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研究発表−4:放射性セシウム含有土壌の処理について

第19回 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2013年)

東日本大震災によって生じた福島第一原子力発電所事故により、広範囲に放射性物質が拡散し、土壌汚染等の問題が生じています。これに対して、当社が培ってきた鉱山技術、土壌処理技術が役立つかもしれないとの思いで取り組み始めました。
今後もより効率的な処理法についてを開発し、提案していきたいと考えております。

「放射性セシウム含有土壌の処理について」

ジオテクノス株式会社 友口 勝

1. はじめに

放射性セシウム(以下、Cs)含有土壌の減容化処理方法として、洗浄分級処理1)、2)、3)、抽出処理4)、5)、6)、熱処理7)等の種々の提案がなされている。
これらの処理費用は一般に上述の順にコストが高くなり、除染率(=(1-処理土壌のCs濃度/処理前土壌のCs濃度)×100[%])および減容率(=(1-処理土壌の重量/処理前土壌の重量)×100[%])も同様に高くなる傾向である。

これら処理法のうち洗浄分級処理は一般の重金属汚染土壌の処理法として広く普及しており、Cs含有土壌においてもその有効性は公知のところである。洗浄分級法の利点としては、大量処理が可能であり、低コストであることが挙げられるが、土質により十分な除染率が得られない、粘土分が多いと減容率が小さく適さない、等の課題がある。
これに鑑み、筆者らは除染率の向上を目標として洗浄分級処理と浮選法の組み合わせ適用を検討してきた2)

今回は浮選法における浮選条件のさらなる検討、ならびに洗浄分級処理と抽出処理法の組み合わせ適用につい基礎的に試験検討を行ったので報告する。

2. 試験方法

2.1 試験に供した試料

某所より採取した実際のCs含有土壌を有姿で目開き10mmの標準篩を用いて篩分けした土壌を試料とした。
(表2-1に土壌中のCs濃度を示す)
ここで、Cs濃度測定はNaI(Ta)シンチレーション検出器(日立アロカメディカル社製 食品放射能測定システムCAN-OSP-NAI)を用いて行った。以下、Cs濃度測定は同様に実施した。

2.2 洗浄分級処理試験について

(図2-1に試験フローを示す。)
土壌試料500gをφ210mmポットミルに入れ、引き続き、1Lの水、および磨砕メディアとしてφ20mm磁性ボール1kgあるいは鉄球3kgを入れて密栓し、ポットミル回転台上にて所定時間、25rpmにて磨砕処理を行った。その後、ポットミル内のスラリーを取り出し、目開き38μmの標準篩および振動フィーダーを用いて、所定量の水を篩上に注ぎながら、湿式分級した。

網下のスラリーは5C濾紙にて吸引ろ過し、脱水ケーキおよびろ液(洗浄水)を得た。脱水ケーキは風乾して、粒度区分-38μmとした。
網上は風乾後、目開き4.7、2、0.6、0.3、0.15、0.075および0.038mmの標準篩を用いて乾式で分級を行い、粒度区分10/4.7mm、4.7/2mm、2/0.6 mm、0.6/0.3mm、0.3/0.15mm、0.15/0.075mm、0.075/0.038mmおよび-0.038mmを得た。乾式分級で得た-0.038mmは湿式分級で得たそれと混合した。各粒度区分を秤量し、Cs濃度を測定した。

2.3 浮選試験について

(図2-2に試験フローを示す)
洗浄分級処理の組み合わせ処理方法として、泡沫浮上処理法の適用を試みた。
対象試料は2.2にて得られた10〜0.075mm区分を対象とした。
対象試料500gをφ210mmポットミルに入れ、引き続き、1Lの水、および磨砕メディアとしてφ20mm鉄球3kgを入れて密栓し、ポットミル回転台上にて10分間、25rpmにて磨砕処理を行った。

