進化するスイスのごみリサイクル その3
〜リサイクルプロジェクトと将来の展望〜
■プラスチック・リサイクルプロジェクト
前回ご説明したように、スイスの課題はプラスチックのリサイクル率を上げることでした。
スイスの山々の中でも有名なマッターホルンがある街ツェルマットでは、プラスチックごみを混ぜたアスファルト舗装の道路を作るという、スイス初のプロジェクトが2019年にスタートしました。このプラスチックごみをアスファルト舗装工事に使うことを考案したのは、スコットランドのマクレバ―社です。
マクレバ―社はプラスチックごみを混ぜることで、アスファルト舗装の柔軟性が増し、激しい気温差の中でも耐久性があると説明しています。実際ツェルマットの気候は寒暖差が激しく、冬はマイナス20℃、夏は30℃まで上昇するため、丈夫で長持ちする道路が期待されます。
この舗装工事では45トンのアスファルトに150キロのプラスチックごみを混ぜます。
こうやって見ると、プラスチックごみの含有率はわずか0.3%です。しかし、連邦材料試験研究所(Empa)のリリー・ポリカコス氏は「スイスのアスファルト生産は毎年650万トンで、これに必要なプラスチックごみは1万6000トンになる。」と説明しています。
また、同氏はこのプラスチックごみが混じったアスファルトの環境リスクも調査し、アスファルトに包まれたプラスチックは外に拡散しないため、現段階では汚染リスクは低いとしました。
スイスにおけるマクレバ―社のアスファルト舗装動画(英語:1分40秒)
【参考】
■プラスチックごみ規制の動き
スイスは、リサイクル率を上げることを考えると同時に、ごみの排出量を減らすことも目標に掲げています。例えば、ジュネーブ州は2024年までに可燃ごみの排出量削減率目標を25%にし、プラスチックごみをなくすための規制を始めました。
2020年の1月1日より食品小売店ではプラスチックのレジ袋の無償配布が禁止になり、違反者には200スイスフラン(約23000円)以上の罰金が科されることになりました。また、公共スペースで販売を行う場合、レジ袋のほかにプラスチック製のスプーン、ナイフ、フォーク、ストロー等の提供も禁止になりました。この場合の違反者は100スイスフラン(約11500円)以上の罰金が科されます。
2020年1月より使用禁止となったプラチック製品(右下は風船につける棒)
出典:ジュネーブ広報
ジュネーブのマラソン大会で配布される
再生可能なコップ(著者撮影)
また、数年前から公共イベントでは、リサイクル可能なコップを使ったドリンクの提供や、食器類のデポジット制が推奨されおり、食器を返せばデポジットとして払った分が、返金されます。例えば、300mlの飲み物のコップは2スイスフラン(約230円)、500mlは5スイスフラン(約575円)、食器類は5スイスフランがデポジット料金の相場となっています。
【参考】
ジェトロ/ジュネーブ州、小売店の使い捨てプラスチック袋の無償配布禁止
ジェトロ/プラスチック排出削減に向け進む、官民の取り組み
■「ロボット式廃棄物選別システム」稼働開始
スイスではリサイクル率を上げるために、最新のテクノロジーを採用しています。スイスのシンクタンク、アヴニール・スイスが「可燃ごみの5分の1がまだリサイクルできる」という分析レポートを出しました。そして「消費者はごみを分別せず、集積所で分別した方がリサイクル率を向上させられるのではないか。」と、問いかけました。
実際にベルン州は2018年から1年間、消費者の分別を少なくする実験を行いました。これは細かい分別をせずに、色分けしたゴミ袋に入れて、そのまま一般のごみと一緒に出すという試みです。その結果、4色の有料ごみ袋を制定し、混合プラスチック、PET、缶/アルミニウム/小金属、ガラスはこの袋で24時間いつでも投棄できるようにすることになりました。今までのごみ捨ての方法と並行して、2022~2026年に段階的に導入していきます。
その結果、4色の有料ごみ袋(混合プラスチック、PET、缶・アルミニウム・金属、ガラス)を制定し、この4種類は有料ごみ袋に入れて24時間いつでも投棄できるようになりました。今までのごみ捨ての方法と並行して、2022~2026年に段階的に導入される予定です。
分別ごみはわざわざ分別ごみ集積所まで持ち運ばなければいけませんでしたがこの新方式の導入により家の前の一般ごみの集積所で直接処分できるようになり、利便性が高まります。また、回収されたリサイクル品はソーティングセンター所で分別されるため、リサイクル品の純度を上げることができます。
出典:ベルン市広報(独語)
出典:ソルテラ news letter1
また、ソーティングセンターに運ぶトラックの数を減らすために、ジュネーブ市の中心街であるカルージュ(Carouge)にごみ収集のハブ拠点を作り、そこから鉄道で郊外のソルテラがあるサティーニ(Satigny)に廃棄物を運びます。
出典:ソルテラ news letter1
Helvetia environnement
ソルテラ紹介動画(フランス語:3分35秒)
※フランス語ですが、アニメーション仕立てになっているので、音を消してご覧いただいてもどのような分別をするのかがわかります。
【参考】
■スイスのごみ処理から見える、将来の展望
今後もスイスはごみ処理と環境対策を考え続けていきます。
スイスインフォのインタビューに対し、ヴァレー州の焼却施設サトム(Satom)の経営責任者である、ダニエル・バイリファール氏が次のような将来の展望を語りました。
- 人工知能をベースとした、再利用可能な廃棄物の自動選別システムの構築。
- ごみで生成した、電気や水素で走るゴミ収集車への転換。
- 燃焼時に発生するCO2を分離させ、水素と組み合わせてバイオ・ガスを生成。
- スイスからノルウェーまでパイプラインを建設し、バイオ・ガスを輸出。
いずれも、環境保護を視野に入れた構想になっています。
雄大なアルプスに囲まれたスイスは大自然と共存しているため、環境問題にはとても敏感です。長い間、技術革新をはかって、ごみ処理と環境問題に取り組んできました。スイスは緩やかに人口が増加しているため、こうした効率的なごみ処理を進化させていくことは常に重要な課題になっています。将来はAIを導入してごみ処理を行う構想もあります。
まだまだスイスには進化する余地がたくさん残っているようです。
Losirs.ch よりジュネーブのレマン湖
スイスインフォ
この記事は
エコジャーナルサポーター
Mika が担当しました