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対談企画 サーキュラーエコノミーとの向き合い方 その2
ブリュッセル効果

細田 衛士(ほそだ えいじ)様
東海大学副学長、政治経済学部経済学科・教授
慶應義塾大学名誉教授
中部大学理事、学事顧問、名誉教授

1993年より国税庁中央酒類審議会 新産業部会リサイクルワーキンググループ座長、1995年通商産業省産業構造審議会廃棄物小委員会委員、2000年運輸省FRP廃船の高度リサイクルシステム・プロジェクト推進委員会委員、2003年環境省政策評価委員会委員、2011年中央環境審議会委員、2011年林政審議会委員、2023年「サーキュラーエコノミーに関する産官学のパートナーシップ」事業における総会、ビジョン・ロードマップ検討ワーキンググループの委員などを歴任

早川 有紀(はやかわ ゆき)様
関西学院大学 法学部 准教授

東京大学大学院 総合文化研究科 学術研究員(2015年10月〜2016年3月)、早稲田大学 社会科学総合学術院 助教(2016年度)、関西学院大学 法学部 助教(2017〜2018年度)、カリフォルニア大学バークレー校 東アジア研究所 客員研究員(2021年8月〜2023年8月)などを歴任。関西学院大学 法学部 准教授(2019年〜)

早川

EUの研究者の中では、EUは規範的な力を生み出す原動力になっているという見方があります。また、EUが制定する規制がブリュッセル効果(ブリュッセルパワー)という形となって、つまりブリュッセル(EU)が主導する形で世界の国々に新しい基準が波及されています。

私は、2023年まで在外研究でアメリカにいましたが、アメリカではカリフォルニア州の環境規制がとても強いです。彼らには、”カリフォルニアが規制を作らずに、他のどの州がやるんだ”、というプライドみたいなものがあって、それが新しい規制を生み出す原動力の一部になっていると、政治系の研究者から聞いて、なるほどと思いました。

なぜ一部の国や地域が厳しい規制を定めていくのか、私もすごく不思議に思っていまして、それを1つのメカニズムだけで説明できるとは思えないんですが、それぞれに原動力があるのだと思います。

上田

原動力ですか?

早川

利益もそうですし、制度的なバックグラウンドも原動力になりえます。

細田

一方でね、私は予想が外れてショックだったのですが、イギリスがEUを離脱したじゃないですか。私はイギリスに2年間留学していまして、確かにイギリスはEUからあれこれ指示されるのは嫌いなんですが、彼らは現実的だからEU離脱はないと思っていたんです。でも、離脱しました。どこかにブリュッセルパワーに対する反発もあるんですかね。

早川

どうなんでしょう。
EUの中でも当初から、その民主主義の赤字と言って、ブリュッセルが決めて、加盟国の意思が反映されていなのではないか、という議論はずっとあって、EUの改革は様々進められてきたとは思いますが、民主主義の赤字論はまだ続いていると思います。

(参考)なぜEUとしてまとまる必要があるの?~世界の諸地域 ヨーロッパ州~(NHK for school)
EUにおける「民主主義の赤字」の解消と欧州議会の役割(児玉 昌己)(日本EU学会年報1997年1997 巻17号p. 93-119)

EUの加盟国の中には、自分たちの意思が反映されていると感じている国・グループと、反映されていないと感じているために、とても批判的な勢力とがいるので、EU内で不安定になりやすい側面はあると思います。

あと2000年代ぐらいから、市民の中で反移民感情が高まり、極右的な政党がそれぞれの国の中で出てきたりすると、EUは移民を受け入れる姿勢を持っているので、反移民が反EUと結びついて考えられるところはあるかもしれません。

でも、EUでは単一欧州議定書自体がひっくり返るとか、議定書がなくなるとは考えにくいので、意思決定のあり方を制度改革して、改善していきながら保っていくのかと思います。

細田

そういう意味では、私は、サーキュラーエコノミーというのは、EUにとっては非常にビッグイッシューであるとともにグッドイッシューだと思っているんです。
つまり、サーキュラーエコノミーはどうしてもやってかなきゃいけないことだし、別に反対する理由もそんなにはない。

早川

そうですね。
私もかつて、 EUの廃家電や廃電気電子機器の規制を研究対象としましたが、加盟国それぞれが目標を設定して、その目標をそれぞれの加盟国が達成しようとすることで実効性を担保するやり方は、その国の仕組みだったり、やり方、スタイルに合わせて、国の利害を損なわずに規制が実施できる、とてもいい仕組みだと思います。

細田

静脈面でも、EU域内で再生資源原料を集めて、リサイクルするというマーケットが大きくなれば、それだけ安定調達できるし、品質も安定してきて、規模の経済が働いて、すごく羨ましい。

