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資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ その5
〜日本のクリティカリティ評価〜

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
安全科学研究部門
社会とLCA研究グループ研究員
畑山 博樹(はたやま ひろき)様

国立研究開発法人 産業技術総合研究所
社会とLCA研究グループ ホームページ
戦略的都市鉱山研究拠点「SURE」

「クリティカルメタル」という言葉をご存じですか。
産業を支えている鉱物資源の安定供給確保やリサイクルなどの資源問題を考える上で、世界的に最近よく使われている言葉です。レアメタルと似た印象のある言葉ですが、「クリティカルメタル」とはどのようなものなのでしょうか。

今回のインタビューは、「資源リスク評価と金属資源のクリティカリティ」について研究をされている畑山博樹様に、資源リスクを取り巻く最近の動向などの背景を含めお伺いしました。

【その5】日本のクリティカリティ評価

今回は、日本でのクリティカリティ評価について、教えて下さい。

日本がレアメタルの備蓄を開始したのは1980年代前半ですが、資源リスクの評価はその頃からおこなわれています。
備蓄制度を検討する段階で各金属の埋蔵状況や生産国の集中度、供給が途絶した場合の影響の大きさなどが調査されており、近年のクリティカリティ評価に近いことがおこなわれています。
最近では、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が継続的なリスク評価をおこなっており、一部の結果は公開されています。また、日本メタル経済研究所も、クリティカリティの評価と個々のリスク要因の分析に関するレポートを発行しています。

NEDOの「希少金属代替材料開発に関する最新動向調査報告書(2009)」では、資源リスクの評価方法と結果について見ることができます。
NEDOは、欧州委員会や米国学術研究会議のような「供給リスク」と「産業における重要性」のマトリックスでは表していません。供給リスク、価格リスク、需要リスク、リサイクル、潜在リスクの5つのリスク項目で評価しており、さらに5つの項目は12のリスク構成要素に分けられています。


出典:希少金属代替材料開発に関する最新動向調査報告書(NEDO, 2009)

それぞれの構成要素のリスク点数の小計として各項目のリスク点数が算出され、それらを重み付けして合計することで総合点数で表しています。構成要素として考えているものは、可採年数や生産国の集中度など、海外の事例と共通するものが多いですね。


出典:希少金属代替材料開発に関する最新動向調査報告書(NEDO, 2009)

2009年の報告書では39種のレアメタルを対象として評価しており、総合点数の高かった14種がリスクの高い重要鉱種とされています。最終的には、様々な技術背景を考慮して、「特にリスクの高い鉱種」として4鉱種が選定されています。
2009年以降も継続的に評価を実施しており、対象鉱種や評価方法を見直しつつ、日本にとっての重要鉱種の把握をしています。

NEDOの評価方法では最終的に1つの点数になるので、分かりやすいとは思います。でも、最後に重み付けとして補正係数を掛けているのですが、この重み付けの係数の根拠が見えてこないので、最終的に訳がわからなくなってしまうように思います。
それだったら、生データを2軸で表してくれた方が、まだ理解しやすいような気がします。

それはもっともな意見ですね。
もっとも、欧州委員会や米国学術研究会議の2軸にしても、エール大学の3軸にしても、各軸自体がいくつかの要素をまとめたものになっています。
このような集約した点数や軸から重要な鉱種やそのリスク要因に目星をつけ、具体的な原因や解決策を探る際には個々のリスク要素の評価結果を追うことが、評価実施者にはもとめられます。ただ、資源リスクは慎重に扱うべき話題なので、詳細な結果を公開すべきでない場面も多いです。そのため、1つの点数や2軸のマトリックスといった形で、あえて評価の過程をぼかして表現する意味もあります。

資源リスクは様々な要因を考慮しなければいけませんが、現実ではそれらを総合的に判断して選択をしなければならない場面があります。
簡単な例だと、「供給リスクが高い」金属と「産業における重要性が高い」金属について、どちらの代替技術開発を優先すべきかというようなケースです。このような場合は、1つの指標に統合したほうが結論を出しやすいです。
トレードオフがある場合の意思決定では重み付けは重要で、LCAによる環境影響の評価でも長く議論されています。より“環境に良い”製品やプロセスの導入を目指すためには、「製品AはCO2発生量が大きい。製品BはCO2発生量は小さいが生物多様性を損なう。」というケースに対して、どちらが良いのか答えを出さなければなりません。
その方法はいくつかありますが、例えば、専門家を含む多くの人々に対して「様々な種類の環境問題の中で何が重要と考えているか」というアンケートをおこない、その結果から重み付けを決めるというものがあります。この方法であれば、重み付けの係数に違和感があったとしても、「多くの人がそう考えているんだな」という納得感が得られます。

重みづけは、難しい問題なんですね。

NEDOのクリティカリティ評価は、NEDOや政府の技術開発の方向性を探ることを目的として実施されています。したがって、NEDOの評価の重み付け係数はエキスパートジャッジで提案され、その技術開発の方針を決める方々が納得した重み付けが用いられています。

一方で個別の業界や企業にとっても、金属材料確保に向けたサプライチェーンマネジメントの見直しや、リスクの高い金属の使用を低減した製品開発は重要な課題です。その取り組みにおいても、クリティカリティ評価の考え方は有効と思います。さらに言えば、国策レベルとは目線の異なる、業界、企業レベルでのリスクの捉え方を評価対象に応じて柔軟に取り入れることができれば、より幅広い事例の評価が可能となり、かつその結果が当事者にとって受け入れられやすいものになると考えています。
SUREコンソーシアムの中でも資源リスクに関する課題プログラムを立ち上げており、このような評価について会員企業とともに検討を進めています。NEDOなどの既存の評価事例をレビューしつつ、実際に金属材料を消費している企業の方々の感覚を取り入れた評価の形を構築したいと考えています。

実際に関わっている人の肌感覚に合わせるのですね。

LCAでもクリティカリティ評価でも、評価結果は意思決定の材料となるものです。なので、その評価方法の中身は主観的にしろ科学的にしろ、意思決定する人が納得できるものでなければいけませんね。
重み付けの係数は、社会の状況の変化によって時間とともに変化すべきものかもしれません。実際、LCAの重み付けで触れたアンケートでは、調査年によって重み付け係数の結果が変わっています。過去と重み付けが異なったとしても、それはその時その時の事実や価値観を反映したものに違いないので、意思決定をする時点での重み付けに基づいた判断をすればよいと思います。

判断するには、比較をしなければならず、数値化できれば、異なる複数の要素を比較しやすくなりますが、どのように数値化するかが問題なんですね。


ここまでお読みいただきありがとうございます。
次回は、「クリティカリティ評価の今後」についてお話しをお伺いしています。


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