水銀等による環境の汚染の防止に関する計画 ~「マーキュリー・ミニマム」の環境の実現を目指して~(案)が発表されました。 その2
前回につづいて、水銀等による環境の汚染の防止に関する計画 ~「マーキュリー・ミニマム」の環境の実現を目指して~(案)を解説しています。
前回(その1)では、計画(案)で定められている事項の中から
「1. 水銀等による環境の汚染を防止するための基本事項」
について説明いたしました。
前回記事を見る
今回は
「2. 国、地方自治体、事業者及び国民が講ずべき措置に関する基本的事項」
「3. その他条約の的確かつ円滑な実施を確保するための重要な事項」
について解説致します。
■解説2
「2. 国、地方公共団体、事業者及び国民が講ずべき措置に関する基本的事項」
1)国が講ずべき措置
- 水銀規制措置等の総合的かつ計画的な実施
- 水銀規制措置等の施行状況確認と必要な追加措置の実施
- 水銀の環境上の影響、人体への毒性等についての正確な知識の普及
- 水銀等による環境の汚染を防止するための活動の促進に資する情報の提供
- 水銀等を及び水銀使用製品の代替もしくは使用の抑制に資する措置を講じ、併せ廃棄又は退蔵された水銀等及び水銀使用製品の適正な回収及び処理を進めるための技術的な助言等の措置
- 国の事務事業において水銀等及び水銀使用製品の使用の抑制
- 水銀による環境汚染の防止のため、資金、技術、人材育成等の国際協力を進める。
- 水銀による健康、環境への影響に関する研究の継続と国際的な普及を進め、日本の持つ技術と経験を活かし、世界的な水銀対策の実施に貢献する。
2)地方公共団体が講ずべき措置
- 水銀規制措置等の総合的かつ計画的な実施
- 水銀の環境上の影響、人体への毒性等についての正確な知識の普及
- 水銀等による環境の汚染を防止するための活動の促進に資する情報の提供
- 代替品等の普及促進等進めることにより、水銀等及び水銀使用製品の使用の抑制に資する措置
- 先進的な地方公共団体の取組も踏まえ、地方公共団体の事務事業において水銀等及び水銀使用製品の使用の抑制
- 経済的社会的諸条件に応じて、その市町村内において廃棄又は退蔵された水銀等使用製品の適正な回収及び処理を進めるための措置を講ずるよう努める。
3)事業者が講ずべき措置
- 水銀等の貯蔵、使用、排出、放出及び水銀使用製品の製造、輸出入等を行う場合、計画に示された措置について適切に実施
- 水銀使用製品の代替や水銀等を使用せざるを得ない場合における低減技術の開発と導入
- 水銀等廃棄時の適正処理の確保
- 水銀等及び水銀使用製品の使用の抑制
- 水銀使用製品の製造者または輸入業者は当該水銀使用製品への水銀等の使用に関する表示その他の国民が水銀使用製品を適正に分別して排出することに資する情報を提供するように努める
- 国、地方自治体が実施する水銀等及び水銀使用製品の使用を抑制するための措置及び廃棄又は退蔵された水銀使用製品の適正な回収に協力する
4)国民が講ずべき措置
- 国、地方自治体が実施する水銀等及び水銀使用製品の使用を抑制するための措置及び廃棄又は退蔵された水銀使用製品の適正な回収に協力する
- 事業者が行う廃棄又は退蔵された水銀使用製品の自主回収事業に協力する
- 日常生活に係る水銀等及び水銀使用製品の使用の抑制、代替製品の選択及び、水銀使用製品の適正な分別排出に努める
■解説3
「3. その他条約の的確かつ円滑な実施を確保するための重要な事項」
1)健康に関する措置
■健康被害に対する措置
- 公害に関する健康被害の救済に関する特別措置法(昭和44年)
- 公害健康被害の補償等に関する法律(昭和48年)
- 水俣病被害者の救済及び水俣病問題に関する特別措置法(平成21年)
■食の安全に関する措置
- 食品として流通する魚介類の暫定的規制値について(昭和48年)
食品として流通する魚介類の暫定規制値 総水銀0.4ppm、メチル水銀0.3ppm
暫定的摂取量限度(成人体重50kgあたり アルキル水銀0.17mg/週) - 有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成24年)
水産物に含まれる水銀含有量の実態調査の公表 - 水銀を含有する魚介類等の摂取に関する注意事項(平成16年)
- 妊婦への魚介類摂取と水銀に関する注意事項(平成17年・平成22年改正)
■業務上の水銀暴露に関する措置
- 労働安全衛生法(昭和47年)
水銀等の蒸気等が発散する屋内作業場について、その発散源を密閉する設備、局所排気装置等を設け、作業環境での濃度を管理濃度以下とする措置の義務付け
管理濃度:水銀及びその無機化合物(硫化水銀を除く) 0.025mg/m3
2)情報の交換に関する措置
■環境保全を目的としない水銀等を規制する法令
- 農薬取締法
- 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律
- 消防法
- 毒物及び劇物取締法
- 水道法
水道水における水銀量0.0005mg/L以下
■水銀に関する諸情報
- 水俣病の教訓と日本の水銀対策(平成25年)
水銀等の製造、使用、貿易、排出及び放出の削減又は廃絶に関する情報、水銀使用製品・水銀等を使用する製造工程・水銀等を排出する活動及び工程についての技術的及び経済的に実行可能な代替に関する情報を複数言語に翻訳し、公開。 - 水銀に関する水俣条約と日本の貢献~水俣・日本から世界へのメッセージ~(平成27年)
