ネパール 観光地ポカラのゴミ事情とは その1
■経済成長と環境負荷
ネパール、ポカラはヒマラヤ登山の玄関口として有名です。フェア湖を囲むように飲食店が立ち並びネパールを訪れる外国人の多くがこの地を訪れます。
ネパール経済は観光業と、外国への出稼ぎ労働者からの仕送りに大きく依存しています。コロナ禍で観光業は冷え込みましたが、それでも毎年経済発展を遂げて地元の人々のライフスタイルが変化しています。それに伴って年々排出されるゴミの量が増加しています。ネパールではゴミの分別やリサイクルのシステムがまだ浸透しておらず、環境への負荷が懸念されています。
写真:アンナプルナ氷河を水源とするフェワ湖とレイクサイドの繁華街
写真:掃き掃除をする店のスタッフ
ネパールでは先進国ほど環境意識が高く無いため、ゴミのポイ捨てが日常的に行われています。子供から大人までスナック菓子の包装やペットボトルを躊躇なく路上に捨てる人を日常的に目にします。それでも不思議な事に、街がゴミで溢れない理由の一つは、ネパール人の独特な衛生感覚にあります。
道にポイ捨てはしますが、自分の家の前の道は習慣的に毎朝清掃するのです。竹製のホウキで器用にゴミを1箇所にまとめ、その後水を流して砂埃を流します。まとめたごみは、ごみ収集車が回収していきます。毎日、午後にかけて道にはポイ捨てのゴミが増えますが、朝になると掃除されて道が綺麗になっています。
日本人から見ると、ゴミのポイ捨てをやめれば、毎日の掃除をしなくて済むのにと思います。しかし地元の方々は、毎日のルーティンとして、このいささか不思議な清掃のサイクルを日課にしています。
■ポカラのゴミ収集システム
生活ゴミの回収は定期的に行われています。商店が立ち並ぶ幹線道路沿いは毎日、ゴミの収集車が来て回収してくれます。住宅街のゴミ回収は週に一回行われます。カエルの鳴き声のような音でゴミ収集車が来たことが知らされます。それを聞いた近隣の住民は、1週間分のゴミを持ってゾロゾロと道に出てきます。家の前にゴミ収集車が来たタイミングで、トラックの荷台に乗る収集スタッフへゴミを手渡します。
週に一度のこのゴミ出しのタイミングを逸すると翌週までゴミが出せないため、ゴミ収集車が来る日は外の音に注意を払う必要があります。ゴミの回収スタッフに仕事の苦労を聞きますと、「ゴミ出しのルールを守らない人が多く、中身の見えないゴミ袋に本来は禁止されている危険物である割れたガラスなどが入っていて命懸けだ」と言っておられました。
写真:捨てられたゴミは毎日ブルドーザー
により土で覆うという
集められたゴミはどこに行くのか気になり調べてみることにしました。すると、集められたゴミはポカラの中心部から25km離れたラマ・アハル地区に埋め立てられていることが分かりました。以前はもっと市内に近いところに埋立地があったのですが、2023年1月に開港したポカラ国際空港の敷地に隣接している理由で、5ヶ月前からラマ・アハル地区に移転されたとのことでした。実際に埋め立て地に行ってみると、そこは広大な渓谷でした。渓谷の中心には川が流れ、川と崖の間の土地がゴミ捨て場になっていました。
筆者が訪れたのは6月の酷暑日で、現場は強烈な悪臭と砂埃でマスクをしていてもムセ返るほどでした。現場では30~40名ほどが作業していました。ごみ収集車で持ち込まれたゴミはここに下ろされ、ゴミの中身を全て出して分別の作業が行なわれます。
この埋立地に常駐しているポカラ市の職員、ビシェヌ・バハドゥール・バジェル氏から話を聞くことができました。ビシュヌ氏によると、この埋め立て地には32台のゴミ収集車が、毎日140トンのゴミを運んで来るそうです。収集エリアはポカラとその周辺地域で、収集車はゴミの埋立地と市内を1日に2〜4回往復するとの事です。
ゴミとして捨てられたペットボトルや鉄などの資源ごみはここである程度分別されます。ゴミ収集を行う作業員は自分たちで分別した資源ごみを買取業者に売って給料の足しにしているとの事です。
■回収されないゴミの問題
市の委託を受けたごみ収集人は、ガラス製品やスプレー缶などは危険な為に回収を行いません。また、危険物では無いですが廃油などの液体はごみ収集に出す事はできません。行き場を失ったそれらのゴミは近所の空き地や山林に不法投棄される事になり社会問題となっています。
ネパール国内にはヒマラヤ山脈からの雪解け水が北から南へ豊に流れ、南のインドへ続いています。本来は美しい渓谷に流れる川ですが、そこにゴミが捨てられてしまう事もあります。住民の中には回収されなかった、それらのゴミを川沿いの空き地に投棄する人がいます。川は雨季で増水し投棄されたゴミは下流域の環境を汚染します。
写真:毎日10Lの油を裏の川に廃棄している
という
その一例として、地元で人気の揚げ物専門店の廃油処理の話を紹介します。お店の店長に、毎日お店から出る廃油をどのように処理しているのか聞きました。すると「うちは毎日新鮮な油で揚げているよ。廃油は裏の川に捨てているよ」と語りました。ビジネスが優先となり、環境に対する配慮を全く感じない発言に正直驚きました。
日本では廃油を回収してくれる専門の業者がいるようですが、少なくともネパール、ポカラにはその様な業者はいません。また日本では、廃油を固めて固形物にする商品が売られていますが、ネパールでそのような商品を見たことはありません。廃油を回収する仕組みが無いため、この店主だけを悪者にする事もできないと思いました。廃油を含めた全てのごみを回収する仕組み作りか求められていると感じました。
次回は、資源ごみの有効活用に励む人々の様子をお伝えします。
この記事は
ネパール在住 フリージャーナリスト
延原 智己 が担当しました