環境アセスメント入門 その2
【3】アセスの流れと内容
アセス手続きの流れは、法アセスでは図1のようになります。条例アセスの流れは自治体によって異なりますが、概ね法アセスに準じたものとなっています。また、生活アセスは法と比べて簡略化されており、自主アセスは案件ごとの対応となります。
各アセスの基本的な流れは概ね同様ですので、以下に要点を説明します。
出典:環境アセスメント制度のあらまし(環境省)
図1 法アセス手続きの流れ
まず事業者は、事業計画検討段階において、施設の位置・規模等の複数案(A案:敷地北側に5haの処分場を設置、B案:敷地南側に3haの処分場を設置 等)に対する環境への影響をそれぞれ簡易的に予測評価し、比較検討を行います。
事業計画(複数案)の概要、地域特性の文献調査結果、複数案の簡易的な予測評価結果などをとりまとめた報告書を「配慮書」といい、これに対して住民・自治体・国などから意見を受け、事業計画策定の参考とします。
事業計画が決定した後、事業者は、事業計画(影響要因)と地域の特性(環境要素)を整理し、「影響が予想される項目」=「アセスを実施する項目」を選定し、項目ごとに調査・予測・評価の手法を検討します。
事業計画の概要、地域特性の文献調査結果、アセスの選定項目、調査・予測・評価の手法などをとりまとめた報告書を「方法書」といい、これに対して住民・自治体・国などから意見を受け、必要に応じて選定項目の追加、調査手法の変更などの修正を行います。
アセスの項目・手法が確定したら、それに従って調査・予測・評価を実施します。大気質や動植物など、季節の変動がある環境要素は四季の調査が必要となるため、排ガスを排出する事業や山林の造成を伴う事業などでは、1年以上の調査期間が必要です。
現地調査完了後、事業計画と調査結果のデータに基づき環境影響予測についてのシミュレーション等を実施し、その予測結果を評価します。評価は、環境基準等との比較や、環境保全措置が適切に採用されているか等により行います。
方法書の内容に調査・予測・評価の結果などを加えたアセス報告書(案)を「準備書」といい、法アセスでは電話帳並の厚さになります。
準備書は、方法書と同様に住民・自治体・国などの意見を受け、修正(追加調査、再予測など)を行い、とりまとめた最終報告書を「評価書」といいます。
評価書の縦覧終了をもって、アセス法において着工が許可されます。
なお、「アセス」=「現地調査」だと考え、現地調査終了から1~2週間後に準備書が手元に届くと誤解されている場合がありますが、現地調査は基本的にサンプリング作業であり、その測定・分析結果が出るまでに数週間、それらの結果を基に予測・評価を行い、準備書が完成するまでには、数ヶ月の期間を要します。
【4】アセスの項目
アセスを実施する項目は、【3】で記載したように、事業計画(影響要因)と地域の特性(環境要素)を勘案することにより選定します。影響要因は事業の各段階によって異なり、例えば「工事中」は造成、建設機械の稼働、工事車両の走行などが、「存在・供用時」は施設の稼働、関係車両の走行などが項目として挙げられます。環境要素は「生活環境」と「自然環境」に分かれ、「生活環境には大気質、水質、騒音などが、「自然環境」には動物、植物、景観などが挙げられます。
アセスの技術指針(技術指針等を定める主務省令)では、対象事業ごとに影響要因と環境要素からなる、一般的な選定項目が公表されています。これは「参考項目」と呼ばれ、これを参考に選定項目を検討します。例えば、焼却施設に係る生活アセスにおいて、施設排水の排出による水質は参考項目となっていますが、計画施設がクローズド・システムで施設排水の排出がないということであれば、水質を選定する必要はありません。
法アセスにおける最終処分場の参考項目を表2に、生活アセスにおける最終処分場の参考項目を表3に示します。生活アセスでは影響要因・環境要素から「工事中」と「自然環境」が除外されており、項目が法・条例アセスと比較して少なくなっているのが分かります。表2 法アセスにおける最終処分場の参考項目(画像クリックで拡大PDF)
※「廃棄物の最終処分場事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査、予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針、環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令」(平成10年、厚生省令)より作成
表3 生活アセスにおける最終処分場の参考項目
※「廃棄物処理施設 生活環境影響調査指針」(平成18年、環境省)より作成
【5】アセスに掛かる費用・期間
アセスに掛かる期間は、地域特性(貴重な動植物の有無、住民の反対運動など)、前倒し調査※の実施、管轄行政の対応によって大きく変動します。法・条例アセスに必要な期間の目安はおよそ3~4年です。
また、生活アセスの場合は、動物・植物が調査対象でなく、配慮書手続きや方法書の縦覧等の手続きが簡略化されています。最終処分場や焼却処理施設の生活アセスでは2~3年程度かかります。破砕施設の生活アセスの場合は騒音・振動など四季調査が必要なく、手続きもいっそう省略されるため、半年程度の期間で終了できる場合もあります。
アセスに掛かる費用は、計画地へのアクセス、選定項目、調査手法(頻度、地点数)などによって大きく変動します。したがって、費用は一概にいうことはできませんが、概ね法・条例アセスが億円、生活アセスが千万円のオーダーとなるケースが多くなります。
※前倒し調査:アセスに要する期間は、基本的に行政手続き期間と調査・予測・評価を実施し書類を作成する期間とに分けられます。行政手続き期間は上限が法令で規定されており、監督省庁または自治体がそれに基づき審査を行います。この期間を事業者の都合で大幅に短縮してもらうことは困難です。調査についても、項目によって適切な調査期間(大気質は四季ごとに1週間、騒音・振動は秋季の平日24時間 等)があるため、予測・評価にあたって問題がないことを説明できなければ期間を短縮することはできません。前倒し調査は、事業者がアセス期間を短縮する目的で、方法書審査によるアセス項目・手法の確定前から現地調査を開始してしまう方法です。この方法ならば調査を早めに開始した分だけアセス期間が短縮されますが、方法書の審査で追加調査を指示された場合、調査が二度手間となるだけで、期間が短縮されないリスクがあります。なお、行政手続き期間については、環境省から各自治体宛に、短縮を図るよう通達が出されています。
【6】イー・アンド・イー ソリューションズのアセス業務サービス
イー・アンド・イー ソリューションズでは、アセス法やアセス条例が施行される以前の創業(1972年)以来、一貫してアセス業務を行っています。最近では、再生可能エネルギー関連や廃棄物処理施設に係るアセスについてご相談をいただくことが多く、現在は洋上風力発電所に係る法アセス、最終処分場に係る条例アセス、焼却施設に係る生活アセスなどを実施中です。
日本国内で実施されたまたは実施中である洋上風力発電所に係る法アセス7件のうち、3件は弊社が実施しています。
アセス審査会は各項目を専門とする大学教授など10名程度で構成され、事業者はアセス審査会において説明および質疑応答への対応を行わなければいけません。従って、アセスをスムーズに実行するためには大気、水質、生態系などそれぞれの環境要素ごとのに最新の知識や経験を持った専門家が必要です。弊社ではそのような専門家が多数在籍し、様々なアセスに関して対応しておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
【参考資料】
環境省ホームページ
環境アセスメント制度のあらまし(平成24年、環境省)
廃棄物処理施設 生活環境影響調査指針(平成18年、環境省)
技術指針等を定める主務省令
この記事は
イー・アンド・イー ソリューションズ
松崎 が担当しました