日本だと、廃棄物処理法があって、一般廃棄物は市町村、産業廃棄物は都道府県が許可を出すので、隣の市や県に出入りすることも制限されるんだけど、 EUだと、ものによって違うのかもしれませんが、EU域内は国をまたげるのです。日本よりも再生資源原料を動かしやすくて、サーキュラーエコノミーを実施しやすい状況にあると思います。

EUは日本よりも業界団体の発言力がそれほど強くないから、割と強めのコンセプトや施策をどんどん出せるのかなと思うのですが、早川先生はどう思われますか。

早川

EUには、権限はありますが、お金はそれほどないんです。だから、産業政策にお金をかけられない。
環境規制は、EUの権限をうまく活用できる分野なのだと思います。
サーキュラーエコノミーを使って、産業を生み出す。

細田

これがEUがサーキュラーエコノミーに取り組む理由だという人もいるのですが、EUの物作りの位置が日本やアメリカに比べてやや下がっているので、サーキュラーエコノミーを機にサービス化やシェアリング、リペア、リファービッシュ(再整備)、 あるいはインバースマニファクチャリング(使用後の流れをあらかじめ考慮して製品を設計・製造する仕組み)とかね、そういう次の経済モデルを目指しているんじゃないかと思われるところがありますね。

早川

そういったグリーンインダストリーは、 EU的な合意形成として使われているのかなと思います。

細田

なるほど。
市民レベルではどうなんでしょうか。イギリスの一部の人や、さっきの移民問題で反対、という人はいても、経済問題で反対という人はあまりいない気がします。むしろブレキシットで、イギリスの市民が母国に帰らなければならなくなったとか、不利益を被った人はいると思います。市民レベルで見るとEUになった事は、よかったんじゃないかと思えるんです。

早川

そうですね。EUになって、とてもアンハッピーという人には確かに出会ったことはないです。最近の世論調査でも、EU市民の約7割がEUは経済的利益を守っていると考えていて、約6割がEUの将来に対して楽観的な見方をもっているようです。

(参考)Standard Eurobarometer 101 - Spring 2024

細田

以前、チェコのプラハの経済大学の大学院で教えたことがあります。25人くらいの8割が女性でした。それから出身も色々で、クロアチアから来た人もいましたね。大学院を卒業したらどうするのか聞いたら、多くの人はやっぱりドイツで働きたいと言っていました。ドイツがダメだったらオーストリア。

クロアチアから来た学生に国に帰るのか聞いたら、絶対帰りません、職がありません、と言っていました。ドイツはチェコに比べて給料が倍なんだそうです。ドイツはやっぱり超大国ですし、オーストリアもチェコから見たら大国なのでオーストリアに行きたい、という風に他の国に自由に行けて、能力があれば職が得られる環境でした。

早川

もしEUがなかったらと考えると、ヨーロッパには小国も多いので、国際的に生き残りが厳しい状況になっていたと思います。

細田

移民問題では意見が分裂しているようですが、それ以外は概ねうまくいっているし、アメリカ、日本、アジア、それからEUというポジションで、なおかつ、サーキュラーエコノミーではリーディングポジションを取って、ワールドスタンダードを取る立場にありますから、そういう意味では、EUのメリットが出せているのかなと思います。

早川

そうですね、EUが経済規模をもっているのは大きな利点ですし、そういった分野でリーディングポジションを取りに行くのはすごく納得がいきます。

■修理する権利

細田

アメリカは基本的に市場重視で、あまり市場に介入しません。
EUはどちらかというと、各国に指令や規則を出して、割と介入してくる。
日本はどちらかとその中間みたいな形だと思うんですね。

この3極の違いがとても面白い。
アメリカで資源の循環利用をしていないかというと、市場ベースで循環利用を促進していて、スチュワードシップ(機関投資家が投資先とのエンゲージメントを通じて中長期的な投資リターンの拡大を図る)も盛んだし、ニューヨーク州法で電子製品の修理する権利もできて、製品の修理に関する情報共有をしなければならないという規制もできてます。

(参考)「責任ある機関投資家」の諸原則 ≪日本版スチュワードシップ・コード≫ ~投資と対話を通じて企業の持続的成長を促すために~(金融庁)

喜多川さんとの対談で聞いたのですが、アメリカでは生活のために壊れたら修理してもらわないと困る、というので修理する権利が主張されていて、一方で、EUはコンセプチュアルに、消費者としては修理する権利を有しているんだという概念に基づく権利なので、同じ修理する権利でも、見方が違って面白いですね。

(参考) 修理する権利: 米国における最近の動向(World Intellectual Property Organization (WIPO))
EU、消費者の「修理する権利」を新たに導入する指令案で政治合意[2024年02月08日](日本貿易振興機構)

