タイ王国とタイの環境問題(3) ~タイの廃棄物処理の実務~
「タイ」からのレポートをお届けしています。
タイの文化や、環境問題、廃棄物処理の現状などをレポートしています。
タイにおける産業廃棄物処理の流れ
工業省工業局(以下、DIW)に登録された工場において、生産工程から発生した廃棄物は産業廃棄物として適切に処理をする必要があります。また、これらの産業廃棄物は危険物質の含有の有無等により有害廃棄物(Hazardous waste)と非有害廃棄物(Non-hazardous waste)に区分されます。いずれの廃棄物も自社において処理を行うか、対応する処理の許認可を取得した廃棄物処理業者に処理を委託しなくてはなりません。処理に関する原則及び詳細は1992年(タイ暦2535年)の工場法及びそれに付随する各種省令や告示などにより規定されています。
一方、生産工程以外から発生した廃棄物(例:事務所から発生した紙ゴミや生ゴミなど)や、工場としての登録がなされていない事業所や建設現場から発生した廃棄物は産業廃棄物の定義に該当しません。従って、各地域の一般廃棄物の処理方法などに沿って適切に処理を行うことになります。
また、廃棄物を敷地外に移動させる際にも、収集運搬の許認可を取得した業者を使用する必要があります。この際、マニフェスト(後述)などの書類をきちんと準備して車両ごとに携行させることも必要です。
日本と異なるので注意が必要な点としては、有価品の取扱いがあります。例えば、日本の場合、品質検査によって不良品となった半製品や原材料を処分する際には、有価で売却できるものであれば廃棄物とはみなされません。しかし、タイの場合は生産工程から発生した不用品はすべて産業廃棄物であるとみなされますので、不良品やスクラップ等を売却する場合も産業廃棄物の処理の許認可を持った業者(106号業者;後述)を選ぶ必要があります。
タイのマニフェスト制度
タイにも日本と同様の廃棄物の運搬及び処理を監視するためのマニフェスト(運搬取締書)システムがあります。例えば、有害廃棄物(Hazardous waste)の場合、以下のように運用されます。
- 排出事業者がマニフェスト(1枚目)に廃棄物の種類や数量など必要事項を記載する。
- 排出事業者はマニフェスト(6枚綴り)を廃棄物と共に運搬事業者に渡す。
- 運搬事業者は廃棄物の受渡し完了の証拠としてマニフェストの写し2枚目と写し3枚目を排出事業者に返却する。
- 排出事業者は受渡し完了の証拠として、写し3枚目を受渡しから15日以内にDIWに提出する。写し2枚目は後の検査のため3年間保管する。
- 運搬事業者は処理事業者に廃棄物をマニフェスト(1、4~6枚目)とともに引渡す。
- 処理事業者は引渡し完了の証拠として、写し4枚目を運搬事業者に返却する。運搬事業者は写し4枚目を3年間保存する。
- 処理事業者は引渡し完了の証拠として、マニフェストの1枚目を引渡しから15日以内にDIWに提出する。また、写し6枚目を処理完了の証拠として排出事業者に返却する。写し6枚目が45日以内に返却されない場合は、排出事業者はDIWに報告する(但し、処理事業者は処理が45日以内に完了しない場合は排出事業者とDIWの許可を得てさらに45日間処理を延長することができる)。写し5枚目は処理事業者が処理完了から3年間保存する。
また、紙ベースのシステムに並行して、廃棄物の輸送を監視するE-マニフェスト制度もあります。
処理事業者の登録コード(101/105/106)とは
タイにおいて、新しく工場を立ち上げる際にはDIWから操業の許認可を取得する必要があります。その際、業種ごとに登録番号が発行されますが、廃棄物処理及びリサイクル業者の場合は主に3つのカテゴリーが使用されます。
- 101号: 焼却・排水処理
- 105号: 埋立・分別保管
- 106号: リサイクル
よって、廃棄物の処理やリサイクルを委託する際には、まずこれらのカテゴリーに登録された業者であるかどうかをよく確認する必要があります。
