キコリに聞く!
~里山の話と生物多様性~
出典:イラストAC
いきなりですが、皆さんに質問です。「里山」は、国土の何割を占めているでしょうか?
答えは、なんと「4割」(※1)!そんなに広いのに、「里山が何か」実はよく知られていません。
前編と同様、夫に林業の話を聞く中で「里山とは何か?」そして「里山は楽しいこと」と「生物多様性の大切さ」が見えてきました。
今回のテーマは「里山の話と生物多様性」です。
1. インタビュー ~「里山の話」~
もう一度、夫紹介
「薪作り編」でも紹介しましたが、夫はかつて普通のサラリーマン。
不規則勤務で体調を崩してしまい、働き方を見直すべく、環境保全を学べる専門学校へ入学。「自然の中で体を動かす仕事」で就職先を探していたところ、ご縁があり林業の仕事に就きました。
1)林業と里山暮らしを、選んだワケ
(紅葉する林内を歩く夫)
林業を選んだのはなぜですか?
自然を守る仕事のレンジャーも考えましたが、奥さんの希望で「転勤がない仕事」で探しました。恩師が林業専門で、ツテがあったのもあります。
その1で「薪炭林は、里山の中にある」というお話がありました。「里山暮らしのきっかけ」は何だったのですか?
「よし!里山で暮らすぞ~!」という意気込みは、全くありませんでした。
何より過去に体調を崩したことから「街よりも田舎で」と思っていたので、「求めたものの先に、ここ(田舎)があった」という感じです。
海のイメージ 出典:イラストAC
祖父母の家が海まで近かったので、子どもの頃は海で遊んだし、食卓には海の幸ばかり。
「里山」でいうところの「里海」ですよね。今こうして田舎で暮らしているのは、里海の影響はあるかもしれません。あと、「里山」とは意識してないですね。「田舎」とか「山」とか、そう呼んでいます。
里山に住んでいる人でも、里山を意識していないというのは、新発見でした!
そうですね、私は専門学校で習ったので「里山の定義」はわかりますし、今住んでいる所は、まさに里山です。でも、「里山に住んでいます」とは言わない。なぜでしょうね。
地元の人も、ここが「里山」と意識してないと思いますよ。生活そのものが、里山循環の一部ですから。
そうそう、山の中には炭焼きの洞穴が残っているので、そういうのを見つけると「そんな時代があったんだなぁ」と思います。
2)里山の定義
ここで、環境省の「里山の定義」を見てみましょう。
(実際の、里山での暮らし)
「里地里山とは、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域です。農林業などに伴うさまざま人間の働きかけを通じて環境が形成・維持されてきました。」(※2)
冒頭のイラストや、上の写真がまさに「里山」の景色です。
また、こうも記されています。
「里地里山は、特有の生物の生息・生育環境として、また、食料や木材など自然資源の供給、良好な景観、文化の伝承の観点からも重要な地域です。」(※2)
そして、「全国の希少種の集中分布地域の5割以上が里地里山にあたる。」(※3)とのデータもあり、「生物多様性を形成・維持してきたのは里山」で「重要な地域である」ことがわかります。
3)林業と里山暮らしの、良いところ
林業のやりがいを教えてもらえますか?
(伐採するナラに「受け口」を作る様子)
林業にやりがいを感じる場面は、二つあります。
一つ目は「伐採」。
どんな条件であっても狙った方向に倒すという一連の流れは、知識と技術・経験を必要とします。何より、ミスは自分や仲間の命にかかわりますから、気を引き締めて作業にあたっています。
二つ目は「その山の将来を見据えて手入れすること」。
前編にもありましたが、樹が育つのに最低でも20年はかかります。間伐をしても、すぐ答えが出ない。伐るのはその樹で良いのか、正解もわからない。でも、今手入れしないといけないという現実はあるわけです。
もちろん、手入れの目的はその時々で変わりますが、「子ども達が大人になった時の山」という大きなビジョンを描きながら手入れするというのは、やりがいがありますよ。すぐ結果がでないからこそ、責任は大きい。伐るのは一瞬ですが、育つのに20年ですから。
(倒木にコケが生えている。こうして長い時間をかけて、森は変化していく。)
次は、里山暮らしの良いところを教えてください。
一番は、「家族で過ごす時間が持てること」です。日が暮れたら作業できないので。前職での経験があるから、余計そう思うのかもしれませんね。あとは、動物に会えます。クマとかハチとか、会いたくないものもありますけど。
実際に、クマとハチ以外にどんな動物と会えましたか?