条約及び日本の取組等をまとめ、複数言語に翻訳し、公開。
3)公衆のための情報、啓発及び教育に関する措置
- 水俣病の教訓と日本の水銀対策(平成25年)再掲
- 水銀に関する水俣条約と日本の貢献~水俣・日本から世界へのメッセージ~(平成27年)再掲
上記を水銀等の健康及び環境への影響、水銀等の代替物質、研究・開発・監視活動の結果、条約及び我が国の取組等をまとめ、公開している。 - 有害化学物質含有実態調査結果データ集(平成24年)再掲
- 水銀を含有する魚介類等の摂取に関する注意事項(平成16年)再掲
- 妊婦への魚介類摂取と水銀に関する注意事項(平成17年・平成22年改正)再掲
上記を水銀等へのばく露が人の健康及び環境に及ぼす影響に関する教育、訓練及び啓発のための活動を促進し、及び円滑にすることを目的に公開している。 - 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善に関する法律(平成11年)
水銀等を一定量以上取り扱う制度対象事業者がその環境中への排出量・移動量を国へ届け出る化学物質排出移動量届出制度を措置しており、排出、放出、処分される水銀等の年間推定量に関する情報の収集および普及の一助としている。 - 我が国の水銀に関するマテリアルフロー
生産活動における水銀利用、大気、水、土壌といった環境への排出などライフサイクル全体に係る水銀の流れを整理したものであり、このフローの更なる精緻化、維持及び更新を行うとしている。
図 我が国の水銀に関するマテリアルフロー(概要版)
(2010ベース、2013年3月作成、2013年7月版)
注)本マテリアルフローについては、現時点で入手可能な統計情報、文献、事業者等へのアンケート・ヒアリング調査等に基づき算出・推計した数値を用いて作成しており、全ての使用量、排出・移動量等を網羅したものではない。
出展:水銀等による環境の汚染の防止に関する計画 ~「マーキュリー・ミニマム」の環境の実現を目指して~ 平成28年10月 水銀に関する水俣条約関係府省庁連絡会議
4)研究、開発及び監視に関する措置
■環境保全を目的とした法律
- 環境基本法
環境基準を定めている。 - 大気汚染防止法
環境への排出基準を定めている - 廃棄物処理法
廃棄物処分等に関する基準を定めている(下表)
■監視活動に関する措置
- 大気汚染防止法に基づく有害大気汚染物質モニタリング
- 水質汚濁防止法に基づく公共用水域及び地下水の水質モニタリング
- 海洋基本法に基づく海洋環境モニタリング
- バックグラウンドモニタリング(沖縄県辺戸岬)
上記により環境基準の達成状況等を把握、公開している。
表 日本における環境媒体等における水銀の基準値等
媒体等 | 基準値等の種類 (括弧内は法令等の名称) |
基準値等の値 | ||
---|---|---|---|---|
総水銀 | アルキル水銀 | |||
(1)大気 | ○環境基準は未設定 | − | − | |
○有害大気汚染物質の優先取組物質に係る指針値(今後の有害大気汚染物質対策あり方について(第七次答申)) | 0.00004mg/m3以下 | |||
○排出基準等 (大気汚染防止法施行規則) |
別表 1 | − | ||
(2)水質 | ○公共用水域についての環境基準 (水質汚濁に係る環境基準ついて) |
0.0005mg/L以下 | 検出されないこと | |
○地下水についての環境基準 (地下水の質汚濁に係る環境基準) |
0.0005mg/L以下 | 検出されないこと | ||
○公共用水域への排水基準 (排水基準を定める省令) |
0.0005mg/L以下 | 検出されないこと | ||
○下水道への排出口基準 (下水道法施行令) |
0.0005mg/L以下 | 検出されないこと | ||
○水道質基準 (水質基準に関する省令) |
0.0005mg/L以下 | − | ||
○給水装置の構造及び材質の基準 (給水装置の構造及び材質の基準に関する省令) |
||||
・水栓その他給水装置の末端に設置されている給水用具の浸出液に係る基準 | 0.00005mg/L以下 | − | ||
・給水装置の末端以外に設置されている給水用具の浸出液、又は給水管の浸出液に係る基準 | 0.00005mg/L以下 | − | ||
○水道施設の技術的基準 (水道施設の技術的基準を定める省令) |
||||
・浄水又は処理過程における水に注入される薬品等により水に付加される物質の基準 | 0.00005mg/L以下 | |||
・浄水又は処理過程における水に接する資機材等の材質の基準 | 0.00005mg/L以下 | |||
○最終処分場からの放流水等基準 (一般廃棄物の最終処分場及び産業廃棄物の最終処分場に係る技術上の基準を定める省令) |
||||
・最終処分場の保有水等集排設備の放流水水質の排水基準 | 0.005mg/L以下 | 検出されないこと | ||
・最終処分場周縁の地下水水質基準 | 0.0005mg/L以下 | 検出されないこと | ||
(3)土壌 | ○土壌環境基準 (土壌の汚染に係る環境基準ついて) |
0.0005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | |
○指定基準 (土壌汚染対策法施行規則) |
0.0005mg/L以下(検液中) 15mg/kg以下 |
検出されないこと(検液中) − |
||
○第二溶出量基準 (土壌汚染対策法施行規則) |
0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
(4)底質 | ○底質暫定除去基準(底質乾燥重量あたり) (底質の暫定除去基準) ※潮汐の影響を強く受ける河口部においては海域に準ずるものとし、沿岸流の強い海域においては河川及び湖沼に準ずるものとする |
|||
・海域 (右式により算出した値(C)以上) | C(ppm)=0.18×平均潮差(m)÷溶出率÷安全率 | − | ||
・河川及び湖沼 | 25ppm以上 | − | ||
(5)廃棄物 | ○管理型埋立処分可能な産業廃棄物(燃え殻又はばいじん、汚泥、指定下水汚泥、鉱さい、特別管理産業廃棄物を含む)の基準 (金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令) |
0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | |
○管理型埋立処分可能な鉱業廃棄物(廃プラスチック等の燃え殻)の基準 (鉱業廃棄物の処理等に関する基準を定める省令) |
0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
○溶融固化物の目標基準(溶出基準) (一般廃棄物の溶融固化再生利用の実施の促進について) |
0.0005mg/L以下(検液中) | − | ||
○海洋投入処分可能な産業廃棄物の基準 (金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令) |
||||
・赤泥・建設汚泥 | 0.0005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
・有機性汚泥・動植物性残さ | 0.025mg/kg以下 | 検出されないこと | ||
・廃酸・廃アルカリ・家畜ふん尿 | 0.025mg/kg以下 | 検出されないこと | ||
○埋立地以外の海域と遮断する必要がある水底土砂の基準(右記に適合しないもの) (海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律施行令 第5条第1項に規定する埋立場所等に排出しようとする金属等を含む廃棄物に係る判定基準を定める省令) |
0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
○海洋埋立可能な酸・アルカリの基準(同上) | 0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
○船舶から海洋への汚水処分基準 (船舶の通常活動に伴い生ずる汚水であって海洋において処分することができるものの水質の基準を定める省令) |
0.005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) | ||
○氷床に覆われた地域おいて処分可能な液状廃棄物の基準 (南極地域の環境の保護に関する法律施行規則) |
0.0005mg/L以下(検液中) | 検出されないこと(検液中) |
■調査、研究に関する措置
- メチル水銀の健康影響・環境動態に関する調査・研究
国立水俣病総合研究センターにおいて実施しており、成果を諸外国にも提供している。 - 子供の健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
胎児期から小児期にかけての日本における一般的な生活において、水銀などの化学物質等が子供健康に与える影響に関する調査研究 - 環境研究総合推進費
水銀の環境中での動態解明や廃水銀等の長期的な管理のための硫化、固型化物の長期安定性等の研究が行われている。
- 水俣病に関する社会科学的研究会
水俣病に関する総括的教訓をまとめた報告書を公開。
5)国際的な協力に関する措置
■開発途上国への支援
- 条約締結支援
条約暫定事務局である国連環境計画や地球環境ファシリティに資金を拠出 - 水銀廃棄物に関する能力開発支援
国連環境計画環境技術センターに資金を拠出 - 環境対策ODA(大気汚染対策、水質汚濁対策、廃棄物処理)
平成26年から3年間で総額20億米ドルを拠出。
■能力形成や技術援助
- 水銀対策技術の国際展開、人材育成、水銀のモニタリング協力
- 来日研修等を通じた水銀対策技術の習得や条約締結支援、水銀の環境中の実態調査及び対策計画策定支援、水俣病対策の経験、知見を活かした水銀による環境・人健康リスクの評価、水銀のモニタリング分析能力向上及びネットワーク化支援、開発途上国の水銀ライフサイクル全体にわたるフロー解析支援、開発途上国のニーズを考慮した日本の水銀対策技術の適用、水銀対策と並んで気候変動や大気汚染対策等に資するコベネフィット技術の開発途上国への普及等を実施していくとしている。
【参考資料】
詳細は環境省ホームページをご確認ください。
「水銀等による環境の汚染の防止に関する計画(案)」の取りまとめについて
この記事は
バイオディーゼル岡山株式会社
三戸 が担当しました