その後、ポットミル内のスラリーを取り出し、京大式浮選試験機に入れて攪拌した。
当該土壌は植物を含むため、最初に起泡剤としてパイン油のみを添加して、空気を導入し、形成された泡層(以下、フロス)を回収した。

引き続き、空気導入を止め、pH調整剤、種々の捕収剤(陰イオン系として脂肪酸系あるいはスルホン酸系、陽イオン系としてアセトアミン系のいずれか)および起泡剤等を順次所定量添加して数分間攪拌した後、再び空気を導入し、15分間フロスを回収した。
フロスおよびフロス回収後の土壌スラリーは、それぞれ5Cろ過して、風乾し、秤量およびCs濃度測定を実施した。

2.4 抽出処理試験について

(図2-3に試験フローを示す)
対象試料は-10mmあるいは2.2にて得られた10〜0.075mm区分とした。
対象試料100gを1Lポリ容器に入れ、交換陽イオンとして、任意のカリウム塩、塩化マグネシウム、塩化カルシウムあるいは塩化バリウムを所定量混合した後、酸(塩酸または硫酸)所定量を水20〜30mL程度とともに混合して泥状とした。常温で任意期間静置した後、容器に500mL水を加えて10分間振とうし、容器内スラリーを5C濾紙にてろ過して処理土譲と抽出液を得た。
それぞれ秤量後、Cs濃度を測定した。

3. 結果および考察

3.1 洗浄分級試験の結果

(各磨砕条件により得られた通過粒径積算分布率および各粒度区分のCs濃度濃縮比(=産物のCs濃度/処理前のCs濃度)を図3-1および図3-2にそれぞれ示す。)

磨砕後の粒度分布をみると、磨砕時間の増加に伴い、細粒が増加する傾向を示し、-0.038mmの分布率では、磁性ボール10分で22wt%であったのに対し、鉄球30分では34wt%まで増加している。これに対して、各粒度区分のCs濃度濃縮比は、磨砕時間の増加にともない0.6/0.3mm区分で特異的な濃度上昇がみられた。産物を観察すると植物が絡み合っており、これにCsが濃縮しているものと判断した。

この区分を除いて、Cs濃度は粒径が細かくなるほど、高くなる傾向を示した。細粒区分でCs濃縮比の上昇がみられる0.075mmを分級点として、+0.075mmを浄化土と想定した場合の除去率と減容率(図3-3)をみると、減容率は磨砕時間の増加に伴い細粒が増加するため低下し、一方、除染率は、一般に磨砕効果が増すほど、粗い土壌粒子表面に付着したCsが研ぎ落とされるため、除染率は上昇すると考えられるが、試験した範囲で概ね40%台と比較的低い値で概ね一定となった。これは上述の細かな植物の混入が原因と考えられる。

本対象試料のような植物の混入した土壌の洗浄処理にあたっては、植物の除去工程が必要である3)。なお、洗浄水の134Csおよび137Cs濃度は、それぞれ30Bq/L以下および45Bq/L以下であった。

3.2 浮選試験の結果

洗浄分級処理のみでは除染率が40%程度であったため、これを向上することを目的として泡沫浮上法の適用を試みた。
対象試料は洗浄分級試験であらかじめ図2-1の磁性ボール1kg、磨砕時間10分の条件で得た+0.075mmとし、図2-2に示すフローにて試験を行った。
本フローでは対象試料を磨砕後、一段目として植物を浮選回収し、その後、二段目としてCs付着粒子を浮選回収することを目的としたフローである。

3.2.1 植物の浮選試験結果

一段目の浮選は植物回収を目的として起泡剤のみを添加することで行った。
(浮選時間5分でのCs回収結果を表3-1に示す。)

