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なるほど話

カーボンプライシングの現状と展望 その3
~排出権の割り当て(1)~

前回は、排出権取引の基本的な仕組みについてお話しを伺いました。
今回は、排出権の割り当てについて伺います。

「市場メカニズム」が「経済効率性」を生み出す

Q)2019年に開催されたCOP25でも排出権が焦点のひとつになりましたが、排出権取引というものが注目される背景を改めてお伺いしたいと思います。
A)国際的な取引が行われる背景には、各国国内で排出権の需要があるわけですが、その需要とは、すなわち一種の排出規制があって、そこで排出権の取引が可能となり、自分以外の削減を自己の削減分として規制達成に用いることができる仕組みの存在があります。
この規制は必ずしも政府によるものとは限らず、たとえばいま注目されているものとしてICAO(International Civil Aviation Organization)CORSIAというスキームがあります。これは、各航空会社が、国際フライトによるCO2排出量の増加分を排出権でオフセットしなければならないというものです。
排出権に限らず、グリーン電力証書や省エネ証書など類似の仕組みも存在します。規制にとどまらず、RE100などの自主的なインセンティブフレームワークも注目されるところです。
Q)排出量取引制度は、「市場メカニズム」を活用するものだということですが、その観点からの特長はどのようなものでしょうか。
A)市場メカニズムとは、市場が低コストの排出削減オプションを探し出すところが、もっとも重要な特長です。適切な情報の存在と合理的判断を仮定するなら、原理的には最小コストで削減が達成できます。(政府がいちいちこれを行うべき、などと指定する必要はないわけですね。)これが「経済効率性」であるわけですが、この経済効率性は、理論的には割当方法に依存しません。割当方法の違いは、「公平性」への対処方法の違いです。
Q)「割当方法」が「公平性」に関係するということですが、ここでは、「公平性」の観点に焦点を当てながら、割当方法について見てみます。
いよいよ排出権取引制度が開始されるという段階になったと想定しますと、まず国が対象主体全部の排出可能総量枠(キャップ)を決定します。そしてその総量を、通常は、対象となる各工場等のCO2排出者に割り当てていくことになります。そこで、まず排出権の割り当てがどのように行われるのかうかがいたいと思います。
A)キャップ・アンド・トレード制度には、大きく分けて、「無償割当が行われる」制度デザインと、「無償割当が行われない」制度デザインがあります。実際には、無償割当を伴って制度を開始するケースがほとんどです。無償割当が行われる制度は、「グランドファザリング」方式と「ベンチマーク(*)」方式があります。

(*) ベンチマーク方式は広い意味のグランドファザリング方式の一種であるという定義と、ベンチマーク方式を用いない割り当てを狭い意味のグランドファザリングとする定義があります。ここでは後者でお話ししています。

グランドファザリング方式

Q)「グランドファザリング」とは、おじいさんの遺産に応じた分配をするようなイメージですね。グランドファザリングでの割り当て方法について、もう少し詳しく教えていただけますか。
A)まず、最も単純な割り当て方法として、直近数年間の実績に基づいて(たとえば実績値の90%を)無償で割り当てる方法があります。排出権の割当量は、通常は定められた期間において、国の削減目標(たとえば2030年目標)と呼応して、徐々に減らされていきます。

図1:排出権割り当て「グランドファザリング方式」のイメージ

Q)過去の実績に基づいて無償に割り当てられるということであれば、スタート時はほぼ今まで通りの排出を続けられるということですね。何か問題点はあるのでしょうか。
A)既存の産業への負担を少なくしながら導入できる方法だという点で、一見、無難な制度に見えます。一方で、これまでに削減を余り進めて来なかった排出者は、割当量が相対的に大きくて有利になり、逆にこれまで削減を頑張ってきた排出者には不利になってしまうという欠点があります。

ベンチマーク方式

Q)これまで削減を頑張ってきた排出者に配慮する割り当て方法もあるのでしょうか。
A)業種ごとに標準の排出量を決める「ベンチマーク」という方式があります。同じ製品を作るときの、製品1単位当たりの排出量(原単位)に、あるベンチマーク値(目標値)を設定し、「ベンチマーク原単位×生産量」だけの量の排出権を割り当てます(ここでの生産量は過去実績に基づきます)。
これならば、同じ業界においては、すでに削減努力を進めてきた排出者の方が相対的に有利になります。ただ多様な製品や業種間の原単位をどう定義するか、ベンチマーク水準をどうやって決めるか、といった難しさは残ります。

図2:排出権割り当て「ベンチマーク方式」のイメージ


西山 この記事は
DOWAエコシステム 環境ソリューション室
西山 が担当しました

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