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地質学の立場から見た土壌と土壌汚染―その3

独立行政法人 産業総合研究所
地圏資源環境研究部門 副研究部門長
東北大学大学院環境科学研究科 連携講座教授
工学博士 駒井 武 様

工学博士 駒井 武先生にお話しをお聞きしました。
【産総研】独立行政法人 産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門TOPページへ

駒井先生は、地質の専門であり、その中でも地下水、土壌の汚染リスクの研究に携わっていらっしゃる、地質と土壌研究のプロフェッショナルです。
現在、日本全国の土壌のデータベースの製作をされています。また、「GERAS」というリスク評価システムの開発をすすめておられます。
今回は、その3 として、
・「土壌」に関わる環境的側面と経済的側面
・「土壌汚染」と「リスク管理」の考え方
・改正土医汚染対策法のポイント
についてお話しをお聞きしています。

前回のお話で、土壌対策法の基本は、「曝露量を評価してリスクを管理する」という考え方ということでしたが、実際の不動産売買の現場では低い濃度でも汚染が見つかると「浄化しないといけない」というような流れになっていますね。

例えば、そのまま工場用地で使うのなら「曝露防止」の概念だけで充分です。今の対策法でも、リスク管理の考え方がうたわれています。舗装しておくなどの対策を行って、産業用地として管理していけばいいのです。
しかし問題は土地「売買」に関して、法律上その用地が何に使われるか明記しないことなんですね。そうなると、どんな土地でも最も安全性の高いシナリオで考えることとなってしまいます。被覆されていた表土を剥がして、子供の遊び場として整備されるかもしれないわけですから、土壌汚染対策法の基準値以下にしないと通常の価格では買ってもらえないという状況になってしまったのだと思います。これは、法律の問題ではなく、あくまで土地売買における契約者間の話になります。

今回の環境省の改正は、「場外搬出を減らしてリスク管理を推奨」していると思うのですが、土地売買の現場が置いてかれているような気がします。その辺はいかがでしょう。

不適正な汚染土壌の場外搬出は汚染の拡散につながります。そもそもは、汚染を拡散させないために調査をして、汚染土壌の位置を把握して、しっかりリスク管理をすることが大事なのです。

今の(改正前の)土壌汚染対策法も「曝露防止」の考え方が基本で、「浄化しなければいけない」ではなく「リスクを管理することを優先しよう」という考え方になっています。
そこを厳しく捉えて「最も安全に……」という解釈をしてしまっているので、土地売買の際は基準以下にしてからの売買となっているのではないでしょうか。
問題は情報開示の仕方と、売買される売り主・買い主の方の関係ですが、そこは民間取引の問題であり土壌汚染対策法では関与できることはありません。

ブラウンフィールドとリスク管理についてはどうお考えですか?

リスク管理は、科学的観点に立った論理的な考え方なのですが、ブラウンフィールドは、対策にかかる費用と土地価格とのバランスが取れないという、あくまで経済的な問題です。アメリカなどは土地価格が安いので、日本よりブラウンフィールドがどんどんと増えています。

環境的側面と経済的側面のバランスを取っていく方法については?

私のイメージで一番合理的なのは、土地の利用用途を明確化することですね。そうするとリスク管理と売買がうまくマッチングしてくるだろうと考えます。
オランダとかドイツの場合はゾーニングを行って、工業地帯なら工業地帯、住宅地なら住宅地と明確化しています。めったな事では他の利用方法に変えないようにすることで、リスク管理を十分にしていれば汚染があったとしても売買の際にも過剰な土壌対策をしなくて良くなりますから、経済的負担も減りバランスが取れてきます。土壌汚染の対策は、土地利用の大きなスキームの中で適切なレベルで行われています。