回収したフロスは土壌粒子も含まれるが、多くは細かな植物片がみられ、Cs濃度は21,078Bq/kgとなり、植物にCsが濃縮していることが分かった。

3.2.2 Cs含有粒子の浮選試験結果

二段目のCs付着粒子の回収にあたっては捕収剤として脂肪酸系、スルホン酸系(陰イオン系)、およびアセトアミン系(陽イオン系)を種々のpHで試験した。 (pHと除染率の関係および除染率と減容率の関係を図3-4および図3-5にそれぞれ示す。)
試験した範囲において、アセタミン系捕収剤では、試験したpH範囲で除染率30%前後でありpH依存性は認められなかった。脂肪酸系ではpH6.5付近で除染率が最も高く、酸性側、アルカリ側でともに低下する傾向を示した。スルホン酸系ではpH4.0の条件で最も除染率が高かかった。

これは土壌の主要鉱物であるSiO2の電化零点がpH2.0付近であり、pH4.0ではSiO2表面は負に荷電し、他の2:1型鉱物をはじめとするCsを吸着または固定する鉱物のより多くが、表面電位を正に荷電したため、陰イオン系の捕収剤が選択的に吸着したものと考える。

また、スルホン酸系でpH4.0においてSiO2の浮遊抑制剤および活性剤としてカリウム塩を添加して浮選を行ったところ、除染率は58%程度まで上昇し、一方、減容率はほとんど変化がなく、さらに選択的にCs含有粒子を回収できた。

なお、洗浄水の134Csおよび137Cs濃度は、それぞれ30Bq/L以下および45Bq/L以下であった。
対象土壌を-10mmとして、洗浄分級して得た+0.075mmを浮選((陰イオン、pH4.0、抑制剤+活性剤の条件)する組み合わせ処理での除染率および減容率はそれぞれ69.2%および54.0%であった。この成績は洗浄分級処理のみの場合と比較して、それぞれ除染率+22.4ポイント、減容率-17.4ポイントの効果であった。

3.3 抽出試験の結果

抽出法においては有機酸あるいは鉱酸を加え90℃前後に加熱して抽出する4)、5)、常温で鉱酸、カリウム塩およびフッ化物を混合して抽出する方法6)等が提案されており、高い除染率および減容率が達せられているが、エネルギー的な面、薬剤使用量が多いといった点でコストが高くなるといった課題がある。本検討では薬剤を極力少なくし、常温で処理可能な条件を見出すことを目的とした。

-10mmを対象として図2-3の試験フローに従い、交換陽イオンとして塩化カリウム、酸として塩酸を用いて抽出試験をしたときの静置期間とCs抽出率の関係を図3-6に示す。試験した範囲において、Cs抽出率は静置期間の増加に伴い上昇する傾向を示し、3~7日目で概ね抽出率の頭打ちを示した。

Cs抽出率はHCl2.0mmol/g-土、KCl2.7mmol/g-土、静置期間7日において50%程度まで達しており、常温かつ、使用薬剤量が比較的少なくても一定の抽出率が得られた。

(静置時間を7日として、交換イオンとして種々のハロゲン化カリウム塩あるいはマグネシウム、カルシウム、バリウムの塩化物のいずれかを0.005N/g-土添加し、塩酸あるいは硫酸を0.010N/g-土添加した時のCs抽出率を図3-7に示す)

塩酸系と硫酸系の比較では塩酸系の方が、抽出率が高い傾向であった。

各交換イオンの比較ではKF(HCl)、が最も抽出率が高く、次いでKF(H2SO4) > H+(HCl) > KI(HCl) > H+ (H2SO4) = CaCl2(HCl) >BaCl2(HCl) > MgCl2(HCl) > KBr(H2SO4) > KCl(HCl) > KCl(H2SO4) = MgCl2 (H2SO4)>> KI(H2SO4)の順であった。

