EUにおけるリサイクル制度および資源効率性(RE)政策の検討状況に関わる最近の動向について その6
公益財団法人 日本生産性本部
主任経営コンサルタント
喜多川 和典(きたがわ かずのり)様
前回、EUのRE(資源効率)政策について、お話を伺いました。
今回は、RE(資源効率)政策の核心となる基本的なコンセプトのひとつであるデカップリングとサステナビリティについて、お話をお伺いしました。
【その6】デカップリングとサステナビリティ
デカップリングとは、仲良くなっている2人を引き離すという意味とお伺いしました。何と何を引き離したのでしょうか?
ここでいうデカップリングとは、「経済の成長」と「資源の消費量」を引き離すということです。これまでは経済の成長と資源の消費量というものは概ね仲の良い比例関係にあったわけですが、それを、これからは経済成長は続いても資源の消費量は下がるか、下がらないにしても上がらないようにするのが「デカップリング」ということです。
(出典:UNEP報告書:デカップリング 天然資源利用・環境影響と経済成長の切り離し)
「デカップリング」がなぜ必要なのか、「UNEPの資源パネル」が指摘するポイントを取り上げますと、一つは人口の増加です。
地球の人口が、2050年には90億に達し、最終的には100億程度になるだろうと言われています。このような人口増が見込まれるなかで、新興国や途上国の人々が現在の先進国同様の生活水準に近づこうとした場合、現在の資源消費に依存した経済システムの延長線上ではとても実現できないし、維持できません。
それともう一つの問題が、資源の高騰です。資源価格は今後、長期的に着実に上がっていくだろうと予測されています。
そうした値上がりする資源を買い続けていくということはしたくないと、EUは公文書の中で書いています。
さらに、こうした様々な資源は、採り易いところからどんどん採っていますから、今はどんどん採りにくいところに採りに行かなくてはいけない。そうした箇所の採掘では鉱石の性状・密度・品質も悪くなってきているので、一部の資源については既に品質の低下が見られると言及されています。
- 2050年の人口90億を想定すると現在の先進国の生活水準維持と途上国の貧困撲滅を図る上で資源消費量の抑制は必須
- 資源調達量を増やしても上がり続ける資源価格。これは経済活動における人件費を圧迫
- 資源採掘コストの上昇と相まって採掘資源の品質が低下傾向
(出典:UNEP報告書:デカップリング 天然資源利用・環境影響と経済成長の切り離し)
資源の採掘や精製にかかるコストが上昇する、という事ですね。
そうです。そして、もう一つ非常にこのデカップリングに持ち込む為の考え方において重要なポイントとしてUNEPが挙げているのは、システムのイノべーションです。
エネルギー効率や、資源効率などに関するシステムのイノベーションです。
日本人は今ある状態よりも、より良い状態にしていくという「改善」は非常に得意な国民であると思いますが、システムのイノベーションに関してはあまり得意ではないのかなと思います。
イノベーションですか
ヨーロッパでは、社会の必要に応じてイノベーションは自然に起こるという風に考えられているように思えます。イノベーションは、無理して、努力して起こすものではなく、社会のどこかで必然的に起こるものなんだと考えているようです。
これはたぶんヘーゲル以来の弁証法的な思想というものが根強いのではないかと個人的に思います。要するに「現実」が一番正しい、それに対する解決を人間社会は常に求めて進んでいくというのが人間社会の発展の常だという考え方です。
そこでイノベーションに関する考え方は、常にイノべーションが起こる潜在的な可能性はあって、問題はむしろその拡大・普及を阻止する要因の方に目を向けます。もしかしたら、日本の今は、イノベーション能力よりもイノベーションを阻止する潜在的な社会的要因が大きいのではないかと疑うことも必要ではないでしょうか。
(出典:UNEP報告書:デカップリング 天然資源利用・環境影響と経済成長の切り離し)
例えば、iPhoneを例に挙げると、iPhoneに使われている技術は全て既存の技術だけで作られており技術的には何のイノベーションもなかったと見る向きがあります。しかし、日本のメーカーがそれを為しえなかったのはどうしてか。
やはり、日本のメーカー内部にiPhoneを作るのを阻害していた要因があったからではないかと疑う必要があるかと思います。そうした阻害要因を取り除けばイノベーションは起こせたのではないかと考える訳です。
EUでは、このようなイノベーションに関する考えに基づき、それぞれの企業において現在有しているイノベーションに寄与する技術のリスティングとそれを世に出せないか、あるいは市場で苦戦する社会的リスクというものがなんであるか、そして、そのような阻害要因を取り除くために政府がとり得る有効な施策とはどのようなものであるかについて、企業向けのアンケートを実施しています。こうした目の付け所というのは個人的に感心するものがあります。
一方で日本はといいますと、抑制とか、もったいないとか、我慢とか、責任とか、こういうのはとても得意だと思うんですけれども、いざイノベーションということになると、途端に横着になって、今までの通りでも我慢して残業などすればよいのでしょと我慢と努力でしのいでしまうような国民性があるように思います。
我慢強いという日本人の美徳もイノベーションとどこかで拮抗する概念だということは心の隅で理解しておいた方がよさそうです(笑)。
イノベーションとサステナビリティとは、どういう関係なのでしょうか?
