バイオコークスの研究と未来 その4
近畿大学 理工学部
機械工学科 准教授
井田 民男(いだ たみお)様
近畿大学機械工学科
近畿大学ホームページ バイオコークスプロジェクト
平成23年 新エネ大賞「資源エネルギー長官賞」
平成24年 地球温暖化防止活動環境大臣賞 受賞
地球温暖化抑制に向け、CO2削減の為の様々な取り組みが世界中で行われています。
今回のインタビューは、製鉄に欠かせない石炭コークスの代替として世界的に注目されているバイオマスを原料にしたバイオコークスの開発をされた近畿大学の井田准教授にお話を伺っています。
【その4】 将来に向けて
なるほど、これからは海外なんですね。
最近は、東南アジアへの技術供与の話が非常に多いですね。去年からほとんど海外とのやりとりです。
これからは二国間オフセット・クレジットが導入されてきますから、現地でCO2削減を実現することも日本にとっても意義のあることになりますね。
【参考資料】
環境省ホームページ
二国間オフセット・クレジット制度
ちょうど今年5月に、安倍首相が春に東南アジア各国へ行かれましたが、そのときに、近畿大学が泰日工業大学と学術交流協定に調印しました。
中でもバイオコークスの技術に興味を持たれたと聞いています。国内に余剰しているバイオマスを利用し、資源国家としてビジネスが成立しますから、ASAENのバイオマス・ポテンシャルからすると、環境とエネルギーを両立できるチャンスと感じてくれていると思います。
特にシンガポールはすごいなと感じます。
それに比べて日本は組織決定するまでの動きが遅いというか、投資意欲が薄いという印象ですね。やはり、国内で製造するのはビジネスとして難問が多すぎるということだと思います。
最近の動向を見ていると、これからは、工学の技術者も海外へ出て行かないといけないと感じています。
先生は国内の実証から実用化を経て、現在、東南アジアを中心にバイオコークス実用化に向けご活躍されていますが、将来に向けた研究などについてお聞きしたいのですが。
5年前に大学を離れ3年間、基礎研究や学生教育から離れさせてもらって、バイオコークスの実用化・ビジネス化に専念しました。
そのおかげもあり、一昨年(平成23年)にバイオコークスという国産エネルギーを作ったという内容で新エネ大賞の資源エネルギー庁長官賞をいただき、去年の12月にその技術を使って、豊田自動織機さんがCO2削減の地球温暖化防止活動として環境大臣賞を受賞されました。
やはり、これらの受賞は大きなきっかけで、各方面から後押しをいただきましたね。
現在は、やっと落ち着いてきたので、去年から授業に戻り、学生教育もできるようになってきて、これからは最先端のバイオエネルギー工学を教育へ取り入れることと発展研究へとシフトしていきたいと考えています。
そんなところへ、図らずしも一昨年、学園から「バイオコークス研究所の設立準備の指示」を頂き、2012年の12月にバイオコークス研究所を創設させていただきました。
バイオコークス研究所は、バイオコークスをはじめとする持続可能社会に向けたエネルギー技術の研究が目的です。また、現在、大学がグローバル化を推進している中で、数年後にはMAX 7~80人くらいの留学生を受け入れていくことになると思います。
まだ、私のところには留学生はマレーシアの2名だけなのですが、最近は本当に優秀な留学生が多いと感じますね。
ASEANの大学はまだ教育システムや論文の評価などが遅れているところがあるのですが、学生はグローバルな能力、特にすばらしい英語力を持っています。
また、「自分の国を良くしたい」との意欲の点でも非常にまじめで、彼らも5年後10年後に母国で成果を出してくるだろうと期待しています。
我々教授陣が若いアジアの優秀な人達を育て、東南アジアからノーベル賞の受賞者が出ると嬉しいですね。
学生も東南アジアの発展と共にどんどんと優秀な人材が育ってくるのでしょうね。
研究についてのビジョンはいかがでしょうか?
次の研究課題としては、去年からNEDOの2030年を目指した次世代バイオマスエネルギー事業を皮切りに、バイオマスから石炭を作る研究を始めています。コークスは鉄鋼分野などの狭い範囲でしか使えませんが、CO2の問題を考えると火力発電の石炭の需要に対応することが次の目標です。
世界中のCO2排出量で最も多いのが石炭由来によるもので、約40%を締めていますから、石炭をバイオマスに置き換えることが実用化できれば、バイオコークスの比ではなく温暖化防止に貢献できます。
現状のバイオコークスは発電にはつかえないのですか?
使おうと思えば30%位は使えると思いますが、火力発電所で使っている蒸気タービンは1,200℃の蒸気を使いますからコークスのチャー燃焼だけでは酸素を入れても温度が足りません。
製鉄にコークスを使うのは、「タール(揮発成分)」が不純物になってしまうためで、燃焼温度を上げるだけであれば揮発成分が含まれている石炭を使います。揮発成分は酸素を供給すれば3,000℃くらいまで上げることができます。コークスだけでは作れない温度ですね。
発電の為には、石炭のように揮発成分のラジカル反応が使えるようなバイオマス燃料を作らなければなりません。
バイオコークスとは違ったプロセスで作らないといけないんですか?
バイオコークスを作ってから石炭を作るというプロセスになります。
バイオマスから石炭を造るプロセスが木化・風化・石化というプロセスを踏んでいますからそれ以外の方法は今のところ考えられないですね。
とすると・・バイオコークスに揮発成分をプラスするのですか?
いいえ、バイオコークスの特長は原料の持っている揮発成分も含めたエネルギーが100%変換されて固化されていますから。その揮発成分を残したまま石炭化するという方法になります。
数学で言うと排他的証明というのですが、バイオコークスにはバイオマスの組成全てが含まれていますから、バイオコークスから何を除いたら石炭になるのかということを考えるんですね。
石炭になるのに何が悪さをしているかもわかってきて、それを選択的に取りだすこともできるところまで到達しています。
石炭として100%使えるところまではできましたが、まだいろいろ解決しなくてはならないこともありますから、到達度では85%くらいですかね。
残り15%を解決し実用化の研究へシフトしていきたいと思っています。
最後にお伺いしたいのですが、現在、DOWAエコシステムと共同研究をさせていただいていますが、DOWAという会社は御存知でしたか?
DOWAさんは、金属リサイクルで有名でしたので知っていました。
共同研究のお話を頂いた時には「こちらこそ」という感じでした。それまでお付き合いが無いところから興味を持っていただいて、実験などさせてもらうと新たな発見があって非常に面白いです。
特にウレタン100%でバイオコークスが作れるか?というのは、自分でも「つくれるんだ!」と驚いたくらいです(笑)。廃棄物処理やリサイクルをしている会社ならではの発想ですよね。
さらにDOWAさんグループの廃棄物溶融炉などでバイオコークスが利用できるようになると嬉しいですね。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
今回で、インタビューは終了です。バイオコークスの製造方法からASEANを含めた国際規模での地球温暖化抑止の重要な解決技術だとわかりました。
今後の井田准教授のますますのご活躍をお祈りします。