かつての日本も土地利用計画を行っていこうとしましたが・・・

水と大気は共有財産であり、排出の出口管理が可能なので、法律によって規制・コントロールができますが、土地は不動産という財産ですから、どうやって浄化や管理をするかというコストとは別に、資産としての経済的側面を抜きに語れないわけです。日本は特に不動産価格が高いので非常に影響力が強くなってしまいます。最近はだいぶ良くなりましたが、土地利用や不動産、工場の管理、などが別の省庁によって行われている弊害というのもありますね。省庁間で「土地」の見方が大きく異なりますから難しいです。

汚染土壌対策にはどの様なことが大切だとお考えですか

エネルギー的にも経済的にも循環するようなしくみを作ることが大切だと考えています。
その解決へのキーワードは2つあると思います。
一つはリスクの低減、もう一つはコストの低減ですね。
「リスクの低減」はこれまでお話ししてきた環境省が行っている一連の環境対策ですね。
「コストの低減」については、単に安く浄化対策するということではなく、社会全体でとらえたトータルのコストを下げるということです。
行政(社会)にとっても、住民にとっても、土地所有者にとっても、浄化会社にとっても、どの立場からでもリスクの低減、コストの低減、が図れるようなしくみです。
例えば、掘削した土壌を管理せずに移動させるということは拡散につながりますから、人への影響が出ない等、必要でない限りなるべく場外へ搬出しないで場内で管理していくことで不適正な場外搬出が減れば、社会的に見て総合的なリスクが低減されると思います。不必要な対策費を削減できれば、その分を経済的に還元することも可能です。掘削・移動させなければ、エネルギーの消費と二酸化炭素排出を抑制しますから環境負荷も減らせます。
そう考えてくるとやはり、土地利用がポイントだと思います。一つ一つの土地を浄化しようとすると大きな費用がかかりますが、民間任せではなく自治体が核になってコントロールすることで、地域全体として捉えて都市計画を立てることで総体的なコストを抑えられ、社会全体としてのメリットがあるわけです。そういう意味で土壌の問題は、自治体がコスト意識をもって管理する操作ができれば解決の方向へ向かうのではないかなと思っています。他にも何かよい方法があるのかもしれませんが—。社会全体としてのコスト削減ですから、公的資金というのも考えていいのかもしれませんし、民でも官でもない中間的な何かの組織など、何らかの工夫が必要ですね。

今回の法改正のポイントは、どこにあるとお考えですか。

調査や対策の判断が自治体の長に任されたことが最大のポイントではないかと思います。
調査結果に対し、リスク管理をするか、完全浄化をするかなど、どのレベルの対策を行うか、しっかりとした土地利用の考え方をベースに判断していくことで、莫大な費用を社会として浮かしていける、というしくみができてきたのではないでしょうか。非常に喜ばしいことだと思います。またこれまで以上に調査の契機が増えたことも土地利用を行おうとする自治体にはメリットになると思います。

ただ、土壌汚染対策法ができたのが2003年でまだ5年程度しかたっていないので、自治体によっては、ようやく土壌汚染について慣れてきた状態のところに、今回の改正で自治体の業務が増えることになります。実際には、専門家の育成が追いついていかないのではないかと思います。逆に言えば、優秀な専門家が増えれば社会として相当有益な判断がしていけると思いますので、専門家の育成が課題ですね。
ちなみにアメリカでは、コンサルタントが非常に発達していて。「リスクアセッサー」という個人資格を持った民間の専門家が沢山いて評価書を書き、各種手続きを行えます。州の行政側にも専門家がいてしっかり判断するというしくみができています。日本では例えば財団法人土壌環境センターに「土壌環境リスク鑑定士」という資格制度がありますが性格が違います。土壌汚染対策法に則った土壌調査をするには指定調査機関で行わなくてはなりませんが、指定調査機関は届出による制度であって、土壌とリスク管理について特化しているものではないですね。
いずれにしても日本では、法律が制定されてからまだ6年です。リスク評価という考え方が一般化してくるのには今後10年くらいかかるのではないかと思います。

ここまでお読み頂きありがとうございます。
この続きは次号のジャーナルで公開致します。

次回の主な内容は
リスク評価の判断手法として開発された「地圏環境リスク評価システム」をご紹介します。

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