大量発生が予測される自然由来重金属汚染土壌への対応 その2
一般社団法人 日本汚染土壌処理業協会
円谷 創(つぶらや はじめ)様
政府の政策転換、景気浮揚、東京オリンピック招致決定などにともなって、道路開発等の公共工事が急ピッチで進められています。これら工事で発生する残土の処分、利用先についてはメディアでも取り上げられ、問題となっています。
また、これらの残土の中には自然由来の重金属を含有するものもあり、これらの適正な処理が課題の一つとして挙げられます。今回は一般社団法人日本汚染土壌処理業協会の円谷さんにこれら課題の状況についてお尋ねしました。
今回は、対策と今後の課題についてお話しをお聞きしています。
自然由来の重金属含有土壌の土壌汚染対策法での取り扱いは、どのように規定されているのでしょうか?
2010年に改正された土壌汚染対策法では、自然由来重金属含有土壌についても汚染土壌として扱うこととされました。その枠組みについては図5をご覧ください。
こうした自然由来重金属含有土壌が存在する地域については、自然由来特区等の区域指定が行われ、人への健康被害を防止するための種々の対策方法が規定されています。
一方で、土壌汚染対策法の適用を受けないけれども、対策が必要な重金属含有土壌が発生するケースもあります。
この対策方法については土壌汚染対策法の目的である「汚染による人の健康被害の防止」を念頭に委員会やマニュアル(※1)等で検討され、先進的な対策法の適用もなされているところです。
また、土壌汚染対策法の対象外の汚染土壌を搬出処理するにあたっても、環境省は土壌汚染対策法に準じた処理を行うように指導していますので、土壌汚染対策法に基づいた処理業の許可を有する汚染土壌処理施設で処理することとされていますが(※2)、実際はそのようになっていないケースもあり、大量に発生する重金属含有土壌の処理に対応するために設備を増強したほうがよいのか、混乱している協会員もいます。
※1 例えば以下のマニュアル等があります。
- 建設工事における自然由来重金属等含有土砂への対応マニュアル検討委員会
建設工事における自然由来重金属等含有岩石・土壌への対応マニュアル(暫定版),2010. - 茅根 壮一, 外環(千葉県区間)における建設発生土対策に関する検討
- 西日本高速道路株式会社 新名神高速道路 兵庫工事事務所 新名神高速道路 兵庫工事事務所管内自然由来の重金属を含有する岩と土壌に関する施工マニュアル(概要)
- 一般社団法人 北海道環境保全技術協会技術委員会, 自然由来重金属等の対策におけるリスク評価マニュアル, 北海道環境全技術協会技術レポート, No.5,2012
- 一般社団法人 北海道環境保全技術協会技術委員会, 吸着層工法設計マニュアル, 北海道環境全技術協会技術レポート, No.5,2012
※2 施行通知第10の記の1にて記載。
例えば以下に解説があります。
- 汚染土壌の運搬に関するガイドライン(改訂第2版),第6章、環境省、平成24年5月
- 汚染土壌の処理業に関するガイドライン(改訂第2版),第8章、環境省、平成24年5月
実際こんなに大量の土壌を許可施設だけで処理する事は可能なのでしょうか。
土壌汚染対策法に基づく汚染土壌処理業の許可を有する施設の許可数量は、埋立処理施設を除いても年間2,000万トン近くあるので、現行年間280万トン発生している汚染土壌が、2.5倍の年間800万トンになっても対応は可能です。
といいたいのですが、発生場所の近くに必ず処理施設があるわけではないので、土壌を運ぶコストが問題となり、対応が難しい状況です。
そうすると、課題解決は極めて困難ということでしょうか。
この課題解決の一助として、乾式磁力選別工法(DME工法)を協会推奨工法として認定し、普及に向け取り組み始めています。
DME工法の詳細はこちら 乾式磁選処理をご覧ください。
本工法は重金属含有土壌に直接特殊鉄粉を添加・混合したあと、重金属が吸着した特殊鉄粉を磁力によって回収し、浄化土を得る方法です。
現地処理あるいは汚染土壌処理施設への導入により、従来よりも低コストにこれらの重金属含有土壌を処理できると期待しています。
協会員でこの技術を共有し、普及スピードを上げることで、自然由来重金属含有土壌の効率的な処理に貢献したいと考えています。
しかしながら、浄化した土壌の利用先確保という別の課題も残っています。
浄化した土壌でも利用先の確保は難しいのですか。
大規模な公共工事が進行していくなかで、大量の建設発生土は避けられません。国土交通省においても建設発生土のリサイクルを推進しており、現場内利用や工事間利用が進められています。
平成24年度の建設発生土の利用実態(国土交通省調べ)では、日本国内で年間約2.87億m3の建設発生土が発生しています。
このうち1.46億m3が現場内で利用され、0.43億m3が別工事の間で切り盛りバランスを取って利用され、0.07億m3が改良プラントで処理され利用されています。発生量2.87億m3対し、発生土利用量の合計は1.97億m3となっており、利用率としては約69%と試算されます。
一方、残った0.90億m3は内陸受入地へ搬出されています。内陸受入地へ搬出された量だけでも膨大な数量です(図6)。
内陸地受入地って、何の事ですか?
主に残土処分場と考えられます。重金属含有土壌の場合は汚染土壌処理施設、セメント工場、最終処分場等が考えられますが、これら受入地の内訳については公表されていません。
もっとこのような残土を利用できたりしないのでしょうか?
東日本大震災の被災地では、復興工事のための盛土材が不足しているのですがコストの関係上、新材(新しく山を切った土壌)を投入している例もあると聞いています。盛土材に建設残土が活用できれば、環境保護の観点からも望ましいと思います。
今後、大量に搬出されると見込まれる建設発生土の中には重金属含有土壌も含まれると考えられますから、DME工法により浄化され、建設残土利用が広がればと期待するところです。
なるほど。これは自然由来重金属含有土壌もさることながら、残土の利用についても、大きな課題であるわけですね。最後に一言お願いいたします。
日本汚染土壌処理業協会は微力ながら、日本国内の汚染土壌処理問題における課題解決に向け、適正処理の推進をモットーに一丸となって取り組んでいきたいと考えております。今後もよろしくお願いいたします。
協会では、会員企業様を募集しています。汚染土壌の処理業の許可をお持ちの方、許可は保有していらっしゃらなくても当会の活動にご賛同いただける方、是非ご検討ください。詳しくは当協会のホームページをご覧ください。
ありがとうございました。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
道路開発で渋滞がなくなると、CO2排出量の削減につながりますし、リニア新幹線が開通すると、遠くの友達にも会いに行きやすくなって嬉しいですが、そうした大規模工事に付随して、自然由来の重金属含有土壌が発生するとは、知りませんでした。
日本汚染土壌処理業協会のみなさんが、適正処理推進をモットーに取り組まれている姿が非常に心強く感じました。