リス、キツツキ、カブトムシ、イノシシ(ウリ坊も)、カモシカ、シカ、ウサギ、タヌキ、キツネ、テン、イタチ、アナグマ、ハクビシンです。
(見上げれば紅葉、足元には落ち葉の絨毯が)
季節の移ろいを肌で感じられるのも、最高ですね。空気の匂いで「あ、冬もうすぐだな」とか思いながら仕事しています。山菜が普通に食卓にあがるのも、贅沢だなあと思います。
(写真左:タラノメとコシアブラの天ぷら、写真右:タケノコ汁)
薪炭林(前編「薪作り編」参照)で話を聞いている時、夫が「こっちに面白いものがあるよ」と案内してくれたものがありました。
(写真左・上:平皿のようなキノコがサルノコシカケ、写真左・右下:10個あるマッシュルームのようなキノコがホコリタケ、写真右:ホコリタケを枯れ枝で突ついて遊ぶ様子)
これは何ですか?
この小さいキノコはホコリタケと言って、こうして木で突くと煙みたいなものが出ます(写真参照)。この煙はキノコの胞子で、雨の雫や落ち葉の衝撃で胞子を飛ばすという面白い方法で仲間を増やします。人間が突いたり、踏んで歩くことでも胞子は移動するのだから、賢い戦略ですよね!
4)林業の、困るところ
逆に、林業で困ることや辛いことはありますか?
一番は怪我のリスクです。私も、病院にお世話になる怪我が3度ほどありました。青アザ程度ならよくあります。ウルシにかぶれた時は、痒すぎて気が狂いました。
あと、スギの伐採は花粉をバフバフと浴びるので、花粉症持ちには辛い仕事です。でも、不思議と花粉症が昔より軽くなりました。
林業を辞めたくなりませんか?
辞めたくないですね。楽しいし、今のスタイルが自分には合っていると思います。
将来の展望を教えてもらえますか?
自分の山を持ちたいです。薪を取ってきたり、キャンプしたり…とにかく遊びたいです!
5)自慢は「コテージに住んでいるようなもの」「子どもがのびのび育つ」
最後に、「これも言っておきたい!ここが自慢だ!」ということはありますか?
星空は本当にキレイなんですよ!! BBQも、庭で近隣への煙やにおいを気にすることなく出来ます。今は、設備が充実したキャンプ施設が流行っているそうですが、ここでの暮らしは、その「コテージ」にずっと住んでいるようなものだなと思います。
子ども達も、大声選手権しようが、走り回ろうが自由。朝日や夕日など、美しい景色に子ども達が気づいて「お父さん、見て!空が超キレイ!」と教えてくれたりして。のびのびと育っていることが嬉しいですね。「田舎もいいなー」と思ってくれる人が増えたら、嬉しいなぁと思います。
(写真左:川の石でダムを造る、写真右:笛にできそうなカラス豆を探す)
2. 里山とは「人と山の間に循環がある状態」
ここで、改めて「里山とは」を考えてみましょう。環境省「里山の定義」で、
「里地里山とは、(中略)農林業などに伴うさまざま人間の働きかけを通じて環境が形成・維持されてきました。」(※2)
とありました。
前編の「薪作り」と今回のインタビューから「里山とは」を紐解いてみると、「単なる裏山や田舎の景色ではなく、人と山の間に循環がある状態を指す」と言えます。
人間が手入れをすることで山は元気になり、生物多様性が形成・維持され、その産物(恵み)を頂くことで、人間は健康で安全に生きることが出来るのです。
3. 生物多様性とSDGs
2015年9月の国連サミットで採択された国際目標であるSDGs(持続可能な開発目標)には17のゴールが掲げられています。その中の「15:陸の豊かさも守ろう」において「生物多様性」について触れられています。(※4)
4. 一人ひとりの行動が大切、出来ることから始めてみよう
出典:写真AC
今、産業構造や生活様式の変化によって里山の荒廃が進み、様々な問題が出てきています。(※5)
しかし、視界に自然が少ない大都会での生活や、田舎に住んでいたとしても意識を向けなければ、自然からの恩恵やそこで起きている問題を実感するのは難しいことです。
私たちは自然から、キレイな空気、水、土、食物、木材、燃料、医薬品、衣料、癒し、アイデアなど…数えきれないほどの恩恵を受けています。この恩恵は、都会・田舎関係なく、どこに住んでいても受け取れるものばかりです。
外務省SDGsパンフレット「持続可能な開発目標 (SDGs)と日本の取組」には、
「SDGs達成のカギは、一人ひとりの行動に委ねられているのです。(※6)」とあります。
環境問題は難しいテーマかもしれませんが、一人ひとりの行動が未来へ繋がっていきます。
子ども達に残したい未来のために、あなたなら何が出来そうですか?
【参考・引用リンク】
※1 環境省 自然環境・生物多様性
日本の里地里山の調査・分析について(中間報告)
※2 環境省 自然環境局
里地里山の保全・活動
※3 環境省
里地里山パンフレット ~古くて新しい いちばん近くにある自然~
※4 外務省
SDGsとは?
※5 環境省
資料3 里地里山の現状と課題について
※6 外務省 国際協力局パンレット
持続可能な開発目標(SDG)と日本の取組
【関連記事】
環境省 ホームページ
里地里山と生物多様性
SATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)
ホームページ
この記事は
キコリの嫁で果樹農家
こさかいあゆ が担当しました