ネパール 観光地ポカラのゴミ事情とは その2
■ネパールの資源再利用を支える“カワリ”の役割とは
その1までの話で、ネパールではSDGsの流れからかけ離れていると感じられた読者もおられるでしょう。しかし意外な事に、近年までネパールは地政学的な理由から、物流が制限されていたため、資源を有効活用する文化が根付いています。
今でこそ先進国からの大量消費、大量廃棄の商習慣の影響を受けていますが、物をできるだけ直して使い続けようとする人がほとんどです。家電から電動工具に至るまで、専門分野ごとの修理屋さんが街に多くあります。
壊れたらとりあえず修理に出し、何度も直しながら使っていきます。手に入らない部品があれば、代用品を使ったり手作りしてなんとか直そうと奮闘してくれます。それでもいよいよ修理もできないとなるとカワリと呼ばれる廃品回収を生業にする人々が引き取ってくれます。
彼らは自転車で住宅街を回りながら、鉄クズや紙など資源ゴミを少額の料金で買い取ってくれます。近所のカワリの1人に話を聞きますと、買い取られた資源ごみは分別され、国内の加工工場や陸続きのインドに送られリサイクルされるとのことでした。
ネパールでカワリは職業として認識されており、インド国境近くが出身の民族の方が中心に働いています。前述のカワリは月に8,000Rs(約8千円)稼ぐそうで、一般的なネパールの月収よりやや低いとはいえ、家族を養う分は稼げているとのことです。彼らカワリの存在は、ネパールの資源リサイクルの要となっています。
写真:大きな声で呼び込みをしながらゴミの回収をするカワリの青年
街にはポイ捨てをする人が多いのに、道がゴミで溢れない理由として、毎朝清掃する習慣があることをあげました。そして、さらにもう一つの理由があります。
写真:集めたペットボトルは1キロ25ルピー
(約25円)で業者に売るという
一部の貧困層の中には、道に落ちたゴミを拾いながら生計を建てている人々がいます。彼らは大きな袋を担ぎながらペットボトルやプラスチックゴミを拾い、それを売って生計を建てています。前述のカワリは職業として認識されていますが、こちらはいわゆる路上生活をされている方々です。特に商業地域では大量のプラスチック製の廃棄物が出るため、お店側とそれを拾って生計を立てる人の相互依存が成り立っています。毎日街がゴミが大量に廃棄されても、ゴミが蓄積されない理由です。
■リサイクル率向上に向けた課題と挑戦
さて回収されたペットボトルは、どこへ行くのでしょうか。その答えを求めて訪れたのはポカラの工場地帯にあるヒマラヤン・ライフ・プラスチックという民間のペットボトル再生工場です。
私が訪れた時には約35名のスタッフが猛暑と機械の騒音の中、懸命に作業を行なっていました。工場のジェネラルマネージャーであるプラカス・バラティ氏によると、この施設は2012年にオープンし、毎日3tの使用済みペットボトルが再加工されるとのことです。ポカラだけでなくネパール全土から送られて来ると言います。中には標高8,000mを超えるエベレスト周辺から回収された物も含まれるそうです 。
写真:毎日3tのペットボトルを分別する女性たち
ここで分別、粉砕、洗浄、加熱処理がされペレットと呼ばれるプラスチックのチップを月間55t製造するとの事です。パレットはカトマンズ のペットボトル製造工場へ納品され、ミネラルウォーター用のペットボトルに生まれ変わるといいます。
プラカス氏にネパールのリサイクルと課題について聞くと「ゴミの埋め立て地に行くと、とても心が痛みます。とても多くのペットボトルや資源物がリサイクルされずに捨てられているからです。ネパール全体で使用されるプラスチック製品のたった5-7%のみがリサイクルされています。残りの95%の貴重な資源ゴミは土に埋められたり、川に捨てられ環境を破壊しています。」と答えてくれました。
この工場だけを見ると大量のペットボトルが処理されていると感じましたが、ネパール全体を見るとそれはごく一部で、リサイクル率を高める為の課題は大きいと感じました。
写真左から:ペットボトル再加工のプロセスを説明するプラカス氏、粉砕されたペットボトルの洗浄前と後、加熱処理されて液体状になった原料が冷却されている
■おわりに
ネパールのゴミ処理事情は、地域や個人の自主的な取り組みによるものが多く、抜本的な解決には国による法整備とそれを行い続けるシステム作りが欠かせないと感じました。
国民としての環境意識が少しずつ高まってきているので、まずはそれをさらに盛り上げ、個人個人が自分の手の届く範囲でできる小さいと思える努力をし続けていくことが求められると思いました。
この記事は
ネパール在住 フリージャーナリスト
延原 智己 が担当しました