研究発表−6:カラム試験とシリアルバッチ試験によるAs溶出挙動の把握
第19回 地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会(2013年)
この研究は、土壌からの汚染物質が溶出する際の挙動を把握することにより、原位置フラッシング技術の設計手法に生かす事を目的に実施しました。今後は、他の重金属物質の溶出挙動を確認し、実証試験を実施したいと考えています。
「カラム試験とシリアルバッチ試験によるAs 溶出挙動の把握」
ジオテクノス株式会社 下村卓矢
1. はじめに
土壌汚染対策法では、人の健康被害に係るリスクの一つとして汚染された地下水を飲用することがあげられている。地表からの汚染物質は、不飽和帯土壌中を移動し、地下水に到達する。この観点から不飽和帯における汚染物質の挙動を把握することは重要である。また、土壌溶出量試験(環境省告示第18号法試験)に代表されるバッチ溶出の挙動が、実際の地下水汚染とどのような関係にあるかを推定するためには、バッチ溶出挙動とカラム試験1),2)に代表される攪拌されない土壌中の汚染物質移動との関係を把握する必要がある。
ここでは、すでに報告したPbに対する試験と同様に、Asについて飽和カラム溶出試験、不飽和カラム溶出試験と、シリアルバッチ試験3)を実施して、飽和・不飽和の挙動比較と、カラム試験・シリアルバッチ試験の挙動比較を行った。
2. 試験概要
昨年実施したPb模擬汚染土壌を用いたカラム試験とシリアルバッチ試験における溶出挙動の比較においては、シリアルバッチ試験は、必ずしもカラム試験の結果を予測するものではないという結論に至った4)。
本試験では、Asについても、Pbと同様の結果が得られるかを確認することを目的とし、飽和・不飽和カラム試験とシリアルバッチ試験を行った。
3. 試験方法
3.1 試験試料
千葉県木更津市において採取した下総層群清川層の砂を用いて模擬汚染土壌を作成した。模擬汚染土壌の作成は、砂1dry-kgに対してAsを100mg含むヒ酸ナトリウム水溶液を添加し、自然乾燥させた後、土壌を充分に混ぜたものを試験試料とした。試験試料の特性を表1に、粒径加積曲線を図1に示す。
3.2 カラム試験
カラム試験は表2に示す試験条件で行った。図2にカラムの模式図を示す。
飽和カラム及び不飽和カラムの通水速度はSV10とし、通水量は「Liq./Soil」30とした(以下、通水量及び液量はL/Sと表記する)。カラム下部から浸出液をL/S1毎に採取し、Asの分析を実施した。Asの分析には、ICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製iCAP-6300)を用いた。また、採取した浸出液のpHの測定を行った。なお、通水速度は、定流ポンプで一定にし、毛管圧に相当する圧力を適宜ヘッドスペースに与えることで不飽和帯を形成した。
3.3 シリアルバッチ試験
シリアルバッチ試験の試験フローを図3に示す。
シリアルバッチ試験では、試験試料100gに対して純水1,000mLを混合し、振とうを行った(L/S10)。昨年は、L/S2.5を1バッチとしたが、繰り返しの振とうにより土壌粒子が破壊されないようL/S10で1バッチとした。振とう後、目開き0.45μmのメンブランフィルター(ADVANTEC社A045A090C)でろ過し、得られたろ液のAs分析及びpHの測定を行った。
1バッチ終了後、再度純水を加え、同じ手順をL/S30になるまで繰り返した。
4. 試験結果
4.1 バッチ試験の結果について
図4に飽和カラム及び不飽和カラム試験のL/Sと浸出液のAs濃度の関係を示す。飽和カラム及び不飽和カラムともに試験初期の浸出液のAs濃度が最も高くL/Sの増加とともに浸出液のAs濃度が減少する傾向がみられた。飽和カラムと不飽和カラムの浸出液のAs濃度に大きな差異はみられなかった。
図5に飽和カラム及び不飽和カラム試験の浸出液の積算溶出As量を示す。飽和カラム及び不飽和カラム試験の積算溶出As量は、L/S10程度まで、急激に増加し、それ以降は緩やかに増加する傾向がみられた。
図6に飽和カラム及び不飽和カラム試験のL/Sと浸出液のpHの関係を示す。試験した範囲では、飽和カラム、不飽和カラムともにpH6.6~7.6であった。pHの変化によってAsのイオン形態が変化することが知られているが5)、本試験では、Asのイオン形態が変化する範囲ではなかった。
4.2 シリアルバッチ試験
図7にシリアルバッチ試験のL/Sと浸出液のAs濃度の関係を示す。試験初期(L/S10)の浸出液のAs濃度が最も高くL/Sの増加とともに浸出液のAs濃度が減少する傾向がみられた。
