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金属回収をするポリマー開発 その4

群馬大学大学院工学研究科
応用化学・生物化学専攻
永井 大介 助教

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群馬大学工学部応用化学・生物科学科 ホームページ

金属を高効率で吸着する水溶性ポリマーを合成し、ポリマー研究の第一人者である群馬大学大学院助教、永井先生にお話をお聞きしています。

今回は最終回、「ポリマー開発の将来」についてお話しいただいています。

ファイブロバイオプロセス研究会:レアメタル(希少金属)を効率良く回収できる吸着・水溶性ポリマーを開発
http://www.gunma-u.ac.jp/sb/log/eid24.html

白金族の中で、どうしてパラジウムをターゲットとして選んだのですか?

なぜパラジウムを選んだのかと言いますと、まず、硫黄原子が適している白金族であるということと、パラジウムは携帯電話の基盤にも用いられていますし、自動車の排ガス浄化用触媒、電子機器にも使われておりますから、社会的に見ても価値があると考えました。

「硫黄はレアメタルと相性が良い」というアドバイスからこの研究を始めたとおっしゃられていましたが、今回の水溶性ポリマーを使うことで、パラジウム以外のレアメタルも回収できるのでしょうか。

パラジウムだけでなく、白金、金などは高いレベルで回収できることは確認しています。

その他に、こんな金属を試してみたいものとかはありますか?

今注目している金属としては、レアアースとセシウムですね。

どちらも 今、とても注目されていますね。

最近レアメタルという言葉は一般の方も知っているようになりましたね。
「稀少金属」と言うより耳ざわりが良くてどこかオシャレな印象があるのでしょうね・・・。
それにともなって、レアアースもよく聞くようになりました。

まず、レアアースについてですが、文献など調べてみましたが、やはりレアアースを吸着するのにはハードな原子の酸素とかが用いられているようです。たぶん酸素「O-(マイナス)」あたりが良いのではないかと思います。
枯渇が懸念され、なんらかの方法で回収しなくてはならいものですから、化学合成で解決してみたいなと思っています。

セシウムは有効な解決策が求められていますから、もし安全に回収できたらすごい話題になりますね。

そうなんです。セシウムの安全な回収というのは化学合成に携わる身として使命感も感じます。
セシウムの場合、汚染水の回収方法はゼオライトなど候補の手法があるようですが、土壌中のセシウム除去が一番問題だと思います。回収方法も確立されていませんし、土壌中セシウムは内部被爆を起こしてしまう。この除去方法の確立が一番重要なんだと思います。

DOWAは回収と同時に処理する会社なので、回収したセシウムをどう処理するかと言うのも問題になりますね。

そうですね。セシウムを無毒なものに変えるのが理想でしょうけれども、化学的な組み立てでは回収は可能でも「無毒化」はできないと思います。
たぶん、生物などの全く違う力を借りないと無理なのではないでしょうか。

金属回収に限らず今後取り組みたいテーマなどありましたらお聞かせください。

一般に、吸着剤というのは「バイオマス」と言われるものを買ってきて、部分的に修飾を加えて作っています。
また、ポリマーの吸着剤というと通常は粉末にして、溶けないまま攪拌して吸着させ濾過するという方法をとります。

私は「合成屋」でもあり「反応屋」でもありますから、せっかくポリマー合成が出来るのなら、全く新しい機構で回収できるポリマーを合成したいと常々思っています。

今回の硫黄ポリマーは、溶けたパラジウムと溶けたポリマーを混ぜるだけで吸着し回収することができるという新しい機構です。
硫黄ポリマーなので一般的には燃やすと亜硫酸ガスの発生が問題になるのですが、今回の硫黄ポリマーは硝酸を加えることで簡単に分離するため、再利用が出来ることもその特徴です。
このような新しい機構がもとになって、今回のように桁外れとも言える吸着量やスピードだったりするものが出てくると思います。
「合成屋」「反応屋」として新しい機構で優れた機能をもったポリマーをデザインしていきたいと思っています。

また、金属回収というと現在一般的に行われている方法として酸、塩基などを使ったものが多いのですが酸、塩基は有毒で揮発します。
一方、ポリマーには沸点はありませんので、分解しない限り、拡散の心配が無いことや、今回のパラジウムのように金属をポリマーにくっつけておくことで廃液などの中に溶け出してしまうのを防ぐことも出来ますから、ポリマーの特徴を活かすことでグリーンケミストリーにも貢献できると考えています。

レアメタルの回収に付いてはDOWAが協力させていただきましたが、企業と研究を行うことについてはいかがでしょうか?