上田

ドイツに駐在している先輩社員に、「ヨーロッパでは修理する権利について議論されていて、羨ましい」と話したら、「こっち(ヨーロッパ)の家電はすぐ壊れるから、そりゃ修理をしないとやってられないよ」と言われたことがあります。日本の家電と比べると、びっくりするくらいよく壊れるよと。

細田

私はイギリスに留学していた時に、例えば電池パックを4つ買って、開けてみたら1つはダメで使えないというのが、当たり前でしたから、家電のそういう感覚はよくわかります。

上田

日本も昔は直して使う習慣がありましたよね。鍋に穴があいたら、釘で穴をふさいでトントン叩いて直してくれる人がいて、直しながら使っていたものだと、祖母が言っていました。祖母は大正元年(1912年)生まれなので、100年くらい前の話になりますね。

細田

すごく面白いと思うのは、高度経済成長が1つの転機だと思うんです。
日本には、ものを大切にする、という文化があります。典型的なのは、金継ぎで、修理することに一種の美があるります。 古くなったものを捨ててしまうのではなく、エイジングがむしろ良いというわび・さびの世界は、ビンテージにも通じるところがあります。

それが高度経済成長の時に、コモディティ化されたというか、標準化されたものが普通になって、ダメになったら、はいおしまい。というパターンになりました。

それと、円は360円だったのが1971年のスミソニアン協定で308円になりました。急速に円高になったんです。さらに、1973年からは変動相場制に移行して円は上がり続けました。

図:東京市場 ドル・円 スポット 17時時点/月中平均【外国為替市況】[単位:1ドルにつき円](出典:日本銀行時系列統計データ検索サイト

1987年のニュースで、何が大変だと報道されていたかというと、1つが国鉄の民営化で、もう1つは円高です。とうとう円が150円を切って149円にまでなった。こんなに円高になってしまって日本はやっていけるんでしょうかと。でも今は、円が150円まで安くなって、日本はやっていけるのでしょうかと議論していますよね。すごく面白いことだと思います。

話を戻すと、急速に円高になり、資源をたくさん買えるようになり、しかも、需要もどんどん増えていって、欲しいものがいっぱいあって、とっかえひっかえ買い替えできちゃうという状況の中で、修理して使うというカルチャーが消えていったのは否めないな、と思います。

昔、あるスーパーマーケットの経営者の方が、「ワンウェイの使い捨て容器を扱い始めたのはうちです。」と言っていました。高度経済成長の時には、「ごみは文明のパラメーター」という有名な言葉がありました。どんどん使って捨てましょう、ゴミをたくさん出しましょう、それが文明的ですということですが、今では考えられません。

でも、おそらく長い日本の歴史で考えると、日本は長い間貧しかったということもありますが、使い捨ての文化は瞬間的なことで、修理して使うという気持ちは今も残っていると思います。
イギリスに留学していましたが、イギリスにも長く使うことを良しとする文化は残っていると感じました。

早川

確かに、ヨーロッパは全体的にそういった文化がありますね。アンティークの市があったり、古いものを大事にする文化があると思います。

ところで、日本は車の寿命はヨーロッパやアメリカと比較して短いんです。日本で中古車が 大事にされないのは、なぜなのか不思議に思っています。

上田

日本では新車購入後3年で車検があり、それ以降も2年ごとに車検があって、車検にはお金がかかるから、その前に車を買い換えるのがオトクなんだと聞いたことがあります。

細田

データでみると、日本の自動車の平均寿命は今非常に伸びているんです。

図:平均使用年数(出典:一般財団法人 自動車検査登録情報協会

これには、色々理由があります。
1つには、技術的な改良によって自動車の耐久性がすごく良くなりました。塗装技術が20年前と比べてすごく良くなったんです。昔はちょっと雨ざらしにしていると錆びてしまったりしましたが、それが随分よくなりました。
あと、痛みの早かったエンジンパーツも、長く持つようになりました。

もう1つには、新車購買力が下がっているという側面もあります。
日本はここ20年で所得があまり伸びていないのに、 車は新しいモデルが出て高くなっていく。給料があまり上がっていないから、新車購買力が下がっていて、中古車市場が活発になっています。ある種の中古車は非常に人気があって値段が下がらないそうです。

