金属回収をするポリマー開発 その2
群馬大学大学院工学研究科
応用化学・生物化学専攻
永井 大介 助教
金属を高効率で吸着する水溶性ポリマーを合成し、ポリマー研究の第一人者である群馬大学大学院助教、永井先生にお話をお聞きしています。
今回は、「化学っておもしろい」というテーマで、化学の世界についてお話しいただいています。
ファイブロバイオプロセス研究会:レアメタル(希少金属)を効率良く回収できる吸着・水溶性ポリマーを開発
http://www.gunma-u.ac.jp/sb/log/eid24.html
ところで、ハードな原子とソフトな原子という表現をされていますが、どういった違いなのですか?
ソフトな原子というのは原子半径が大きいため電子がウロウロできる範囲が大きいモノを言います。
逆にハードな原子というのは原子半径が小さく電子が動きにくいギッチリ詰まった状態です。ただ、相対的なものでして比較すると半径が大きかったり、ソフトだったりと言うことですね。
ということは、原子半径が大きいというのは、電子雲が大きいということなのでしょうか?
「電子雲」というのは電子の存在確率を表現したものなんですが、
原子半径が大きいものは最外殻のサイズ・範囲が大きいということで理解していただいた方がいいのかな?・・・
よく、核の周りを太陽と惑星のように軌道に沿って電子が回っている姿をイメージされていて、内側からK、L、M・・殻と呼んでいる方が多いかと思いますが、実際は、電子は決まった動きをしているのではなくウロウロしていて、その動く範囲がぼんやりと決まっていて、その範囲が原子半径と捉えるのが良いかと思います。・・・・
・・ところで、こんな基礎的な話をしてしまっても良いのですかね。
DOWAエコジャーナルの読者の方は、化学系ではない一般の方も多いのですか?・・・・
そうですね、廃棄物処理・金属リサイクル・土壌浄化に事業に関わっておられる方々が多いと思います。例えば、メーカーの環境部の方とか、建設会社の方などがおられると思います。
なるほど・・・そういった方々は化学出身じゃないですね。
そうしましたら、原子が大きくなれば、電子の雲が大きくなるからソフトになるとイメージしておいたらイイのではないでしょうかね。
授業しているとよく分かるんです。KLM殻とか、第一殻、第二殻とか言うと学生の気持ちが急に離れていくんですね(笑)
実は私もそのあたりで、挫折しました・・・(笑)
ところで、化学と言えば、ポリエチレンとかエチルメチルケトンとか、カタカナばかりの長いものが多くて・・・環境基準が設定も名前が長くて覚えられなくて困ります。
良い方法はないですか?
そうですね。化学って基礎となる規則や原理が理解ができてないと途中でダメになっちゃうんです。
化学は名前を読み解くとその物性や起きている現象が概ね理解出来ますから、一般の方には解りやすいイイ方法と思います。
実は、私は大学の学部の時は無機化学を研究していたのですが、有機化学に興味が湧いてきて、有機化学をやるためには、もう一度基礎から化学をやらないとダメだと思って、大学院を受ける時に高校レベルの勉強をし直しました。
その時も僕は基礎から始めましたね。
「ポリ」は「たくさんの」というのはご存じの方も多いと思います。
「ポリエチレン」はエチレンが3つ以上連なっているポリマーと考えてくださればイイんです。
2つなら「ジ」が付いて「ジエチレン」となります。
ポリマーという名称も「ポリ」+「マー」で組み立てられているんです。「マー」は「1個の分子」の意味なんですよ。
従って、「ひとつの分子が沢山つながったもの」と理解することができますね。
ポリマーのような化合物の場合はこのように分解すると解りやすいですね。
ただエチルメチルケトン、これは分子の名前ですね。
エチルメチルケトンとは、エチルとメチルとケトンに分解して考えてイイのですか?
ええ、そうですね。ケトンは□の部分ですが、そのケトンにメチル基とエチル基がついています。メチル基とエチル基の順番はアルファベット順でethyl(エチル)methyl(メチル)と並べて最後にケトンになるんです。
学生もそうやって意味から覚えてゆくとイイのですが、学生を見ていると意味まで覚えないで直接名前で覚えちゃってますね。
皆さん頭が良いんですね、私は丸暗記は苦手です・・・。
本来は構造的に意味を考えながら覚えたほうがイイですよね。
いろいろな現象を教わるよりは基本的な原理や規則から組み立てていく方が近道だと思いますし、新しい化合物と出会ったときも、名前の原則を理解していればその物質や役割などが想像つきますよね。
先生のお話を伺っていると、化学って簡単なんだと思えてしまいます。
でも、有機化学って複雑で難しいですよね・・・。
いや、有機化学のおもしろいことって、反応が全て電子の動きで説明出来るんです。規則に従って組みたてていけば結論に達します。
新しいものをデザインしたり、起きている現象を推察するには論理的思考の訓練は必要ですが、とてもシンプルでおもしろいと思います。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
次回は、「金属吸着の仕組みをデザインする」についてお話しいただいています。