また、各カテゴリーには有害/非有害の区分、または処理品目ごとにさらに細かな許認可が設定されていますので、具体的に処理を計画している廃棄物に対応する適切な許認可を取得しているか確認することが重要です。
特に、リサイクル(106号)の場合、前述の通りタイでは工場から発生する廃棄物は有価品であっても原則として廃棄物とみなされますので、対応する許認可を取得していない事業者に委託することはできません。
また、日本と同様、最後は委託を検討している処理業者の工場を実際に訪問し、排水処理などの環境対策はきちんと行われているか?過剰な在庫を抱えていないか?マニフェストなどはきちんと運用されているか?等を直接確認することも重要です。
タイの有害廃棄物の判定
タイにおいて産業廃棄物は有害廃棄物と非有害廃棄物の2つに分類されますが、この際に有害性を考えるための土台となるのが「有害物質法(タイ歴2553年/西暦1992年)」です。この法律では、爆発性や毒性などの10種類が有害物質の性質として定義されています。しかし、廃棄物処理の実務上は、DIWから発行されている「汚物もしくは不用品の処理に関する工業省告示(タイ暦2548年/西暦2005年)」を参照する必要があります。この告示の付録2の廃棄物コード表において、各業種から発生する代表的な廃棄物(19業種約800種類)は、それぞれ有害廃棄物・非有害廃棄物・有害か非有害か判定が必要な廃棄物(HM廃棄物)の3つのカテゴリーのいずれかに分類されています。このコード表において有害廃棄物であると指定された廃棄物は、原則として成分分析などを必要とせずに自動的に有害廃棄物扱いとなります。
HM廃棄物の判定方法としては、Pensky-Martens法による引火点の測定やラットによるLD50(半数致死量)の測定などの詳細が付録2において説明されておりますが、実際にはTTLC試験(含有量試験)およびSTLC(溶出量試験)の結果により判定されることが殆どです。対象物質としては、鉛や水銀などの重金属類およびDDT等の農薬類、ダイオキシン、PCB、アスベストなど(含有試験:計38物質・溶出試験:計35物質)が指定されています。但し、明らかに農薬類などが含まれていないと考えられる場合は、一部の物質の分析は免除されます。
また、実際の処理の開始に先立ち、廃棄物の種類や数量と処理方法を事前にDIWに申請し、承認を得る必要があります。付録2の廃棄物コード表において有害あるいは非有害と判断された廃棄物についても、申請の際に非有害あるいは有害に変更するように指導される場合があります。HM廃棄物の最終判定に関しても、この段階でDIWによるチェックが行われます。
タイでの廃棄物に関する工場側の義務(排出者責任の考え方)とは
前述のマニフェストを正しく運用することも排出事業者の大きな責任ですが、その他の排出者責任についても前述の「汚物もしくは不用品の処理に関する工業省告示(タイ暦2548年/西暦2005年)」他において規定されています。その中でも、特に重要であると考えられるのが、告示第2群第12項における「(廃棄物の)紛失、事故発生、誤った場所への投棄または違法な投棄、当初の処理計画との違いによる処理の中断が発生した場合は、排出事業者が該当廃棄物を回収して管理下に置くまで責任を負う」という一文です。従って、法律上は排出事業者が委託した廃棄物が運搬事業者または処理事業者によって不法投棄あるいは不適切に処理された場合には、排出事業者には回収する義務が発生する可能性があります。
また、今後はMap Ta Put工業団地における大気汚染問題のように市民やNGOの環境意識の高まりに応じて、不法投棄の発生時には排出事業者にも責任追及の目が向けられるようになる可能性があります。
そのためにも、現在処理を委託している業者に対しても定期的に工場訪問や監査を行い、自社の廃棄物が適切に処理されていることを確認することが大切です。