日本では、サステナビリティが企業の社会的責任、つまりCSRという考えが導入されてから、環境・経済・社会の3つのベースラインに関する重要性が語られるようになり、企業が存続していくにはなんといても先ずは経済が最優先ですねとなって、環境が一歩後に下がった印象をもちます。
そこでサステナビリティって一体何?と言われた時、本来重要な環境という要素が弱まって、サステナビリティの意味自体が曖昧になったのではないでしょうか。
そこでEUでは、サステナビリティというモノを再度捉え直し、2つの要素に分けています。それが、「抑制」と「イノベーション」の2つです。
さらに次に示す図は、WBCSD(World Buseness Cauncel for Sustinable Development)と呼ばれる組織が公表した、2050年に向けた持続可能社会へのビジョンという報告書に示されたビジョンです。
(出典:Vision 2050, World Business Council for Suatainable Development)
このような討議が欧米の大手企業、日本企業も一部参加していますが、グローバルカンパニーが参加し作っていますので、人口が90億になる2050年に向けて、どういう産業ビジョンを描いていくべきかが議論されています。
これを見ると、いろんな分野に分けられて議論されているのがわかります。左から人間、経済、農業、森林、エネルギー、建設、モビリティー、そして資源というふうに分けて示されています。
2050年の資源産業ビジョには、このようなことが書いてあります。
- 材料及び材質の循環システムが大幅に発達をする
- 先進国における埋立の規制が広がっていく
- 過去の埋立地を採掘するビジネスが広がる
- CO2の問題はCCSによって解決する
- CO2を触媒によって炭化水素に変換する実証プラントができる
- リサイクルは廃棄物処業ではなく一般の素材ビジネスになる
- バージン原料とリサイクル原料の価格が政府と民間の話し合いによって決定される(税も含めて)
- 樹脂原料は化石燃料から再生可能原料へと徐々に移る
- 商品を売り切るビジネススタイルから、サービス提供型のビジネスへと変わり、商品設計もマーケティングもそれに連動して変わる
- 製品計画の最も重要なポストは 製造コストでなく製品のライフサイクルコストへと移る
- 環境保全のプレッシャーが素材製造に関わるスタンダードの適用を促進させ、それによって材料費が値上がりする
- このような逆境を、使用するエネルギー原料の節減を行い、処理廃棄物を減らし、エネルギー使用料及び材料投入料に係る税・ペナルティーを回避したことによって乗り切った素材メーカーに商機が及ぶ。・・・このところが重要です。
こういうことが進んでいく中に、単に環境を保護するとか云々では無くて、きわめて経済的手法が絡んでくるということに注意が必要です。
特に、気を付けなければならないのはEUの場合、税制ですね。例えば車に、40%以上リサイクル材を利用していないと製品に高い税を課すなどのペナルティーがあるなど、現在では考えられないことですが、そうしたことも含めて起こりえる将来が語られています。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、このリサイクル材の政策についてお話をお伺いしています。