これは、昨年、実施したPbのシリアルバッチ試験のL/Sと浸出液のPb濃度の関係とは異なった。
図8にシリアルバッチ試験の浸出液の積算溶出As量を示す。積算溶出As量は、L/Sの増加に伴って増加する傾向がみられた。
図9にシリアルバッチ試験のL/Sと浸出液のpHの関係を示す。試験した範囲では、pH6.8~7.4であり、本試験では、Asのイオン形態が変化する範囲ではなかった。
5. 考察
5.1 飽和カラムと不飽和カラムの比較
図4~6にみられるとおり、pHの挙動は、少し異なるものの、飽和カラムと不飽和カラムのAs溶出挙動には、大きな違いは認められなかった。Pbにおいてはここに明らかな差異が認められるところであり、AsとPbでは、吸着・脱着の何らかの機構の違いがあると思われる。
5.2 カラム試験とシリアルバッチ試験の比較
図4と図7を比較すると、カラム試験とシリアルバッチ試験のL/Sと浸出液のAs濃度の関係には、同様の傾向がみられた。すなわち、試験初期の浸出液のAs濃度が最も高く、L/Sの増加とともにAs濃度が減少していた。
しかし、表3に示すように、シリアルバッチ試験の浸出液のAs濃度は、カラム試験の浸出液のAs濃度と比較して、低い傾向がみられた。これは、バッチ試験の振とう操作によって土壌団粒が解砕され、生じる吸着能を持つ(非汚染の)土壌表面6)が現れたことで、浸出液As濃度が低下したものと推察される。
5.3 AsとPbのカラム試験、シリアルバッチ試験の比較
昨年実施したPbのシリアルバッチ試験では、L/S20以降で、浸出液のFe、Si濃度が増加するとともに、Pbの溶出量が増加する傾向が確認された。
これは、振とうを繰り返すことで土壌粒子が破壊されてPbの溶出が促進されたものと推察した。
今回のAsのシリアルバッチ試験では、L/S20以降にAs溶出の増加は認められなかった。図10にAsのシリアルバッチ試験でのL/Sと浸出液のFe、Si濃度の関係を示す。昨年実施した、Pbのシリアルバッチ試験のFe、Si濃度に比べ低い濃度となっていることから、本試験では、試験操作中に土壌粒子が破壊されなかったことが、挙動の異なった原因であると考えられる。
6. まとめ
本報告では、Asの模擬汚染土を用いた飽和カラム溶出試験、不飽和カラム溶出試験と、シリアルバッチ試験を実施して、飽和・不飽和の挙動比較と、カラム試験・シリアルバッチ試験の挙動比較を行った。本試験で得られた結果を以下に示す。
- 飽和カラムと不飽和カラムの溶出挙動に大きな差は認められない。
- 本試験の範囲では、シリアルバッチ試験のAs溶出濃度がカラム試験の溶出濃度よりも低くなることが確認された。これは、バッチ試験の振とう操作によって、新たに生じた土壌表面の影響によるものと推察した。
今後は、Pb、As以外の物質や実汚染土壌の飽和・不飽和の挙動比較と、カラム試験・シリアルバッチ試験の挙動比較の知見を積み重ねたい。
7. 引用文献・参考文献
1)奥村興平、桜井國幸、中村直器、森本幸男:
「自然起源の重金属等による環境への影響と対策」
Journal of Geography116(6)pp.892-905,2007
2)棚橋秀行、佐藤健、湯浅晶、宇野尚雄
「空気吸引カラムを用いた不飽和砂層中の質の分散現象」
土木学会論文集,No.511/Ⅲ-30,pp.127-134,1995
3)嘉門雅史、乾徹、宮城大助、勝見武
「鉄鋼スラグの地盤材料としての有効利用に伴うフッ素の溶出挙動とその環境影響の評価」
京都大学防災研究所年報,第47 号B,2002
4)下村卓矢、千田善秋、川上智、竹下恭平、所千春
「カラム試験とシリアルバッチ試験におけるPb 溶出挙動の比較」
第18 回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会公演集,pp.554-557,2012
5)ATLAS OF ELECTROCHEMICAL EQUILIBRI LA IN AQUEOUS SOLUTIONS POURBAIX,pp.516-523
6)S.Montinaro
「Rationale of heavy metals immobilization by ball milling in synthetic soils and remediation of heavy metals contaminated tailings」
Chemical Engineering Science, 62, pp5186-5192, 2007
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ジオテクノス株式会社
下村 が担当しました