特にKFで抽出率が高かったのは、酸性下でフッ化物イオンがフッ酸と同様の働きをし、Csが付着した土壌粒子表面をエッチングする効果が高かったためと考える6)
実際の土壌の処理にあたっては、低pHによる設備の負荷、薬剤自体が安価であることなどを考慮して、薬剤種の組み合わせを選定することが肝要と考える。
H+では塩酸系、硫酸系ともに抽出液のpHが0.1以下となり、極めて強酸性であった。
その他の試験系ではpHが概ね0.5~1.5の範囲であった。また、抽出液の処理を考える場合、臭素やヨウ素は著しい着色を生じ、処理が必要である。

フッ化物については土壌浄化の観点から、処理土壌の利用法によって使用を制限するべきと考える。
これらに鑑み、試験した範囲ではカリウム、マグネシウム、カルシウムあるいはバリウムの塩化物の使用が適切と考えた。
浮選試験と同様に、洗浄分級試験であらかじめ得た+0.075mmを対象として、H2SO4 0.007N/g-土 KCl0.0027N/g-土 静置時間7日間で処理した時の+0.075mmからのCs抽出率は80%に達し、図3-7と比較すると、細粒が除かれた方が、Cs抽出率は高いことが分かった。
洗浄分級と洗浄分級で得た粗粒区分の抽出処理の組み合わせ処理での除染率および減容率はそれぞれ89.9%および69.5%であった。
この成績は洗浄分級処理のみの場合と比較して、それぞれ除染率+49.9ポイント、減容率-2.1ポイントの効果であった。

4. おわりに

Cs含有土壌の処理について、洗浄分級のみ、洗浄分級と浮選の組み合わせ処理、抽出処理のみ、洗浄分級と抽出の組み合わせ処理について試験検討を実施した。
今回試験した範囲で、各処理の減容率と除染率は図4のとおりである。
これに対して処理コストは、洗浄分級≦ 洗浄分級+浮選 << 洗浄分級+抽出 << 抽出処理の関係である。

抽出については今回試験した範囲で、従来提案されている抽出法と比較して静置時間を長くとることで、薬剤使用量を少なくすることができたが、処理コストは依然高い試算である。洗浄分級と浮選および洗浄分級と抽出の組み合わせ処理については今後も鋭意研究を進めたい。

5. 引用文献・参考文献

1) 保高徹生, 三浦俊彦, 大山将, 張銘,駒井武(2011):
放射性物質の土壌中の深度方向の分布および土壌洗浄法の適用性試験結果について,2011/09/27; Available from:http://staff.aist.go.jp /t.yasutaka/Aist -Risk/110927.html.

2) 鎌田雅美,友口勝(2012):
放射性土壌の洗浄処理について,第18回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集,pp.525~528

3) 舟川将史, 田川明広, 奥田信康:
植物が混入した放射性セシウム汚染土壌の多段階土壌洗浄処理試験, 日本原子力学会和文論文誌 ,No.11(4),pp.272~280

4) 井上由樹、中村秀樹、三倉通孝、福島正(2012):
汚染土壌からのセシウム溶離回収技術の開発(2)溶離試験,日本原子力学会2012年秋の大会予稿集,pp.543

5) 保高徹生,川本徹(2012):
放射性セシウム含有土壌への酸抽出方法の適用性に関する基礎的検討,第18回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会講演集,pp.65~68

6) 関根智一,下村達生, 三甘崇博,二見堅一,坂下大地,佐久間博司(2012):
シルト・粘土からの放射性セシウム除去技術の開発,日本原子力学会2012年秋の大会予稿集,pp.651

7) 独立行政法人日本原子力研究開発機構(2012):
福島第一原子力発電所事故に係る避難区域等における除染実証業務【除染技術実証試験事業編】,付30~31

8) 山口紀子,高田裕介,林健太郎,石川覚,倉俣正人,江口定夫,吉川省子,坂口敦,朝田景,和穎朗太,牧野知之,赤羽幾子,平舘俊太郎(2012):
土壌−植物系における放射性セシウムの挙動とその変動要因,農環研報, No.31,pp.75~129


友口 この記事は
DOWAエコシステム ジオテック事業部
友口 が担当しました

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