半導体不足で新車は納車まで時間がかかるけど中古車はすぐに手に入りやすくて、むしろちょっといいものがある、ということで中古車が人気のようですね。

アメリカはもうとことんまで乗りますね。日本の様な厳密な車検もないですし。

早川

そうですね、州によって違うと思いますが、車検は自分でもできるくらい簡単ですね。

細田

イギリスにも車検はあるんですが、日本よりはずっと簡単です。

■モノ消費、コト消費

上田

若者が最近は車を欲しがらないと聞きます。私は若くはないのですが、車は持っていません。
昔は車がファッションの一部で、かっこいい車に乗りたい(所有したい)という気持ちがあったと思うのですが、今はそういうモチベーションが減ってるのかなと思います。

細田

私は、ゼミの学生に「欲しいものがあるか」と時々聞くのですが、学生は首をひねるんです。
私の若い頃は、オーディオが欲しかった、あとタイプライター。学生の時はバチバチバチっていう、タイプライターで、その次に電動のタイプライターに変わるんだけどそれも欲しかった。それから一眼レフカメラ。車はなかなか買えなかったけど、欲しいものはいっぱいあった。
だけど、今の学生は欲しいものがないって首をひねるんですよ。

早川

スマホがあれば満足しちゃうんでしょうね。

細田

「いいね」が欲しいとかね。

上田

いいねっていう、形がないものにお金を使うというのは、資源と経済のデカップリングの実現ですね。映える写真を撮るために、あれこれ買ってしまうとデカップリングできていないことになりますが。
ネットでの投げ銭はデカップリングにつながるのではないでしょうか。

早川

投げ銭ですか?

上田

投げ銭(なげせん)は、動画のライブ配信などで、配信者に送金するシステムです。
路上でライブの演奏者にお金を置いてきたりするものの、デジタル版です。

(参考)“投げ銭”急拡大空前のブームで何が[2021年10月26日](NHK)

私の子どもが推している歌い手さんのライブ配信をちょっと覗いたら、1万円とか2万円とか、「えぇ?」と思うような金額がバンバン投げ銭されていました。投げ銭されると推しが「〇〇さん、ありがとう!」と言ってくれるので、子どもはそれがもう羨ましくてしょうがないんです。

投げ銭で1晩に1億円稼いだ人がいる、と聞いたことがありますが、実際1万円とか2万円とかずっと投げ銭されていて、すごい世界があるんだなってびっくりしました。

早川

そういう価値観ですかね。

細田

投げ銭って知らなかったけど、そういうのにお金を使うんですね。
欲しいものというのは変わっていくので、「サーキュラーエコノミーを実現する!」ということで、甚だしい努力をしなくても、資源消費がなくても満足する社会になるかもしれませんね。私たちの世代は、新品がいいと思っているけど、若い人は中古でも気にしないし。

早川

最近の若い人たちは、環境意識が高くなってきていると思います。リサイクルもそうですが、ロスに対する意識、食品ロスを減らす意識を強く持っていたりとか、環境に対する意識が変わってきていると思います。

細田

さっき、いいねが欲しいっていう話があったけど、 バーチャルな世界というのは、モノの世界ではなくて、コトの世界なんです。

コト消費は資源消費量が少ないという点ではいいのだけど、一方でお金も暗号資産とかバーチャルになっていった時に、実物がない寂しさというか懐が温かい感じとかがバーチャルの世界で消えていきますよね。

サーキュラーエコノミーって、単に資源循環を促進すればいいのではなくて、人と人とが繋がって、神戸プラスチックネクストのように、地域の交流の場とプラスチックの資源の循環がうまく重なって、人が触れ合いながら、ものを大切に使うというコンセプトだと思うんです。

(参考)神戸プラスチックネクスト

ノスタルジックなことを言っても仕方がないけれど、江戸時代から近代にかけて、我々の頃もそうだったけど、子どもが生まれたら、いとこや知り合いの誰かからおさがりをもらって着たりとかして、ものの循環と人と人との繋がりがあったような気がするんですよね。

そんな人の繋がりが切れて、バーチャルの世界だけになって、消費する資源が少なくなっても、ウェルビーング的に言うと、はたしてそれが幸せなのかって思っちゃうんです。

早川

ニュースも自分の好みのものがどんどん出てくるようになるので、不快なものに触れなくなるというか、同質的なものを寄せ付けてしまうところがあって、自分さえよければいいという考えになりそうで、ちょっと不安に感じるところがあります。

細田

本題に戻ると、EUはきっちりコンセプトを打ち出して、規則と指令を作って、ハードローに落とし込んでいって、それを各国が実施していきます。
このやり方は日本が真似できるものではないのだけど、日本はソフトローの強みがある。

本来、資源の循環はオープンな社会であるべきで、サーキュラーエコノミーも異主体が連携する必要があって、どう作り上げるかが難しいところなんだけど、日本の強みを活かせるところでもあるのではないかなって思うんですよ。


細田先生と早川先生のご対談は今回で終了です。お読みいただきありがとうございます。


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