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EUにおけるリサイクル制度および資源効率性(RE)政策の検討状況に関わる最近の動向について その9

公益財団法人 日本生産性本部
主任経営コンサルタント
喜多川 和典(きたがわ かずのり)様

公益財団法人 日本生産性本部

前回は、リサイクルに関するスタンダードについて、お話を伺いました。
今回は、とうとう最終回。リサイクルに関するEUと日本の考え方の違いについて、お話をお伺いします。

【その9】リサイクルに関するEUと日本の考え方の違いについて

リサイクルに関する考え方の違いについては、以前、発生源分別を重視する日本と集めた後に分けるヨーロッパ方式について、教えていただきました。

そうです。日本では発生源分別が推奨されていますが、1度、廃棄物処理業者になったつもりで、売り上げ構成要因などについて考えたいと思います。

廃棄物のリサイクル業者が、何による収入によって成り立っているのか、それは、廃棄物を受け入れたときの処理費用による売上ですね。
受け入れた廃棄物を分別して、リサイクルできる素材としてアウトプットした分も売り上げです。つまり、インプットとアウトプットの両方からお金をもらえるという非常に都合のよい立場の事業者です。

このグラフは、売り上げ構造を示したものです。
縦軸は収入、横軸は廃棄物・材料の品質です。廃棄物であるリサイクル材を選別し、より良い品質のものを生み出せば生み出すほどアウトプットの収入は高くなるという構造です。

これだけ見れば、あたりまえじゃないかと言われるんですが。
例えばペットボトルを例に取ると、日本はペットボトルの発生源分別をしていますので、リサイクル業者はペットボトルの材料費を払ってペットボトルを調達します。
それをさらにソーティングしたところで、得られる収入はほとんどありません。それでも、ソーティングしているところもあります。発生源で「きちんと」分別されているはずのペットボトルに混入している異物を、ソーティングによって取り除く作業です。
ペットボトルの品質は上がりますが、元々、発生源でされるべき事をやったにすぎません。そしてソーティングによって廃材が出ます。つまり、「付加価値を生み出さないソーティング」という事になってしまいます。

そして次の廃棄物の管理コストです。廃棄物のリサイクルも含めた処理コストは一般的に廃棄物が増えれば増えるほど、下がります。特にソーティングセンターはまさに装置産業ですから、処理量が増えれば増えるほど、トンあたりのコストが下がります。
当初は、3万トンでは生き残れない、5万トンが必要だと言っていたのが、今は10万トンならなんとかやって行けるけれど、生き残るには15万トンが必要だとなっています。

そして、様々なものを選別するようになって、資源としてリサイクルできずに廃棄物として処理するものが20パーセントにまで減ったので収入が良くなったという廃棄物ソーティングセンターの話は、まさに不良品が減ったため廃棄物の処理コストが下がり、それによって利益が出ました、という関係です。

EUでは、生活ごみの選別をして、それほどまでにリサイクルできるようになっているんですか。
発生源分別では、ターゲットとしたものしかリサイクルとして救えませんが、ごみ全体を選別すると、それ以上のものがリサイクルできそうな気がします。

ソーティングセンターの技術力は、どれだけよいアウトプットの品質を生み出していけるか、処分する廃棄物をどこまで減らせるか、です。これは、まさに製造業と似た発想になり、これによって初めて廃棄物業というものが近代化された産業になりえると考えられています。

廃棄物処理業の経営戦略は、インプットの収入とアウトプットの収入を足し算したものが売上であり、廃棄物の処理コストは処理コスト×トータルの処理量、それから廃棄物の処分コスト×廃棄物の処分量、こういったものを足したのがコストの合計です。
売上からコストを引いたものが利益にほかなりませんが、アウトプットの収入が増えれば利益を拡大していけるという、製造業と同じ発想になっていきます。

より多くの廃棄物を仕入れて処理単価を下げていく、そして選別技術を高めて処分する廃棄物の量を減らし、処分コストを下げていく、これによって廃棄物管理会社が経営戦略を組み立てられる。こういう廃棄物制度というものを社会インフラとして作っていくということが政府としての使命ではないかと考えています。
これがヨーロッパではでき始めていので、日本もこういった制度インフラを作っていかないといけないと思います。

廃棄物処理業がリサイクルを通じて、製造業と同じ発想になっていく、という事ですね。

廃棄物処理にしても何にしても、企業というものが経営戦略を組み立てる上で非常に重要なものはまさにマーケティングミックス4Pです。

これは普通の経済活動の中で、企業が戦略を組み立て、4Pを一定ルールの下でコントロールし、工夫して差別化を図り、自分たちの利益を最大限にもっていくのか、競争上優位に戦っていくのかということですが、それが日本の廃棄物処理業に関しては制度上の制約があってなかなかできないわけです。
そういう状況では、ビジネスとしての面白みは少ない。廃棄物処理をそんな産業にしてはいけないということを、つくづく感じます。

