈降槽を導入し、システム全体をより簡易化することを目指した。但し、稲わら対策として小型の振動ふるいを使用した。脱水工程に関しても、フィルタープレスではなく袋脱水(ロジパック)工法を導入し、低コストでの処理を目指した。(平成24年度の試験システムの全体フローを図5に示す)
図5:試験システムフロー図(平成24年度)
3.3 試験結果
改良型濁水回収ノズルの各種条件と回収濁水の粗粒率及び濃度の変化を図6に示す。但し、「粗粒率」とは回収された濁水中の固形分に占める300μm以上の粒子の割合とする。また、ノズルの開口部面積はノズルの切込み開放角度と対応しており、塩ビパイプを断面方向から見て1/4(90度)切り取った状態から試験を開始している。
初期状態では粗粒率は1%程度だったが、濁水濃度も1%と非常に低かった。そのため、ノズルを前方に付け替えた状態(90度前方)では濁水濃度が6%程度まで上昇したが、粗粒率も4.5%程度まで増加した。さらに、ノズルの切込み開放角度を120度まで拡大したが、濁水濃度は7%程度までの上昇に留まった。粗粒率も5%程度まで上昇した。ノズルの切込み開放角度は最終的に150度程度まで拡大した結果、濁水濃度は12%程度まで上昇した。但し、粗粒率も10%程度まで上昇した。但し、この粗粒率は平成23年度試験時に比べると35%程度低減されている。
図6:回収濁水の濃度・粗粒率の変化
従って、今回作成した改良型のノズル(樋型150度前方条件)で濁水濃度10%程度の回収効率を見込めることが判明したが、同時に粗粒分の巻込みも発生する可能性が高く、砂抜き穴などのノズル形状の更なる工夫及び小型サイクロン等による砂除去工程の導入を検討する必要がある。
また、今回の試験で回収された総濁水量は91.4m3、元土換算で15.1t(表層0.9cm相当)、総回収ベクレル量は約9,170万Bq(平均濃度12,860Bq/kg)であった。
水処理システムに関しては、新しく導入した連続凝集沈降槽の動作は良好であり、設備全体を可搬性の高い簡易なものとすることが出来た。
袋脱水工法(ロジパック)については、脱水性は良いものの作業性の改善に課題が残った。試験中の水処理後の放流排水(清澄水)及び放流先の河川水からはいずれも放射能は検出されなかった(検出下限値:約1Bq/L)。
4. まとめ
平成23年度及び24年度の実証試験を通じて、バックホウ等の重機を用いずに農地から効率的に放射性セシウム汚染土壌を分離・回収する方法を開発した。また、塩ビパイプなど汎用の資材を用いてシステム全体を簡易で低コストなものとすることに成功した。
一方で、より迅速に除染を行うために、濁水回収ノズルの形状などを改良して汚染土壌の回収速度を向上させる必要がある。今後は、一連の試験を通じて得られた知見を生かして、福島県内での本格除染の実施に貢献して行きたい。
5. 引用文献・参考文献
1) 環境省(2011):
除染関係ガイドライン
2) 農林水産省(2012):
農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)作業の手引き(第1版)など
この記事は
DOWAエコシステム ジオテック事業部
奈良部 が担当しました