いくら勉強ができても一人では研究できないんです。それぞれ個別の研究テーマでも共同研究の体制を取らないと予算の面でも、情報の面でも共同研究のカタチを取らなくてはならなくなっていまね。
今の大学は企業などの資金無しでは研究が行えないのが現状ですね。

例えば、レアメタルを吸着するポリマーの合成は出来ても、それをどうやってフィルターなどの装置にして実用化するとなると企業側にもそれなりのノウハウがなければ、ビジネスにつながらないのですよね。そういう意味ではDOWA様をはじめ、企業の方が実用化につなげていって欲しいと期待しています。

そうすると研究のテーマというは企業からの依頼による影響が大きいのですね?

企業からの要望には応えなくてはなりませんが、私の場合はそれ以上に大切にしているものがあります。

私は学校で学生たちを相手に仕事をしています。学生たちと研究をしている・・と言った方が良いかもしれません。正直なことなのですが、自分が一番楽しいのは、学生たちが「おもしろい!」と思ってくれることです。
ですから、研究のテーマは、学生たちが「おもしろい」と思えるテーマを必死に考えるんです。1年中考えていますね。

過去に、中途半端な研究テーマを与えたことによって、研究室の雰囲気が悪くなってしまったことがありました。研究室の雰囲気が悪かったら、良い成果を上げられないということを学びましたね。それからは、「自分が取り組むテーマ=学生のテーマ」なのだということを念頭に置いています。今はとても良い雰囲気です。

教育者という立場の大変さがわかるような気がします。

「教育者」なんて、そんな偉そうなことはとても言えないですよ(笑)。
良い研究をするためには研究室の雰囲気が大切で、学生がおもしろがってくれることが楽しいんです。

学生さん達に何か思うことってありますか。

無理と失敗してみる・・ということをする学生もいます。化学の世界に限らず、失敗をしたことで新しい発見があるということも事実で、特に高分子合成の世界では確かによくあることなんです。「失敗からノーベル賞」のような言葉が流行ったりもしました(笑)。

しかし、研究者は「一発屋」ではいけないと思うんですね。
研究者は理論や計算の上で思った結果を出すことができなければならない。求められる機能に向けた設計ができなければ研究者としての意味が無いですよね。
研究者は、何か社会を変えるような新しいものを「発見する」ということが注目されがちですが、「社会が求めることに対して理論からデザインしてものを作り出すことが出来る人」であるべきだとおもいます。

私はデンドリマーの合成以外のポリマー合成は全て携わりました。
例えば企業さんから「こういう機能を持ったポリマーを開発して欲しい」という依頼を頂いた場合、希望に添ったものを合成します。
もちろん企業さんもデータをお持ちですから、ターゲットとなる物質のデータや条件などいただくことが必要ですし、より安価な代替材料の検証や高効率な環境条件などの検討実験は必要ですが。

まさしく「ポリマー合成のスペシャリスト」ですね

もともと、大学のマスターまでは無機化学をやっていたんです。
その頃に、有機化学がやりたくなって仕方が無くなり、周りの人は「無理だからやめろ」と言われたのですが、ドクターになる際に遠藤剛先生(近畿大学分子工学研究所 教授、その1をお読みください)に出会って、そんな無謀なことを言い出した自分を「イイよ」と言って拾ってくださいました。

それから6年半お世話になっている間、学生も付けてもらえたり、業績もあげさせてもらって、非常に「恩」を感じています。
あの時に拾ってもらい、そのあともよくしてくれたことで、今の自分があると本当に感謝しています。

「恩」ということで言いますと。今回の「レアメタルをやってみたら」という研究のテーマときっかけを与えてくれた落合准教授(山形大学大学院理工学研究科、その1をお読みください)のアドバイスがなかったら今の自分がなかったと思います。
また、今回の研究の支援をしていただいたDOWAの皆さんが非常に良くしてくれて、本当に気持ちよく研究させていただけたことに感謝しています。
これまでも、これからも、私は常に「恩」を忘れずに生きています。

チョット格好つけすぎましたかね(笑)

ここまでお読み頂きありがとうございます。
今回で、インタビューは終了です。まだまだ永井先生の「ポリマー合成のスペシャリスト」の研究は進化していきそうです。
このインタビューを通して、化学合性だけでなくどんなことに対しても前向きな先生の人柄を感じました。

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