より効率的な廃棄物のリサイクルや処理をするためには、各会社が工夫をする余地がなければ発展の伸び代が小さくなってしまう、ということでしょうか。

その通りです。
このようなソーティングというものが、様々な廃棄物の分野に入っていったことで、ヨーロッパは非常にこの分野の産業化というものに自信を付けました。それがいろんなドキュメントで出てきていますけれども、ヨーロッパにおけるリサイクル市場というものはこの図のように右肩上がりで伸びてきている。このところリーマンショックや欧州の財政危機を背景にちょっと停滞気味ではありますが。

こうした中で廃棄物メジャーと言われる企業も、非常に大きな規模に育ってきています。
「ベオリア・エンバイロメント」これは水処理で有名な企業ですけれども、廃棄物分野も非常に大きなウエイトを占めて売上を伸ばしています。
最近「ベオリア・エンバイロメント」から、イノベーションとマーケット、技術パフォーマンスに関する新しい世界対応規模の戦略部門を発足させたというニュースが流れていました。

このような海外の廃棄物処理会社というのも非常にたくましく伸びてきていますし、さっき言ったREというヨーロッパの政策というものがそれを「あとおし」するかのような形で、風を送り込んで、ドイツのレモンディス、フランスのスエズなど大きな会社が育っています。

廃棄物関連関係のヨーロッパ雇用者数もこのように右肩上がりで伸びているとEUは発表しています。

このグラフは百万人あたりの就業者数の推移ですが、水色の線がリサイクル、紫の線が廃棄物とスクラップ関連の雇用者数です。右肩上がりで増加しているのがわかります。

さらに、環境全体の様々なセクターのなかにおいても、リサイクル関係の雇用者数は、2000年と2008年とを比較して10.57%伸びています。この伸び率というのが再生可能エネルギー分野の雇用者数の次に高い伸び率になっていると言うことで、非常にヨーロッパのオピニオンに対して自信を持っています。

廃棄物のリサイクルを産業育成・雇用創出とも考えて、後押しをしているのですね。

廃棄物セクターを成長させる廃棄物制度について私なりにコメントすると、廃棄物に関わる自由闊達な経済活動を可能な限り阻害をせず、同一素材であればカテゴリー間の垣根を可能な限り低くして、適正かつ効率的なリサイクルへと仕向ける。
以上の制度関係がどれほど整っているかが、その国のリサイクル制度の健全度を示すものではないかと思っています。

つい最近(2014年7月)、EUの「循環経済政策パッケージ」(The Circular Economy Package)が発表されました。それに関係する文書でこれまでのEUにおける廃棄物法を総括しています。その文書に次のような論述があります。その一部を次に紹介します。

「EU廃棄物法が不必要で厄介な規定を含んでいると批判されるところもあるが、廃棄物法が経済発展を支えることは益々周知の事実となっている。経済成長、雇用の創出、イノベーションが、法が定めた環境標準によって促進される。これは、最近の研究が示す通り、特に廃棄物セクターにとっての真実である。廃棄物のリカバリーの新しい技術を開発するため、循環経済を構築する新しい経済モデルと製品設計の要求事項が、廃棄物ゼロを現実のものとするには、グリーンビジョンを示すだけでは不十分で、経済アクターの公正な競技場(playing fields)、イノベーションを起こさせるインセンティブ、そして投資家に確かな投資だと思わせる制度に基づくセキュリティを、法を通し設定しなければならない。」

ここに書かれているのは、廃棄物法は、廃棄物産業の経済成長を支える屋台骨だということ。そして、「廃棄物産業の成長イコール廃棄物の適正な再資源化と処理をもたらす」という経済活動の自然かつ単純な帰結について書いてあります。
これまで私たちが常識としてきた、優れた産業が育てば、自ずと優れた製品とサービスがどんどん生産されるというのと全く同じ考えです。言い換えると、EUは、これまでの製造業などの産業と同様、廃棄物産業という一産業を押しも押されもしない国際的な一大産業へと成長させようとする意志が強く感じられます。

日本の廃棄物政策を顧みると、本来ある経済活動の外にある外部経済を補完するとの観点が未だ強いと思いますが、欧州の廃棄物政策は廃棄物管理を一般的な経済活動と完全に一体化させる軸によって貫かれています。
果たして、日本の廃棄物法に、あるいは廃棄物政策にそのような見方がどれほどあるかと思うと背筋に冷たいものが走ります。今は夏だからその方がよいのかもしれませんが(笑)。

しかし、このような日欧の廃棄物に関する政策観の違いは、今後実現される社会経済に大きな差をもたらすことが考えられ、そろそろ日本も真剣に廃棄物政策の基本方針を見直さないと、欧州との比較に留まらず、世界標準からも外れた時代遅れの廃棄物政策を抱え取り残されるのではないかとの危機感を感じます。

今回は、ヨーロッパのRE政策について、政策動向やソーティングセンターでどのような事が行われているか、日本との違いなど、様々なことをお話しいただきまして、ありがとうございました。
日本の政策も独自の社会・文化のなかで決められ、国民の福祉に大いに貢献してきたものと思いますが、EUは新しい時代に向けて革新的な制度作りをすでにこれほどまで進めてきていることを知り、大変驚きました。

インタビュー、ありがとうございました。



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